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オークの森・遭遇戦

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オークの森・遭遇戦
オークの森・遭遇戦 オークの森・遭遇戦

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第2章 戦友達

2‐01 木刀と禁猟区

 乱戦の最中、退路へ向け抜け出せた者も、必死の脱出だった。
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は持ち前の運動性と冷静さでいち早く、オークの追撃を逃れたが、包囲の突破は難しいのか、なかなか合流してくる仲間はいない。できれば仲間を募りたい。が、待っていては追手も来る可能性があった。
 とにかく、施設へ。走る戦部の更に前方に、ようやく人の姿を見かけた。
 掃討を受け、散っていたオークだろう二匹の敵と、遭遇し戦闘になったところらしかった。
「我は戦部 小次郎! 同朋の方とお見受けします」
「ああ、じゃあまずはこいつらを……」
 剣を振り上げる。
 剣、……木刀?!
 がつん、一刀、……一木刀のもとに倒れるオーク。
 戦部もすぐ様、射撃で加勢し、もう一匹もその場に伏した。
「オレは橘。橘 カオル(たちばな・かおる)だ」
「ちょうど仲間を募っていたところです。皆、脱出には苦戦しているのでしょう。しかし退路確保ができなければ、後方はいずれ力尽きることになります。一匹でも多く倒し、退路を確保しませんと」
「先行する仲間を守るつもりだった。だが、オレたちが今のところ、最も先行しているようだ。オレも、邪魔するオークは……」
 木に隠れていたオークがもう一匹、橘に切りかかる。
 一(木)刀で葬る橘。
「全て排除する」
「では、急ぎましょう」しかしどうしてカルスノウトを使わないのか……と、少し戦部は疑問に思ったが。
 二人は、そのまま施設へ向け走った。





 その少し後方では、やはり包囲を脱出したクレーメックらが、オークの追撃を逃れた地点で、集まっていた。皆、走り、切り抜けてきた荒い息を整えている。
「皆、大丈夫か? 傷は負っていないな」
 クレーメックが、辺りを見回し、皆を気遣いながら言う。気持ちはもう、不思議と落ち着いていた。
 包囲を抜けて暫くは、オーク追手による強襲が続いたが、部隊長ロンデハイネとその部下らが食い止め、それからまた随分走ってきたことになる。
「後続がないということは、追撃を逃れたのは、俺達だけ……ということ、か?」
 精悍な顔立ちだがどこか二枚目半に見える。ナイトの、一色 仁。普段は女の子をからかったりもするが、今は無論、真剣だ。そんな一色のパートナー、ミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)も今日は演習に一緒に参加していた。彼女は、純情でちょっと高飛車なシャンバラ人だが、一色を想っている。
 大丈夫? キミは怪我してない? と元気に聞いてまわっているのは、この中では一人、回復魔法を扱えるカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)。剣の花嫁でもある彼女をパートナーとする、イレブン・オーヴィルは、今は静かに銃のチェックに身を入れている。施設に到着するまでは、極力戦闘は避けるべきだが、全く戦いを免れる状況とも思えない。施設に着いたら……「火力がほしい」。
 そう口をついて出てきたイレブンの独り言を聞いて、
「そうだな。そのためにも、とにかく施設へ辿り着くことだ。さすれば、迎撃も可能だ」
 黒のオールバックに、銀のメッシュ、同じく銃を手にするジャック・フリート。特殊部隊出の、名うてのスナイパーとしても知られる。横には、彼の機晶姫、イルミナス・ルビー(いるみなす・るびー)。今のところはまだ、スタミナ充分! である。
「包囲を抜け得たのが私達だけであるなら、施設へ到着することが残る部隊を救う道ということになるな」
 そしてクレーメックは、彼の連れる守護天使、クリストバル・ヴァルナを見やった。
 一行の中心では、クレーメックのパートナー、クリストバルが、禁猟区[サンクチュアリ]を発動していた。クリストバルの手が淡く、青白く光り、一行の周囲に、魔法の空気が立ち込める。
「……準備はできました。このまま、動きながら禁猟区を展開し続けていくので、あまり遠くまで探知することはできないと思いますが、周囲数十メートルの範囲なら、十分敵の警戒が可能ですわ」
 禁猟区の準備が整うと、一向は迅速に行動を始めた。
「気をつけろ。撤退路に伏兵を潜ませるのはセオリーだからな!」
 一色が皆に、注意を促す。
「今のところ、オークの追ってはかかっていないようだな?」
 クレーメックに、クリトバルが頷く。
 が、後方にいたイレブン・オーヴィルが突如、アサルトカービンを抜いた。
「……ちっ。敵か?」ジャック・フリートも、同じく銃を手にする。
 しかし、禁猟区はやはり兆候を表してはいない。
 木立から現れたのは、すらりと背の高い少女。
「待って。僕は違う、君達の敵じゃない」
「女、……か? どうして? おっ、新手か……!」
 更に、続いて、ローブを着た黒っぽい色のドラゴン……ドラゴニュートだった。
「私達は、援護に来ました」
 包囲を抜けてきた、蒼空学園所属のセイバー、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)。その姿はすらりとした少女のように見える。パートナーであるドラゴニュート、パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)だった。
「一緒に行くよ。陣形を組んで、はぐれないように行こう?」
 こうして、10名になった一向は禁猟区に守られつつ、戦闘をなるべく避ける方針で、森を南へと進んだ。
 施設への道のり、数キロメートル。
「殿の命運は、私達にかかっている……行こう」



