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恋の行方と陰謀のウエディング

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恋の行方と陰謀のウエディング

リアクション

●決着
 武器商のマレークがたどり着いた先は、意外にも、賑やかな街角にある、何気ないこぢんまりとした三階建のビルだった。
 看板には、当り障りのない会社名。
「もっと物々しい場所に来るのかと思ってたけど、違うのね」
 ルカルカがつぶやく。
「私も一緒に、おじゃましま〜す」
 監視カメラの位置や、おおまかな建物の造りから、人目につかない場所を選び侵入するルカルカ。
 ビルの中は、一階こそオフィスを装っているものの、2階・3階は机に並ばず、私室のようになっている。
 スーツを来た男達がビリヤードに興じたり、カードを使った賭け事に興じている。
 一見して鍛えられた体躯と分かるその男達は、腰には武器を吊り下げ、普通の一般人、とは明らかに違う。
 そして、ルカルカが3階奥の部屋の様子を窺うと……そこには、大きめのデスクに組んだ足を載せ、煙草をくゆらせる赤髪に片目が眼帯の女性と、必死な様子の武器商マーレクの姿が。
 ルカルカは、コッソリカメラを回し、二人の様子を録音する。
「マズイ事になったんだ。助けてくれガーベラ」
「あら、困ったわねぇ……アタシも追われる身だからさ。アンタの協力は出来ないのよ」
「何を言うんだ? お前や、お前の部下が逃げきれるように、俺が手を回してやったんだろう?! その恩を忘れたっていうのか!!」
「マレーク、それは貴方のほうが、すすんで私に協力してくれたのよ? 違う??」
 フゥッと煙草の息を吐きかけ、甘ったるい調子でそう尋ねる女。
「アタシは、強い男は好きだけど……弱い奴には興味ないのよ? アンタはどっちかしら? ウフフ」
「ガーベラ、俺があの女と結婚したら、直ぐにあの女も、女の父親も始末する! そしたら、俺と結婚すればいい。領主の妻だぞ? 悪くないだろう??」
「ンフフ、イイ話だけど、アンタ追われてるんでしょう? 大丈夫かしらねぇ」
「今ならいくらでも言い逃れがきく。 街の有力者には賄賂を渡して根回しした奴も居る、そう簡単に俺を有罪には出来ない! 預かってた品を返すぞ、これが家から見つかったんじゃ、俺がお前たちとつるんでいたとバレるからな」
(「……うわー、大暴露だね。良い証拠がとれたし、そろそろ皆を呼ばなきゃね♪」)
 ルカルカは、ニッコリ上機嫌で微笑むと、携帯を手に仲間達にメールを送る。
「突入せよ! ってね。 これでよし♪ ん?」
「なっ、お前っ……!!」
 たまたま通りかかった男が、ルカルカに気づき声を上げかけたが、人とは思えぬ神速の速さで身体を切り刻まれ、その声が仲間のもとに届くことはない。

「ルカルカさんから合図だ。 コンスタンスさん、準備はいいか?」
 永谷が尋ねる。
「大丈夫です。よろしくお願いします」
 緊張のせいか、少しばかり上ずった声で、コンスタンスはそう答える。
「だいじょ〜ぶですよぉ。おにいちゃんのそばには、ボクがちゃんと、ついてますよ〜」
 無邪気な笑顔で、そう励ますヴァーナー。
 椿は、緊張するコンスタンスの背中をバン! と叩き言った。
「エレノアを守るんだろ? 大切なのは力でも金でもねえ。本当に娘さんを守れるのは、真心だろ! しっかりやろうぜ?」
「……はい!」
「いい顔だ。格好良いぜ」
 そう言って、椿はニッと微笑む。
「じゃあ、俺達で手下どもは一掃だ。行くぜ!」
 悠里はそう言うと、幻槍モノケロスを構え、敵陣に突っ込んだ。
 
 ガシャアン!!

 突如上がる騒音と怒号。
 騒ぎは一気に広がり、3階のガーベラとマーレクの耳にも届く。
「何事だい?!」
「お頭、この場所がバレた!!」
「チッ! マーレク、やっぱりアンタ、ろくでもない手土産まで持ってきたようだねぇ。お前ら、容赦しなくていいよ。殺っちまいな!」
 ガーベラは、そう言ってムチを手に取り、余った片手で携帯を操作する。
「ああ、予定を早めて、すぐやっとくれ。 女攫って、人質にするんだ。必ず捕まえな!」
 ガーベラは、先に一手、うっていたようだ。
「オレ達にかなうと思ってんのか、コラァ!」
 武器を手に、凄む男達。
「勿論、思ってるわよ!」
 スウッと、呼吸を整える理沙、次の瞬間振りぬいた剣は、光輝な力で敵全てを攻撃する。
「息巻いてる割には、隙だらけだぜ!」
 渾身の突きを繰り出す悠里。
 パンパン! と、規則的な射撃で、前に出る敵を押し返す舞が叫ぶ。
「ココは私たちに任せて、早くボスを…っ!」
「わかりました!」
 奥へと進む仲間達。

