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リアクション
第2章 逃げないガマは倒しちゃえ
群れの過半数のカエルたちが移動した。
けれど、ボスらしきひときわ大きな個体のカエルを初めとして、幾匹かがまだ残っている。
元から退治しようと考えていた学生たちもそろそろ痺れを切らし始めていた。
「いい加減、逃げねぇってなら、潰してくぜぇっ!?」
ザックハート・ストレイジング(ざっくはーと・すとれいじんぐ)が叫ぶように声を上げながら、パートナーの身体から引き抜いた光り輝く武器を振り上げる。そして、手身近なカエルに向かってそれを振り下ろした。
「グゲェ!」
避けきれないカエルの身を振り下ろされた刃が貫く。
まだ動こうとしているカエルに向かって、更に一撃とザックハートは攻撃を加えた。
その一撃で、カエルは絶命し、どぅと地面に倒れる。
「こ、こんなのしたくないんですが、ザックハート様の命令なんです。ごめんなさい、本当にごめんなさい」
パートナーが行動に移したことにより、ルアナ・フロイトロン(るあな・ふろいとろん)もホーリーメイスを振り上げたかと思うと、カエルに向かって振り下ろす。
けれど、ザックハートが確実に殺そうとしているのと違って、彼女は軽く傷つけることによってカエルが逃げるように仕向けていた。
「逃げるなんて卑怯な奴だなぁ?」
傷つき、ここに居ては危ないとツィリルのせせらぎから逃げ出そうとするカエルが目に付くと、ザックハートはそのカエルに向かって、武器を振り上げる。
「ああ……カエル様、申し訳ございません……」
ルアナの思いも空しく、その1体は絶命し、地に倒れた。
「クックック、カハッ! カッカッカッカッカー!!」
ザックハートは笑いながら、武器を振るい続けていく。
「ミーナ、始めますよ。お願いします」
「面倒よね……でも、葉月のお願いなら仕方ないかな」
徹底的な殲滅を。
そう思い、菅野 葉月(すがの・はづき)は網で捕まえて、動けなくなったところを攻撃していくことを考えた。パートナーであるミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)と共にまずは網を投げ、カエルたちを捕まえていく。
捕まえて、網の口を縛ることで逃げられなくしてから、網の中で身動きの取れなくなったカエルの身を、手にしたランスで貫いた。
「炎よ」
ミーナがの手にしたエンシャントワンドから、炎が放たれる。
ランスの刃で身を貫かれ、炎で燃やされる中、カエルは身をよじって逃げ出そうとする。
けれど、きつく縛っっている網の口はそう簡単に緩むことはないため、逃げることなど叶わない。
葉月はランスを引き抜くと、再度カエルの身を貫いた。
「ググ……ゲ、ゲェ……ゲ……」
カエルは苦しそうな声を上げながら、もがいていた手足の動きが次第に鈍くなっていく。そしてそのもがきも完全に止まり、絶命した。
「次、行きますよ!」
葉月はそう言うと、絶命したカエルを網から開放し、次のカエルを捕まえるべく、網を広げるのであった。
「こいつがボスガエルだったよな!」
交渉中に確かめておいた個体。ひときわ大きな身体を持つため、よく見比べればすぐ分かることなのだけれど、敢えて八神 夕(やがみ・ゆう)は訊ねるように言いながら、手にしたリターニングダガーで切り裂いた。
傷つきながらも、ボスガエルはギョロリと目を動かし、夕の姿を捉える。
「危ない!」
視線の内に捉えた夕に向かい、舌を伸ばしその先で攻撃しようとしてきたが、彼のパートナーであるシルビア・フォークナー(しるびあ・ふぉーくなー)が気付いて、回避を促した。
すぐさま横に回避する夕であるが、それでも少しは反応が遅れて、舌の先が彼の腕に触れた。ねっとりとした粘液のようなものが舌の先についているようで、まともに喰らえば、逆に捕らえられてしまうだろう。
「加勢するよ!」
ボスだけでも倒そうと考えるうちの1人、大崎 織龍(おおざき・しりゅう)がやって来てカルスノウトを振るう。彼女のパートナー、ニーズ・ペンドラゴン(にーず・ぺんどらごん)もエンシャントワンドの先から炎を放った。
