校長室
インターネット放送・イルユリラジオ
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第5章 元旦のおせちのラジオ・・・part2 「はーい、いらっしゃい。ご予約の親客様だね?」 店内にいる隠れ料理人が美羽に話しかける。 「え?予約してないわよ」 「うっそー、予約したじゃないお客さん」 「どうぞ、そこに座って」 「あれ、他の人は?」 「言わなくても分かってるじゃないの。今日はお客さん1人の貸切だよ」 「貸切だったの!?他の店でもそんな感じだったわよ」 美羽は目を丸くしてがらがらな席を見回す。 「おせち料理屋をハシゴしているんだね。さてはお客さん、マニアかな?」 「マニアってそんな研究してないわよ」 「当店では料理が決まってるんだよね。今から作るからしばしお待ちを」 コンロに火をつけて鍋に入っている豚の角煮に醤油を少し加えて煮込む。 「私は黒豆を煮ていていましょうか」 傍にいる隠れ料理人の女子が、彼のサポートをしている。 いつもの真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)とは格好が違うため、誰も彼女だとは分からない。 「煮える間、こちらをどうぞ」 「茶碗蒸し?これって時間かかるんじゃないの」 「9時間経ったものです」 隠れ料理人の女子の方が、美羽の目の前へことんと置く。 薔薇学の近くに借りている家から出てくる時、もう1人の料理人が“今日の僕はもうだめだ”と疲れすぎて笑う彼を心配してついてきたのだ。 ここまでくるのもかなり時間かかり、作業時間を含めると半日以上はかかっているだろう。 「これは・・・今までに無い力作だ・・・っ」 疲れ果ててフラフラとしている彼の姿を見て不安になり、女子の方が豚の角煮を味見をしてると、あまりの上出来に驚く。 意外としっかりと味付けをしてあってよかったと、彼女はニコッと笑みを溢す。 「ちゃんと卵の風味があるわね」 「豚の角煮は14時間、黒豆は数日経っています」 「材料が豚に染み込んでるみたい。ハチミツとか使っているのかしら、柔らかい〜。黒豆もいい感じね」 「美味しいって言ってくれていますよ、よかったですね!あっ・・・」 料理人の男子の方を見ると、本番中に寝てしまっている。 「(生収録なのにっ、もう!)」 彼の片腕を自分の肩にかけさせて椅子があるところへ連れて行き座らせる。 「返事がないわね。ねぇ、もしかして・・・収録中に?」 「彼の実家では正月料理を作る時に、神に祈るのが伝統なんです。これがそうですよ」 疑われないよう女子の料理人は冷静な口調で言う。 眠っていると皆に気づかれないように、料理のことだけを考えているようなポーズをとらせている。 「そうなの?料理って奥が深いのね」 彼女のとっさのごまかしを美羽はすっかり信じ込んでしまう。 「お役さま、そろそろおあいそをよろしいでしょうか?」 「閉店なのね。それじゃあ80G置いていくわよ」 「ありがとうございます!またのご来店をお待ちしていますね♪」 料理人の女子の方がおあいそを受け取る。 男子の方が椅子に座り、瞑想したように眠ったまま、おせちコーナーの収録を終えた。 「客か、客か!?」 ドアの傍にいる美羽の姿を、店主の変態 マスター(へんたい・ますたー)が見つける。 「あ〜〜他行こうかな」 「おいで〜、おいで〜〜」 こいこいと彼女に向かって手招きをする。 「はははっ、冗談よ。行くけど、安くしてくれる?」 「え?おおぉう・・・」 「おおぉうって・・・・・・っ」 美羽は可笑しそうに笑い、会場からも笑いが漏れる。 「好きなおせち料理と2コと、好きなお正月の飲み物を1コ紙に書いてよ」 「そうねぇ、何にしようかな。定番のいくら入りの膾と醤油づけのかずのこの料理ね。飲み物は・・・甘酒しか思いつかないわ」 「ちょっと待っててね」 注文を受けた料理と飲み物をテーブルの上へ並べる。 「もう食べていいの?」 「まだだよ」 「えっ、それどうするの」 最後に置かれたミキサーを見た美羽は不安そうな顔をする。 「ぎゃぁあ、なんか混ぜてるし!」 