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第一章 デート開始

 八神 誠一(やがみ・せいいち)は隠れ身の能力を存分に発揮しながら、混雑に紛れ泪と唯斗の後をつけていた。
 斥候役ないし護衛役。
 デートの行方を見失っては計画もなにもあったものではない。だというのに、課せられた任務の責任重大さは知ってかしらずか、誠一の足取りは軽やかでおよそ尾行というものを楽しんでいるようだった。
「いいねぇ、他人のデートを覗き見するっていうのは」
 自然と出てくるにやつきを抑えることもなく、ぴたりと泪たちの後ろ1mに位置づけている。
「どうやら妨害は今のところないようだねぇ。残念だ。せっかくしびれ粉の出番だと思っていたのになぁ。……それにしても」
 誠一は唯斗の顔をまじまじと注視する。
「この人、見たことないんだよねぇ」
 世間を騒がすビッグニュースの現場、しかもかなりの直近にいるというのに、誠一にはいまいちしっくりきていないようだった。
「それにしてもあの卜部先生がねぇ。初めは信じられなかったけど、分からないものだねぇ」
 誠一がうんうんと頷いていると、ふと、泪が「失礼します」と声をかけ、携帯電話を手に取った。
「メールですね。誰でしょうか」
 泪の言葉にちらりと携帯電話の画面を盗み見る誠一。送り主は火村 加夜(ひむら・かや)と表示され「卜部先生、頑張ってくださいね。応援してます」という文面が続いていた。
「動き出したかな?」
 会議段階では、彼女の役割はデートスポットへの案内となっていたはずだ。そのデートスポットへ訪れるのを見届ければ誠一は御役御免となる。
 しばらく立ち止まり加夜のメールを読んでいた2人が歩みを雑貨店へ向けたのを確認した誠一は、おもむろに愛機のデジタル一眼POSSIBLEを取り出し、言った。
「やっぱり、いじるなら両方知り合いのカップルの方が、断然おもしろいよねぇ」