校長室
輝く夜と鍋とあなたと
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「カマクラって本の中でしか知らないから、楽しめるかと思って来てみたけど、正解だったみたいだね」 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は広場に積もった雪に目を輝かせているエーギル・アーダベルト(えーぎる・あーだべると)と『カシスの日記』 カーシェ(かしすのにっき・かーしぇ)を見て、言った。 「カーシェがどうしても行きたいって言っていたからな、確かに連れて来て良かったみたいだ」 カシス・リリット(かしす・りりっと)も同意した。 「えーくん、カーシェ、カマクラの中に入って鍋作るよ」 「はーい!」 ヴィナが声を掛けると2人はカマクラの中へと駆けて行った。 ヴィナの膝にカーシェ、カシスの膝にエーギルを座らせるという感じでコタツの中に入った。 コタツの上に、材料の入った紙袋を置き、カシスが腕まくりをして、調理を開始した。 「今日はすき焼きだからな」 カシスの言葉に子供達2人は歓喜の声を上げる。 「ごめんね、手伝えなくて」 「出来ないんだから、そこで大人しく見てればいい。俺がきっちり作ってやるから」 「うん、ありがとう」 カシスは春菊や焼き豆腐、ネギを切り、シイタケに切り込みを入れ、糸こんにゃくは下茹でがされているので、食べやすい大きさに切る。 牛肉を鍋に入れ、軽く火を通してから、砂糖、酒、醤油を加え、他の材料もここで投入した。 きちんと糸こんにゃくと牛肉を離れさせ、牛肉が硬くなるのを防ぐ。 火はすぐに通り、そう時間がかからずに完成した。 おかげで、エーギルとカーシェが退屈で騒ぎ出す前に食事にありつける。 「熱いから気を付けるんだぞ?」 取り皿に入れ、子供達の前から置いて行く。 勿論、野菜もたっぷり入っている。 「慌てて食べないで、ゆっくりね。ちゃんとふーふーして食べるんだよ?」 ヴィナに言われ、2人ともしっかりとふーふーしてから口に運ぶ。 「ん〜! おいしいー! えーくんね、もっとおにくたべたいな」 「カーシェもー!」 「はいはい、わかったから、お皿をこっちに置いて」 カシスは、子供達のお皿を受け取り、お肉と一緒に野菜も入れる。 しばらく食べているともうお腹いっぱいになったのか箸をおいた。 もしかしたら、雪の方に意識がいっているだけかも知れないが。 「ちゃんとごちそうさまするんだよ」 「ごちそうさまでした!」 ヴィナに促され、挨拶を終えると、2人は同時に立ちあがった。 「たんけんにいっていい?」 「カーシェも行きたい!」 目をキラキラさせ、ヴィナとカシスを見る。 ヴィナとカシスは顔を見合わせ、笑い合った。 「良いよ。でも、迷子になっちゃうかもしれないから、このカマクラが見えるところまでだよ」 ヴィナがにっこり笑って言うと、2人は駆けだそうとする。 「ああ、それと横のカマクラにピュリアがいる。行ってきたらどうだ?」 「うん!!」 カシスが言うと、2人は喜んで、隣のカマクラへと走っていった。 子供達がいなくなって、やっとヴィナとカシスはすき焼きを食べ始めた。 「あとで顔出しとこうか」 「どうせ、帰り時間は一緒になるんじゃないか? お互い、子供がいるんだし」 「そうだね」 こうして2人は子供達2人が戻って来るまで、ゆっくりと鍋をつつき、まったりとした会話を楽しんだ。 「ただいまー! たのしかったよ! クロセルがね、クロセルがね! おっきいゆきだるまつくってくれたの!!」 「すごかったよ!」 エーギルの言葉にカーシェが大きく頷いた。 よほど楽しかったのだろう。 目の輝きがいつも以上だ。 「じゃ、帰ろうか。忘れ物しないようにね」 「はーい!」 ヴィナとカシスはカマクラの中を見回して、忘れ物がないかチェックすると立ち上がった。 カマクラの外に出ると、予想通り朱里とアイン、ピュリアが帰るところに出くわした。 ついでにクロセルも。 「えーくんとカーシェがお世話になったみたいで」 ヴィナが言うと、朱里とアインは何もしてないと、言い、クロセルはどこかやつれた顔で笑顔を返してくれた。 よほど遊ばれたんだろう。 簡単に別れを言うと、4人は歩きだした。 「しかし、こうして……なんだ、家族……でゆっくりするのもいいもんだな」 カシスがちょっと赤くなっていうと、ヴィナは優しく笑った。 「皆で手を繋ぐの! 昨日テレビでやってたやつ!」 カーシェは昨日見たホームドラマを思い出し、カシスの手をとった。 「それじゃあ、みんなでやろうね」 ヴィナが賛同を示し、エーギルとカーシェを真ん中に両脇をカシスとヴィナで固める形で手を繋ぎ、冷え込む帰り道も暖かく帰ったのだった。