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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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ロック鳥の卵を奪取せよ!!

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第四章 料理開始!


「――それで、ロック鳥の卵をこのイルミンスール魔法学校で孵化させたいというわけじゃな?」
「有精卵っだったなんて、不覚ですぅ!」
 イルミンスール魔法学校の校長室で、生徒たちから報告を受けるエリザベート・ワルプルギスととパートナーのアーデルハイト・ワルプルギス。
「せっかく、昼食を抜いてお腹を空かせてたのに、あんまりですぅ!」
 エリザベートの手には、既にナイフとフォークが握られていた。
「それで、校長。卵を飼うことは許可してもらえるの?」
 カレン・クレスティアがエリザベートに一歩詰め寄る。
「……それは、無理ですぅ。だいたい、ロック鳥の巨大さは見てきたはずですぅ! あんな化け物、飼う場所もなければ、まかなえるだけの飼育費もないですぅ!」
「そんな……」
「それに、ロック鳥の人工孵化は今までに前例がないですぅ。全部失敗してるですぅ!」
 実際、エリザベートの言うことは正しかった。
 しかし、それでも生徒たちは諦めきれない。
七尾 蒼也とフレデリカ・レヴィもエリザベートへと詰め寄る。
「でも、校長! ロック鳥を学校で飼えば、卵なんか食べ放題だぜ!?」
「わ、割に合わないですぅ! それに、ロック鳥は肉食ですぅ。もし、イルミンスールの生徒を食べたとなったら、校長の責任で辞職になっちゃうですぅ!」
「大丈夫! ちゃんと人を食べないように教育するから! そして、学校の守護獣にしてみせるから!」
「う、うぐ……ですぅ」
 生徒たちの剣幕におされ、エリザベートは一歩後ろへと下がる。
 だが――
「もぉ、フリッカ? いくらなんでもロック鳥が『イルミンスールの守護獣』は飛躍しすぎじゃありませんか? 大体、成長するまで何年かかるんですか。暴走思考は、フリッカの悪い癖ですよ」
 と言いつつ、フレデリカのパートナールイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)は、二歩エリザベートへ詰め寄った。
「ところで校長先生。私、何かの書物で呼んだことがあるのですが、子供のうちから人間の手で育てられた肉食動物は、人を襲わないそうですよ?」
 校長室で校長が追い詰められているという異様な風景。
 そして更に――派手な音を立てて校長室にのドアが開くと、何人もの生徒たちが雪崩れこんで来た。
「エリザベートちゃん!」
「校長先生!」
「エリザベート校長!」
 次々とエリザベートのもとに生徒たちが駆け寄ってくる。
「も、もぉ! なんなんですぅ!?」
 最終的に、ミリアまで駆けつけてきて、イルミンスール魔法学校校長室はかつてない人口密度となってしまった。
「お願いします! ロック鳥の雛を飼わせてください!」
「ロック鳥の羽は、良質な枕の材料になるんだよ! ホラ!」
 校長室に飛び込んできたルカルカ・ルーは、エリザベートとアーデルハイトに作りたてホヤホヤの巨大抱き枕を強制的に抱きしめさせた。
「う、うぷっ……たしかに柔らかくてイイ枕ですぅ、でもそれとここれとは話しが違――」
「「お願いします!」」
 生徒たちの圧力に押され、エリザベートはもう限界をむかえていた。
 そして――
「わ、わかったですぅ! 飼ってもいい……飼ってもいいから、そこをどくですぅ!」
 ついに、根負けしてロック鳥の飼育を許可したのだった。
「「やったぁあああ!」」
「ありがとう、校長先生!」
「エリザベートちゃん、大好き!」
 その場にいた生徒たちの大歓声は、校長室の窓ガラスを振るわせるほど大きなものだった。
「うぅ……これは立派ないじめですぅ! 数の暴力ですぅ!」
 圧倒的な数に押されたエリザベートは、かつてないほどの恐怖を味わっていた。
「エリザベートちゃん!」
「なんですぅ、アスカ? どうして抱きつくですかぁ!? 苦しいですぅ!」
 神代 明日香は、思いっきりエリザベートへ抱きつくと満面の笑みで――
「えへへ。あのね、親子丼ができたから一緒に食べよ!」
「ど、どういうことですぅ? ロック鳥の卵は使えないから、卵料理は無しじゃないですかぁ!?」
 生徒達は、ロック鳥の飼育許可を得たいがために、一つエリザベートに報告し忘れていたことがあったのだった。
 それは――

