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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【2/3】 ~

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 訓練メニューも順調にこなされ、そろそろ一日目のスケジュールに区切りがつこうとしていた。地味で単調で退屈に思えた時間も、気がつくとかなり経過している。
「充実した一日だったわ」
 傾いた夕日を眺めながら、粥は本日の活動内容を反省も込めて振り返っていた。
 点呼を取って、見回りして、遊んで、ぼんやりと空を眺めて……。彼女が先頭に立って檄を飛ばさなくても、訓練は計画通りに進行していた。
 凶悪なテロリスト達の襲撃も少なく、生徒たちの乱痴気騒ぎによる事故も無かった。
 思い巡らせて彼女はよしと満足げに頷いた。結構よく働いたと思う。
「お疲れ。夜営キャンプを張るんだが、よかったら来ないか?」
 大規模訓練を行っていたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、作業を早めに切り上げて一息ついていたところだった。
 全く、軟弱極まりない。あの程度のバケツリレーで脱落者が何人も出るとは。パラ実生としての自覚が無いし根性も入っていない。少々行儀がよくなったようだが、野性味と有り余る体力と逞しい精神を失ってしまっていては意味が無い。明日には新メニューで彼らを鍛えなおすのだ。
「今夜は夜食をたらふく食べさせて、早く就寝させる。また明日は別の作業だよ」
「私は、近くにテントを張って寝袋でミノムシのように寝るわ。夜も交代で巡回だからトマスの野営地にも後ほど様子を見にいくわね」
「大変だな。夜間警備なら、俺達もやるつもりだから任せておいてくれてもいいんだぜ」
「そちらはそちら、こちらはこちらよ。あなた達だけに任せておくと、結局騒ぎかお遊びに発展するんだもの。調子に乗った生徒達を注意するのが私たちの仕事」
「素っ気無いんだな」
 トマスは苦笑しながら自分達の拠点へと戻っていった。確かに、せっかくチーム分けをしたのだから、無理に全員が合流する必要は無ない。
 夜の仕度をしているのはトマスのグループだけではなかった。
 救助活動を続けていた酒杜 陽一(さかもり・よういち)も、避難所へ戻ってきており炊き出しを作っている。要救助者の搬入も一通り終えて息がつけるようになっていた。死体(?)も転がっており、回収して葬ってやらなければならなかった。訓練とわかっていても気が滅入る。少し休んだ方がいいだろう。
 パートナーの酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は、ストリートファイトも終えて仲良くなった生徒たちと一緒に風呂焚きをはじめていた。被災訓練とは言え、不衛生はいただけない。こまごまと心を込めたおもてなしに避難してきた一般市民たちも一緒に手伝ってくれて連帯感が増していた。
「ヒャッハー! 覗きだぜ!」
「それもまたよし、ね」
 美由子は微笑みながら、モヒカンたちを撃退していた。覗かせるつもりは無いが、それだけ元気なら上等だ。
 一日目の訓練に取り組んだ他の生徒達も作業を中断して、各所でキャンプを張っている。厳しいばかりでは続かない。この後は密かに遊ぶつもりだ。
「……」
 一日が無事に過ぎ、粥は夜の準備を始める人々を見送りつつ、しばらくぼんやりと夕日を眺めていた。周囲はだんだんと薄暗くなっていく。
 背後が寂しい。訓練中ずっと付き添ってくれていた唯斗は突然姿を消し、まだ帰ってきていなかった。別に心配などしていない。彼は熟練した忍者であり非常に強力な高レベル契約者であるため万一にも不覚を取ることは無い。
 粥は、少し前から唯斗がいることに気づいていたがそ知らぬふりをしていた。それで良かったのだろうか、と考えていた。お礼を言うどころかろくに口も利いていない。