2‐02 進軍、獅子小隊

 森奥へ。一列縦隊で進軍する獅子小隊。
「レーゼ? 騎凛教官の字がかなり、とても、丸ゴチック調な件についていかがでしょうか……」
 彼のパートナーのイライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)が早足で駆けながら言う。
「……可読性は若干落ちるであろうが、読む分にはおそらく問題ないレベル。撤退指示は伝わるであろう」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)が眼鏡に手をあて、返す。
「……。そう厳しい顔で考えることでもないであろう?」
 愛刀を腰に、前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)
「そうでござる。ただ、武士としては、力強い明朝体の方が力が入ろうものでござる」
 後ろに、パートナーのドラゴニュート、仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)がつける。
「まあ。可愛いものじゃないか。あのかたそうな教官もこれを見ると意外にそうでもないのじゃないかな?」
 と、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)。レーゼマンと同じく、獅子小隊の中核を成すソルジャー。黒髪に髭、渋さをかもし出す格好良さかもしれないが、少し感じが軽い。
 彼の後ろでは、彼のナンパに頭を悩ませるパートナーのソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)。「まさか教官を口説いたりはできないと思いますが……」
 そして、彼もソルジャー、霧島 玖朔(きりしま・くざく)が続く。冷徹、現実的な彼は、その会話には触れずに、先ほど、中央隊から拝借してきたスコープとマグライトを、手馴れた手付きでアサルトカービンに取り付けている。
 獅子小隊、何れも最初の訓練で共に活躍した面々だ。
 そこへ今回新たに加わっているのは、同じシャンバラ教導団では、女性ソルジャーのクリスフォーリル・リ・ゼルベウォント(くりすふぉーりる・りぜるべるうぉんと)。彼女も、単身防衛システムに立ち向かった勇の者。意気投合するところがあった筈だ。パートナー、三つ編の機晶姫、クレッセント・マークゼクス(くれっせんと・まーくぜくす)も今回は参加している。
 同じくシャンバラ教導団、月島 悠(つきしま・ゆう)は、レオン、レーゼマンとはもともとの戦友になるソルジャー。男子の身なりをして見えるが、中身は年相応な女の子。無口な彼女は、今のところ、口を噤んでいるが、もちろん何らか考えを持っているようだ。後ろには、麻上 翼(まがみ・つばさ)が付いてきている。小柄な少女のようだが、剣の花嫁である彼女は、危険な、光条兵器を身に隠していることになる。
 先頭のレオンハルトの傍らには、もちろん、彼の剣の花嫁、シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)がいる。それに、もう一方にいるのは、イルミンスールの生徒、セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)、弱冠10歳。今回の演習最年少参加者だ。戦闘では後衛に回るが、今は「レオンお兄様」のそばにいる。機晶姫ファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)が彼女を見守っている。
 本日、残念ながら姿が見えないのが、最初の訓練での対防衛システムにおいて前衛で活躍したナイト蒼 穹(そう・きゅう)だが、今、レオンハルトの横には代わって見慣れない騎士の姿。かの薔薇の学舎から、獅子小隊に加わっているナイトクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)だった。それに従うは、ヴァルキリーのローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)。彼に忠誠を誓うとともに、彼の師でもある、珍しい男性のヴァルキリーだ。
 戦闘経験を積んでいるためかわりと余裕な会話も交わしつつ、間もなく森奥へ到達しようとしていた一行だったが、……前方の茂みから物音、続いて飛び出す人影。
 レオンハルトが剣を抜き放つ。
「待て……! レオン。レオンじゃないか」
「おまえは、レイディスではないか」
 蒼空学園にいる、レオンの友人、レイディス・アルフェインだった。子どもっぽい笑顔を見せるが、レイディスの剣にはすでにオークの赤黒い血のりがあった。
「どうしてここに……」
 言おうとして、レオンは彼持ち前の方向感覚の鈍さを思い出した。空京あたりから、ここまで迷って来た、としてもおかしくない……と。
「我々は今、【獅子小隊】だ。レイディス、来てくれるか」
 レイディスも、すぐ状況を察した。周りには、他にレーゼマンや前田風次郎ら見知った顔もあった。
「そうしないと、俺もここを無事抜けれそうにないしな。
 よし……。
 獅子小隊所属、レイディス・アルフェイン……ってか?
 なははっ!楽しいなぁ!!」
 ……
 彼らの戦場は、もう目前に迫っていた。



