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臨海学校! 夏合宿R!

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臨海学校! 夏合宿R!

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7.帰途

 キャンプ場の早朝は、朝霧につつまれて神秘的な美しさに満ちていた。
 とはいえ、曙光がさせば、この霧もあっという間に晴れてしまうのだろう。
「自然はいいよねー」
 人影まばらなキャンプ場のテーブルで朝食をとりながら、春告晶は言った。
「うん、お友達いっぱい」
 たくさんの色とりどりな小鳥たちにたかられながら、永倉七海が楽しそうに言った。
「早起きは三ゴルダの得だもんね」
 レイ・レイニーは、ちょっとうらやましそうに七海を見ながら言った。
「ええ、そうですね」
 無崎みつなの集めたハーブの残りで淹れたフレッシュハーブティーを同席の者たちと楽しみながら、アレフ・アスティアはうなずいた。
「それにしても、寝ぼすけな人多いよね。ちゃんと朝食はとらないとダメなのに」
 昨日の夕食の残りから作り上げた朝食を食べながら、鈴虫翔子は不思議そうに言った。
「いったい、昨日の夜に、みんな何をしていたんだろ」
「まあ、そう言うな。俺様の御主人なんか、熟睡してて、蹴り入れようが、くすぐろうが、まったく起きなかった」
 カマスの骨をぼりぼりと噛み砕きながら、雪国ベアが言った。

「えへへ……」
「恭ちゃん、どうしたの、まだ寝ぼけてるの?」
 なんだかぼーっとしている伊達恭之郎を見て、天流女八斗は心配して声をかけた。
「ううん、単なる脳内再生。うふ、うふふふふ……。ん? 八斗、スカートの中に手を突っ込んで何してんだ」
「うん、光条兵器取り出すの。そして、恭ちゃんのことを、プスッと刺すんだよね」
 淡々と、八斗が答えた。サーッと、恭之郎の顔から血の気がひいていく。
「止めます。いや、消します。どうか、許してください」
 両手を合わせて、恭之郎は拝むようにして八斗に必死に謝り続けた。

    ☆    ☆    ☆

「さて、いろいろあったようだが、学校に帰るまでが合宿だ。疲れてはいるだろうが、各人最後まで気を抜かないように」
 テント村の撤収も終わり、集合した全員にむかって、教官が最後の挨拶を述べた。
「最後に……、私も楽しかったぞ。総員、撤収!」
「ありがとうございました!」
 ニッコリと笑うガイドさんたちに、全員が一礼してそれぞれの飛空艇に散っていく。ある者はこの夏の思い出をだいて、ある者はまたの再会を約束して。
「総員、乗船せよ!」
「サー・イエッサー!」
 教官の命令に、シャンバラ教導団の生徒たちが飛空艇に素早く登場していく。
 教官が、他校の生徒たちに敬礼して中に姿を消すと、飛空艇は素早く離陸して飛び去っていった。

    ☆    ☆    ☆

「さあ、帰りはちゃんとキマク行きに乗りますわよ」
「分かりやしたけん、親分」
 行きの飛空艇でこりたガートルード・ハーレックとシルヴェスター・ウィッカーは、今度はちゃんとパラ実のデコトラ飛空艇に乗り込んだ。
「ひい、ふう、みい、たくさんと。今度は全員いるな」
「おうよ」
 姐御の人員確認に、全員が野太い声で答える。
「おお、見なかった顔がいるね。あんたたちか、あたいのデコトラに乗れないと言ってた奴らは。ふふふふ、これは帰りが楽しみだぜ」
 右手の拳で左てのひらを叩いてパシンパシンと音をたてながら、姐御がガートルードたちを見つめて、楽しそうに目を細めた。
「ひー、親分……」
「ウィッカー……」
 ガートルードとシルヴェスターは、だき合って震えあがった。
「さあ、いくよ、いくよ、いくよ!」
 けたたましくクラクションを鳴らして、デコトラ飛空艇が発進した。
 残った飛空艇も順次発進していく。
 キャンプ場は誰もいなくなり、静けさと寂しさが戻ってきた。この静けさが破られるのは、まだしばらく先のことだろう。