「よしっ! これだけ卵があれば、なんとかなりそうだな」
「あぁ、蛮族のみんなには感謝しないといけないな」
 家庭科室に集まった大量の食材たち。
 その中でも目を引くのは、ロック鳥の巨大な肉と、約二百個という大量の卵だ。
『――な、なに!? 卵があれば親子丼が食えるのか!?』
 イルミンスールへ帰る途中、蛮族たちは、卵さえあればロック鳥の肉で親子丼が作れるという話しを生徒たちから聞いた。
 しかも、その場にいた蛮族全員は親子丼が大大大好物だった。
 そして彼らは、親子丼のことを考えると、いても立ってもいられなくなってしまい――少しだけ時間をくれと言って、シャンバラ大荒野の彼方へ走っていってしまったのだ。
 待つこと一時間が経過したころ――
「「お〜い! 卵をだぞぉ!!」」
 下宿先や実家から大量の卵を持ってきたのだった。
「まったく、蛮族の行動力ってどこからくるんだろうね?」
「しかも、この量を一気に持ってくるていう発想がスゴイぜ」
 しかし、これで食材はそろった。
 学校に残って調理の下準備を進めていた生徒たちと、現場で食材を手に入れてきた生徒たちが、料理人として腕を振るう時間がやってきたのだった。


「それではみなさん、よろしくおねがしますねぇ」
 ミリアの挨拶と同時に、イルミンスール魔法学校家庭科室は厨房と化した。

「それじゃあ、ワタシはオムレツ作りに取り掛かります」
「わかったわ。私は茶碗蒸しを作るわ」
 まず最初に調理へ取り掛かったのは、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)とパートナーの賈思キョウ著 『斉民要術』(かしきょうちょ・せいみんようじゅつ)だった。
 弥十郎は、卵料理の底力を見せるため。『斉民要術』は、弁天屋 菊が持つ五千年前レシピに対するライバル心から。集まった料理人の中でも特に気迫が感じられていた。

 次に調理をはじめたのは、椎名 真(しいな・まこと)とパートナーのお料理メモ 『四季の旬・仁の味』(おりょうりめも・しきのしゅんじんのみ)島村 幸(しまむら・さち)と、そのパートナーアスクレピオス・ケイロン(あすくれぴおす・けいろん)リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)という、五人の大所帯だったのだが――ここは準備段階から何かとトラブルが多かった。
「おっきいカステラ……」
 ボソリと真が呟いたことによって『某ネズミさんたちもビックリするような巨大カステラ』の作成が始まった。
 しかし、苦難は準備段階から襲ってくる。
「巨大カステラともなれば、それ相応の調理器具が必要ですね」
 幸の言うとおり、まず最初に調理器具が必要だった。
 その問題は、前日にミリアからパエリア用の巨大鍋と、幸が元々所持していたジャンボ七輪で解決した。
 だが、苦難は更に続く。
 なんと、事前に用意しておいた『薄力粉・グラニュー糖・無塩バター・牛乳』といった材料が遥かに足りないことがわかったのだ。
 この問題は、他の生徒たちがロック鳥と戦っている間に、真が大急ぎで飛空挺に乗って買い出しに出て行ったことで解決した。
 しかし、トラブルはまだまだ続く。
 カステラの調理を担当するのは四季ということになっていたのだが、彼女では材料の総量と調理器具の大きさから考えて、腕力が足りないことが発覚した。
「四季さんは指示をだしてくれ……調理のほうは俺達がやる」
「そうですね。任せてください」
 そう言って、この問題は真とリュースが調理するということで解決した。
 しかし――まだまだ問題は尽きなさそうだった。

 一方、トラブルチームとは対照的に、本郷 涼介は落ち着いて作業へと取り掛かっていた。
 彼もまた卵料理に情熱を燃やす一人なのだが、その情熱とは対照的に、作る料理は卵豆腐といった清廉なものだ。
「ふふ、なんとか上手くいきそうだ」
 手際もよく、落ち着いた雰囲気が周りからの期待感を高める調理だった。

