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右手に剣を左手に傘を体に雨合羽を

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右手に剣を左手に傘を体に雨合羽を

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「モンスターさんのご一行さん、こちらですー!」
 まるでどこかのツアーガイドのようなことを言いながら、空飛ぶ箒スパロウで森の中を飛んでいるのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だった。手に旗でも持てば完璧なツアー。
 もっとも彼女を追ってきているのは平和な雰囲気を漂わせているご老人たちなどではなく、殺意と敵意を発しているモンスターである。しかも、一匹や二匹ではない。群れをなして彼女めがけて走っていた。
 リースがこうなったのは決して偶然ではない。彼女はこの状況を望んで作り出していた。
 このモンスターの一団は当初、小暮たち教導団の面々が現在避難活動を行っている村に向かっていた。村の救助活動を行っていたリースもモンスターが暴れているという話は最初から聞いており、その一団を見かけてすぐに村に向かっているのだと気付いた。
 村の食料が目的なのか、それとも単純に暴れたいだけなのかはわからない。ただ、村に向かわせてはいけないことだけはわかる。
 そのため、彼女は小暮に指示を仰いである地点へと向かっていた。
 そして、その目的地はもう目の前に迫っている。
 その目印とでも言わんばかりに一人の雨合羽を着た少年と厳つい男が立っていた。
「カルさん、後はよろしくお願いします!」
 言ってからリースはすれ違う。この二人こそがモンスターの足止めの役割が与えられたものである。
 モンスターの一群が迫る。その殺気を受け、少年――カル・カルカー(かる・かるかー)の膝が微かに笑う。
 そんなカルの背中を厳つい男――夏侯 惇(かこう・とん)が叩いた。
「武者ぶるいはそのぐらいにしておけ、カル坊。おまえならできる。それにそれがしがおる。おまえさんには指一本触れさせん。だから自信を持ってやれ」
 その言葉にカルは頷き、モンスターの一群を見据える。
 まず雨を氷術で凍らせ、敵の動きを鈍らせる。さらにその上でサンダーブラストで強烈な一撃を加えた。
 先頭に立っていたゴブリンやコボルトが数匹、その一撃で倒れ込んだ。それでもモンスターの一団は決して止まろうとはしない。恐怖心そのものがないようだ。
 その姿にむしろカルの方が恐怖心を覚えたが、そんな彼に上空から頼もしい援軍が現れた。
「我輩も助太刀するぞ!」
 そんな声と共に白い羽が刃となってモンスターに降り注ぐ。カルが上空を見上げると、曇天の中にアガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)の姿が確認できた。
 リースの師匠であり、真っ白な鳩である。見た目だけならば頼もしいかどうか疑問が残る。
 そんな容貌など気にした様子もなく、彼は上空から高らかに宣言する。
「卑しき魔物どもめっ! 我輩が成敗してくれるっ!」
 アガレスはランスバレストと呼ばれる必殺技を放つ。上空から滑空。
 強烈な体当たりを放ち、モンスターの一人を見事に吹き飛ばしたが、その反動で自身も地面に倒れ込んでしまった。せっかくの綺麗な羽が泥で汚れてしまう。
「お師匠様!」
「な、何……。名誉の負傷だ……」
 リースの声に反応し、再び空へと舞い上がるアガレス。心なしか飛び方から精彩がなくなったようにも思える。
 そんな姿を見て、夏侯 惇は「はっはっはっは!」と豪快に笑った。
「中々立派な御仁だ! それがしも力を見せねばなるまいな!」
 夏侯 惇はバトルアックスを構え、轟雷閃を放った。武器から放たれた轟雷が辺りを眩しく染め上げたかと思うと、ゴブリンやコボルトの一団を一瞬で蹂躙した。
「モンスターとはいえ、命を無駄にするな! 退けば追いかけようとは思わん!」
 彼は忠告するが、モンスターは聞く耳を持たずにカルたちに向かって走ってくる。
 恐れはあるが、教導団員としてここは逃げるわけにはいかない。
「さあ、来い!」
 カルはその一団を決意を秘めた目で睨んだ。