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【学校紹介】妖怪の集う夜―百物語―

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【学校紹介】妖怪の集う夜―百物語―

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9・佳境

 普段は孤児院で子どもと共に暮らすヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)、でも真夏の孤児院はちょっと暑くって寝苦しい日もある。葦原明倫館のイベントを知ったヴェルチェは、クレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)を連れて涼みにきた。
 妖怪や怪談など全く怖くはないのだが。

「こういったイベントって楽しい仕掛けが必要よね♪」
 肝試しといえば、子ども達が大好きな夏のイベントだ。誘われたクレオパトラは、最初は断ったが、、
「涼みに行くだけよ♪」
 ヴェルチェは、子どものように面白がっている。
 天守閣に付くとすぐに、バケツにグラスから水がこぼれるような罠を用意して糸が蝋燭の火で切れ、罠が発動するよう部屋の隅に設置した。
 しばらく時間が立つと今度はそのグラスがバケツに落ちて割れるよう仕掛けてある。
 百物語が進むにつれて、自分と同じようにイベントとして楽しんでいるように見えた、ティファニーが消えた。
「何か、楽しい仕掛けがあるのよ♪」
「本当にそうかのう、わらわにはなにやら物の怪の仕業のように感じるがのう」
 クレオパトラはヴェルチェほど楽観的ではない。
 既に、話を披露していない人は数人となっている。
「このままでは百物語にならないわ」
 無理やり百話いかせる為にCDプレイヤーを用意、副音声みたいに怪談話を流し、蝋燭を余分に消す作業を始めた。
「そこまでしなくもよいのですよ」
 房姫が困惑した声で軽くたしなめている。
「いいでありんす。わっちは百話まで聞くとどうなるか知りたいでありんすよ」
 ハイナは涼しくなった天守閣が居心地がよくなったらしい。

 百本あったろうそくの炎はあと三本となっている。


 語り人を指差す青白い炎は、神和 綺人(かんなぎ・あやと)を照らした。ぱっと見は少女のようだが少年である。
「え? 僕もやっぱり話さなきゃダメ?」
 綺人は、特に話を考えていなかったが、99の物語、中にはとても短い歌もあったが、それぞれの話を聞くうちに、自分にも語るべき話があることに気がついた。
「う〜ん、じゃあ、姉さんの友人が体験したことでも良いかな?」
 静まり返る中、話が始まる。
「深夜、家に帰ろうと道をあるいていたら、子どもの歌声がどこからか聞こえてきたんだって。後ろに気配を感じて振り返ったら、ぼんやりと青白い光に包まれた、十歳くらいの、白い着物を着た女の子が立っていたんだ。その子と目が合った瞬間、意識が遠のいて…その後、気がついたら家の前に立ってたらしいよ。」
 いとも軽い調子で話す。
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)が付け加えた。
「綺人のお話にあった女の子なのですが…。正体は綺人です。
 髪を伸ばしていたのと女の子用の着物を着ていたので、彼の性別を勘違いしたのでしょうね。彼の周りがボンヤリと青白く光っていたのは、彼の周りに本物の幽霊が漂っていたからでしょうね。その方が意識が遠のいたのは、綺人と一緒にいた幽霊が憑いたからです。綺人だとバレたら、色々ややこしくなるかもしれないので、幽霊はその方に憑依してちゃんと帰宅させたらしいです。」
 淡々と、まるで昼間の学校の出来事を話すかのような瀬織に、皆は逆に、百物語の終わりを感じる。
「青い明かりは誰が操作しているのでしょう、神和さんのお話は最後にふさわしいものですわ」
 房姫が関心している。
「まだ、最後ではないが、最後は今回の企画者、ティファニーに残してあげたいでやんす」
 ハイナの言葉だ。

