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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

リアクション


【3】


 人、人、人、たくさんの人間で大神殿のまわりは溢れ返っていた。
 祝福された焼きそば、聖なるイカ焼き、清められたラムネ及びビール、その他記念品として超国家神ペンライト、Tシャツ、タオル、ブロマイドなどなど各種露店が軒を連ねている。
 グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)は人波の中にいた。
「……ゼノビアはどこだ?」
 バケツ頭のグレゴは仮面の奥の目をぎらぎら光らせ、ゼノビア・バト・ザッバイ(ぜのびあ・ばとざっばい)の姿を探した。
 検問を通過するため、武器をゼノビアに預けて中に入ったのだ。
 しかし”神”の意に反する邪教の徒に囲まれながら、制裁下すための剣が手元にないのはひどく怒りを積もらせる。
「偽りの神を崇拝する穢らわしい異端者どもめ……」
(良かった、武器が手元になくて……)
 シャノンは思った。
 剣があったら血の河が出来ているところだろう。
「もうゼノビアさんも荷に紛れてここに来てるはずですよ。一般市民に睨みを利かせてないで探しにいきましょ。ね?」
「……そうだな」
 そして、こちらはヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)コアトー・アリティーヌ(こあとー・ありてぃーぬ)
 クルセイダーに追われる身のヨルディアはこそこそ隠れながら、フルフェイス&ライダースーツに目を見張らせていた。
(幸いこの人波がわたくし達を隠してくれているようですわね)
 ヨルディアは念のため、露店で超国家神キャップとタオルを買って、顔を隠した。
 一見すると即職質されそうなデンジャーファッションだが、今日はお祭り最終日といこともあってそんなデンジャーな奴はたくさんいた。
「……でも、あなたと合流出来て良かったですわ」
「ワタシも。宵一くんとはぐれた時はどうしようと思っちゃった」
 少し前に再会出来たパートナーのコアトーは言った。
「おかげで侵入がし易くなりましたわ」
 ヨルディアがそう言うと、彼女は手に持った2台の”機晶魔術増幅装置ティ=フォン5”に目を落とした。
「……例の作戦は16時だったよね」
「ええ。それまでに大神殿に行って、ちょうどいい場所を確保しましょう」

 樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)の姿があった。
 刀真は籠手型HC弐式・Nに入れた地図から、もし侵入者が来るとすればどこから入り込むか、そのルートを予想し、警備計画を立てていた。
 ”神に仕えるのに必要なのは信頼”
 メルキオールに言われた言葉が、頭の奥で繰り返されていた。
(必ず……必ず信頼を得てみせる……!)
 大神殿に続く通路、神殿の外観から、穴になりそうな箇所をリストアップし、目星を付ける。
「このリストを教団の警備担当に送ってくれ。相談して警備網を作りたい」
「わかったわ」
 月夜は銃型HC・弐式で情報を転送した。
「それにしても随分手慣れているのね、こういうのに」
「……自分でもよくわからない」
 あらゆる記憶の欠落した刀真は、自分の名前すら思い出せない。
「けど君達まで俺に付き合う必要はないのに、どうして俺に手を貸してくれるんだ?」
「どうしてって……」
 月夜と玉藻は顔を見合わせた。
「我にも何故かはわからん。だが、お前を手伝うのが至極当然のことだと感じている」
「私も。なんだか昔からこうしてた気がするの……」
「そうか。俺もなんだかそんな気がするよ」
 2人が傍にいてくれることに、どこか安心してる自分がいた。
「よし。有事の際の避難路も調べておこう。守るべきは超国家神様やメルキオール様だけじゃない。市民の安全も考えないと」

「賑やかなお祭りですね」
 御空 天泣(みそら・てんきゅう)ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち)ムハリーリヤ・スミェールチ(むはりーりや・すみぇーるち)は人波の中を歩いていた。
 露店で足を止め、焼きそばとラムネを買った。お祭り特有の安っぽい味わいがまた格別だ。しゅわしゅわと喉を潤すラムネの炭酸も心地いい。
「あーずりぃー、ボクもボクも」
「はいはい」
 頬を膨らませるラヴィにも同じものを買ってあげた。
 ラヴィは超国家神法被を着て、祝祭を満喫しているようだ。
「リーリちゃんも食べたいなぁ」
「いいよ、好きなものを言ってください」
「やったぁ」
 楽しいなぁと天泣は思った。
 でも自分はこんなことをしてる場合なんだろうか、という思いが頭の何処かで渦巻いてる。思い出せないが、自分には何か使命があった気がするのだ。
(そう言えば……)
 この前、”引き蘢り”と言われて、何か不思議な気持ちになった。
「昔、どこかで同じことを言われたような……確か、同い年の男で……学生? 僕は学生なのか?」
 はたと自分の格好を見れば、学生服だ。
「ううん……僕は何者なんだ……?」

