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ゆる族はかまってちゃん!?

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ゆる族はかまってちゃん!?

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◆第5遊◆    探検、遊び、危機一髪

 イルミンスール魔法学校は、いわば自然に囲われた緑の聖地と言ってもいい。
 学校自体が世界樹であり、世界樹もまた学校そのものだ。

 すると、人が多い所と少ない所で空気も格別に違ってくる。
 もちろん人が常に出入りしている学校の周りは明るい雰囲気であるし、怪しいオーラは一切ない。

 ところが、人の生活感とは離れた遥か森の奥ともなると、人外のモンスターや未知の動物が住み着いているという噂も多く耳にする。

 野生の勘が働けば、身の毛もよだつことは間違いない。





 ……森の奥へやってきてから、ドンが“嫌な感じがする”と表現し始めたのには、そういった原因の関与があると思われた。





 立川 るるに連れてこられたイルミンスールの森で、今世紀最大の不安を抱きながら、ドンは歩いていた。
 むろん、ドンが一人であったなら泣いていてもおかしくない場面だが、そうならずに済んでいるのは、
 連れ添ってくれる人がいたおかげだ。

 ゆったりとした佇まいのロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)は、実に優しく丁寧にドンとの会話を進めていく。



「まだ朝なのに、どうして暗いのぉ……」
「森には神聖な空気が集まりますからね。 妙な静けさで落ち着かないのではないですか?」



 なによりも恐怖が勝ったのか、ドンは自分から相手に話しかけている。
 さすが聖職者を志していた人間らしく、ロレンツォは教徒さながらのドンの哀願に満ちた言葉をさらりと返した。

 そして、ドンの恐怖心・不安感を払拭すべく、なるべく明るい話題を提示して気持ちをそらそうと頑張る。



「大丈夫ですよ。何か出てきたところで、イルミンスールは聖なる地……完璧に邪悪な者はいないはずです」
「それはどこまで本当なの? もしも……見た目は悪そうじゃないけど、すごく背が高くて恐そうだったら……」
「?うーん、それは、背丈の差から来る先入観や威圧感の類では――」

「もう、ロレンツォ! そんな様子見を続けないで、もっとパーッといきましょうよ!」



 ドンの摩訶不思議な質問に飲まれて、自分でもよく分からない返答をしそうになったロレンツォを、横から諌める声がした。
 ロレンツォのパートナーであるアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)だ。

 主人とは真逆の活動的な性格のアリアンナは、一歩一歩、段を踏んでドンと交流を続けるロレンツォに焦れていた。
 おせっかい焼きになってしまうのがたまに傷だが、これがアリアンナの長所でもある。

 アリアンナは手のひらをパンッと打ち合わせると、高らかに宣言した。



「みんなでかくれんぼしましょう! さぁ、隠れた隠れた!!」



 まるで、周囲にいる複数人の“誰か”に伝えるような口調で言うと、アリアンナは言葉の最後に「鬼はロレンツォで」と付け加えた。
 鬼――もとい、ロレンツォの表情がこわばったのは、森の木々がガサリと音をたてた拍子のことだった。





 *




「森の中で生き物と言えば、虫よ。 間違いないわ」
「これが、タンゴムシなの?」



 この見てくれで踊られても困っちゃうわねー、とドンに応えているのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
 名前に濁点がひとつ足りないというのを訂正もせず、セレンフィリティがドンとの会話を進めようとすると、



「セレン。この大きさの虫で舞踏会場が満員になろうものなら、そこはきっと異世界の入り口になりますよ」



 主人より主人らしいパートナー、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が的確につっこむ。






 ――断わっておくが、ただいまイルミンスールの森では有志によるかくれんぼ真っ最中だ。






 発案者のアリアンナがすぐにいなくなってしまったので、代わりにドンの守役にやってきたのがセレンフィリティとセレアナだった。
 サバイバルの知識も実戦経験も豊富なシャンバラ教導団の精鋭ふたりは、予想外のハプニングにも対応できるように
 周囲に目を光らせながらドンと交流している。

 ちょっとでも子供らしいことでドンの興味をひきたかったセレンフィリティが、地面のダンゴムシを指差したのが始まりだ。
 どうやらまんまと(!)好奇心を刺激されたドンは、様子を窺いながらも自分から言葉をかけてきた。



「ご主人と遊んだ時、見かけたことがあるよぅ」
「そうなの? この森の中にはこういう可愛い動物しかいないから、恐がることないわね」



 ふるふると小刻みに震えながらも、ドンはダンゴムシをつついて、まるまった様子をキャッキャッと楽しんでいる。
 そのドンの横で、セレンフィリティもアハハハハハッとダンゴムシを転がして喜んでいた。
 戦闘態勢の時はさぞ恐ろしい歓喜の声に聞こえるのだろうが、セレンフィリティの喜びようは、ドンよりも子供っぽく黄色かった。

 セレアナが、これ以上セレンフィリティが興奮しないようにフォローを入れる。



「森の出口あたりまで戻りましょうか。入り口付近ではドンくんも緊張して、こうやって楽しむ余裕もなかったでしょう?
 それに日が傾くと、森の中は気温が下がって寒くなるわ」



 さあ、と、セレアナがこれ以後のドンの体調を気遣って移動を促す。
 セレアナの絵に描いたようなお姉さんぶりに、セレンフィリティの方がなぜか不満げな顔になっている。
 明らかな羨望の眼差しが、セレンフィリティからセレアナに注がれていた。



「あたしにもドンくんに接するのと同じくらい“優しいお姉さん”になってほしいなー?」
「何言ってるのよ。セレンだってもう“お姉さん”にならなきゃダメじゃない」



 たくましき女性ふたりのやりとりを間近で見て、ドンは目をぱちくりさせる。
 自分より背が高くて才能もあって、上から下までぜんぶ整っている美女ふたりの掛け合いが、たまらなく面白かったのだろう。
 そして「きゅふ……」と、小声で笑った。

 口元を咄嗟に両手でふさいだが、かすかにも出てしまった声は元に戻らない。

 セレンフィリティとセレアナは顔を見合わせ、だんだんと、自分と相手との距離感を意識し始めたドンを優しく見つめた。









 その時だった。








「ふ……むぉ!!!」









 ドンの小柄で愛らしいピンクの体が、ものすごい勢いで宙に舞い上がり、木々の葉っぱを猛然と揺らして去って行った。
 ドンが自分で飛んで行ったのではなく、「何か」に連れて行かれたのだ。
 こんな可愛い生物に飛びまわられたら、色んな意味で“たまらない”だろう。

 百戦錬磨のセレンフィリティとセレアナが、「あ」とも「え」とも言えない、ほんのわずかな間の出来事だった。



 非常事態になったかもしれない。
 これは何かの冗談で、面白おかしい結末で終わるに違いないと願いたいが、やはり脳裏をかすめるのは最悪のシナリオだ。
 シャンバラ教導団の生徒の性かもしれない。



「羽音がしたから、もしかして大型の鳥かもしれないわ」
「なら、羽を貫けばいいってことね」



 武器を持ち直すと、セレンフィリティとセレアナは勢いよく地面を蹴って茂みから飛び出す。




 ところが、そのタイミングでまたもや周囲に変化が起こった。 

 セレンフィリティとセレアナの目に、それは、木と木・葉と葉の間で光がはじけたようにしか見えなかった。