    ☆    ☆    ☆

「さすがにお疲れのようですね。皆様、風邪などおひきになりませぬように」
 ソファーに寝そべるようにして寝息をたてる生徒たちに、スチュワートが毛布をかけて回った。
「それでは、お休みなさいませ」

    ☆    ☆    ☆

「さて、帰りもカラオケとやらなのじゃ!」
「おー」
 ビュリの声に、まだまだ元気な半数ほどの生徒が歓声をあげた。
「よっしゃあ、帰りは俺のワンマンステージや」
 日下部社が、真っ先にマイクをつかむ。
「そうはさせないよー!」
 愛沢ミサが負けじとマイクを奪い取った。
「喧嘩しないで、みんなで歌うのじゃ」
 ビュリが、マイク争奪戦の間に割って入って言った。
 やがて、飛空艇の中では、世界樹に着くまで合唱が絶えることはなかった。

    ☆    ☆    ☆

「くっくっくっ、ガイドのくせによく眠りこけていやがるぜ。いいか、今度こそ失敗するなよ」
 包帯の量が増えたザックハート・ストレイジングが、ルアナ・フロイトロンに命令した。
「どうしてもやらないとダメですか」
「やれ!」
 しくしくとべそをかきながら、ルアナが眠りこけた新米ガイドさんが大事そうにかかえている小箱に手をのばした。
「ううん……」
「うんしょ、うんしょっと……ごめんなさい」
 寝返りを打った新米ガイドさんの手から、ルアナがなんとか小箱をもぎ取った。
「サックハート様、手に入れました」
「よし、よくやったぞ、これで……」
 ルアナから小箱を受け取ったザックハートが、満足そうにほくそ笑む。
 だが……。
「おい、そこの包帯男、何やってんだよ」
「泥棒です!」
 ザックハートたちの悪事に気づいたアレクセイ・ヴァングライドと六本木優希が叫んだ。その声に、飛空艇の前部車両内が騒然となる。
「それは、ガイドさんの物だ。返せ!」
 クルード・フォルスマイヤーが、ザックハートに飛びかかっていった。
「やはり貴様か!」
 アイン・ブラウも、ザックハートから小箱を奪い返そうとする。
「誰が返すか。これはもう俺様の物だ!」
「ああ、皆さん、やめてください」
「加勢いたします」
 半べそのルアナを押しのけて、ユニ・ウェスペルタティアがクルードを手伝おうと前に出た。
「あれれ、むにゃ。なんの騒ぎ……きゃあ、皆さん、喧嘩はダメですよー。落ち着いてくださーい」
 もみ合いから乱闘になった喧噪に、さすがに新米ガイドさんが目を覚まして叫んだ。とはいえ、まだまったく現状を把握できていない。
 ガチャン。ついに、窓ガラスまで割れる騒ぎとなった。艇内に外の風が勢いよく流れ込んでくる。
「あー、もう、みんなやめてーーーーー」
 パニックになりかけた新米ガイドさんが、発作的に消火装置のレバーを引いた。
「うわっぷぷぷぷ……」
 天井から泡状の消化剤が一斉に噴き出した。みるみるうちに、艇内を泡で満たしていく。
「それをよこせ!」
「誰が……」
 ウィング・ヴォルフリートが、ザックハートに飛びついて小箱を奪おうとした。だが、泡まみれになったザックハートの手から、小箱がすべって飛んだ。
 割れた窓の縁にあたった小箱の蓋が開き、中に入っていた宝珠が外へと落ちる。
「あー!!」
 全員が叫んだがもう遅い。宝珠は、ちょうど真下にさしかかっていたヴァイシャリー湖にむかって、燦めきながら落ちいてった。
「みんな、落ち着いてよお。女の子は叩いちゃダメだよお」
 泡まみれになりながら、蓮見朱里が叫んだ。
 もう泡で何もかも見えなくなりつつあって、誰が何をしているのかも分からない。
「ガイドさん、なんとかして……ぶくぶくぶく」
「あわあわあわ、無理……あわあわ……ですぅ……あわあわ……」
 アーレイ・アンヴィルが新米ガイドさんに助けを求めたが、すでに彼女の姿は泡の中だった。

