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花とニャンコと巨大化パニック

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花とニャンコと巨大化パニック
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第七章 キレイに花を咲かせましょう
「事態を聞きつけてやってきました。うわぁ、花壇滅茶苦茶ですね。これは腕が鳴るというか……」
「何と言うか……派手な状況ですね。ここは花屋として腕が鳴る所ですね、兄様」
「私も頑張ってリュー兄のお仕事のお手伝い、するよ」
 事態は一応一段落ついたけれど、目の前の光景に何となく茫然としてしまう中。
 駆け付けたリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)ブルックス・アマング(ぶるっくす・あまんぐ)は言って早速動き出した。
「好きで巨大化したワケでも無し、せめて花壇の肥料にしちゃえばいいじゃん?」
 ネーブルの頭をポン、と優しく叩いたのはシェーナ・マキャフリー(しぇーな・まきゃふりー)だった。
 巨大化した虫はほとんど自らを維持できず果て、植物もまたほとんど同じ道を辿った。
 だけど、それをただ「仕方がない」とするのは悲しい、気がして。
「大体、これだけ多くの養分を使って急激に成長したのならば、土に栄養はなくなっているはずだろう?」
 問われたリュースは頷いた。
「ならさ、巨大化した植物や虫を肥料に変えて、再び使える……土に戻す栄養源にしたらどうかなって」
「僕もそう思います」
「そうですね。大地の力を吸った物ですし、ただ燃やして捨てるには勿体無いですよ」
 同意するのは清泉 北都(いずみ・ほくと)リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)だった。
 そうする事で、失われた大地の力を少しでも戻せないか、とも考えてだ。
 北都が何気に虫の遺骸から目を逸らしていたりするのは、秘密だけど。
「コンポスターとかある?」
 というシェーナの問いに頷いたのは雛子だった。
 肥料を作ったりもしているので、と続けられた言葉にシェーナは笑ってみせた。
「ま、時間はかかるだろうけど、全てを無駄にはしたくないよな」
 言えば、涙ぐんでいたネーブルが、雛子が嬉しそうに頷いた。
「折角だし花壇も、前よりももっと素敵な花壇にしましょうよ」
「そうね、私も手伝うわ」
「勿論、わたくしも一緒にお手伝いしますわね。人数は多い方がすぐに終わりますものね」
 更に、白波 理沙(しらなみ・りさ)白波 舞(しらなみ・まい)チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)の言葉に雛子は笑顔になった。
「ありがとうございます、よろしくお願いしますね」
「とにかく、土に栄養を与え、持参してきた鉢植えの花を一つずつ植えていきましょう」
 そして、シェーナの言うように巨大化した虫や植物も肥料にして、とリュースは続け小さく笑んだ。
 起こってしまった事はどうしようとないけれど、出来るだけたくさんの気持ちを汲んでいきたいと、リュースは思う。
 【幸せの歌】をシーナと共に口ずさむのは、皆が気分よく作業できるように、だ。
 それから。
「花も気持ちよくなってくれるかもしれませんものね」
「うん、花達も嬉しくなってるよ。痛かったの、消えてくみたいって」
 花妖精であるブルックスが、顔をほころばせた。
 巨大化して耐えきれず潰れてしまった花は残念だったかせ、そうでない救えるものは出来る限り、戻すつもりだった。
 何より、花達が帰りたいと言ってるし。
 ブルックスの微笑みがふと、曇った。
 視線の先では、雛子と話すリュースの姿があった。
「オレも蒼学のことは気にかけてますから、花のことで困ったことがあれば遠慮なく相談して下さい」
「はい! あっそうです。今度は野菜も育ててみようと思うのですが」
「あぁ、それは良いですね。今の季節ですと……」
 そのブルックスの視線に気付いたリュース。
 気にはなるが、今は花壇の手入れに専念しよう、思うのだった。
