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【十二の星の華】日陰に咲く華

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【十二の星の華】日陰に咲く華

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第2章 消えかけた命

 遠くの方から何かが崩れるような大きな音が響いてきた時は、特に気にはせず野外でのランチを楽しんでいたが。
 奇妙な動物の鳴き声と、男性の叫び声は、さすがに気のせいとは思えず、橘 舞(たちばな・まい)は、声の方向に向かっていった。
 面倒ごとは無視したかったパートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)も仕方なくついていったところ、獣に襲われ、木にしがみついている青年を発見したのだった。
「だ、誰かが、木の上で襲われていますー!」
 助ける手段はなかったが、発見した途端、舞は大きな声を上げた。
「あちゃー。誰よ、こんなところでピクニックしようとか言い出したの? ……いや、私か」
 血だらけの男性の姿に、ブリジットは頭を抱える。正月に引いた大凶のおみくじが脳裏を過ぎった。
「どなたか、どなたかいらっしゃいませんかー!」
 付近を歩き回りながら、舞は叫び続け、通りかかった者達が足を止めていく。
「どうかした……あ、あれは!?」
 舞の叫びを聞き、駆けつけた緋桜 ケイ(ひおう・けい)は目を疑った。
 襲われているのが、自分が通う学校の先生であったから。
「あれは……マラリィン先生でしょうか」
 森の中を覗き込んだクレイ・フェオリス(くれい・ふぇおりす)もそう呟き、集まった者達に目を向ける。
「急いで助ける必要がありますね。行きましょう」
 いくつもの顔を持つ不自然な体の獣達が青年に襲い掛かっていく。
 青年がしがみつく木の下には狼の姿もある。狼達は青年を庇うかのようにその合成された獣に飛び掛っていた。
「いくぞ、ソア!」
 ケイはクレイに続き共に森の中に飛び込む。
「はいっ!」
 ケイと共に森近くの道を歩いていたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は空飛ぶ箒に跨った。
「ええっと、イルミンスールの先生? た、大変っ」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)も、森の中に走り込もうとする。
 見たことも無い獣が暴れているがそれだけではなく、狼もクレイやケイを阻み襲い掛かってくる。
 木にしがみ付いている青年は狼の獣人と思われる。狼達は青年を守ろうとして合成獣や人間達の行く手を阻んでいるように見えた。
「えっと、マラリィン先生? 狼達を止められませんかっ!」
 詩穂はバーストダッシュで狼を避けて、皆をガードラインで守っていく。
「う……っ、お前達、大丈夫だ。下がってろ。人間は、僕の教え子達、だ」
 苦しげな息の下、青年がそう言うと、狼達は青年がしがみ付く木の周りに退き、うなり声を上げて合成獣を威嚇する。言葉そのものが伝わったわけではないだろうが、青年――グレイス・マラリィンの意思は伝わったらしく、その場の狼達は人間達に牙を向くことはなくなった。
「それじゃ、やっちゃいましょう!」
 そう言ったかと思うと、詩穂は殺気看破と実力行使を使い、合成獣に殴りかかっていく。武器は抜かず、ひたすら殴り飛ばしていく。
 ただ、その合成獣は野生の獣とは違った。
「倒れないですね。それはそれで面白いですけれどっ!」
 意図的に合成された獣――こうして、人間や戦闘能力のある者と戦うために作られた獣のようであり、硬い皮膚に阻まれてほとんどダメージを与えることはできなかった。
「これ以上近づけさせません!」
 エミナイル・フランディア(えみないる・ふらんでぃあ)が、バーストダッシュで飛び込んで、青年を襲う合成獣に火術を放つ。
 翼を生やした合成獣が、奇妙な鳴き声を上げながら後方へ下がる。
「エミナイル、無茶はするなよ!」
 ディアルデン・アシュフォルド(でぃあるでん・あしゅふぉるど)は、エミナイルの着地地点へ飛び、カルスノウトを振り、合成獣を退かせる。
「わたくしは大丈夫です。傷つけられて良い命なんて無いのだから。これ以上見たくはありません!」
 一旦着地したエミナイルだが、青年を襲う合成獣は倒れたわけではない。
 直ぐにまたバーストダッシュを使い、低空から火術を放って合成獣を攻撃していく。
「地上の敵は任せておけ。近づく物は全て破壊するのみ」
 エミナイルが上空の敵に専念できるよう、ディアルデンは果敢に地上の合成獣に挑む。
 虎の顔を持つ合成獣が鋭い爪を振り下ろす。
 ディアルデンは剣で防ぎ、その間にまたエミナイルが大地を蹴る。
 一旦後ろに跳んだ合成獣は助走をつけて、ディアルデンに襲い掛かる。
 振り上げた剣を、ディアルデンは合成獣に叩き下ろした。
「まずは火術!」
 ケイが炎を放つ。ディアルデンに剣を叩き込まれた合成獣が炎も受けて転げまわる。
