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第4章 隠された理由
「今、何か音がしませんでしたか?」
「近くで野外演習を行うそうなので、騒がしいのはそのせいかもしれないですね」
 花火の音にビクッとする雛子を、風森巽(かぜもり・たつみ)はしれっと誤魔化した。
「成る程ぉ、そうなんですね」
「はい、そうらしいです」
 雛子の頑張りを無駄にしたくないと、笑顔。気づかれぬよう、敷地や花壇の周りに柵を作っているのも、その為だ。
「オレの菓子を奪わせはしない!」
「あ〜リシル、殺生はしないで下さいね」
 一式隼(いっしき・しゅん)は、穴に落ちたウサギを勝ち誇った顔で見下ろすリシル・フォレスター(りしる・ふぉれすたー)を一応、咎めてみた。
 勿論、リシルがそんな事はしないと分かってはいる、うん。
 雛子達が作業している周り。落とし穴の上に布を敷き軽く土を被せ、一見しただけでは分からないようになっている。
 勿論、巽や真也達には、落とし穴の場所の土が少し黒っぽい事など、伝えてある……のだが。
「今日もホットケーキ明日もホットケーキ、ヒナのホットケーキ、ホットケーキホットケーキにゃ……ぎにゃ〜?!」
 時々引っかかるウッカリさんもいたり。
「何で引っかかってるんです?」
「に、にゃ〜。分かってたにゃ、分かってたんだにゃ、ちょびっとだけうっかりしちゃっただけなのにゃ」
 ぽすっと落とし穴に埋まった白にゃんこ……もといゆる族は、雛子のパートナーの筈のパムだった。
「助けて欲しいのにゃ」
「はいはい、分かりまし……」
「ふっ(菓子を巡る)ライバルには死、あるのみ!」
「みゃ、みぎゃ〜」
「こらこらリシル」
 手のかかる妹を苦笑で諌めつつ、隼はパムにゃんを穴から引っ張り上げてやった。
「こら、暴れるなって」
 一方、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、捕獲用のトラップに掛かったパラミタウサギを抑えるのに四苦八苦していた。
「仕方ない……ごめんな」
 用意しておいた麻酔針を使い、ウサギを眠らせる。
「それにしても、随分と抵抗しますね」
 カゴに入れたウサギを見やり、リアトリスのパートナーのパルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)が、思案する。
 学園内で捕獲されたウサギは数匹。だが、そのどれもが激しい抵抗を見せた。
「でも、不思議だよね」
 筑摩彩(ちくま・いろどり)は、引っかき傷をつけられたリアトリスの手にピンクのリボンを巻きながら、小首を傾げた。
「はい、出来ました」
「いや気持ちは嬉しいがピンクのリボンって……僕はこう見えても男」
「うんうん、よく似合うよ」
 彩に笑顔で断言され、リアトリスはちょっと遠くを見てしまう。もう慣れたとはいえ、やっぱり少しだけ複雑だ。
「それから、ウサギさんも」
 白い包帯だと見るからに痛々しいし、もし雛子に見られてもこれなら「おしゃれをした人とウサギ」に見える……という彩のアイデアだった。
 手芸部のセンスとテクニックは伊達ではないのだ。
「外では理沙さんや穹さん達が頑張ってくれてる。学園内に進入を許したって連絡は来てないんだけど、なぁ」
 カラフルなリボンを見つめつつも、彩の胸は何となくもやもやしていた。
「どこから入りこんでいるのか」
 ウサギを気絶させたベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)もまた、捕縛しつつ考えていた。パートナーであるマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)と共に学園内を巡回するベア。
 ウサギの姿を見かける事数度、光条兵器の光の出力を上げる事でウサギを気絶・捕獲している。
「外から、じゃないの?」
「普通ならね。だけど、マリーさんや悠斗さん達が頑張ってる。そのわりに、コンスタントに見かけるし……何より、入り込んだウサギ達が妙に必死なのが気になるかな」
 とりあえず戻ろうか、言いかけてベアはマナの様子がいつもと違う事に気づいた。
「……ベアは平気? 強いから、平気なのかな」
「マナ?」
「あそこ、変だよ。何か……怖い」
 微かに震えるマナの肩を抱き寄せつつ、ベアは鋭い表情でもって花壇へと急いだ。