 そのとき、青い光がもう一人の前で止まった。
 セディ・クロス・ユグドラド(せでぃくろす・ゆぐどらど)だ。
「私にこの場を与えるとは、お前も面白い」
 シャンバラ人であるセディは、高らかに笑い、声を続けた。
「私が話す、99話目は雪女の話だ」
 なにやら蠢いている。
「村の若者が雪山で遭難して雪女に救われる。吹雪の中、家に宿無しの旅の娘がやってくる。 面倒を見ているうちに娘と結婚。娘に雪女の話をしてしまう。 娘は雪女だった。皆が知っている話だ、その後もある、他の村人を氷漬けにし、男を村に閉じ込めてしまった。そのため、男は一人きりで老いて死んでいかねばならなかった……」
 そして、セディは意味不明な笑みを浮かべる。
「余談だが、雪女は今も彷徨っているらしい。私が今この話をしてしまったから、もしかしたらお前たちが氷漬けにされてしまうかもしれないな……。ほら、なんだか寒くなってきただろう……?」
 ルナティエール・玲姫・セレティ(るなてぃえーるれき・せれてぃ)夕月 綾夜(ゆづき・あや)は、この時を待っていた。二人とも真っ白な肌と銀色の髪を持っている。
 闇に隠れて雪女の衣装に身を包んだ二人は、二人は氷術で部屋の温度を急激に下げる。
ヴェルチェの仕掛けた水滴が音を立て、恐怖感を煽る。

「トリのセディ兄は雪女か。……って、なんか寒いぞ?!」
 セシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)が呟いたとき、青い炎はセシルのもとで止まった。
 房姫が慌てて、セシルを制する。
「百物語は99話で朝を待つのが慣わし。セシルさんのお話は次回に持ち越していただけませんか」
「俺の持ちネタは簡単なんだよ、のっぺらぼうって、どこまで逃げても、出会う人間全員のっぺらってやつ」
 暗闇から雪女の扮した綾夜とルナティエールが現れる。
 同じ顔、同じ装いの二人は交互に出現することで、まるで瞬間移動しているような錯覚をみなに与えている。吹雪が舞い起こる。
「うわ出た! って、いつの間に後ろにきたんだよ?!しかも敵意むき出しじゃねぇか、凍らされてたまるか!」
 雪女は、セシルの後ろにいた。
 吹雪がセシルを襲う。セシルが慌てて逃げ出す先に、一本残ったろうそくがあった。
 結奈と仄水がセシルを待っている。
「百話目はのっぺらぼうでしたか」
 セシルの周りで起こる風が、最後に残るろうそくをふきけした。

 雪女は執拗にセシルを追う。
「爆炎破で応戦だ!」
 セシルが戦っているとき、バタッと音がした。
 カイルフォール・セレスト(かいるふぉーる・せれすと)が倒れたのだ。
 「カイル……おい、気絶してんじゃねぇぇぇぇ!!!」
 カイルフォールは、この百物語に参加したくなかった。無類の怖がりなのだ。
 つれられてこの部屋に来てからも、妻のアスティ・リリト・セレスト(あすてぃ・りりとせれすと)に背中をさすられつつずっと固まってた。
 今も、アスティの手首をぎゅっと掴んで倒れている。
「フォール! しっかり!!寝てる場合じゃないよ!」
 アスティは夫であるカイルフォールを揺り起こす。
「それにこの吹雪、見知った魔力を感じる。間違いない、あれは……」
 アスティも襲ってくる吹雪を火術で相殺する。
「ルナ姉様! 綾夜! このあたりでいいでしょう?これ以上やると、被害が出るよ!」

 この言葉に呼応するように、吹雪は収まった。
「やれやれ。姉様の悪戯にも困ったね」
 もともと綾夜とカイルフォールは幼馴染だ。綾夜は雪女の衣装を脱ぐとカイルフォールのもとに向かう。
 綾夜に癒されて頬を叩かれ、アスティに抱え起こされて意識を取り戻すカイルフォール。
「……うん……? そうか、綾夜たちだったか……。そうだな、いないものに無駄に怖がってしまっていたのかも……」
 しかし、言葉が終わらないうちに、カイルは、再び、固まる。

 天守閣に大きな化け物にのった鬼が顔を出したのだ。キャプテン・ワトソンの背にのったゲシュタール・ドワルスキーである。
 大きな悲鳴が天守閣に響き渡る。
「この悲鳴のシンフォニーこそが我が子守唄に相応しい」
 この言葉が始まりだった。

 なにやら天守閣の壁が揺れている。ろうそくが消えて、いよいよ、妖怪の時間が始まる。


9・百鬼夜行

「なんだか、物騒な音がします」
 房姫が騒ぎのなかで、かすかな音に疑念を抱く。聞こえてくるのは銃声だ。
「百物語で現れる妖怪は日本古来のもののはずでありんす、銃は人のもの」
 ハイナは、襲ってくる物の怪と戦いながら耳を澄ます。

