シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

リアクション公開中!

【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)

リアクション


【鏡の国の戦争・エピローグ2】




 戦いが終わり、あとに残ったのは面倒な後始末と事務的な処理ばかりになると、千代田基地の契約者の姿も珍しいものとなっていった。
 佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)レナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)も、もうここに残ってすべき事はさして残っていない。アナザーに搬入されたイコンの整備と運用について少しばかりの手伝いを続けていたが、今後の運用については国連軍でも方針が決まらず、しばらくは日本国内で訓練を続けていくらしい。補給にしても技術にしても、アナザーの地球には無いものばかりで、運用方針が決まるにはしばらく時間がかかるだろう、との事だ。
 帰る前に、二人はアナザー・コリマの私室を尋ねた。
「まぁ、座りたまえ」
 アナザー・コリマはマンダーラの話を聞いて、ロシアに戻るための準備を進めていた。今日明日で行動できない責任ある立場が少しわずらわしそうであった。その様子から、石化しているという兵化人間部隊に、単なる戦力以上の思い入れがあるのではないかと思われる。
 とはいえ、私的な感情について話をしにきたわけではない。
「今一度確認をさせて頂きたいのですが、私達『オリジン』の存在がこの『アナザー』の世界に来るまでは、劣勢だったかもしれませんが、あなた方国連軍の戦力だけで彼らダエーヴァからの侵略を退けて来た訳ですよね? その時には大型の怪物の存在はなかったと聞きますが、本当でしょうか?」
 牡丹は単刀直入に、本題を切り出した。
「戦えていたかというと、これは難しい。我々は、何を守らなければいけないかを前もって知り、それ以外については正直なところ多くを見捨ててきた。その判断が正しかったかどうかはわからない……いや、この話は今すべきものではないな。簡潔に答えよう。我々は彼らの目的の妨害を続ける事はできていた。そして、これまでの戦いでは大型の怪物の報告は少なくとも私の耳には届いてはいない」
「だとしたら……私達『オリジン』の力がこの『アナザー』の世界に介入した事により、ダエーヴァにも新しい力が目覚めてしまったのではないでしょうか?」
「ふむ」
「勿論、ダエーヴァがオリジンの人間と契約して力を得たのが先か、国連軍がそれ以前にオリジンと接触したのかが先かはわかりませんが……ね?」
 アナザー・コリマは口を挟む気がないようだ。牡丹は続ける。
「私の結論を言わせて頂きます。今後、アナザーとオリジンとの接続を完全に断ち切りましょう。よく知っている人物からの救助要請、そして既に繋がってしまっている状態だったので、手を貸すのは当然の行為では有りましたが、今更かもしれませんが、二つの世界が接触する事自体に大きな問題を孕んでいた可能性を感じます」
「ほんと、問題だらけで嫌になるね」
「……世界樹よ、あなたは心臓に悪い」
 アナザー・コリマは開きかけた口を一旦閉じて、どこからともなく現れたマンダーラに向かって苦言を呈した。
「ごめんごめん。興味深い話が聞こえてきたから、つい割り込んじゃったんだ。君もきっと興味があるだろうから、一緒に聞いていくといい」
 マンダーラは器用に翼を折りたたむと、ソファに腰かけた。
 しかしすぐに語りはじめず、テーブルの上を見る。レナリィが「もしかして、お茶が欲しいの?」と聞くと頷くので、誰も手をつけてなかったコップが一つ増えた。
 お茶が用意されると、それには手をつけないままマンダーラは話し始めた。
「さて、どうやって説明しようか。なるべく簡単に説明すると、ダエーヴァはインテグラルの亜種で、君達にとっては遠い昔に作られたものだ。彼らに何ができるかはその時点に大体決まっていて君達に由来はしない、最初から持ち合わせていた手段の一つだってだけだ」
「最初から使えたのであれば、今まで報告が無いという部分と矛盾しませんか?」
「それもそうだ。けど、君はケーキを切るのに斧を持ち出したりはしないはずだ。例え斧がすぐ手に届くところにあって、ナイフをどこにしまっていたか忘れていたとしてもね。あと、たぶんだけど、君達と戦ってたのは、でっかいのを作るのはあんまり得意じゃなかったみたいだ」
 マンダーラは一度コップを手にとり、口をつけずに元の場所に戻した。
「この世界が君達の世界に何の因果も無いかと言えば、そうでもない。彼女がこっちに来ているし、彼女の目的はこちら側を自分のものにしようなんてものではないからね」
 彼女とは、もう一人の天使、リファニーの事だ。
「君の考えは僕としても賛同するよ。本来なら、ここと君達の世界は、交わるべきでないものだ。しかし、君達の地球各地で怪物が出現していることと今の状況は密接な関係にある。二つの世界を隔てていたものを、滅びを望むものの為に人が亀裂をいれてしまったんだ。その時から、ここは君達の世界と地続きの世界となってしまった。また一つ、あるべき秩序が壊れてしまった」
 そこでマンダーラは言葉を切った。
「元々、君達とは考えに相違がある。だから、君達の行動に関与するつもりは無い。だけど、もしもこちら側が滅ぶ事になれば、それは君達にとっても他人事ではないんだ。二つの世界は繋がってしまったからね、必ず同じ運命を辿る事になるよ。そうでなければ、彼女はここに居たりはしないさ。彼女の目的はただ一つ、己が望む滅びを迎える事なんだからね」
 マンダーラの表情は、言葉に対して真剣さが足りないものだったが、冗談ではなさそうだった。
「そう言えば、このアナザーの世界って地球とパラミタが繋がらなかった世界だったはずなのに、アイシャさんが地球に居るってのは、なんかちょっとおかしくない?」
 今まで黙って話しを聞いていたレナリィが、疑問を口にする。ついでだから聞いてしまえ、といった感じだろうか。
「彼女は本来は存在しないのは確かだ。ただここに居るシャーマンと同じ人を君達が知っているように、ある時点までは君達と同じ時間の中にあったんだ。彼女は本来はアムリアナとして存在していた。それを、都合によって今の彼女に仕立て上げたものだから、あの子が最初から存在していたわけではないね。あの子もそうだったけど、女王というのは摂理を曲げられて他人の都合に振り回されるものなんだと改めて思ったよ」
「他人の都合、か」
 マンダーラはすっと立ち上がると、やる気なく手を振った。
「そろそろ失礼するよ。彼女を放っておくわけにもいかないからね」
 そう言って、突然現れた時と違って、自然に扉から出ていった。
 なんともいえない不思議な雰囲気の中、アナザー・コリマはお茶を手に取り、一口すすった。
「世界樹が言った通り、この我々の世界と君達の世界は繋がってしまっている。勝手な話だが、これを切り離す方法を我々は知らないのだ。本来であれば、ここに生きる者が解決すべき問題であるというのに異論は無い」
 アナザーの最悪の結末は、アナザーのみが消えて終わるという話には留まらない。最悪の結末は、オリジンすらも巻き込み全てを終わらせてしまう。
「しかし、私とこの世界の人々の生死で全てが終わらないのも事実なのだろう。そこで、我々は一時的に君達を国連軍の一員としてきたが、それを白紙にし、オリジンという国家あるいは組織として扱い、我々との関係は同盟という形に整える事にした。今後は君達が君達の裁量で行動をする事ができるようになるだろう。君達は君達の世界の為に何をするかを選んでいけばいい。無論、我々は我々の世界のためにも、これからも戦い続ける事になるだろう。もしも必要であれば、協力は惜しまないつもりだ。我々は君達に大きな借りを、返さねばいかないからな」