「土・日当たり・風通し……やはり問題はないようだな」
「ええ。土壌的には何ら問題はないと言えるでしょう」
 櫻井恭介(さくらい・きょうすけ)御凪真人(みなぎ・まこと)は、花を植える作業をしつつ、土壌などの調査をしていた。
「けれど、やはりこの場所は何らかの異常がありますね」
 真人の瞳が見据える、先ほど植えたばかりのハーブ。実は意外と生命力のある筈のそれが、くたっと力なく頭を落としている。
 他の花や植物も同じような有り様で、あの一輪だけが空に必死に頭を上げている状態だ。
「何か感じるか?」
 恭介のパートナー、意識を集中していたアーサー・オルグレン(あーさー・おるぐれん)は、やや躊躇うように首肯した。
「魔法、とは言い切れないが、何か妙な感覚は感じる」
「そう、ですね。ここは何だか……」
「フェイル」
 少しだけ心もとなげに、麦藁帽子の縁をキュッと握るフェイル。
「フェイルとやらの言いたい事も分かるのぅ。ここは……そうじゃな、忌々しくも懐かしい気配と言ったところじゃな」
 お茶会の準備をする羽瀬川セト(はせがわ・せと)の分まで、と花植えを手伝っていたエレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)が重々しく頷いた。
 今は力の大半を失っているとはいえ、元は大魔女と呼ばれ恐れられたエレミアが宣言する。
「良きものか悪しきものか……これはの、古き封印の気配じゃよ」
「そうなのにゃ。ここは妙な気配がするのにゃ。あの花が居ついてから、余計にするのにゃ」
「あの花が根付いてから?」
 真人と恭介の眼差しは自然と、一輪の花へと向けられた。
「この場所に植物が根付かないのは、財宝が埋っているに違いない!」
 正にその頃。件の大地にすっくと立つ者がいた。ゲー・オルコット(げー・おるこっと)が想像していたのは、大金庫。中身は、御神楽校長の脱税用現金だ。
「穴を深く掘るのは、土をやわらかくするためだから」
 なんて言いつつ、財宝探し中。
「まぁ財宝云々はともかく、何か変だね、ここ」
 土を調べていた藤波竜乃(ふじなみ・たつの)が、そんなパートナーに告げた。
「魔法的に、かな……歪んでる」
「歪んでる?」
「ん〜、あ〜……あんまりはっきりとは言えないけどね」
「それはつまり……ビンゴって事か!? で、その歪みって奴はどの辺りが一番、デカいんだ?」
 竜乃が指し示した先、ゲーは振り上げたスコップを思いっきり振り下ろした。

 パキィィィィィィィン

 高く耳障りな音と共に、それは起こった。
 何も無かったハズの空間。そこに唐突に現れたのだ。
 小さな檻。小さな小さなウサギが5匹、閉じ込められた小さな檻が。
「わっわっわっ、ウサギの赤ちゃん?」
 彩が出してやると、それらはリアトリスや隼が捕獲したウサギへと、甘えるように擦り寄ったのだった。
「親子でしょうか」
「おそらくな。何らかの方法でウサギを巣から追い出し、誘導し、一方で子供を攫い親ウサギを呼び寄せた」
 巽に答えるベアの表情は厳しかった。いや、それは輝樹達も同じ。
「でも、誰が何の為に?」
 答えられる者は誰もいなかった。
「でもでも、赤ちゃんウサギが無事で、お母さん達と会えて良かったよぉ」
 ただ、そう笑むルーシーの意見には皆、同感であり。
「何だ、財宝じゃないじゃないか」
 そんな中でゲーはただ一人、ガックリと肩を落としていた。