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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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夢は≪猫耳メイドの機晶姫≫でしょう!?

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 それから数時間。懸命な修復作業が続けられたが、作業は難航していた。
「暑い……早く、終わらせてお風呂に入りたいわ」
 あゆむの発熱で周辺で作業していた未沙は全身汗だくだった。
 すると冷却のための氷を運んでいた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が足を止めて言った。
「では、あちらの女性みたいに水着になられては、どうでありますか!」
 剛太郎の指さす先にはブレイカーを考慮して、大きな扇で風を送り続けるビキニ姿のセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が立っていた。
 未沙はあからさまな下心を見せる剛太郎を振り返ると、ニッコリと笑った。
「レンチで殴るわよ」
「……」
 剛太郎は逃げるようにして新しい氷を取りいった。
 未沙は深いため息を吐いた。
「はぁ、せめて飲み物が欲しいわ」
「未沙さん、これどうぞ」
 すると、横からグラスに入った飲み物が差し出される。
「お、スポーツドリンク」
 未沙はグラスを手に取ると、感謝しながら口にはこ――
「ブッゥゥ――!?」
 ――べず、噴き出してしまった。
「あ、ああ朝斗。なんて恰好……」
 未沙は顔面からスポーツドリンクが滴り落ちるのも忘れて、グラスを差し出した榊 朝斗(さかき・あさと)を指さした。
 そこには男でありながら、メイド服にネコ耳を着けた朝斗がいた。
 あまりにも異様な姿に未沙はそれ以上言葉が出なかった。
「あ、いや。これは、その――」
「おい、おまえ!」
 必死に弁解しようとする朝斗の言葉を制してクロイスが上から下までじっと観察してくる。
 そして……
「ありだな!」
 ビシッと親指を立てたのだった。
「ふふふ……どうですか。ネコ耳メイドあさにゃんの魅力が存分に伝わったでしょう!?」
 振り返ると、勝ち誇ったような表情のルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)が腰に手を当てて立っていた。
「さぁ、早見さん!」
 ルシェンが逃がすまいと勢いよく騨の肩を捕まえる。
「今すぐ、あゆむさんをあさにゃん似に、つまり「ver.あさにゃん」に変更しましょう! するべきです! しなくてはなりません!」
 訴えかけるように騨を揺さぶるルシェンの肩で、ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)が賛同するように片手を振り上げていた。
 しかし、何が何だかわからない騨は状況がつかめず頷けなかった。
 未沙に助けを求めようとするが、彼女は呆れて作業に戻っている。
「そうですね。急な話でしたね。では、今からあさにゃんの魅力について特と聞かせてあげましょう。まずは……」
 目の前でルシェンの口から饒舌に語られる言葉の濁流に、騨はグロッキー状態になっていた。
「つまり、最高のメイドであるあさにゃ――」
「待ってくださぁい」
 するとノリノリでしゃべり続けていたルシェンをチャティー・シュクレール(ちゃてぃー・しゅくれーる)が遮った。
「確かにあさにゃんさんはメイド服の似合う男の子として可愛いと思いますが、正光くんだった負けてないはず!」
「そうだ! メイドの可能性は一つじゃないはずだ!」
 さらにクロイスが加わり三人はメイドが何たるかを作業そっちのけで語り始めた。