2つの攻撃をボスガエルは器用に避けていく。ボスなだけあって、図体が大きくとも他のカエルに比べると、回避は得意なようだ。
「代替地は見つけてあげたんよ、おとなしゅうそっちに移ってくれれば、こんなことせんでもええのに……」
午前中、散策程度に移住先を探してみていた一乗谷 燕(いちじょうだに・つばめ)は言いながら、カルスノウトを振るう。
ちょうど繰り出されたボスガエルの舌を絡み取るような形になった。そのまま、舌先を斬ってやろうかと力を込めるも、粘液で滑って上手く切れない。
そうしているうちに、絡まった舌はカルスノウトから離され、戻っていった。
「アリエッタ、前は任せたぜ!」
「はい、宗地」
小型の飛空挺に乗り、上空からボスガエルを確認していた九牙 宗地(くが・そうじ)が、パートナーのアリエッタ・ブラック(ありえった・ぶらっく)に言う。
アリエッタは頷き、カルスノウトを構えると飛空挺から降りて、ボスガエルへと切りかかった。その後方から宗地がアサルトカービンを構え、発射する。
近づいてきたアリエッタだけに気をとられたか、宗地からの攻撃に気付けず、ボスガエルは被弾してしまった。
それでもしっかりと立っているのは、それだけ他のカエルと比べて、丈夫でもあるということだ。
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共に小型飛空挺で、ボスガエルまで近づいていく。
その間に、ベアトリーチェの体内から光る剣を取り出した。
「ちぇすとぉ!!」
剣を手に、飛空挺から飛び降りながらボスガエルに向かって、一撃を放つ。あくまで追い払うのが目的であるために、急所は狙わず、手足を狙った一撃だ。
叫んだからか、一時は学生たちの視線が美羽へと集まった。
その一撃は油断したボスガエルに当たり、注目も集めた。
いい気になりながら、2撃目を与えるべく、美羽は光の剣を振りかざす。
ヘイト・ハーディー(へいと・はーでぃー)は待っていた。
ガマガエルについて調べるグループの調査結果を、移住先を見つけたグループによるカエルたちの移動を。
けれど、全部が全部、移動してくれることはなく、ボスを初めとするカエルたちが残っており、周りの痺れを切らした学生たちが攻撃を仕掛け始めていた。
「今だ」
ボスガエルの注意が、叫びながら攻撃を加えた女子学生へと移る。
その瞬間を狙って、ボスガエルに狙いを定めたヘイトは、アサルトカービンの引き金を引いた。
打ち出された弾丸はボスガエルを捉える。
「グゲッ!」
痛みにボスガエルは声を上げた。それでもまだ倒れることはない。
「燃えろ!」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)はエンシャントワンドの先から火を放った。炎がボスガエルを包み込む。けれど、ボスガエルは小川へと飛び込んで、その火を振り払った。
水中に居ては、また火を放っても消されるだけだ。
遙遠は他の学生たちのサポートに回るべく、後方に下がる。
「邪魔者はさっさと排除すれば良いだろうに……」
「そういうわけにはいかないもんなんだ」
パートナーのフレミー・アンシャンテ(ふれみー・あんしゃんて)の言葉に氷魚 司(ひお・つかさ)が苦笑交じりに答える。
司が遠方からアサルトカービンで狙い撃ち、その傍からフレミーが火を放った。
それぞれ被弾したボスガエルの身体が、やや傾く。
「さやか、光の剣を――!」
本当は移転交渉を持ちかける気でいた桜間 剣児(さくらま・けんじ)であるが、パートナーの桜間 さやか(さくらま・さやか)の身体から、光の剣を取り出そうと手を伸ばす。
他のカエルが餌に釣られて移動して行き、更には他の学生たちからも攻撃を受けているというのにまだ移動する気のないボスガエルに交渉は不可能だと腹をくくったのだ。
「キスしないと光の剣出せないの〜!」
すると、さやかはそう告げた。
「なっ! き、キスっ!?」
さやかの言葉に、剣児は驚いた。
そのような話は聞いた覚えがないのだが、問題の光の剣――光条兵器を体内に納めている剣の花嫁である、さやかが言うのだ。
