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【初心者向け】こどもたちのぼうけんにっき

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【初心者向け】こどもたちのぼうけんにっき

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 2章 山道


『……みはり役のゴーストたちは、山道の中でなかまを呼びました。
「どれ、おいしそうなこどもたちが、あるいてくることよ」
 ゴーストたちはよだれをたらして喜びます
「わたしは、一本道でおとこのこを食らうとしよう!」
「では、わたしは二道が続く道の手前でおんなのこを食らうとしよう!」
けい流のつり橋で、みんな食べてしまおう!」
 それでも残ってしまったらどうしようかね?
 そんなことは、決まっているさ! とゴーストたちはこたえます。
山頂へ続く蛇行した道で待つことにしよう。
 少し遠まわりになるが、逃げ場はここしかない。
 そこで挟みうちにして、おなかいっぱいたべてしまうのさ……」
 
 〜パラミタに伝わる民話・「魔の山」より〜』
 
 
 □一本道


「ここがその、一本道かい!」
 やれやれとエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は周囲を見渡した。
 空京の裏道ほどしかない山道である。
 うっそうと茂る常緑樹のせいで、空は見えない。
「はっきり言って、真っ暗だぜ!」
 彼は明りになりそうなスキルや武器を身につけていなかった。
 途中まで子供達を先導する仲間達ときて、明り役の者に案内を頼んだ。
 子供達が到着する前に、鏖殺寺院の構成員達を「平和的に始末する」約束だ。
「別働隊の1部隊だけ、というのが気に食わねえが……」
 頭をかきつつ、ニィッと笑う
「大丈夫! 俺の『十八番』で一網打尽だぜ!」
 エヴァルトは自信満々に、闇を見上げた。
 先刻【トラッパー】で仕掛けた光る物体があり、その傍からエヴァルトの手元にまでロープが垂れ下がっている。
 そして、いざ構成員達が通りかかるや、エヴァルトはえいっとばかりにロープを引っ張った。
 
 ドンガラガッシャンッ!
 
 何と!
 真新しい金ダライが構成員達の頭に直撃するではないかっ!
「さっすが! 空京の裏路地で一番大きい金ダライを購入しただけのことはあるぜ!」
「しかし……」
 涙目で頭を抱えた構成員の1人は、ゆらりっとたちあがって。
「なぜ、ここまできて『金ダライ』オチなんじゃあああああああああ!」
「ゆるせんっ!」
 シャキ――ンッ!
 ナイフで襲いかかってくる。
 だがエヴァルトの装甲はパワードスーツだ。
 軽くかわされて、返り討ちにあう。
「くそっ! 覚えてろおおおおおっ!」
 マニュアル通りの捨て台詞を吐いて、構成員達は退却した。
 
「だがよ、ここで退却されても、子供達と鉢合わせじゃねえか!」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は彼らの退路に潜んでいた。
「【光学迷彩】と【カモフラージュ】で姿は完璧に隠したぜ!」
 闇の中で、彼はフッと笑う。
「【ダークビジョン】に【殺気看破】のおまけつき」
 ゴム弾を装填したショットガンを構える。
 スキルのために、狙いは正確だ。
【スナイプ】と【シャープシューター】で、正確に敵の頭を撃つ。
「やられたあああああああっ!」
 断末魔の声を上げて構成員達はあおむけに倒れるも、所詮はゴム弾だ。
 そうして別働隊は全員、山道脇の草むらの中で朝まで気絶したのであった。
「ふん、どうやら間に合ったようだぜ!」
 振り返ると武尊の遥か後方から、子供達を先導する明りと、子供達の元気な声が流れてくる……。
 
 
 □二道が続く道


「ここが、『おんなのこが食われちゃう』二道の分かれ目とちゃう?」
 二道の手前にて。
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は、子供達の到着を今か今かと待っていた。
「見張り役の祥子はんには伝えたし。美羽はんから言われた通り、王ちゃんにも連絡しておいたから、大丈夫やね?」
 レイチェルは泰輔を見上げる。
 見張り役の者達は、絶えず怪しい者がいれば目視で確認しに来る。
 その時、泰輔が自分達の目的を祥子に伝えていたので、何も問題はない。
 彼ばかりではなく、今回途中参加した者達の「成功」は、すべて空と地上からの「見張り役」の者達の連携による力が大きかった。
「彼女達がいなかったら、途中参加の輩は仲間と『同志討ち』になっとったよね? おお、こわっ」
 ぶるるっ、と上半身をふるわせつつ、彼らは予定通り行動に移った。
 レイチェルは【光条兵器】を取り出して、そっと輝かせる。
「じゃ、私は先回りして、道を探索しますから。あとはお任せしますね!