 そして、卵料理で外せないのが――スイーツ。
「あたしはシュークリームとしゅわしゅわ焼きメレンゲを作ろうかな♪」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は定番のお菓子と、一風変わった珍しいものをつくるようだ。
「では、俺様はショートケーキ、チーズケーキ、それにメロンパン、餡パン、ドーナツを作るである」
 万願 ミュラホークは、自身が開くパン屋での【猫華】人気メニューを振る舞うようだ。
 しかし、その背景にはミリアに対するライバル心も少なからずあった。
「それじゃあ、私たちはホットケーキと飲み物を用意させてもらいますねぇ」
「うん! 楽しくつくろうね!」
「皆に喜んでもらえるよう、頑張りますわ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)とパートナーたちセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)は、王道ながらも外せないホットケーキ作りに挑戦するようだ。

「弁天屋様、もしよろしければお手伝いさせてもらえないでしょうか?」
「お、フロンティーガー。ちょうどいいところに来たね」
 楽園探索機 フロンティーガーと弁天屋 菊(べんてんや・きく)は肉料理を作るようだ。
 彼女は、生徒たちがアトラスの傷跡へ出発する前に事前に食べたいもの聞いておいた。
 その結果、今日作るメニューは――
「モモ肉のスライスステーキを作ろうと思うんだけど、今日は作る量が多いからね。手伝っていってくれ!」
 肉の旨味をそのまま味わえるステーキと決まった。
「了解しました!」
 フロンティーガーも苦労して手に入れた食材に、いつもより一層力が入るのだった。

「ミリアさん、私も何か一品作らせてもらっていいですかぁ?」
 咲夜 由宇(さくや・ゆう)はミリアの手伝いが一段落したので、思い切って自分も料理がしたくなったことを伝えた。
 するとミリアは――
「はい。もちろんいいですよぉ♪」
 快く返事を返した。
 その後ろで、ウィルネスト・アーカイヴスがニヤリと微笑んだ。

 そして――数時間後。

「す、すごい量ですぅ!」
「とてもじゃないが、食べきれるかどうかわからん量じゃな」
 巨大カステラ、唐揚げ、ホットケーキ、シュークリーム、親子丼、卵豆腐、オムライス、茶碗蒸し。
 食堂へと運ばれた数々の料理たちは、どれもこれも最高の出来栄えだった。
「すすすす、すげぇ! こな豪華な料理、生まれて初めてだ!」
「こんだけ食えりゃあ、俺の人生に悔いはねぇ!」
 蛮族たちにも大盛況だ。
「みなさん、そろいましたかぁ?」
 食堂に現れたミリアが皆の前に立つ。
「今回、私の依頼に参加し下さった生徒さん。料理を担当してくれた人たち、蛮族さん、校長先生、大ババさま。みなさん、本当にありがとうございましたぁ」
 深々と頭を下げ、ミリアが感謝の気持ちをみんなに伝える。
「これから私たちが食べるのは、ロック鳥や他の動物、植物達の『命』です。そのことに感謝していただきましょう。いただきます〜」
「「いただきます!!」」
 その日、ロック鳥の鳴き声以上に大きな感謝の言葉が、イルミンスール魔法学校中に響きわたったのだった。


「すごい!? なにこれ! オムレツじゃないみたい!」
「こんなのはじめてぇ!」
 弥十郎が作ったオムレツは、お米の代わりにジャガイモを使っていて、特に女性に大人気だった。
「うわぁ……美味っ!」
「茶碗蒸しって、ここまで美味くなるもんなんだな!?」
 『斉民要術』の茶碗蒸しは、ロック鳥のガラを使用しているうえに、二種類の味が好評になった。

 一方、真たちが作った巨大カステラはというと――
「す、すげぇ!? あの身体のどこに入って行ってるんだ!?」
「ば、化け物だ!!」
 燦式鎮護機 ザイエンデ、メティス・ボルト、闇咲 阿童、そして料理したリュース・ティアーレ本人によって大食い王決定戦の科目とされていた。
 しかし、この巨大カステラには――とんでもない仕掛けが隠されていた。
「「ぶふぉは!?」」
 大食い選手権が終盤に差し掛かった瞬間、ほぼ互角の戦いを繰り広げていた四人が同時にむせ始めた。
「あ、幸! さてはお前!?」
 四人の異変を不振に思ったアスクレピオス・ケイロンは、咄嗟に幸の持ち物を調べはじめる。
「何をするんですピオス先生。わたしはただ、先生を見習って薬草で味付けを――」
「やっぱり! お前、ナカラの実を入れただろう!」
「ほんの隠し味程度に」
 このあと、幸は暴徒と化した四人から攻撃を受けるはめになるのだが……それはまた別のお話し。