「ほ、本当にしないと出せないんだ……?」
困り顔で訊ねれば、さやかは小さく頷く。
「……えーっとだな」
どうしたものかと剣児が悩んでいると、さやかは残念そうに口を開く。
「しょうがないなぁ、今回は特別だからね、ケン兄ちゃん」
今はそのような冗談を続けている暇はないのだと思い、さやかは己の身から光の剣を取り出すと、剣児に渡した。
「倒さずとも恐怖心を抱けば、移動してくれるはずだ!」
言って、剣児は振り上げた光の剣をボスガエルに向かって、勢いよく下ろす。もちろん、斬るのではなく叩くといった感じで、痛みを与えるだけに留めた。
その間にもさやかがボスガエルの後方にトリモチを撒いた。痛みで数歩下がったボスガエルはトリモチに足を捉えられてしまう。
「予想以上に大きいから入るか心配なんだけれどね」
羽入 勇(はにゅう・いさみ)が用意してきていた大きな袋の口を広げながら言うと、
「入れれば良いんだね!」
ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)がパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)と共に、トリモチで身動きを制限されたボスガエルの身体を掴んだ。
剣児とさやかも手伝って、ボスガエルを袋詰めにすると、移住先の小川へと運び始める。
ボスガエルが詰め込まれたことにより、心配する様子の他のカエルが数匹、後に続く。
勇を戦闘に続くカエルの群れ。
ネズミではなくカエル版ということになるけれど、ハーメルンの笛吹きのようであった。
皆がボスガエルに取り掛かっている間、ファムタ・シュタル(ふぁむた・しゅたる)は周りのカエルたちを攻撃していた。
手にしたランスで突き刺し、弱らせていく。
中には回避しつつ、小川の中へと逃げ込むカエルをファムタは追うことが出来なかった。
ファムタは慣れない鎧を身に纏っているため、動きを制限されかねないと水中へまでは追わないようにしていたからだ。
川岸からランスの柄の範囲内に留まるカエルが居れば攻撃を仕掛けようかとも思ったファムタであったが、回避したときになどにある程度の射程を本能的に悟ったか、水中に逃げ込んだあと岸に近い部分に残るカエルは居なかった。
一方、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は力の限り、暴れ回っていた。
「俺と喧嘩してくれる言うンは、何処のどいつじゃあッ!!」
ランスを続けざまに繰り出して、一気に2体のカエルへと痛みを与えていく。
そうして何体倒しただろうかという頃、カエルたちの様子が変わった。
ボスガエルを相手にしていた者たちがそれを捕らえたのだ。ボスガエルが居なくなり、カエルたちは散り散りに逃げていく。
暴れ回っただけの結果はあったか、この場に残るような素振りを見せるものは居ない。
「ボスガエル、何処行ったんや!?」
ボスガエルに喰われるべく、ハエのコスチュームに身を包んだ青空 幸兔(あおぞら・ゆきと)がやって来るなり叫ぶ。
何処で仕入れた情報か、ボスガエルの腹の中に宝があると聞いたらしく、その腹の中に入るためにわざわざハエのコスチュームを纏ってきたのである。
けれど、既にボスガエルたちは他の小川に移動させられた後。
「待ってろ、ボスガエルー!!」
諦めきれない幸兔は、移動させられていくボスガエルを追って、せせらぎを後にした。
「フレミー、そっちにあったか?」
「……ない」
司は小川の中を覗きこんでいた顔を上げ、少し離れたところで同じように小川を覗きこむフレミーに訊ねかけた。フレミーは首を振り、応える。
来年も来ないように、とのことであれば卵も駆除しておくつもりであったが、ないようだ。
「こんなもんだ」
更に桜間兄妹がその場にあるものでカカシを作り、学園の制服を着せて立たせた。
学生たちに痛い目に合わされたのだ。覚えていれば、カエルたちは近づくことはないだろう。
辺りに転がっているカエルたちの死骸も埋めるなどして片付けると、ツィリルのせせらぎに静けさが戻ってきた。