「ブルックスがリュース兄様をとても気にしてるけど、リュース兄様は気づいているのかな」
 作業しながら、やはり気付いたシーナは思った。
 正直、自分にはよく分からないのだけれど。
「でも、リュース兄様、気づいてるよね? どうするつもりなんだろう…」
 思えば自然、気持ちは沈んだ。
 自分がどう立ち回ればいいのかも、分からなくて。
「私に出来るのは、いつも通りにすることだけ…」
 シーナは胸の中の重いもやもやを吐き出すように、小さく息を付いた。
 その時。
「前にリュー兄とシーナは蒼空学園に所属してたんだよね?」
 ポツリとしたブルックスの声に、内心ドキリとしながらシーナは冷静さを装い「ええ」と頷いた。
「シーナはいいなぁ、リュー兄のこと私より知ってて。私、リュー兄のこと知ってるようで知らないもの」
 苦渋、というより寂しさを多分に含んだそれに、シーナは咄嗟に返す事が出来なかった。
「なんて、考えちゃダメだよね、そういうこと」
「……でも、知ってる事もたくさんあるでしょう?」
 ようやくのシーナの言葉に「うん」とブルックスは頷いた。
 優しいトコ大好きなトコ。
 花が好きでカッコ良くて優しくて、おっきな手とか声とか。
「……あ」
 思っていたら、雛子との話をいつの間にか終えていたのだろう、リュースの歌声が聞こえた。
 【幸せの歌】。
 すかさず合わせて歌い出すシーナと共に、ブルックスも口を開いた。
 ブルックスにはスキルはない、けれど。
 大好きなリュースの歌声に自分の歌声を重ねるのは嬉しくて嬉しくて、ホンの少しだけ切ない気がした。

「多少おっきくなってても、元気がある子はそのまま植えちゃおう!」
「そうね。まだ力尽きていない、生きようとしている花もいるものね」
 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は巨大化したもののまだ生きている花を、肥料にする前に雛子やリュースの許可を得て救い上げていた。
「花の苗、ここに置くから」
 エレノアの担当はプランターや花壇のレンガ、花の苗を運ぶこと。
「ありがと。ん〜、この辺に植えた方がバランスがいいわね」
 それをセンス良く植えていくのが佳奈子だった。
「これ植え終わったら、あなた達も植えて上げるからね」
 そっと手を伸ばせば、大きな葉がさわと揺れた。
 流石に大きく育ち過ぎた花は元の花壇には入りきらなくて。
 だから別の場所に植えるのだ。
 花壇に寄り添うように見守るように。
「運ぶのは大変だったけど、この子達も喜んでるわ」
 エレノアに佳奈子は嬉しそうに大きく頷いた。
「考えてみれば私、ココの手伝い初めてなのよね…。まぁ、こんな感じでいいかしら?」
 舞は理沙やチェルシーをみよう見まねで、それでもせっせと手を動かしていた。
「今日は邪魔者がいないようなので作業がはかどりますわっ☆」
 その横、お手本であるチェルシーもまた上機嫌で作業に勤しんでいる。
 天敵がいない上で、理沙とうふふきゃっきゃっなときめき時間……幸せを満喫していた。
「あっチェルシー、そこにこの花を植えて」
「了解ですわ♪」
「少ししおれちゃったけど、大丈夫。きっと元気になれるよ」
 北都は比較的無事だった花を、植え直していた。
「すみません、本当に。今回は考えが至らず……」
「あぁ、クロード先生ですっけ? そんなに落ち込まないで下さいよ」
 同じく花壇を直しつつ、ドン底っぽい教師(確かに諸悪の根源と言えなくもない)を、北都は励ました。
「失敗は成功の元。今回はちょっとトラブったけど、何かの役に立つかもしれないし。例えば、ニルヴァーナで食料確保の為に、野菜を大きく育てるとかさ」
「そうですね。今回は花が大きくなっただけですが、大地が枯渇しない程度に利用して、夏には巨大なスイカを作って皆さんと食べられたらいいですね」
 リオンもまた言葉を重ねた。
 確かに、今回はこんな事態を引き起こしてしまったけれど。
 夢や希望は捨ててはいけないと思うし。
 何より色々と想像するのは楽しかった。
「そう、でしょうか」
「そうそう♪」
「でも無茶や無謀は避けて下さいね」
 励まし釘を指しながら、北都とリオンは少し元気を取り戻したクロード先生と共に、花壇に花を戻していった。