 銃を乱射していたのは、蒼空学園の高柳 陣(たかやなぎ・じん)だ。天守閣を目指してやってきたが、たどり着くことはなかった。パートナーのユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)が意図して誘導したのだ。
「百物語に行きたい陣を、校内に入ったらわざと天守閣とは違う方角に誘導して道に迷わせ、肝試しで・・・」
 ユピリアは妄想の世界に入っている。
「怖そうなものがあったら可愛い悲鳴を上げて陣の腕に抱きついて…」
 きっと恋が始まるにちがいない。
 しかし、ユピリアの思惑がなくても、陣は天守閣にはたどり着けなかっただろう。どう見ても適当に歩いてるようにしかみえないからだ。
「天守閣ってどこだよ」
 陣は荒っぽく扉を開けたり閉めたりしている。
 そのうち、ときはやって来た。
 妖怪が地中から、壁から、巻物から、襖から、沸いて出てくる。
「よっし、見つけた!」
 陣は妖怪を見つけると、手当たり次第に銃を乱射している。
「怖い!」
 ユピリアは悲鳴をあげて、陣に抱きつく。
 しかし。
 予想通り、
「ウザイ!」
 とむげにされてしまう。
 撃たれた妖怪が、陣に向かってくる。
「こういう時だけか弱くなりたいっていうのが間違ってる事くらい、知ってるんだー!」
 結局は、陣の前で妖怪と戦う羽目になるユピリアだった。


 葦原明倫館の士道科に属する氷見 雅(ひみ・みやび)タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)と共にカメラで百物語の様子を写していた。
 前日にティファニーの許可は貰っている。
「なんか面白いことするみたいねー!うまく行けば妖怪とか出てくるのかしら、だとしたらデジカメで写して回らなといけないわね!」
「暗いし、ろうそくしか写らないかも」
 ティファニーは、ただ語るだけの天守閣の模様など写真に残してもと雅に聞いた。
「え、どうしてって? きっといい写真がとれるわ。そりゃきまってるじゃない! 葦原妖怪写真集として売りだすのよ! 妖怪学校として有名になればビッグビジネスの予感よ!」
 その予感は的中している。
 ゴキブリのお化けだの、3メートルはある巨体の鬼などが、次々と天守閣に登ってきているのだ。
 ひるまず鬼達にレンズを向けた雅は、相手もレンズを自分に向けていることに気がつく。
 ブルタ・バルチャだ。
「ビデオを持っている妖怪なんていないわ」
 ブルタを乗せた「我こそは黒光りの王なり。この天守閣は気に入ったので我とその同胞の住処にしてくれよう!」は高らかに宣言した。
「タンタン、お願い」
 その黒光りする姿に、雅の志気は低下している。
 タンタン・カスタネット(たんたん・かすたねっと)は、あくびをしながら、ブルタの前に出てきた。
「ワタシ、眠いのですぅ」
 パーツごとに分解出来る機晶姫、タンタンは、サイコキネシスを使って自分の身体をバラバラにすると、
 加速ブースターで自分の頭を、ジュゲム・レフタルトシュタインの上に乗ったブルタのもとに飛ばす。
 怖いものなど何もないはずの、ブルタがひるんだ。
 その隙に、雅が二人を天守閣から蹴り落とす。
 かくして、天守閣が阿鼻叫喚の嵐に包まれたどさくさに紛れて持っているビデオカメラでハンナの恐怖に引きつる様子を撮ってエリザベートちゃんのプレゼントにしようとしたブルタの野望は撃ち砕かれた。