 メイド討論に入り込む隙がなくなくり、つまらなくなったちびあさにゃんはあくびをする。
 そこで、未だに呆然と立ち尽くす騨にちびあさにゃんは悪戯してやろうと考えた。
 ちびあさにゃんはどこからともなくマジックを取り出すと、騨に向かってダイビング。
「!?」
 しかし、ちびあさにゃんの身体が騨に届くことはなかった。
「つっかまえたよ〜」
 ジャンク置き場から戻ってきたケイの手に捕まってしまったのだ。
 興奮しているのかケイは瞳を輝かせ、ちびあさにゃんを握る手に強い力を込めていた。
 ちびあさにゃんは懸命にケイの指を叩いたり、タオルを投げてギブアップを主張するが、まったくわかってもらえない。
 もうだめかと思っていたら、ケイの手にアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)の細い手が重ねられる。
「そんな強く掴んだら死ぬよ。離してあげて」
 ケイはアイビスとちびあさにゃんを交互に見ていたが、部品が持ってくるように猛に呼ばれ、床に置いていた部品を手に取り慌てて駆けて行った。
 放り出されたちびあさにゃんをアイビスはキャッチすると、ゆっくりと地面に降ろした。
「早く、ルシャンの元に戻った方がいい」
 アイビスに言われてちびあさにゃんは熱烈に話し続けるルシェンを見つめた。
「確かにあれじゃあ戻れませんね……」
「どうしたんだ?」
 するとアイビスの元へ氷を運んでいた七尾 正光(ななお・まさみつ)がやってきた。
「正光。実はちびあさをルシェンの元に戻してと思ったのですが……」 
 正光は近づくことが危険なほどに身体全体でメイドの魅力を語る集団を見つめ、同情するように笑った。
「そういえば、さっきから一緒にいる女の子が正光の名前を呼んでいますが……もしや……」
「母。あれでも30代の義理母」
 アイビスは中学生くらいにみえるチャティーと正光を疑うように見た。
「本当?」
「そうなんだ」
 アイビスは目を瞬かせていた。
 そんな二人を当てにならないと判断したちびあさにゃんは、どこかで手伝いをしているはずの朝斗を探そうと歩き出す。
 すると、またしてもひょいっと後ろから身体を掴まれてしまった。
「!?」
「……かわいい」
 電池切れ寸前の機械人形のように首をぎこちなく後ろを振り返ると、そこにはちびあさにゃんを恍惚の表情で見つめる鬼崎 朔(きざき・さく)の顔があった。
「@*%Σ#$☆――――――!?!?!?」
 
「ったく、あいつらサボりやがって」
 冷却用の氷を取りに行っていた直江津 零時(なおえつ・れいじ)は、サボっている生徒達を見て舌打ちした。
「こっちは頑張って疲れる仕事をしてるっていうのに、納得いかないぜ。なぁ、朝斗もそう思うだろ」
「え? ま、まぁ、そうだけ……え?」
 飲み物を差しだす戸惑いながらも同意しかけた朝斗の表情が驚愕に変わる。。
「ん、どうし――」
 自分の背後を見つめ続ける朝斗が気になり振り返った零時は、同じように目を丸くした。
「あらまぁ〜。零時くん、疲れてたなら言ってくれればいいのにぃ〜」
 いつの間にかチャティーがそこにいた。
 チャティーは零時に近づき、がっちり頬に手を添え、顔を近づけてきた。
「あ、いや。俺は、まだ――」
「はい、はい。恥ずかしがらないでぇ〜」
「!?!?」
 濃厚な口づけが交わされた。アリスキッスだ。
 数秒。ようやく解放された零時はぐったりと膝をついてしゃがみ込んだ。
「零時さん!?」
 朝斗は零時に近づく、すると彼の頬にもチャティーの手が伸びてきた。
「ほら、朝斗くんも〜」
「――!?!?」
 朝斗にもチャティーの熱いキッスが交わされる。
 解放された朝斗は零時と同じようにがくりと膝をついた。
 気力が回復するはずなのに、何か男の子として大切なものを失ったような気がした。
「ありゃりゃ……でも、安心していいですよ。メイド服のあさにゃんにそんな男の子に大事なものはすでにないと思いますから」
 チャティーが抜けて終了となりやってきたルシェンが、朝斗の心を読み、をえぐりとった。
 朝斗はもう“男の子”として立ち上がれないような気がした。
 その時、猛の声が室内に響く。
「おい、手があいてるやつ! 圧力上げるの手伝ってくれ」
「任せろ」
「わかった」
 猛の要請に正光と朔が応えた。
 猛の元へ向かう二人。すると朔が足を止め、ルシェンの元へやってきた。
「ルシェン、これ」
「え? ちびあさにゃん!?」
 朔は目を回すちびあさにゃんをルシェンを押し付け、去っていく。
「……大丈夫ですか?」
 ルシェンの言葉にちびあさにゃんはカクンと項垂れ、気絶した。
 ――修理作業は山場を迎えようとしている。