 パートナーと別れた後、泰輔は予定通り子供達に近づいた。

「ねえ! 君達。面白そうだから、にいちゃんもまぜて〜!」
「なんで大人がこんなところにいるんだよ!」
 子供達の反応は冷たい。横目でじっと見て。
「それに、ここは『キケン』なんだぞ! 『いっぱんしみん』は、はやくおうちにかえったほうがいいぜ!」
(ていうか、お前らの方が『キケン』やないのかあっ!)
 泰輔はぐっと反論したいのをこらえて、さらに下手に出てみる。
「でも今更1人や帰れへんし! やったら、君達といた方が安全やないのやろか?」
 子供達は顔を見合わせる。
 確かに、目の前の青年は何とも「頼りない」。
 自分達が守らなければ、魔物たちの餌食となってしまいそうだ。
「しかたがないなあ! ほら、にいちゃん! けど命のほしょうはねえかんな!」
「ええよ、仲間にぶちこむだけで。その代わり、と言っちゃなんやけど……」
 ポウッ、と。
 手の中が光る。
「【光術】だ!」
「? 物知りやね? コントラクターの知り合いでもいるのやろか?」
「うん、皐月がいるからね!」
「皐月?」
 泰輔は人差し指の方向を見た。
 隊列の最後尾に、ポーカーフェイスの子供がいる。
 彼は【光術】をやめて、ただの子供に戻っていた。万一に備えて、SPの消費を押さえたいのだろう。
(……ということは、「お仲間」ちゅうことやね?)
 だが明り使いが、隊にいるということは心強い。
(俺に何ぞあった時は、奴に頼めばええ!)
 
 泰輔は隊の先頭に立って、道案内役を務めた。
(噂に名高い魔の二道や。子供達を安全な方へ導かんと!)
 そう、鏖殺寺院のこともあることやし、と思う。
 問題の「二道」についた。
 どちらも似た様な細い道で、先は闇だ。
「にいちゃんどっちだよ?」
「うーん、どっちやろう……」
 泰輔は悩むふりをして、大木の幹を見た。
 右へ矢印がある。
「ほな、右行ってみよーか?」

 そうして、2人の活躍により第一の難関は突破した。
 だが、「二道」はまだまだ続くのである。
 
 ■
 
 頃合いを見て、ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)は子供達に近づいた。
 そろそろ、第二の「二道」へと近づきつつある。
 だが、レイチェルの【光条兵器】の明りは弱々しくなりつつある。
(ここが潮時ですか……)
 他の明り役と交代する瞬間を見計らい、火村 加夜(ひむら・かや)はノアの背中を押した。
「道案内頼みましたよ! ノア」
「うん、王ちゃん……じゃなくて、シー・イーさんから聞いたんだけどねぇ〜」
 シー・イーからのメールでの指示を思い出しつつ、ノアは子供達の前に躍り出た。
「ねえねえ、君達、【おっきな飛空艇】をさがしにきたんでしょ? 一緒にいてもいいよね〜?」
「ここは『おんなこども』のくる場所じゃないぜ! とっととかえんな!」
 ……子供達の反応は、どこまでも冷たい。
 けれどそこは泰輔が救いの手を差し伸べた。
「こんなかわいい女の子置き去りにしたら、ゴーストに襲われてしまうやろ。ここは連れて行くしかないやん?」
「……そうだな。二道のゴーストは『おんなのこ』を食べてしまうんだっけ? しかたがないな、ついてきな!」
 ノアは泰輔の機転で隊列に加わることが出来た。
 ニャーと、その時ノアの腕から猫が転がり落ちる。
「わあ! 猫ちゃん」
「『海里』って言うんだぁ〜」
 猫のお陰で、ノアが一向に溶け込むのに時間はかからなかった。
 首から提げた小さなライトは、余りに暗過ぎて役には立たなかったが、子供達を和ませるには十分だったようだ。
 加夜はそれらの様子を、ノアとの【精神感応】でのやり取りの中で知ることとなる。
(本当は【道案内】に来ただけなのですが……)
 危なそうな個所には【精神感応】で伝えて、心底楽しそうなパートナーの姿を見守る。
(……ノアに、たくさんのお友達が出来て良かったですかね?)
 加夜は意外なサプライズに、母親のような気持ちでホッとするのだった。
 
