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●第二章 草原の虫取り大会 1001ページ〜2000ページめ●

 青い空、白い雲。その下で御凪 真人(みなぎ・まこと)が虫取り網と籠を手にのんびりと歩いていた。
「これでトンボでも飛んでれば風流なのかもしれませんね……わ!」
 背後から近付く紙の擦れる音に振り返ると赤い紙トンボの軍団が飛んできた。
「真人、大量よ大量!」
「むやみに振り回しても捕まえられませんよセルファ」
 はしゃいで虫取り網を振るセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)をたしなめる。
「じゃあどうすればいいのよ?」
「後ろからゆっくり近づいて勢いよく網を振り下ろしてください。あの草に止まったのがいいでしょう」
「後ろから、ね」
 セルファ・オルドリンは素直にこくりと頷いて、背の高い草に止まったトンボにそろそろ近づき、網を振り下ろす。
「やった! 捕まえたわよ真人!」
 網ごと紙トンボを捕まえて飛び上がった。顔には満面の笑み。
「よかったですね。さあ、籠に入れましょう」
 籠に入って紙トンボはおとなしくなった。御凪真人は近くに止まった紙トンボを観察。
「このトンボ達は何をしているんでしょうね……」
「ちょっと、早く指示しなさいよ」
「今度は僕がトンボを追いこみます。セルファはじっと網を構えてください」
 瞳をきらきら輝かせ、セルファ・オルドリンは頷いた。
「うわー、惜しいねぇ」
 紙トンボに夢中な御凪真人達を背に、紙バッタを寸前で逃した東條 カガチ(とうじょう・かがち)がため息をついた。
「虫さんはおどかしたらだめなんです」
 そう言うのは柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)。実践しながら東條カガチに語りかける。
「そーっと、そーっと近づいて……ばって虫網被せちゃうんです!」
「おー、なぎさん上手いねぇ」
「カガチも頑張るですよー!」
 捕まえた紙バッタをしまいながら網を振り上げる柳尾なぎこに頷き、草藪に潜んで網を構えた。地面を這うように進み、網を振り上げて紙バッタを捕獲。
「お、捕まえた」
「その調子その調子!」
 柳尾なぎこの励ましに顔をほころばせつつ、東條カガチは網を構えた。
 その横でヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が虫取り網を手に駆け回っていた。
「まって〜、えいっ! あ〜っ!」
 ひらひら舞う紙蝶を追いかけて網を振り下ろすが、避けられる。
「えいゃ!」
 走って網を振り下ろすが、紙蝶は軽やかに飛んでいってしまう。
「むむむ〜」
 頬を膨らめる間にも目の前を通り過ぎる別の紙蝶が。慌てて駆けだす。
「まって〜、あっ!」
 躓いて転んでしまった。網を取り落とす。
「うぅ〜、いたいです……あれ?」
 膝をさすり網を見ると、紙蝶が入っていた。
「やりました〜!」
 にこにこ笑って、紙蝶を虫籠の中へ入れた。

 草影で息を飲むミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)。鎌を振り上げる相手との一対一の戦いだ。【光学迷彩】を使用してギリギリまで近づく。
「えいやっ!」
 網を振り下ろした瞬間、バタバタと飛んでいく。
「逃がさないぜっ!」
 勢いよく【バーストダッシュ】を使用。飛び去ろうと低空飛行する相手に上から網をかぶせる。
「やった、ペーパークラフトカマキリ、ゲットだぜ!」
 紙カマキリの鎌に気をつけ、胴体を掴んで虫籠に押し込む。
「今日からあんたは私のペットになるんだ。喜べ」
 八重歯を光らせて、ミューレリア・ラングウェイは微笑んだ。