 多くの契約者達が帰っていってから、アナザー・アイシャは剣の訓練を始めた。
 その剣で敵と戦うためではなく、体を少しでも鍛えようと考えた時に、だったらと剣術を学ぶ事に決めたのである。
 周囲の人たちの顔には、「心臓に悪いからやめてくれ」と書いてあるのがありありと読み取れたが、応援してくれる人も居る。
「私には、アムリアナ様のような特別な力はありません。きっとこれからも、誰かに迷惑をかけ続けるのでしょう。どうやって恩返しをしていけば、今はわかりません。ですが、ごめんなさいではなく、ありがとうと言えるように、少し頑張ってみようと思います」
 空っぽの棺に、彼女は報告を行う。
 自分の中にあるとわかってはいても、ここでないと言葉が届かないような、そんな気がするのだ。
「そろそろ、皆さんが心配してしまいますね」
 遺跡を出るために進んでいくと、ふと内壁に何かが刻まれているのに気付いた。
 この辺りにまでやってくる人は少ない。誰かが残したのだろうか。屈みこんで、刻まれている文字に目を通す。慌てていたのか文字はだいぶ読みにくく、また何か別の力で削り取られていて全てを読みとるのはできなかった。
「南……光……郎参? 誰かの、名前でしょうか?」
 アナザー・アイシャは首を傾げた。



 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は誰も居ないリビングを見渡して、ああそういえばエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)と一緒に妻が出かけていったのだという事を思い出した。
 出かけた用事はちょっとした買い物だったはずだ。
 同姓の友人同士でしかできない話もあるだろうと、誘われたが遠慮したのまで思い出す。
 なんとなく部屋を見渡すと、テーブルの上に何かを見つけた。
「写真か」
 テーブルの上に無造作に置かれた写真を、陽太は手にとった。
 今どき、現像された写真はちょっと珍しい。
「エリシアが持ってきたのかな……なんだこれ」
 その写真には、戦闘服を着込んだ笑顔の軍人らしき人たちと、中央に場違いな、これまた笑顔の魔女が写っていた。


担当マスターより

▼担当マスター

野田内 廻

▼マスターコメント

 全三回、ペリフェラル含め計四回にわたった鏡の国の戦争シリーズに最後までお付き合い頂き、真にありがとうございました。
 全部に参加してくださった方も、どこかにスポット参戦していただいた方も、特に参加はしてないけど全部読んだという方もいるのであれば、お疲れ様でした。

 このシリーズの判定結果をもって、おおよそ以下の内容が今後の蒼空のフロンティアに引き継がれます。

・アナザーとは今後も行き来、交流が可能なものとなった。
・アナザー戦役は終了せず、今後も戦争自体は続けられた。
・ダルウィ、ザリスの両名の撃破を達成した。
・アナザー・アイシャの存命が達成された。
・アナザー・コリマが大世界樹の手下になる事を未然に防いだ。
・天使の正体がそれぞれ、リファニー・大世界樹 である事が確定しました。

 これらがどう影響を及ぼしていくかについては、続報をお待ちください。


 今回のシリーズのみ効果を発揮していた※アナザー称号ですが、オリジンが国連軍の一員でなくなったため、称号の効果は基本的に消失します。
 しかし、今後アナザーを舞台とするシナリオが発表された際に、国連軍と協力するような場面があった場合には再び効果を発揮する可能性があります。これは全てに共通するルールではなく、シナリオ毎のルールに依存するものなので、発表されたシナリオにそってご利用いただければと思います。また、効果を発揮するシナリオではさらなる昇進の可能性もあるかもしれません。



 それでは改めまして、長期間のお付き合いありがとうございました。
 また縁がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。