 加夜達の活躍で、子供達は第2の難関も無事安全な道を選択することに成功した。
 だが、まだ「二道」の危機が去った訳ではない。
 
 ■
 
「これが最後の難関か!」
 3回目の二道の百メートルほど手前にて。
 月夜見 望(つきよみ・のぞむ)天原 神無(あまはら・かんな)須佐之 櫛名田姫(すさの・くしなだひめ)を伴い、子供達の到着を待っていた。
「3つ目の二道の選択――」
「これが成功すれば、鏖殺寺院に会うこともなく、けい流のつり橋に着けるのね?」
 神無の推測に、望は頷いた。
 空からの偵察隊から、既に情報は届いていた。
 さしせまった危険は、先行する「鏖殺寺院」の本隊と鉢合わせにならないようにすることだと。
「だから、これまでけい流のつり橋への進路をとりつつ、敵との距離も測ってきたんだね?」
「そういうことだ!」
 それから、クシナダ! と望はやや不安そうに告げた。
「お前には、これからやってもらいたいことがある」

 子供達の隊列が闇の彼方からやってくる。
 距離を測って、櫛名田姫は静かに隊列に紛れ込んだ。
 隊列には既に数多くのコントラクター達が紛れ込んでいる。
「1人増えようが、減ろうが、子供らは気づかんだろう」
 というのが、見張り役の仲間達からの連絡だった。
(というわけで、クシナダ! 頼んだぞ!)
 見張り役はまた、妙な情報も携えていた。
(子供達の後ろを「ゴースト」らしき白い影が追っている、か)
(あながち、「都市伝説」も嘘じゃねえ、ていうことか……)
 やっかいだな、と思いつつ、自身は【ライトニングブラスト】を放つ。
(正しい道はこっちだ! 気づいてくれよ!)
 
 一方――。
 子供達の中に入った櫛名田姫は大威張りで闊歩する。
「ふははは! 貴様等の付き添いしてやるのじゃ。
 何じゃ! その目は。不服かぇ?」
 ぱかんっ!
 モンキーレンチが飛んでくる。
「いたたたっ」
(姫ちゃ〜ん♪ ちゃんとお仕事してる?)
「うっさいのう! 我に何ということをするのじゃ!」
(あははは〜♪ じゃ、もう一度【ライトニングブラスト】行くから、皆に教えてあげてよね!)
 【精神感応】を通じて、神無が指示を出す。
 櫛名田姫は後頭部をさすりつつ、
「あ!」
 光の方向を指さした。
「あっちへいけ! ということじゃな!」
「そうじゃ、天啓じゃ! 我の言うことを聞かば、無事に山頂へ辿り着けるぞぇ。ふはははーっ!」
(ひ、姫ちゃん! 手伝って!)
 神無の声が響く。
「なんじゃ、神無」
(フラフラとゴーストがいたのよね……いま【サイコキネシス】でとめてるんだけど……)
「わかった。我の力が必要なんじゃな!」
 きらりんっ!
 目を光らせる。
 櫛名田姫が【白の剣】で薙ぎ払うと、背後にいたゴーストの姿は消えうせる。
「おー! おめーつええんだなあ!」
「何じゃ? その目は。『友達』とやらになりたいとでも言うのかぇ?」
「うん!」
「しかたがないのう……」
 櫛名田姫は子供達の中に居場所を獲得した。
 
 かくして、迷わずに子供達は二道の難所を無事通過する。
 
 ■

 同じ頃、鏖殺寺院・【空京のへき地支部】は道の選択を誤り、大きく戦力を分散させていた。
「本隊が3手に分かれて、一部隊しか着かなかったとは、な……」
 彼らは懐中電灯を掲げ、周囲を見渡した。
 周囲には深い谷があり、谷には大きなつり橋がかかっている。
けい流のつり橋、か――」