客の彼女が叫ぶ前に観客席から見ている永太が悲鳴を上げる。 「へいーっ、お待ちっ」 まぜたおせちをコップに注ぎ、にこやかに変態マスターが差し出す。 「あのね。へいお待ちって、これ混ざってるんだけど」 「この飲み方が若者に人気なんだよ、こういう栄養の取り方が流行ってるのさ。なんていってもここにあるのは高級な料理なんからね」 「えぇ〜うっそぉ〜。見た目はアレでも、一応食べ物が混ざっているのよね」 「そうそう。料理が出来立てでめちゃくちゃ新鮮だからね、ぐっと飲んじゃってよ」 「じゃあ・・・飲もうかな」 灰色がかったドリンクをいっきに飲み干す。 「―・・・どう?」 「うぐっ・・・」 「あわわ、どこへ行くんだよお客さんー!」 バケツの方へ走りっていく彼女を呼び止めようとする。 「ちゃんと飲んでっ。死なないから、大丈夫からっ。勇気を持って、騙されたと思って!」 「うぅわっ、しんどいわ・・・。ていうか視覚で騙してるじゃないのっ」 「そのまま召し上がってもらうようには言ってないよ♪」 「美味しそうーっ」 安全な場所にいる永太がからかうように言う。 「飲みたいの?飲みたかったりするの?飲んで倒れたいの!?」 「お客さん・・・この店どう思う?」 「どうって、店主がしょんぼりしちゃいけないでしょうっ。ふぅ、今度はまともそうなやつにしよう・・・」 「あぁ〜ごめんなさいお客さん、そろそろ閉店なんだよ」 「営業時間短いわねっ」 「そろそろおあいそをいただきたいんだけど。ここにお客さんのお気持ちの金額を置いてね。それで人間が分かるから」 「うーん・・・そうね。これで」 紙に書いた金額をさっと変態マスターに差し出す。 「えーっと、1パラミィイター・・・何これ!?」 「たぶんマイナス1Gかしら」 「おっ、1Gもらえるんだ」 「ううん、だからマイナス。店主が客に1G払って」 「えぇーそんなぁ」 「じゃあ0G払うわ」 「んん〜っ、また来てねっ!」 「何よそれー!?あはははっ」 「まだいつか頑張るよ、きっと」 変態マスターの小料理屋に明日はあるのだろうか。 To Be Continued・・・。 「いらっしゃいませ、お席にご案内します」 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)が美羽を店内へ入れる。 ガラガラッとドアを開ける効果音が流れる。 「―・・・あれ?・・・たっ大変ですわ、お兄さま!お客様がお1人で、お独りでいらっしゃいましたわ!」 あまりの人の入りのなさに、彼女は目を丸くする。 「ふむ、人数の問題じゃないなエイボン。用はどれだけ満足させてあげられるかだ」 さすが料理人といったところだろうか。 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は冷静な態度で牛もも肉の塊に、塩コショウをして下ごしらえをしている。 「いい香り〜。なんだかお腹がすいてきたわね」 フライパンで肉の表面に焼き目をつける香りに、美羽は思わず唾を飲み込む。 「少し時間がかるからな、待っていてくれ」 涼介は赤ワインのコルクをきゅぽんっと抜き、それとブーケガルニを加えて弱火で11分蒸し焼きにする。 「わたくしはその間に、伊達巻を作っておきますわ」 彼がローストビーフを作っている間に作れるものを用意しようと、エイボンはすりばちに卵と砂糖、みりんを入れて混ぜる。 さらに白身魚のすり身と海老を加え、ごりごりとよく混ぜて生地をオーブンで焼き始める。 「そっちは大丈夫そうだな」 蒸した肉をアルミホイルで包みながら、エイボンが生地をオーブンに入れたところを見る。 「さて、ソースを作らないとな・・・。(さすがに50分も尺のあるラジオなんてあまり聴いたことがないから、そんなに時間はないだろうからな)」 番組が終わらないうちに作ろうと、急いで玉ねぎをすりおろす。 それに水と粒マスタード、醤油やみりんを加えて肉を焼いたフライパンで煮詰める。 「へぇ〜、ソースってそうやって作るのね」 作っている様子を美羽が関心したように見る。 「―・・・これくらいの味でいいか」 スプーンでちょっとだけすくい、小皿に乗せて涼介が味見する。 