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【2020年七夕】サルヴィン川を渡れ!?

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【2020年七夕】サルヴィン川を渡れ!?

リアクション


6章


 正悟に連れられて、織姫と彦星たちの一部始終を見ていたアルタイルは、体を震わせていた。
「これは一体どういうことですの!?」
 織姫に変えられた女子生徒たちを無事救出した直後、アルタイルの言葉が当たりに響きわたる。
「織姫に変えられた女子生徒たちに、彦星として迎えに来た生徒が想いを伝え、無事に救出したところですよ」
「そんなことじゃありません! なんで織姫たちが全員無事なんですの!?」
 アレグロの説明に、アルタイルは肩を怒らせながら疑問をぶつけた。
「それは……彦星たちが、本物を当てることができたからなんじゃないんですか?」
 陽太の意見はもっともである。
 なぜなら救出する際、たしかにそう言っていたのだから。
「実はちょっと違う。とある条件を満たせば、どちらを選んでも正解になるようになっていたんだ。もっとも、そう変えてもらったからなんだが」
 いつのまにか彦星たちと妨害メンバーたちは合流していた。
 その中から出てきた、セリスによるその一言で、アルタイルはセリスを問い詰めた。
「あなたから頼まれて幻覚をかけたのはわたくしですのよ!? それをどうやって変えたというの? あれは間違えれば、来年の七夕まで逢えなくなるようにしたはずですわ!」
 事実、アルタイルはそのように幻覚をかけていたのだ。
 しかし実際には違う条件になっていた。
 ようやく把握し始めたのだろう。何人かは混乱していた。
「でも、そんなことができる人なんて、いたっけ?」
 茜の言葉に考え込む彦星と織姫一同。
「彦星ちゃん、織姫ちゃん、アルタイルちゃんとくれば……あとはベガちゃんかな〜?」
「――その通りです、私が条件を変えました」
 ウィキチェリカの言葉に同意したのは、どこからともなく現れたベガだった。
「るるが頼んだんだよ。条件を少し変えてほしいって」
 そう、るるは織姫でもあるため、ベガとは知り合っていたのだ。
「るる様に頼まれた通りに私は変えました。彦星様たちが、嘘偽りない本心を相手に伝えることができれば、助け出せるという風に」
 その言葉を聞いた何人かは、その時のことを思い出したのか、顔を赤くしてうつむいてしまった。
 ――もっとも、何人かは幸せオーラ全開なのだが。
「なるほど、だから全員が助け出されたのだな」
 その言葉に納得したのか、毒島は頷いている。

「アルタイル。貴女は皆様がやったように、彦星さんの為に、今日やったようなことができますか? どんなに厳しくても、辛くても、助けようと必死になれますか?」
 社の言葉を聞いたアルタイルは突然のことに戸惑ってしまう。
「……今回の件において、妨害組には一つの共通意識がありました。妨害にも負けない彦星たちの姿から、アルタイルさんにも何か感じ取ってほしかったんです。」
 小次郎はそう静かにアルタイルへ伝えた。
「確かに織姫は、働かなくなった彦星を嗜めない様な女。けれど、彦星に彼女にしか与えられぬ幸せがある事を、そして、それが自分に無い事も解ってたんじゃないの?」
 美由子が悲しみを含んだ声でそう尋ねる。
「と、突然なんなんですの? わたくしは、ただあの女と彦星様を引き離そうとしただけですわ。そうすれば、彦星様の寵愛は全てわたくしのものに――」
「……お嬢様? お嬢様は甘えるだけやなく、彦星さんの為に幸せな笑顔を贈れてますか? ちゃんと幸せを願ってはりますか?」
 発言に被せるように社から問われ、アルタイルは答えられなかった。
「アルタイルの寂しい思いも分かるよ? でもね、そのために誰かを傷つけても、彦星には本当の想いは伝わらないんだよ?」
「アルタイルが彦星を愛してるのは分かる。でもね、一方的な感情の押し売りは、誰のためにも、自分のためにもならないんだ」
 朱里と正悟の言葉にアルタイルは周りを見渡すと、全員がアルタイルに対して心配そうな表情をしていた。
 ベガは姿勢を正すと、周りを見渡しながら口を開く。
「では、天帝様からの意思を伝えます。――アルタイルに力を与えたことにより、今回こうなることは予測済みでした。では、何故実行したかといえば、偏に皆様を結びつける絆が強くなってほしいと願ったからでした」
 ベガから語られる今回の真相。
 彦星と織姫が一年の一度だけ会えることでそれ以外の間は仕事に精を出し、一年に一度の逢瀬を大切にしているのは周知の事実。
 それに肖り、ここにいる全員にも困難を乗り越えてもらうことで、全員の絆を強いものにして欲しい。
 そしてアルタイルには、そのことに気がついて、自分なりに考えてみてほしい――そんな願いがこの騒動の真相だった。
 うつむいてしまったアルタイルに、由宇は声をかける。
「アルタイルさん、愛は人それぞれの形があるとおもいますです。もう一度お二人とお話をしてみてはいかがでしょう?」
 その言葉を聞いたアルタイルは、涙を目に溜めながら走り去ってしまった。
「……アルタイルは幸せ者ですね。ここにいる皆様から心配されるほど、想われているのですから」
「たしかに、そうかもしれませんね。……ところで誰か追いかけなくてもいいの?」
 ベガの呟きに郁乃が同調するも、アルタイルを追いかけなくていいのか、と疑問に思ってしまう。
 それに応えたのはマクシベリスだった。
「問題ない。偶然にも、この先には一人の男が先回りをして待っているからな」
 その言葉で誰なのか察した妨害メンバーは、アルタイルの去っていった方向に、哀れみの視線を向けるのだった。



 ようやく少しだけではあるが、体が動くようになった陽一は、匍匐前進をしていた。
 そして前方から、近づいてくるアルタイルを確認したまではよかったのだが――
 アルタイルは泣きながら走っていたため、足元がまったく見えていなかった。
 よって陽一を踏みつけて派手に転んでしまう。
「ゴフッ!?」
「痛いですわね! なんなんですの!?」
「人踏み付けといて何言ってんだよ! っと、アルタイルさんか。どうしたんだ?」
「そこに転がっているのが悪いんですわ! 別に、何もありませんことよ……」
 尻すぼみになっていくアルタイルに、陽一は状況を飲み込んだ。
 先ほどの会話は、美由子を通して陽一にも軽く伝わっていたからだ。
「なぁアルタイルさん。彦星が織姫と同じ位、貴女のことを大切にしてるのはわかるよな?」
「……え? あの女と同じ位わたくしを?」
 素で驚いたような表情のアルタイルに、陽一はあきれ返った。
「当たり前だろう? でなければ、自分の名前の一つであるアルタイルなんて名前、付けるわけないだろう?」
「あっ――」 
「彦星さんが織姫さんばっかり思うから寂しかったんだろ? 所詮織姫の代わりだとか考えたから、違うってことを証明してもらいたかったんだろ? でもな、名前が既に証明してんだよ。どれだけ彦星さんが大切にしてるかってな」
 そのことに思いいたったアルタイルは涙が止まらなかった。
「彦星様……わた、わたくしは――っ!」 
「あとは貴女次第だ。……もう、間違えるなよ?」
 ここまでくればあとは大丈夫だろうと胸をなでおろした陽一だった。