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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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「道を空けてください! 言う通りにすれば危害は加えません!」
「素直に退いてくれたら撃たないよ! 退いてくれなかったら、撃っちゃうよ!」
 幹から枝から湧いてくるデュプリケーターを、同じく幹や枝を蹴って踏み込んだ美央が槍で薙ぎ払い、背後を狙おうとするモノは葵が後方から魔力の波動で撃ち抜いて撃退する。
「あちらを進みましょう」
「オッケー! ミオ、ちょっと右!」
 セリシアが時折幹に触れ、通りやすい道を選んで指示し、カヤノが前方の美央に指示を送り、美央と葵がその通りに動いて線上の障害を撃退する。本隊であるカヤノやセリシアを狙おうとするデュプリケーターは主にサティナが対応し、殿を務めその後合流を果たしたベディヴィエールの治療は、伊織が担当する。
「ベディさん、無理はめーって言ったですよー」
「お嬢様、無理はしていません。自分に出来る事をしたまでです」
 そう言って微笑むベディヴィエール、体力を消耗してこそいるが移動に支障はなく、一行に遅れずに進む。……そしていよいよ契約者の拠点内に入った所で、同じように幹を伝って登っていく者たちを発見した。
「ん……あれはフィリップではないか?」
「ホントだ!
 フィリップ! 無事だったのね!」
「えっ……あっ、カヤノさん! セリシアさんに、サラさんも!」
 背後から呼ばれ振り向いたフィリップが、カヤノとセリシア、サラの姿を認め顔を綻ばせる。
「皆さんも来てくれたんですね。実は先程、リカインさんとティティナさんとも合流したんです。
 ただ、ティティナさんがケガをされていて……」
 フィリップの傍に立ったフレデリカが、事情を説明する。
「伊織さん、ティティナさんの治療をお願い出来ますか?」
「はいなのですー」
 ベディヴィエールの治療を終えた伊織が今度はティティナの治療を担当し、一時的に負担から解放されたシルフィスティが後方で体力の回復を図り、リカインは前方で障害の撃退に尽力する。
「あうぅ……ボクも参戦したいけど、ダメ、疲れたよ〜」
「今は休め、レスリー。まだ何が起こるか分からないんだ」
 大量の情報を扱ったことで一時的な疲労状態にあるスクリプトをグリューエントが背負い、そして一行は一致団結して道を進み、ケイオースとセイラン、ルイーザの居る場所まで到着を果たす。
「ケイオース! セイラン!」
「カヤノさん! セイランさんもサラさんも、わたくしとお兄様の為にありがとうございます」
「お礼は不要です、セイランさん。
 ……根の活動は未だ続いています。これを止める必要があると思うのですが、何か対策はありますでしょうか」
 セリシアの問いに、ケイオースが検討していた作戦を語る。
「今さっき、結界を展開するためのマーカーの用意が終わったところだ。これをこの樹木の中心に設置し、結界を展開する。本来は内部を護るための結界だが、作用を逆にすることで内部の力を抑え込む機能を発揮する。既に樹木の中心は把握しているのだが、実行に当たって問題なのは初期魔力量と維持魔力量だ。今はそのどちらも不足していると言わざるを得ない」
 言い終えたケイオースの下に、魔力を蓄えた瓶を抱えたティティナがやって来る。
「ケイオース様、イナテミス精魔塔の備蓄魔力瓶を持って来ましたわ。これを使ってください」
「ティティナ、来ていたのか! 一人でここに? 怪我はなかったか?」
「あの、えっと……皆さんが来てくれましたので、平気でしたわ。ケイオース様、心配してくださるのは嬉しいのですがその、顔がお近いですわ」
「あ、ああ、すまない。コホン……そうか、これがあれば初期魔力は足りる。次は維持するための魔力だが――」
「それなら私のグラブと、フレデリカ君の杖が使えそうじゃない?