「ほかほかの伊達巻が出来ましたわ!」 ミトンを両手にはめたエイボンはオーブンから生地を取り出し、くるくると巻き簾で巻いて完成させる。 「そっちが出来たなら、もう出してもいい頃か」 その数分後、涼介は十分寝かせた肉を冷蔵庫から取り出して包丁で切り分け、皿に盛りつけてソースをかける。 「さあ、どうぞ召し上がれ」 「本日はお越し頂きありがとうございます。腕によりを掛けてお作りしますので楽しんでいってくださいませ」 涼介とエイボンが、ずっと待っていた美羽に差し出す。 「こちらもどうぞ」 手間のかかる金団や黒豆などをお重に詰めてスタジオへ持ってきたおせちをエイボンが美羽を勧める。 「ありがとう!急いで食べなきゃね」 「黒豆を飲み込んでますわね」 「んーっ。でも味わってるよ、ちゃんと」 美羽は片手で口を隠しながら言う。 「1人で食べるなんて大変そうだな。あぁ〜美味しそうな匂い、食べたくなってきた!」 テーブルに並べられた料理を永太がじっと見つめる。 「え、食べたいの?」 「食べてもよかったりする・・・?」 「ごめんね、今貸切なのよ」 「ずるーいっ、ずるいぞーっ!!」 おせちを1人で食べてる美羽に向かってブーイングする。 「今回は残念でしたけど、機会があれば食べに来てください」 しゅんとする彼にエイボンが優しく話しかける。 「お肉が柔らかくて、とってもジューシーね。香りがとてもいいわ」 「沢山あるからどんどん食べてくれ」 「えぇ、この店で最後だから食べちゃうわよっ。ソースも美味しいわ、醤油やみりんってマスタードと合うのね。ん〜幸せ♪」 香ばしい香りが食欲をそそり、美羽の口の中に幸せが広がる。 「なんだか評論家のような感想だな」 「だってラジオを聴いている人たちに伝わるように言わないといけないからね」 「あはは、確かにそうだ」 この美味しさをリスナーに伝えようとする美羽の姿に、涼介は思わず笑ってしまう 「伊達巻を食べてみようかな」 「どうですの・・・?」 手作りの伊達巻を口へ運ぶ彼女にエイボンが感想を聞く。 「すり身の触感と海老の味がしっかり出てるわね。白身の魚と味がケンカしていないから食べやすいかな」 「どっちもきちんと味が出てるのですのね?嬉しいですわ♪」 美羽の言葉にエイボンは嬉しそうに跳ねる。 「あっ、もう時間ですわね」 「んー・・・残念ね。もう少し食べたかったけど」 「4分くらいでしたっけ?食べてる時間・・・」 「たぶんそうよ」 「あらら・・・そうでしたの。お土産用に詰めましょうか、兄さま」 「食べてる時間がそれだけじゃな・・・。そうするか」 お客様が持って帰れるように詰めようかというエイボンに涼介が頷く。 「それじゃあお金を払うわね。100G払っていくわね」 「は、払いすぎですわ!」 金額を見たエイボンが声を上げて驚く。 「お土産をもらっちゃったから、それくらいすると思うわよ。後、時間内に作ったのもポイントが高いわね」 「ではいただいておきますわね」 「ごちそうさま。払い終わったら本当は、店を出るところだけど。終わりの挨拶をしないとね」 「あぁそうだな。イルユリラジオを聴いてくれたリスナーの皆、元旦のおせちのラジオ。どうだったかな?」 「わたくしたちは皆様のご来店を心よりお待ちしております」 美羽に頷き涼介とエイボンが締めの挨拶をする。 「次は店じゃなくって、質問コーナーのパーソナリティーをやっているかもしれないが」 「その際は、投稿をどんどん送ってください!いっぱい答えますわよ♪」 「お相手は来客の小鳥遊美羽と・・・」 「店主の本郷涼介と・・・」 「エイボンでした♪」 3人は観客席に向かって手を振り、イルユリラジオの生収録を終わらせた。
▼担当マスター
按条境一
▼マスターコメント
元旦に出すはずが、予定よりかなりずれてしまったわけですが。 パーソナリティーの方もリスナーの方も、いかがでしょうか。 しばらくラジオはお休みですが、機会がありましたらまた・・・放送するかもしれません。 一部の方に称号をお送りさせていただきました。 それではまた次回、別のシナリオでお会いできる日を楽しみにお待ちしております。