 紆余曲折あって27区に行ってしまった東 朱鷺(あずま・とき)東 朱鷺子(あずま・ときこ)は、北地区からのルートで大神殿に来ることが出来た。
 遠回りした結果、手に入ったのはナイフ、食料、新鮮野菜……果たしてあのまわり道に意味があったのか、うむむ……と考えてしまう手持ちの頼りなさ。
これはもう料理でもしろという思し召しなのですかね……
 朱鷺はうーんと頭を抱えた。
 けれども、それが運命なら仕方がない。彼女はナイフを手に取った。 
 お城サラダ(四角く切った野菜を積み上げただけ)
 侍サラダ(人参を人型に切っただけ)
 陰陽師サラダ(人参を人型に切っ略)
 忍者サラダ(人参を略)

「……ふぅ。満足のいくものができました」
「……朱鷺の料理が壊滅的な事が分かりました」
 朱鷺子はため息を吐いた。
「……朱鷺子の料理がだめだめだったのは、ここにルーツがあったのですね。けど、どうするんですか、こんなの作って」
「そうですね。ここにはいっぱい人がいるみたいですし、何かと交換出来たら良いのですが……」
「おうお姉ちゃん、そのサラダは売り物かい?」
 市民のおじさんが声をかけてきた。
「焼きそばだ、イカ焼きだってしょっぺーもんばっかだからよ、さっぱりしたもんが食いてぇんだ。いくらだ?」
「いえ、お代は……何かと交換して貰えませんか?」
「交換? んじゃこの焼きそばやるよ」
 朱鷺はホカホカの焼きそばを手に入れた。
「やりましたよ、朱鷺子」
「……焼きそばで何をする気なんですか……?」
「う……こ、この焼きそばを何かに交換してもらえば……!」
 道程は長そうである。

 ガイイイン! と拳と拳がぶつかり合った。
 露店の裏の一画で、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)聖者コルテロは激しい特訓の真っ最中だった。
 せっかく超国家神への謁見が許されたのだ、最高の祈芸を見せなくては。
「ぬうううう、技のキレが甘いぞ、美羽!」
「そっちこそ、そんな祈芸じゃ超国家神様に愛は伝わらないよ!」
「何故、祈芸の特訓で拳闘を……」
 2人を見守るコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)はポツリとこぼした。
「とりゃああああーーーっ!!」
 ひらりスカートを振り乱して、必殺のパンチ。
 コルテロも丸太のような腕からパンチを放つ。
 美羽は、コルテロは、カッと目を見開いた。
 ドオオオオオーーン!! と拳と拳が再び相見えた。
 闘気と気合いが起こす衝撃が突き抜けたその瞬間、美羽とコハクの記憶を覆っていたベールも吹き飛んだ。
(そ、そうだ……)
(思い出した……)
 燃え盛る海京の都と、炎の雨の中に浮かび上がる恐ろしく巨大な竜。
 フラッシュバックした記憶に2人は身を震わせた。
「……む? どうしたのだ、顔色が悪いぞ?」
 コルテロは言った。
「……だよ」
「ん?」
「ナンバーゼロを放っておいたら大変なことになるんだよ!」
 ようやく美羽もここに来た理由を思い出せた。
「止めなくちゃ絶対に……」

「……そうですか、記憶が戻られたのですね」
 教団のローブを目深に被った遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は、聖歌隊のパレード眺めながら、屋台で買ったものを食べていた。
 腹が減っては戦は出来ぬと大昔から言う。決戦に備え……何かローブにお金が入ってたので、それでたくさん買った。
「……うん、さっき思い出したんだ」
「そう言えば、どこかに通信されてましたけど……」
「この前、天音さんがアイリちゃんの、この世界のアイリちゃんの居所を教えてくれたからそこに」
 寿子は特務隊と交わした話を語った。
「反攻作戦ですか……それでアイリ様はどのタイミングで動くと?」
「ええとね」
 寿子は小さく畳んだ祝祭の日程表を広げた。
 スケジュールを指先でなぞり、16時のところで止めた。
「超国家神の光臨の時にって言ってた」