 遠くに、子供達を導くサポーター隊にの明りが見え隠れしている。
 鉢合わせしてしまうのは、時間の問題だ――。
 
 
 □けい流のつり橋


「あれが、けい流のつり橋だね?」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)は【小型飛空艇ヘリファルテ】で上空から「魔の山」をうかがっていた。
 片手には携帯電話。
「そう……現地には、コントラクターの『見張り役』がいるんだね?」
 じゃ、と短く告げて、鳳明は電話を切った。
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)から連絡が入った。
 彼女は空大で待機中だ。
「パルメーラちゃんからですか?」
「うん。後のことは『見張り役』の人達から聞いて、って。セラさん、何か聞いてる?」
「『鏖殺寺院の一部隊がつり橋付近に入ったらしい』……くらいですね?」
「ええっ!? だったら、今つり橋に行かせちゃ駄目じゃないの!」
 鳳明は慌ただしく電話を切ると、眼下を凝視した。
 闇に小さく明りが見える。サポーター達が生み出した光だ。
「つり橋の手前、約50メートル、といったところだね。まだ間に合うかな?」
 鳳明は【小型飛空艇ヘリファルテ】を急降下させて、子供達の前に降り立った。
「私は『冒険屋ギルド』の冒険屋・琳 鳳明」
 子供達と握手を交わす。
「依頼で魔の山に行く事になったんだけど、人手が足りなくて……」
「じゃ、おれたちが手伝ってやるよ! ねーちゃん!」
 りーだーが言った。
「いいよな? みんな」
 子供達は憧れの眼差しで頷いた。
 まだまだ「冒険屋」とか、「正義のヒーロー」とかの言葉に弱い年頃だ。
 鳳明の格好や、【小型飛空艇ヘリファルテ】の存在も信用に足る。
「でも、ただっていうわけには、いかねえよな……」
「じゃ、お礼に食事でもどう? パートナーに用意させるね。腕は保障するよ!」
 鳳明は携帯電話でセラフィーナと連絡を取る。
「終わったら、空京大学の学食で御馳走が待ってるって!」
 わあ、と子供達は大喜びで鳳明を囲んだ。
 パルメーラの姿もある。
 鳳明は彼女に近づくと、子供達に聞こえないよう耳元で囁いた。
『子供達を連れて、ゆっくり休憩しながらつり橋に向かうよ。その間に、鏖殺寺院のことは、頼むね?』
 
 ■
 
「で、我々『鏖殺寺院討伐隊』の出番と言う訳だ。やれやれ……」
 パルメーラからの連絡を受けて、月谷 要(つきたに・かなめ)は一足先につり橋に来ていた。
 傍らに霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)マリー・エンデュエル(まりー・えんでゅえる)の姿もある。
「しかし奴らに隠れながら、ってのもひと苦労だねぇ……」
『泣き言言ってんじゃないわよ!』
 携帯電話からがなりたてたのは、霧雨 透乃(きりさめ・とうの)だ。
「攻撃隊」の彼女は月美 芽美(つきみ・めいみ)鬼崎 朔(きざき・さく)と共に、別の場所で待機している。
『じゃ、計画通り、頑張ってね!』
「ハイハイハイッ、とぉ」
 要は電話を切ると、絶壁の足場から、渓流を眺めた。
 懐中電灯の光が絶えず往来して、闇の中でもはっきりと見える。
 ざあざあと滝のように流れゆく川で、谷底は深く、つり橋から落ちたら命はなさそうだ。
「とはいえ、この敵の光源だけが命綱とは! いやはや、まぁ……」
「大丈夫だよ! ちゃんと守ってるから、安心してね」
「ははは、そりゃあ心強い」
 司の合図で、悠美香とマリーは定位置へと散らばるのだった。
 【破壊工作】の準備が終わり、要は起爆剤のスイッチを入れる。

 ババア――ン。

 爆風と共に構成員達の多くは吹っ飛んだ。
「たーまやー!! ってなぁ! やー、よく吹っ飛びやがるわっ」
 はっはっはっはっは……要は構成員達の姿を眺めて、高笑い。
『呑気なこと言ってないで! 要』
 悠美香から連絡が入る。
『【サイコキネシス】でサポートしていることも、忘れないでね? これ以上威力が強くなったら、爆風をコントロールしきれなくなるわ』
「って言っても、もう倍の量しかけちゃったんだよねぇ」
『……へ?』
 次の瞬間、崖は崩壊。
 つり橋は構成員達ごと谷底へと落ちて行くのだった。
 