「先生、しっかり!」
 声を掛けて、ケイは後の先、殺気看破で敵の攻撃をかわしながら、魔法を打ち込み、合成獣の弱点を調べていく。
 エンデュアと心頭滅却で自分の抵抗力も高めてある。
 体の一部を焼かれ、傷口から血を流しながら、合成獣は狂ったように突撃に転ずる。
 合成獣はいくつもの弱点と、いくつもの耐性を併せ持っているらしく、一撃で倒すことはできない。
 更に、特殊効果を持つ鳴き声――眠気を誘う術を使う合成獣も存在した。
「みんな、意識をしっかり持てよ!」
 ケイは忠告をしながら、雷術を放ち合成獣の動きと止め、その隙にディアルデンが合成獣の喉に剣を突き立てて、倒す。
 ようやく1匹動かなくなった。
「落ちなさい!」
 エミナイルが最後の火術を飛んでいる合成獣に放つ。
「こっちは危険よ。巣にお帰りなさい」
 音井 博季(おとい・ひろき)が操縦する小型飛空艇に同乗した西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)がアシッドミストを放つ。
「ぎゅああああああああー」
 叫び声を上げる合成獣に、速度を上げて飛空艇が向かっていく。
「くらえっ!」
 博季が小型飛空艇で翼に体当たりを食らわす。
 衝撃に、合成獣がはじけ飛ぶも、博季と幽綺子も無傷ではすまない。体を打ちつけ傷を負い、重厚なつくりではない小型飛空艇のバランスも取れなくなる。
「やっぱり、マラリィン先生……だけどっ」
 博季は必死にバランスを取り、グレイスの上にたどり着くが、木々の枝が邪魔をしてグレイスの元に下りることは出来なかった。
 空飛ぶ箒で駆けつけたソアも同じく近づけない。
「連れてくるしかないようね」
 少し離れた位置に博季が飛空艇を下ろすと、幽綺子は森の中へ駆けていく。
「道をあけてもらおうか!」
 百合白 温和(ゆりしろ・ゆたか)はハンドガンで、威嚇射撃をする。
「悪いわね、急いでるの」
 続いて、幽綺子がアシッドミストで合成獣をを牽制する。
「今よ!」
「おう、いくそ、ニト!」
「御爺さん? え、ちょっと、いやーっ!」
 ドラゴニュートのニト・ストークス(にと・すとーくす)を肩に乗せた状態で、水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)が地を蹴った。
「御爺さん早いっ、早いってばーっ!!」
 助走をつけて斜めに生えた木に駆け上り、その木を蹴りバーストダッシュで青年の元に飛ぶ。
 叫びながら、ニトは必死に邪堂の肩にしがみ付いている。
「うむ。大丈夫かね、若いの」
 声をかけて、邪堂は青年を小脇に抱え、飛び降りる。
「もう大丈夫じゃ。この邪堂が参じたからのぅ。ほっほっほっ……」
「ぐ……っ」
 衝撃に、青年が苦しげな声を上げる。
「声が出るってことは、平気な証拠じゃ!」
「まだだ、こっちに来るなよ!」
 温和がハンドガンで援護をする。
「ありがたい」
 邪堂は苦痛に呻く青年を抱えたまま、再びバーストダッシュで開けた場所に飛び、青年を下ろす。
「ニト、皆の衆、あとは頼んだぞ」
 言って、邪堂は合成獣の方へと向かっていく。
「先生、無事か!?」
 合成獣に氷術を放ち、動きを鈍らせケイが駆けつける。
「出血が酷いです。どなたか回復魔法使えませんか」
 クレイも駆けつけると、グレイスの腕の付け根を掴み、止血を試みる。
「馬を用意してあります。とりあえずこの場を離れましょう」
 舞が声を上げながら駆けてくる。
「クイーン・ヴァンガードの方達があちらに救護所を作って下さっているようです」
 言って、リュックサックの中身を惜しげもなくぶちまけて捨てる。
「こちらを使って下さい。お持ちのままでは動きにくいでしょうし」
 グレイスは舞の説得に応じて腕を開いて抱えているものを舞に預けた。
「そいつ肩怪我してるし、背負えないでしょ。仕方ない。安全圏に離脱できるまで預かっておくから。いくよ、舞」
 ブリジットは百合園の制服姿だ。しかも武器らしいものといえばバットしか持っていない。
 とてもあの合成獣と戦う気にはなれなかった。とにかく効率よくさっさと安全圏へ逃げたかった。
 ブリジットが重くなったリュックを掴んで背負い、繋いである馬の方へと走る。
「先生、乗れますか?」
 ソアが空飛ぶ箒で近づいて手を伸ばすが、グレイスの方がソアよりずっと体格が良いため、抱えて箒を操縦し、更に敵に備えるとなるとかなり難しそうだ。
「先生はこっちに乗せるよ、箒より安定感あるし」
「はいっ」
 博季がグレイスの体を持ち上げ、飛空艇へと乗せる。
「はい、お願いしますっ。それじゃ……」
 ソアはグレイスにヒールをかけていたニトに目を留める。
「よろしければ乗りませんか?」
「うん、よろしくっ!」
 ソアはニトを前に乗せて、空飛ぶ箒を走らせる。
「先生は無事だ。救護所へ運ぶ!」
 博季は合成獣と戦う者に声をかけると、小型飛空艇を発進させた。
「救護所はあちらです」
 手綱を持つブリジットにしがみ付きながら、舞が一方を指差す。
 飛空艇、空飛ぶ箒がそちらに向かっていき、それからケイとクレイは乗り物には乗らず、敵が追ってこないよう牽制しながら走って救護所の方へと向かう。