2‐03 ベオウルフ隊の作戦

 少し遅れて、森の中心部を発った【ベオウルフ隊】。
 今回の実戦演習には、他校からも「選択科目生」として、参加者を募っていた。代々軍事家や剣士の家系に育った者、幼い頃より戦場を渡り歩いてきた者、自己鍛錬を続けてきた者も多く、そういった彼らは、十分戦力として期待がかけられる存在だった。
 唯一、シャンバラ教導団員である、ユウ・ルクセンベールが彼らを導いている。
 ユウは、もともとは放浪の旅を続けていた、穏やかな性格のナイト。旅の途中で出会った、ルミナ・ヴァルキリー(るみな・う゛ぁるきりー)も一緒だ。

 森奥が近付いてくると、ベオウルフ隊は少し開けた場所で足を止め、作戦を立てるのだった。
 これからオークキングのいる戦地に臨むフロントチームには、剣を頼みとするセイバーを中心に、彼らがパートナーとして連れている剣の花嫁達が負傷者の治癒にあたる。セイバーには、空京の警備に雇われた者や、今までにも教導団の任務に助力した手練れも見える。ユウとルミナも、こちらへ加わることになった。
 バックスチームは、この場に残り、オークを殲滅するためのトラップを作成する。ここにも、トラップ作成とその後の掃討を行うためにセイバーが残る。それから、トラップ稼動に重要なウィザードの姿があった。
 バックスチームのうち、一人のセイバーが、図面を書いて作戦を説明している。
 彼は、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)
 彼は実は、朝から遺跡の探索に出向いていた。その帰りに、森でオークと戦う教導団を見つけ、臨時参加することになった次第だ。何名かは見知った生徒も参加していたのでちょうどよかった。ロープなど、簡単な道具なら所持していることになる。
「ここと、こことに、まず倒木の罠を仕掛けます。オーク達が通ったときに、ロープを切って倒し込む。そのあとには……落とし穴。できる限り、深く掘っておくこと。オークが抜け出せないように、です。そうしたら……」
「俺達の出番、ってわけだな!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が進み出た。マジックローブを纏い、空飛ぶ箒を携えた一見かわいい女の子だが、随分乱暴な口調。
「火術なら、任せな」
 こちらは、髪を後ろで束ねた男の魔法使い。リアストラ ティレット(りあすとら・てぃれっと)。火の魔法の使い手だ。後ろには、彼を守る機晶姫のメノア レイナード(めのあ・れいなーど)がいる。
「俺は、ここに残り、トラップ後の攻撃を担当する」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。彼だけは何故か、自作の特撮ヒーローコスプレで参戦している。"ケンリュウガー"!! と、でかでかと背中に書いてある。これは、目立つ! しかし……教導団員であれば、即刻パラ実送りにされていたかも知れない。
 彼のパートナーのヴァルキリー、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)も、同じくここへ残る。
「牙竜のコスプレ? いつものことだから気にしないでいいよ」にこやかに皆に答えるリリィ。しかしまだ誰もそのことには触れていないぞ! ……リリィがセーラー服で、やかんを持ち歩いていることにも……。(リリィは、水分補給係りなのだ。)
「フロントチームとの連絡役は、俺に任せな!」
 バックスチームから、茶髪でツンツン頭のセイバーが前に進んで言う。鈴木 周(すずき・しゅう)だ。彼の剣の花嫁は、元気いっぱいなレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)。トラップ作成には、彼女の光条兵器が必須になるだろう。
「そして、この罠にかかるオークどもをここまで引き連れてくるのは、俺達の役目ってわけだ。大物を引き連れてきてやるぜ」
「……ここは、任せた……行ってくるぜ……」
 かくして【ベオウルフ隊】は二つに分かれ、フロントチームは更に森奥へ向かった。