「了解! 残りの奴らは任せておいて!」
 要達からの連絡を受けて、マリーは生き残りを始末しにかかる。
「あーら、女の子達ばっかりじゃないの?」
 舌なめずり。
 長い銀髪を色っぽくかきあげて、抱き寄せる。
「あーら、あなた。こんな真夜中にどうしたの?」
「ひ、ひゃああああああ、魔物さん……ですか?」
「魔物じゃ、こんないいこと出来ないわよ?」
「って、どこ触ってんですかっ! いやあああ〜んっ!」
 そうして日頃から任務任務で色ごとに弱い彼女達は、次々とマリーの毒牙にかかって行くのだった。
「はい、【スプレーショット】と【シャープシューター】! いっちょ出来上がり! と」
 目を回して倒れた構成員達の山を見上げて、マリーはパンパンと手をはたいた。
 豊満な胸をキュッと両手で持ち上げて、身をよじる。
「ふん! この続きは、要と悠美香で埋め合わせようかしら?」
 その前に……と、彼女は「攻撃隊」の3名へ連絡を入れる。

「ふーん、そっちは全滅しちゃったって訳だね?」
 目を細めて、透乃は闇を凝視する。
「じゃ、こっちもはじめるかな?」
『はじめるって、誰と交戦するつもりなの? って、チョッと……っ!』
 ピッ。電話を切って、透乃は「攻撃隊」の仲間達に告げた。
「先行した1部隊は要達が始末したらしいよ。私達は、新手と交戦しなくっちゃだね!」
「腕が鳴るわね。血しぶき、血の雨……うふふふ……」
「場所をわきまえて下さい。子供達を守るのが先決です!」
 芽美の言に異を唱えて、朔は闇と同化する。
「どの道けい流つり橋は使えません。迂回路に移動させます」
「わかった。パルメーラには私から連絡しとくね! 朔ちゃん」
「頼みます」
 闇が揺らいだ。
「芽美ちゃん、来たよ!」
「はん、腕が鳴るわ!」
 芽美は利き手の拳を、怪しくひと舐めする。
 彼女の視線の先――鏖殺寺院の新たな別部隊が現れ、子供達を取り囲もうとしている……。

「これで、10人目!」
 どうっ。
 闇の中、構成員達は音もなく倒される。
 懐中電灯の明かりで、惨状があらわになる。
 血だまりの中に埋もれる死体は、「首なし死体」の山だ。
「【ヒロイックアサルト】ッ! はああああああああああっ!」
 透乃は狂気を纏って格闘威力を高めると。
 セイッ!
 拳の一撃で、構成員達の命を次々と奪っていく。
「駄目よ、駄目っ! 透乃ちゃん」
 傍らで、芽美が怪しく笑った。
「そんなことじゃ、子供達に『恐怖』は植えつけられないわっ!」
 彼女は【ヒロイックアサルト】を発動させると、敵の四肢を狙う。
 想像を絶する苦しみにもだえる彼らを見下ろして、彼女は笑った。
「あっはっは〜、虫けらみたいだわ! あなた達も、こうなっちゃうかもよ?」
 子供達をちら見する。
 子供達は真っ青な顔で、パルメーラ達の後ろに隠れ、戦闘の様子を眺めている。
 そうしてことが片付いた後で、透乃は子供達に近づいた。
「ねえ、どう思う?」
「どうって……」
「冒険には危険もつきものだよ、てこと。それでも行くのか、てことよ!」
 こんな風に、と透乃は死体を指さした。
「痛い思いをして、二度と帰れなくなっちゃうかもしれないんだよ? それでもいいの?」
「そんなこと、わかっているよ!」
 怒鳴ったのは、りーだーだ。
「いのちがけは、しょうちのうえさ!」
 顔をそむけて、行進をはじめる。
 気の弱い者達も、仲間の裾を引っ張りつつ、目を瞑って歩き始める。
(あれあれあれ……ま、「合格」ですかね?)
 闇の中で、ふっと微笑んだのは、朔だ。
 振り向きざまに、敵の前に躍り出る。
「隠れていても、無駄だ!」
 【光学迷彩】と【ベルフラマント】と【ブラックコート】の装備を解いて、朔の姿があらわになる。
 岩陰から、隠れていた構成員が飛び出す。
「なぜわかった?」
「これが見えんのか?」
 黒犬のようだった朔の姿が変形する。
 構成員はちっと舌打ちした。
「【超感覚】か!」
「いまは、【ダークビジョン】のおまけつきだがな」
 闇の中で死闘は続いた。
 業を煮やした朔が装備を稼動させる。
「【黒檀の砂時計】!」
「そういうわけで、お前には死んでもらう!」
 朔は目にもとまらぬ速さで移動すると、【忘却の槍】をつきたてた。
 どうっと、構成員は地に付す。
「どのみち、記憶は忘却のかなただ。アジトの場所までは聞き出せまい」
 苦い顔。
 だが次の瞬間、振り返って、口元がわずかに緩む。
「無事でよかった……」
 そこには、彼女たちの活躍により、無事に迂回路へと向かう子供たちの後姿がある……。
 