 一方その頃。
「……来ます、強い邪念を抱いた人達が、すぐ、側に」
「え、それは……」
 リースの言葉に、戸惑うエレノア。
 客船を降り、館に戻った彼女の身に、危険が迫っている事をいち早く察したリース。
 秘技書を片手に、超賢者の杖を構えた。
「やはり、自分たちが逃げ切るために、こちらを襲いに来たか。小娘、気を抜くなよ!」
 やがて現れた3人の敵。
「風よ!」
 隆元が逆巻く風を起こし、敵の一人を吹き飛ばす。
「凍てつく氷よ、逆巻く炎よ!」
「う・うわぁああ!!」
 リースの放つ術が炸裂し、倒れる男。
「エレノアさんは、絶対に、護りますっ!」


「みんな、こっちだよ!」
 上へと続く階段の前で、リアトリスが叫ぶ。
 漲る殺気の中に、ひときわ鋭利で、冷酷な気配を察知した彼女。
 おそらく、賊のリーダーのものだろう。
「いたぞ、殺っちまえ!!」
 振り下ろされた剣を、踊るようにかわすリアトリス。
 その右目が、龍の瞳のように変化したその刹那、会心の一撃が敵の体を捕らえ、吹き飛ばす。
「むやみに人を苦しめ財を奪うおまえたちは、『シャーウッドの森』空賊団に属する、この俺が許さない!」
 次々と迫る敵を、淳二は炎の嵐で退ける。
 キラリと、胸元のロザリオが光り、まるで、断罪の時が来たことを告げているようだ。
 階段を一気に駆け上がり、3階へと上り詰める。
 眼の前に現れる、両開きの扉……きっと、この先だ。
 護衛の者も途切れた今が、絶好のチャンスに思えた。
「君達、道を開けてください!」
 突然、そう真人が叫ぶ。
 左右に避けた仲間達の間を、真人の呼んだ不滅兵団が駆け抜け、そのドアに手を触れた。

 ドドォオン!!

 派手な爆音と共に、爆風が吹き抜ける。
 爆風でずれたメガネをなおし、前を睨むと真人は言った。
「小手先の罠など、通用しませんよ?」
「……フフ、まだ若い坊やの割に、頭がきれるんだね。嫌いじゃないよ。どうだい? いっそアタシにつかないかい?」
「お断りします」
「そうかい、じゃぁ……ここで、死ぬんだね!」
 女の鞭がしなり、真人の髪をかすめる。
 身を隠していたのか、腹心の部下たちが仲間達の前に立ちはだかった。
「倒れるのは、お前らだぜ!」
 椿は、左右の拳で強烈に敵を殴りつける。
「そこの男から、血祭りに上げてやるぜ!!」
 コンスタンスに向かって跳びかかる敵。
「させませんよ〜っ!」
 ヒラリ、スカートの裾を翻し、ヴァーナーは、簡単にその攻撃を受け止める。
「勝つのは、俺達だぜ。誰にも、彼らの幸せの邪魔をさせはしない!」
 永谷は、その身に神の力を宿した。
 圧倒的な力で、部下の男を打ちのめした永谷。
「バ・化物だ」
 そう言い残し、男は白目をむき気絶する。
「貴方が、リーダーですね。わたしが、相手です!」
 とうとう、執事のコンスタンスは、族のリーダーガーベラと対峙した。
「オヤオヤ、弱そうなくせに息巻いちゃって……アンタみたいな男に、このアタシはやられないよ!」
 敵のムチは執事を打ち付け、その右肩を裂くが、彼は歯を食いしばり、怯む様子も見せない。
 鋭い剣筋、太刀筋は、決して悪くはない。
「おにいちゃん、がんばれ〜!」
 ヴァーナーは、コンスタンスに祝福を与えた。
「あと一息だ、頑張れ!」
 永谷は、護国の聖域でコンスタンスを守護した。
「お嬢様は……エレノアは、私がこの手で、必ず守る! ハァッ!!」
 踏み込んだコンスタンスは、上段から一気にガーベラを斬り下ろす。
「カハァッ!」
 ガーベラの体が、ゆっくりと、前のめりに倒れる。
「ハァ、ハァ」
「やりましたね」
 真人は、そう言って声をかける。
「それでこそ漢だぜ!」
 椿は、コンスタンスの顔を指さしながら、ニッと笑ってそう言った。
「あ、そういえばアイツどこだよ、武器商の男!」
 思い出したように、椿が言った。
「決着、着いたようだね」
 そこに現れたリアトリス。
 ドサッと、仲間達の前につきだしたのは、縛り上げられた武器商のマーレイだ。
「コソコソ隠れてるから、見つけてきた。これでもう、彼も逃げられないよ」
 その後ろでは、カメラを回したルカルカが、Vサインを出していた。