    ☆    ☆    ☆

「じきに、百合園女学院に到着いたします。眼下には、ヴァイシャリー湖が見えてまいりましたよ」
 ゴンドラ飛空艇のデッキで、ガイドさんが生徒たちに告げた。
「じきに着くみたいだよ」
「疲れたけれど、楽しかったですぅ」
 ちょっとほっとしたようなセシリア・ライトに、メイベル・ポーターが笑顔で言った。
「あれ、今、ヴァイシャリー湖で何か光ったみたい? 綺麗ですね」
 緒方碧衣が、ピンク色の光を見つけて不思議そうに小首をかしげた。
「ヴァイシャリー湖は、いつでも神秘的ですから。何かが起きるのかもしれませんよ」
 ガイドさんは、消えずに輝き続ける光を見て、そう言った。

    ☆    ☆    ☆

「ううっ、気持ち悪いのだ」
 蒼空学園飛空艇の後部車両では、サイカ・アンラックが、後ろに倒したリクライニングの座席で寝込みながら、うんうんと唸っていた。完全な二日酔いだ。
「大丈夫か、サイカ」
 額に載せた濡れタオルをひっくり返してやりながら、天津諒瑛が心配そうに訊ねた。
「それにしても、前の車両の奴らうるさすぎる。こっちは病人がいるんだぞ」
 隣の車両から聞こえてくる喧噪に、諒瑛は怒って言った。
「いったい何やってるんだ。ちょっと見てくる」
 永夷零は、そう言って車両連結部を見にいった。
「うお、なんだ、この泡! ルナ、ドア閉めるの手伝え!」
 前部車両の様子を小窓からのぞき込んだ永夷は、あわててドアを押さえ込むと、パートナーのルナ・テュリンを助っ人に呼んだ。
「あけてー」
「いれるのだ!!」
 ドアのむこうでは、必死の形相のアルゲオ・メルムとイーオン・アルカヌムがなんとかドアを開けてこちらへ逃げてこようとしていた。だが、その姿もすぐに白い泡の中に消えていってしまう。
「ちゃんと押さえるのですよ。こちらへこさせてはいけません」
 永夷に手を貸しながら、東重城亜矢子が叫んだ。
「泡だらけは嫌ですー」
 バルバラ・ハワードもあわててドアの所に駆けつけた。

「やっと、蒼空学園が見えてきたじゃん」
 中の騒ぎをよそに、後部デッキにいたジェニファー・グリーンは身を乗り出して叫んだ。
「おや、何か見えるよ。お出迎えと言うよりは、別動班かなあ」
 そう言って、大草義純は目を凝らして蒼空学園の校庭を見やった。
 そこには、なぜかテントがあった。そして、二つの人影と「お帰りなさい」と書かれた垂れ幕が掲げられていたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 やっと書き終わった……。
 イレギュラーのシナリオだったんだけど、六万字近く書いてるのはきっと何かの間違いだろう。うん、きっとそうに違いない。
 とりあえず、最後までカオスな夏合宿でしたが、イベントてんこ盛りでしたのでいろいろ楽しんでいただけるかとは思います。
 まだシステムの関係で、アイテムの贈与とか、NPCとの契約などができませんので、そういったアクションは残念ながらすべて没となっています。他にも、NPCの独占や、他キャラへ実害を与えるアクションは採用できませんので御注意ください。
 本編では、繰り返しちょこちょこキャラが出てきますから、うっかりすると自分のキャラが出ているシーンに気づかないかもしれません。ただ、登場キャラは、必ず何かか誰かに影響を及ぼしていますので、そのへんを読み解く楽しみ方をしていただければ、より面白くなると思います。
 そういえば、今回お宝が失われてしまいましたが、どうなるのでしょうか……。

ps.8ページ冒頭のキャラ名のミスと、一部口調などを修正しました。