 かくして、子供たちは山頂へ続く蛇行した道へ向かうこととなった。
 
 だが彼らはまだ知らなかった。
 そのとき、彼らのはるか後方の闇の中で、不気味な笑い声が鳴り響いたことを……。
 
 
 □山頂へ続く蛇行した道


「魔法……魔法……魔法の材料……」
「ずいぶん奥まで入っちゃったね?」
 御子神 鈴音(みこがみ・すずね)サンク・アルジェント(さんく・あるじぇんと)は、山頂へ続く蛇行した道にいた。
「『魔の山』……。魔……と付くくらいだから、魔法的な物もあるかもしれない……と思ったんだけど……」
「あてがハズレちゃったね! 鈴」
 ふわわわっとあくびをして、こてっと、髪の中に埋もれる。
 サンクの体は小さい。
 鈴根の頭の上が定位置なのだ。
 むくっと起きたのは、異変を察したから。
「鈴音、あれ!」
「うん……戦わなきゃ……いけない……」
 天に向けて、片手を掲げる。
 周囲が放電し始める。
「【雷術】……間に合うと……いいのだけど……」
 
 バリバリバリッ。
 
 鈴音が放った【雷術】は、サンクが【サイコキネシス】で軌道修正したこともあって、子供たちのあとをひそかにつけていた鏖殺寺院・【空京のへき地支部】の構成員達を一網打尽にする。
 3つに分かれた本隊の、最後の一部隊だ――が、そのようなことを彼女達は知る由もない。
「これで……安心……」
 作業を続けようとしたところで。
「鈴、見て!」
 サンクが足下を指さした。
「何これ……白骨……死体?」
 鈴音はしゃがんで【火術】を使う。
 火の明りで、正体があらわになる。
 土の中に埋もれる、白骨化した兵士の躯が、そこかしこにある。
「鏖殺寺院の紋章……この間の……戦いの……」
「『魔の山』、か。たくさん死んじゃった悲惨な戦地、って意味だったんだね?」
 
 ■
 
 彼女達の後方で、闇が揺らぐ。
 けたたましい笑い声と共に、一斉にゴーストが出現した。
 
 ■
 
「現れたな! ゴーストめ!」

「ゴースト迎撃隊」の面々――閃崎 静麻(せんざき・しずま)雨宮 七日(あめみや・なのか)星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)時禰 凜(ときね・りん)銀星 七緒(ぎんせい・ななお)本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)の6名は、闇の中で頷く。
 打ち合わせ通り、定位置へと散開した。
「サポート役」の閃崎 魅音(せんざき・みおん)ルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)榧守 志保(かやもり・しほ)骨骨 骨右衛門(こつこつ・ほねえもん)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)の4名も、それぞれの場所へと移動する。
 だが――。
 
「静麻! どこにいるの?」
 魅音からの緊急連絡。
 【カモフラージュ】で姿を隠した静麻は、定位置に着く前に携帯電話を取った。
「何だ? まだゴーストはそっちにいっちゃいねえだろ?」
「ううん、かこまれちゃったよぉ!」
「何だと!?」
 草の陰から子供達を眺める。
 パルメーラを中心にして子供達は固まり、周囲をおびただしい数のゴースト共が徘徊している。
「まずいぜ、まずいぜ!」
 携帯から光条兵器取り出す。
 素早く、ルミナスライフルに接続。
「あたれよっ!」
 照準で狙いを定めて、ゴーストに放つ。
 
 シュンッ!

 闇の中とはいえ、そこはプロのスナイパーだ。
 そうして一体一体を倒し……結局他の仲間の体勢が整うまで、ゴーストの駆除と足止めに貢献する。
「でも、何で奴ら、こんなに早く襲ってきやがった?」
 やーいやーいと声がする。
 子供達が、ゴーストを煽っているのだ。
「勘弁してくれよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 静麻は額に手を当てて、大鋸と連絡を取るのだった。
「七日達に伝えてくれ。こっちは燃料尽きたってな」

「そう、静麻がそう言ってきたのですね?」
 大鋸からの連絡を受けて、七日は戦闘態勢に入った。
「ええ、大丈夫です。こんな時のための、皐月ですもの」
 一旦切って、皐月に電話をかける。
「では、皐月。予定通りに頼みます」
「ああ、連絡する。あとはおまえにまかせる」
「……お人好しが」
「何か言ったか? 七日」
「いいえ、何でもないです。では死なないよう、皐月」
 連絡終了。
 まったく、と思う。
(ボロボロになっても、皐月は『良い子』で困ること!)
 そうして【光る箒】にまたがって、七日は夜空に舞う。
「さあて、ホラーショウの開始! といきますか?」