 そんな些細なことで怒っ去ってしまうような忍者でないことくらいは彼女も理解していた。だが、やはり気になる。もっと好意的に接しておけばよかったのかも。
「なんとも思っていないんだからね」
「お疲れのようですね。飲み物を持って来ましたよ」
「!?」
 突然声をかけられて、粥はビクリと振り返った。
「皆さん、訓練をいったん中断して休憩するようです。俺達も一緒に夕飯でもどうですか」
 いつの間にか、飲み物を手にした唯斗がにこやかな笑顔を浮かべて彼女の傍に立っていた。特に何も変わったことの無い、いつもと同じ表情だ。
「どこに行っていたのよ」
「少し急用を思い出しましてね。簡単なお仕事をしてきただけです。もしかして、心配してくれていたのですか」
「ばかね。今日の私の活躍ぶりを振り返っていただけよ。別に、帰ってくるのを待っていたわけじゃないんだから」
 粥は、ついつい尖った口調になってしまったことを反省した。密かな働きに礼を言おうと思っていたのに。
 彼女は唯斗から飲み物を受け取ると、うまそうに一気飲みした。ふと目をやって、唯斗が全身に纏っている戦闘後の気配に気づき、見つめ返した。
「何かあったの? 戦った後の熱気が残っている気がするわ」
「おやおや、粥はかなり敏感なのですね。しかし、男の匂いに反応するのはあまり好ましくありませんよ。よく知らない人が聞いたら、発情期なのかと思われてしまいます」
「なっ!?」
 粥は真っ赤になった。そう言われればそう聞こえなくも無いが、そんなつもりで言ったわけじゃない。からかわれたりイジられたりするのにはあまり慣れていない彼女は、何か真面目に言い返そうとして言葉に詰まった。
「誤解して怒らないでくださいよ。そういうよく気づくところが粥のいいところだと俺は思っています。俺の行動に関しては、粥が気にすることはありません」
「ちょっと、何よそれ。私に関わられたくないってこと? 詮索されると困るようなことをやっていたの?」
 聞き流しておけばいいのに、どうして絡んでいるんだろうと粥は思った。唯斗の、人がよさそうで、それでいて全てお見通しといわんばかりの鷹揚な笑顔が気に食わない。それは、彼の責任ではないことはわかっている。
 粥は何度も深呼吸をした。彼を意識してはいけない。自分は、そんなキャラではないはずだ。彼女はすぐに心を落ち着かせて台詞を続ける。
「まあいいわ。用が済んだんだったら、戻っていいわよ。あなたが何をやっていようと、私には関係ないものね」
「恐れ入ります」
 見守っていることに気づかれていたのは少し予想外だったが、彼女に対する姿勢はこれまでとは変わらない。
「それから、何かあったのかという質問につきましては、何もありませんでしたと答えておきます。ご安心を」
 唯斗は言い残すと再び陰に潜んだ。完全に気配を消すのではなく、粥が察知できる程度の存在感を残しておく。その方が安心すると思ったからだ。
「ばかねぇ」
 粥はしばらくその場に佇んでいたが、安堵したように伸びをすると、一息ついてクスリと微笑んだ。言葉を交わしただけで気が楽になった。
「じゃあ、私もちょっと休もうかな」
 勧めに従って自分も小休止を取ろうと決めた粥は、唯斗の潜んでいる辺りに一瞥を投げかけてから、キャンプのテントへと引き上げていく。
 夕日は更に傾き、辺りは薄暗くなっていた。
「いいシーンでしたねぇ」
 様子を見ていたレティシアが音も無くやってきて言った。
「見所のある場面など無かったように思えますけど」
 唯斗は、先ほどまで一緒に行動していたレティシアに答える。あれから二人で、暴漢たちのリーダーと武器を提供している企業のエージェントの一部を片付けたりしてていたのだが、取り立てて見所があったわけでもない。
 誰に語ることも無い、二人だけのひっそりミッションだった。
「何も起こらない、退屈な訓練ですねぇ」
「ええ、同感ですね。何もありませんでしたよ」
 二人は楽しそうに笑みを浮かべた。
 辺りに敵の影も消え、すっかり静かになっていた。