 それを遠目に見てカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は草原に視線を走らせる。
「ウチの校長は生徒を試すのが好きだからね〜、ならこっちも本気を出さないと」
 手にはトリモチのついた棒。飛び回る紙トンボと紙蝶に向けて振り回す。
「みんなおいで!」
 トリモチは次々と紙のトンボと蝶を捕える。
「作戦成功みたい。ジュレ、そっちは?」
「……やれやれ、校長の頼みとはいえ難儀なものだ」
 ため息をつき、虫取りシートを半円状に設置するのはジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)
「いっぱいになったから、そっちに追い込むよ!」
「わかった」
 二人で虫を追う。棒を振り挟み込むようにシートの方へやると、紙トンボや蝶が磁石に吸いつく砂鉄のようにシートにつく。
「おお……これは面白いな」
「もっと捕まえよう! ボクは捕まえた虫をファイリングしながら指示するよ」
「わかった、よし」
 捕獲した虫を紙に戻しバインダーにファイルし始めたカレン・クレスティアを背にジュレール・リーヴェンディは草原を駆ける。
「そうそう、こっちだ。いいぞ」
 誘導は成功。虫取りシートに様々な紙虫が付く。
「よし、次だ」
 指示を仰ぐ間もなく、ジュレール・リーヴェンディは駈け出した。
 一方草原の中心あたりには姫神 司(ひめがみ・つかさ)グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が立っていた。
「校長は『魔法書はそれぞれの動物になりきっているですぅ』と言っていたが、餌はこれでよいのか?」
「……たぶん」
 首を傾げつつ姫神司は砂糖水につけた綿を無造作に草原に置いた。
「えぇと、あとはどうするんですか?」
「これを囮に歩く。飛び出た虫をつかまえるのだ」
 瞳をきらりと光らせる姫神司にグレッグ・マーセラスはおずおず頷いた。
 ざくざくと草を踏みつつ歩くと、ほどなくして虫達が寄ってきた……。
 紙蛾や紙蜻蛉、紙カブトムシ。グレッグ・マーセラスは虫が出てくるたびに素早く網を振り、籠に放り込んだ。
「ほう、これは下界では見たことがない虫だな」
 綿を覗きこむと鳥のような翼をもち角の生えた玉虫色の虫と、同じ形の紙虫が羽をはためかせていた。
「えい!」
 網で自ら捕まえる。紙虫は鳥に似た羽を震わせた。それを籠にしまい、パートナーの籠を見た。
「結構捕まえたようだな……おお、高い所にもいるな。グレッグ、飛ぶか」
「え……?」
 姫神司は構わず箒を取り出し、宙に浮かび上がった。
「ま、待ってくださいー」
 グレッグ・マーセラスの声も届かず、箒は勢いよく飛ぶ。その下では巨大な虫取り網が空を切っていた。
「フハハハハハハハッ!」
 高らかな笑い声を上げる坂下 小川麻呂(さかのしたの・おがわまろ)。力と網の大きさに物を言わせ、応援団の旗振りのごとく振り続ける。虫は抵抗する間もなく網の中へ。
「フハハハハハハハッ! 来いよ、紙!」
 笑い声と網に驚き、紙でできた虻が針を繰り出す。坂下小川麻呂は【スウェー】を使用。腰も使い勢いをつけ軽やかに網を振る。紙虻は軽々と網の中へ。
「フハハハハハッ!」
 高らかな笑い声が草原中に響き渡った。
 笑い声を背に藍澤 黎(あいざわ・れい)は水辺へ。手には白いシーツと虫取り網。
「無茶をする……」
 飛ぶ紙虫を見て雨でも降ったら大変だろうにと息をつく。
「一刻も早く回収するべきだろう」
 意気込んで水辺へ。【トラッパー】使用。白いシーツを広げて光精の指輪の光を当て【トレジャーハント】で周囲に注意し身を潜める。
「風が出てきたようだな……」
 太陽が雲に隠れ、やや暗くなる。シーツの明るさが際立ち、虫達が集まってきた。
 強い一振りで虫を捕まえ、反撃の暇を与えない。
「あるべきものはあるべき姿へ、だ」
 あとでページに戻そう、と籠に詰めた。