 同じく、大鋸から連絡を受けた智宏は、子供達の背後の木陰に陣取っていた。
 やや離れて、凜が控えている。
「俺達は、後ろから行くぜ!」
「はっ、はい! 智宏さんっ!」
 ぎゅっ。
 凜は極度の緊張状態のため、智宏の裾を掴んで身を寄せる。
「凜、あの、体、近づきすぎ……」
「はあ〜い! 智宏さん♪」
「……凛っ! ゴーストっ!!」
「お仕事ですね! 頑張りまっす!!」
 しゃきい――んっ!
 凛は戦闘モードに入れ替えると、サポートに着くべく、混乱の中へと駆けだした。
 闇の中、子供達はゴーストに脅え逃げまどう。
 ゴーストからしてみれば、体力が衰えた所で、一気に襲い掛かるつもりなのだ。
 疲れきった子供達は、肩で大きく息をして立ち止まる。
 そこを、背後からふわりっと、ゴーストの白い影。
(消えちまいなっ!)
 智宏は【碧血のカーマイン】を木陰から構えると、ゴースト目がけて狙い撃つ。
 子供達が、え? と振り向いたときには、ゴースト達の姿は霧散していた。
「やだ……っ!」
「誰か〜〜〜、いるみたい〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 きゃああああああああああっ! と子供達は慌てて危険地帯の方へ逃げ出す。
 そこには、数匹の凶悪なゴーストの姿が!
「1、2、3……いや、まだ隠れているな! 七日!」
 皐月は【殺気看破】を使いつつ、上空の七日と連絡を取る。
「計7匹ばかりだ。始末してくれ」
『わかりました、皐月。正確な位置だけ、教えてくださいます?』
 そして【奈落の鉄鎖】での重力制御と共に、ゴースト達は一匹、また一匹と闇に葬り去られていく。
『けれど、こちらの方が子供達にとっては怖いのではないでしょうか?』
「……オレもそう思う」
「……て、呑気に感想を言い合っている場合ですかっ!」
 最後の弁は凜。
「智宏さんは智宏さんで、どっか行っちゃうしい〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 えーんと泣き出しそうな面で、それでも凛は子供達の行方を探る。
 子供達は分散し、2、3名が1匹の大きなゴーストに追われていた。
 このままでは、いずれ捕まってしまう!
「えーい! こんな時の【サイコキネシス】ですよね!」
 凛はフルパワーでゴーストの動きを封じる。
「右に動きそうな時は、左! 左に動きそうな時は、右! と」
 思い通りに動けず、もがきつづけるあまり、ゴーストの動きは次第に弱っていく――。
「いまだ! おまえら!」
「え? 皐月の声?」
 子供達はキョロキョロと姿を捜す。
「ゴーストを倒すんだよ!」
「え? でも、武器なんかないよ?」
「枝とか! じゃなきゃ、棒っきれかなんか、落ちてんだろ?」
「うん! わかったよ、皐月!」
「やってみるね?」
 やっ!
 子供達は折れた枝を持って、弱ったゴーストに一斉攻撃を掛ける。
 ゴースト撃沈!
「やったぞおおおおおおおおっ!」
「おれたちってば、つよおおおーいっ!」
「つよいぞ、つよいぞ、つよいぞ! おれさまたち!」
 いつのまにか「一人称」まで変わって。
 初めての勝利に子供達は勢いづく。
 
 だが、魔物はやはり「魔物」だ!
 一匹ならともかく、束になってかかられたら、子供達だけではひとたまりもない。
 
「えーん、こわいよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
 別の子供達は身を寄せ合い、大きな岩陰に隠れていた。
 そのそばを、夥しいゴースト達が徘徊する。
「出てくるのを待ってるみたいだね?」
「どうしよう?」
 子供達は脅え過ぎて、足が震え、動けない。
 