「お兄ちゃんの卵豆腐すごくおいしいよ♪」
「そうか。自信作だから、素直に嬉しいぞ」
 本郷 涼介の作った卵豆腐は、パートナーのクレア・ワイズマンにはもちろん――
「あぁ……懐かしい味!」
「久々に食べたから余計においしいね」
 日本出身者たちからも大好評だった。

「さぁ、お前たち! 腹いっぱい食え!」
 ウィルネスト・アーカイヴスの差し出した親子丼は、明らかに常軌を逸脱していた。
「こ、これはなんだ?」
「食い物……なのか?」
 レン・オズワルド、ミレイユ・グリシャム、茅野 菫、エル・ウィンドは目の前の物体が何なのかを理解するのに、約三分かかった。
「俺様の自信作だ! たっぷり食ってくれ」
「「…………」」
 レンたちは今、究極の選択を迫られている。
 ロック鳥の命を粗末にするわけにはいかない。しかし……目の前の謎の物体を食べるのは気が引ける。まさに、究極の選択だ。
 だが――
「くっ……卵の守護者に名にかけて、食べてみせる!」
 そう言って、エルは一気に親子丼(?)をあおった。
 すると――
「あれ? 普通に美味しい」
 案外美味しかった。
 ロック鳥の肉がなした、奇跡だった。

「ケーキですぅ! ホットケーキですぅ! シュークリームですぅ! クレープですぅ!」
「うむ。なんとも美味そうじゃのぉ!」
 目の前に並べられたデザートの数々を見て、目を輝かせるエリザベートたち。
 とくに、まだ幼いエリザベートにとって咲夜 由宇が作ったクレープは、まさに宝石のようだった。
「まったく、現金な奴らであるな」
 ミュラホークが呆れて二人を見る。
 朝方、喧嘩していたエリザベートとアーデルハイトの機嫌は、ミュラホークがプレゼントした同じ大きさのケーキによって、とっくに修復していたのだった。
「よかったね、エリザベートちゃん♪」
「アスカたちが頑張ってくれたおかげですぅ!」
 珍しく素直なエリザベートを見て、幸せそうに微笑えむ神代 明日香だった。

 そのころ、肉料理が置かれたテーブルでは――
「ヒャッハー! 唐揚げだぁ!」
 五条 武が唐揚げの鬼と化し――
「うぉおお! ミリアさんの手作り焼き鳥やぁ!」
 日下部 社も負けじと焼き鳥の鬼と化し――
「うめぇ! このモモ肉のステーキうめぇ!」
 蛮族たちは肉の修羅と化していた。
「みなさぁん、そんなに慌てなくてもたくさんありますからねぇ」
 ミリアは自分の料理が美味しそうに食べられていくのを微笑みながら見ている。
 と、そこへ弁天屋 菊とフロンティーガーがやって来て――
「ミリア。今回は、本当にありがとうな」
「え?」
「料理人として、皆様に喜んでいただける機会を作っていただき、本当に感謝しています」
 たしかに二人の言うとおりだと、ミリアは思った。
 自分たちの作った『食』で誰かが笑顔になる。
 それはがとえ命の犠牲の上に成り立つ笑顔だとしても、それは生きてる証拠であり、その笑顔を見ているだけで彼女は感謝の気持ちを忘れないだろうと思えたのだった。
 

担当マスターより

▼担当マスター

カルーア・長谷川

▼マスターコメント

 はじめまして! カルーア・長谷川です!
 まず最初に。リアクションの発表が遅れてしまい、申しわけありませんでした。
 今回、自分の中では『肉部隊』がロック鳥と戦い、『卵部隊』が卵を巡り蛮族と戦う。そして、苦労して手に入れた食材を調理する――という簡単な物語の構成を思い描いていたのですが……フタをあけたら――
「なんじゃこりゃあああ!?」
 でしたw
 卵を保護しようという人や枕を作ろうという人までいて、ビックリです!
 今回のシナリオは、次回へ繋がるかもしれない伏線がいくつか残されているので、もしそれらを描く機会があれば是非ご参加ください!