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仁義なき場所取り

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仁義なき場所取り

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[四場・大木の下で大騒ぎ]


 さて、中央エリアの桜の大木の下では。

「目標の半分しか確保できなかったとは、どういうことなの!」

 レオン他の教導団生が、教官である李 梅琳にお叱りを受けていた。
 一般人への攻撃行為の禁止令が手痛かった、というのが大きいのだが、上官に口答えする訳にはいかない。
 すみません、と一同は頭を下げる。
「……でもまあ、ギリギリ合格ラインかしら。おつかれさま」
 しかし、想像以上にあっさり梅琳はねぎらいの言葉を口にする。
 そのあっさりっぷりに拍子抜けした一同は、えぇ、と思わず声を漏らす。
「『特別』演習、って言ったでしょ。そろそろみんな進級の時期だし、お祝いを兼ねてのお花見だもの。」
「そ……それならそうと早く言ってくれれば……」
 がくりと落ちたレオンの肩を、鳳明がぽんぽん、と叩く。
「これが……花見の場所取り、だよ」
「ほら、折角場所取ったんだから、楽しみましょう?」
 梅琳の言葉に、教導団生一同どっと脱力する。それから、顔を見合わせて笑った。
「そうそう、オレ、お茶の支度してきたんだ」
 橘カオルが、ごそごそと荷物から野点のセットを取り出す。すると、ルカルカ・ルーも、
「団長からの差し入れがあるんだよ。お茶菓子にどうぞ」
と、品の良いクッキーを取り出す。教導団長・金鋭峰が自ら選んだ逸品だ。
 団長からの差し入れとあって、教導団員一同はおおお、とどよめく。
 そこにカオルの抹茶も振る舞われ、和やかな時間が流れていく。

「あの2人ちゃんと場所を確保できたか心配だな・・・」
 お手製のお弁当を手に、中央エリアへの坂を上っていくのは桜葉 忍(さくらば・しのぶ)と、パートナーの東峰院 香奈(とうほういん・かな)だ。
「しーちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。信長さんとノアちゃんの2人ならきっといい場所を取ってくれてるよ」
 香奈がそう言いながら、残り短い坂を駆け上がって――
「あれ?」
 仲間の姿が見えないことに一抹の不安を覚えて首を傾げる。
「どうした?」
 追いついた忍が足をとめた香奈に問いかけるが、香奈はうん、と曖昧に答えてきょろきょろと辺りを見回す。
「忍ー!」
 すると、二人の姿に気付いたノア・ノーク・アダムズがシートの上に立ち上がって手招く。
「ああ、良かった、場所取れたの……か……?」
 忍と香奈が、敷き詰められたシートの隙間を縫ってノアの元へと向かう。が、二人の目に飛び込んできたのは、一枚のシートの端と端に極力離れて座っているノアと信長の姿。
「一枚だけ?」
 香奈の問いかけに、信長はう、と沈黙する。
「もう、聞いてよ! こいつが煙幕とか余計なことするから!」
「なっ……私のせいにする気か!」
「だってそうじゃないの! 違う?」

 きゃんきゃん口喧嘩を始める二人の間に、まぁまぁと忍が割って入る。
「二人ともおつかれ。ちょっと狭いけど座れないこともないだろ。ほら、弁当食べようぜ」
 忍の言葉に、ノアと信長はぷぅとふくれ面になりながらも一応沈黙して見せる。
 なんとかかんとかお尻だけシートに乗せ、肩を寄せ合うようにして四人は弁当を広げるのだった。

「お待たせしましたぁ〜」
 一方、しっかりちゃっかり三枚分のシートを確保している桐生円、オリヴィア・レベンクロン、冬山小夜子の元へ、如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)、それから崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の三名が荷物を持って合流した。
「お待ちしておりました、御姉様」
「待ってたよ〜、日奈々ちゃん!」
 小夜子と円が立ち上がって手を振る。千百合が日奈々の手を引き、三人が待つシートへと連れていく。
「お弁当、持ってきたわ」
 亜璃珠がシートに腰を下ろしながら、持ってきたお弁当箱を広げる。隣で千百合も、運んできた日奈々の手製弁当を解く。
「わあ、美味しそうねぇー。お酒が欲しいところだわー」
 オリヴィア達が二人のお弁当を覗き込む。
 日奈々のお弁当には、定番の唐揚げに卵焼きにおにぎり、それから円の好物のレバーを使ったレバニラなど、とりどりのおかずがぎっしりと詰まっている。
 一方亜璃珠のお弁当は、カロリー控えめ、脂肪分控えめ、お砂糖控えめ、ついでに色彩も控えめのダイエット弁当だ。
 円が亜璃珠のお弁当をちらりと覗いて、一瞬しょんぼりした顔を浮かべる。が、すぐに日奈々のお弁当のレバーを見付けて、いただきまーす、と手を合わせる。
「御姉様、一緒に食べましょう?」
 小夜子は亜璃珠の隣に、ぴたりと寄り添うように腰を下ろす。クスリと笑った亜璃珠は、自分の持ってきたお弁当を手に取る。
「場所取りお疲れ様。ご褒美あげなくちゃね……?」
 言いながらお弁当のおかずを一品口に運ぶと、亜璃珠はつぅ、と小夜子の顎に指を添えて軽く持ち上げる。そのまま唇を寄せると、口にくわえたおかずを舌で小夜子の口へと押し込む。
「あ……ありがとうございます、御姉様……」
 ほんのり顔を赤らめ、小夜子はうっとりと答える。その様子に満足したように、ちゅ、と音を立てて亜璃珠は小夜子の頬へ口づけた。
「いいなぁ〜……」
 そんな二人の様子を見ていた千百合が、小さな声で呟く。それから、徐に日奈々の弁当から卵焼きをつまむと、
「日奈々、あーん」
と言いながら、素早く日奈々の顔に顔を寄せ、亜璃珠がしたように日奈々の口に卵焼きを押し込む。
「むぅ……?! ち、千百合ちゃんっ……!」
 突然の出来事に驚きながらも、確実に触れた千百合の唇の感触に、日奈々は顔を真っ赤に染める。
「みんなの前で……もう……!」
 そう言ってそっぽを向いてみせるが、満更でもなさそうだ。
「じゃあ、今度は二人きりのときに……ね?」
 千百合が日奈々の耳元で囁く。
 おーおー熱いねぇ、と、お弁当を食べながら円が冷やかすが、どうやら二人には聞こえていないようだ。

 こうして、中央エリアの確保に成功した面々は、それぞれに花見を楽しむことができたのだった。