 プ、ポ、パ、ポ、ピイイイ〜♪
 
 哀愁漂うオカリナの調べが、風に乗って流れてくる。
 木陰から、【光条兵器】の明りに導かれ、七緒登場。
 案内役はルクシィだ。
「ルクシィ・ブライトネス!」
「ええ、【パワーブレス】ですね? ナオ君」
 ルクシィは【パワーブレス】で七緒に祝福を与え、攻撃力を高める。
「夜闇を彷徨いし魂……在るべき場所へ、還れ……」
 ザンッ。
 綾刀の一撃で、ゴースト達の群れは、たちまちの内に消え去る。
 連続攻撃で一網打尽だ。
「ふん、たわいないぜ!」
「ねえ!」
 岩陰から、おそるおそる子供達がのぞき見する。
「その、ありがとう……」
「おねえちゃん達、お名前は?」
「退魔師見習い……とでも名乗っておこう」
 フッと笑って、2人は風と共に闇に消えて行く――。

「おっと! 私のことも忘れてくれるなよ!」
 大鋸からの連絡を切って、すぐ、涼介は子供達の最後尾についた。
 ……というか、彼の目の前で子供達は慌てふためき逃げ惑っている。
「やれやれ、参ったな。ゴーストどころの騒ぎじゃないぜ!」
「俺達に任せなって!」
 骨右衛門を伴い、志保が姿を現す。
「【光学迷彩】、か」
「怪我人は志保と2人、こっそり面倒みるでござるよ」
「だから、おまえは好きに暴れちまいなって!」
「……すまない。恩にきるぜ!」
 涼介は遠慮なく【殺気看破】でゴースト達を見つけては、【雷術】や【凍てつく炎】で排除していった。
「雷よ! 凍てつく炎よ! 子供達の冒険に力を貸したまえ! ……なんちゃって!」
 ゴーストは断末魔の声を上げつつ、それでも子供達を追いかけ回す。
 
 こけっ。
 
 女の子が転んだ。
 ゴーストは涼介の力で消えたが、女の子は立てない。
 膝から大量の血が流れ出している。
「ひい――っくっ。おうちに帰りたいよお〜〜〜〜〜……」
 ぐしぐしっと泣き始めたその膝に、一瞬聖なる光が宿る。
「おうちに……あ、あれ?」
 女の子は膝を見た。
 すりむいたはずの膝には、キズ1つない。
「あれ? おかしいなあ?」
「ゴーストのせいじゃないの?」
「うん、きっとそうだよ!」
「そんなことないよ!」
 女の子は癇癪を起して、男の子に石つぶてを投げ始めた。
(まずいでござる! 仲間割れの危機でござるよ)
(仕方ねぇな、骨骨……)
(了解でござる!)
 女の子にヒールを施した張本人――骨右衛門はしかたなく【光学迷彩】を解いた。
 骸骨武者のような男が、闇に浮かぶ。
「ひゃあああああああ! おばけえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 子供達は逃げて行った。
「まあそう、落ち込むなって。そのうち、分かってくれる時が来るからさ……」
 はあ、と落ち込む骨右衛門を、闇の中から慰める志保であった。
「俺達のお陰様で、安全な冒険が出来たんだ! ってこと」

 だが、キズを作るのは、子供たちばかりとは限らない。
 
「くそっ! 数が多すぎるぜっ!」
 いたる個所に怪我を負いつつ、涼介は戦っていた。
 はあはあと、大きく肩で息をする。
「私一人か、孤独なヒーローだな!」
『いいえ! そんなことないです♪』
「? 空耳か?」
 一瞬、愛らしい少女の声が、涼介の耳元で囁いたような気がしたのだが。
 涼介は腕を見て、ハッとした。
「え? 治ってる?」
 かなりの怪我の量だった。
「【グレーターヒール】でもなければ、治せねーよな? ふつー」
『【天使の救急箱】もです♪』
 誰かが、闇から答える。
 どうやら、影のサポーターに徹している仲間らしい。
「どこの誰だかわからねえが、感謝するぜ! お嬢さん」
 闇が揺らぐ。
 上空にもどったヴァーナー・ヴォネガットは、【魔法の箒】にまたがり眼下の戦いを眺めていた。
「王おにいちゃんのために、こっそりお手伝いしたです♪」
 ふふっと、涼介達にウィンクするのであった。
 
「これで、とどめだ!」
【凍てつく炎】は最後の一匹に襲い掛かり、氷と炎で消滅させる。
「すげぇなっ! おまえ!!」
「リョウ、かっこいいーっ!」
 魔物達を退治して、またひとり、子供達のヒーローが誕生したようだ。

 だが、彼らが目指す「山頂」には、最大の難敵となる【ナラカの大蜘蛛】が待ち構えている――。