 私がグラブでミーナ君からエネルギーを吸い取って、魔力瓶で魔力に変換。それをフレデリカ君の杖に繋いで結界維持に使うの。どう?」
 リカインが提案し、フレデリカも自分に出来る事があるなら、と協力を進み出る。
「……君たちの、一見不可能に見えることを可能にしてしまう力には毎度ながら恐れ入るよ。
 よし、それで実現可能なはずだ。では早速目的地に移動を始めよう」
 ケイオースの言葉に、一行が頷き移動を開始する。

「なんとまぁ……精霊たちも随分と、契約者に染められておるのぅ。初めて会った時の彼らからは想像出来ん発想じゃ」
 シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)から、リカインたちが何をしようとしているのかを伝えられたアーデルハイトが苦笑する。
「ヘルからも同じ報告が来ました。彼らと合流して行動していましたね」
 ザカコもヘルから同様の報告を受け取り、やはりアーデルハイトと同じ気分でいた。彼らはこの窮地に、何とかしてミーナを救い出そうと出来る限りの努力を行っている。
(見せてみろ、契約者の意地というものを。お前たちが独力でミーナを解放出来たなら、もう私のすることは無くなろうて)
 アリスにはそれでいいのかと問われた、ただ子供の成長を見守る親の気分で、アーデルハイトが事の次第を見守る。

「ここが、その目的地なの? なんかこう、イメージと違ってたな」
 目的地に辿り着いたリカインが、感想を口にする。そこは一見普通の空間で、リカインが想像していたのは幹に取り込まれたミーナが居るのかと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。
「ミーナさんは今は世界樹として存在しています。よってこの樹全てがミーナさんであると言えるでしょう」
「はぇ〜、そういう事なんですかー。そこにルピナスさんが入ってしまっている、というわけなんですねー」
 セリシアの説明を受け、なんとなく事態を理解した伊織が呟く。要はここからルピナスを追い出す事が出来れば、ミーナは自我を取り戻すことが出来るかもしれない。
『おっと、面白いことやらかそうとしてるじゃないか。話はこっそり聞いてたぜ?
 俺も一枚噛ませてもらおうか。上手くすりゃルピナスを追い出せるかもしれない』
 そして、その鍵を有する契約者、静麻が契約者の端末越しに通信を送る。先程世界樹へハッキングした際に、世界樹を電波の通り道として通信を行えるようにしておいたのだ。
「よし、手札は揃ったな。皆、準備を始めるぞ。
 サラ、カヤノ、セリシア、所定の位置についてくれ」
 ケイオースの指示で、サラとカヤノ、セリシアがマーカーを持って所定の位置に立つ。セイランもマーカーを持って位置につき、傍には魔力瓶が置かれる。
「良かったわ、魔力瓶をマーカーに繋ぐだけで済んで。これを飲めって言われたら全力で断ったかもね」
「『煉獄の牢』の時だっけ、カヤノちゃんがアーデルハイト様からもらった魔力ドリンクでパワーアップしたのって」
「そうそう。あの時は良かったけど終わってからが酷かったわ」
 魔力瓶とマーカーを連結する作業が終わり、今度はリカインとフレデリカにケイオースが声をかける。
「そちらの準備はどうだろうか」
「こっちはいつでもオッケーよ。体力が続く限りやってみせるわ」
 リカインが言い、フレデリカも同じ思いで頷く。
「僕も手伝います。……フリッカさん、一緒にやりましょう。
 二人ならより長く、結界を維持できるはずです」
「フィル君……うん、ありがとう。一緒にやろう」
 フィリップとフレデリカが手を取って、杖を立てて構える。リカインの足元にも瓶が置かれ、それはフレデリカの持つ杖と連結されている。
「準備は整ったようだな……よし、結界を展開させる。
 五精霊の力、存分に発揮するぞ!」
「任せときなさい!」
「力を尽くさせてもらおう」
「頑張ります」
「役目を果たしてみせますわ」
 それぞれの意思を秘めた言葉が飛び、五人の精霊の中心に結界が展開される。一見何も無い空間を閉じ込めているだけに見えるが、周りの監視に当たっていた者たちは幹や枝の様子が少しずつ変化していくのを見つけた。
「さて、と。ミーナ君、聞こえてる? ここまでやったんだから、目を覚まして頂戴ね」
 リカインがミーナに語りかけ、グラブを装着した手で枝に触れる。力が抑え込まれている影響か、弾き飛ばされる事もなく触れることが出来た。
(……まだ、ルピナス君の心は見えてこない、か……。
 こっちはルピナス君に接触してる契約者次第、かな)
 あわよくばミーナに取り憑いているルピナスの心が見えてこないかとも思ったが、これはルピナスが頑なに心を閉ざしている内は見えてこない。今後あるいは、ルピナスに接触を試みた者たちの働き次第ではルピナスの心が見えてくるかもしれなかった。