 ヴェッセル・ハーミットフィールドは、ブラインドナイブスを応用して死角に入ったり隠れ身で移動したりして、百鬼夜行と共に天守閣までやってきた。
 特に悪巧みが或るわけではない。
 葦原明倫館見学が主たる目的だったわけだが、こうなると、暴れないと収まりがつかない気もする。
 妖怪らしく、百物語参加者を脅していたヴェッセルは、この騒ぎのなか、御簾の奥で寝ているティファニーを発見する。
 ティファニーの顔は血で染まり、服は土で汚れている。
「なんだ、死んでるのか」
 ヴェッセルが手を伸ばしたとき、ティファニーが起き上がった。
「…Picking up bury them under the cold marble stones」
 夕方練習していたマザーグースの歌である。
「あれ、どうして?」
 ティファニーは事情が飲み込めないらしい。
 ヴェッセルは知っている範囲で説明する。
「総奉行!!頼んだヨ、百話はミーが話すノ、せっかく血のりまで…」
 ティファニーは歌の歌詞に合わせて、死人に変装して、百話になるのを待っているうちに、寝てしまったらしい。
「…」
 ものすごく沈んでいる。
「沈んでいる状況じゃないぜ」
 ティファニーは御簾から外を見る。妖怪が乱入して、天守閣内は大騒ぎだ。
「房姫さま」
 ティファニーが表に出ると、その血塗られた容姿に、また、大きな悲鳴が起こった。


 校門では教導団軍服だった戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、今、狩衣を着て烏帽子を被っている。
 彼も、百物語の終わりを待っていた。
 手順を頭の中で組み立てる。
「報攪乱を用いて一帯にジャミングを施し、不自然さを演出する。次にレビテーションとダークビジョンを用いて明かりをつけず、足音を立てずに部屋へ侵入する。入った後、サイコキネシスを用いて幽霊特有の超常現象を起こして周囲を混乱させ、その隙を狙って間髪いれずハイナに近づき…」
 しかし、行動を起こす前に、事が起こった。
 今、ハイナは、ジャジラッド・ボゴルと対峙している。
「とって食う」
 鬼の扮装をしているボゴルはハイナに手を伸ばす。
 小次郎は間に割ってはいった。話すと正体がばれてしまうので、無言だ。
「鬼に適うと思うのか」
 ボゴルが不敵な笑みを浮かべる。
 壁から空から、妖怪が噴出してくる。
「どうやら百鬼揃いそうだ」
 ボゴルが一瞬、妖怪に気をとられた。その隙に小次郎はハイナを抱え、逃げる。
 いつの間にか、ゲイルがきている。
「予告どおりですな」
 ボゴルは、自らが妖怪になることをゲイルに伝えてあった。
「ボゴル、そろそろ遊びの時間は終わり…まず、本物の妖怪を退治する時間ですな」
 小次郎はハイナを現れた匡壱に引渡し、おびえる百物語参加者の援護に回る。

ハイナは天守閣より、学校内に残る葦原明倫館生徒に叫ぶ。
「よいか、葦原明倫館生徒として、日ごろ学んだ成果を見せておくんなまし」
 
  隠密科の生徒たちは、潜んで、鬼達に手裏剣や目くらましを使う。
  陰陽科生徒は、式神を使って、鬼を錯乱した。
  士道科生徒は、他校の生徒を護り、剣を抜く。

 それぞれの場所で、脅かし役だった生徒たちも皆一丸となって、妖怪から学校を護る。

 ハイナに近寄るために女装までした戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、天守閣の護りでハイナと共に戦っている。

 佐保は、事前に用意した呪文と魔よけの札を天守閣と学校入り口にはり、一心に祈っている。

 10.夜が明ける寸前鬼は消えた。

 長い時間だったのか、ほんの数分だったのか。
 空が明るくなる寸前に、全ての妖怪は消えうせた。佐保がばら撒いた妖怪封じの呪文が聞いたこと、皆が戦ったことで、負傷者もいない。
 疲れ果てた生徒たちは、それぞれの校舎で仮眠をとっている。もう少しすると朝餉も振舞われる。


 天守閣では、疲れたのか、ハイナがうたた寝をしている。
 小次郎は以前失敗したあることに挑戦する。そのために、姿をかえているのだ。
 手を伸ばし、ハイナの胸を揉む。
 その腕を、ぎゅっとハイナが掴んだ。
「よいでありんすよ、胸ぐらいで何が変わるものでもなし」
 ハイナは、小次郎の腕を放すと、また、すやすや眠りについた。

おしまい

担当マスターより

▼担当マスター

舞瑠

▼マスターコメント

葦原明倫館、学校紹介シナリオにご参加いただきありがとうございます。
皆さんから素敵な怪談を頂き、楽しく書き終えることが出来ました。
これからも宜しくお願いいたします。