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着ぐるみ大戦争〜明日へ向かって走れ!

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着ぐるみ大戦争〜明日へ向かって走れ!
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第5章 突撃エクスプレス

 「でやあぁぁぁぁぁぁ!」
 裂帛の気合いと共に比島はアサルトカービンを振り回した。銃剣が相手の喉を切り裂き、倒れていく、その後ろから狼の姿をしたゆる族兵が剣を振り降ろす。それを比島はがっきと銃身のハンドガードで受け止める。力ではさすがに女性の比島は非力だ。ぐいぐい押されていく。だが、敵の膝脇をぐいと蹴飛ばすと相手は態勢を崩して膝を突く。そこをカービンの肩当てで下から顎を突き上げる。のけぞったところに一瞬、右脇に振り下ろして反動をつけて相手にたたきつけるように銃剣を突き刺した。
 「くぅっ!」
 突き刺さると筋肉が収縮して抜けなくなる。戦場で意外と起こる現象だ。抜こうと時間を掛けると他の兵にやられる。迷わず比島はズドンと一発たたき込みその反動でカービンを抜いた。
 第3歩兵連隊は敵に食いつかれ、白兵戦になっている。そこかしこでウサギやハムスターが狼や豹ととっくみあいをしていた。
 「踏ん張れ!、ここを通すな!」
 頭に火が付いてくるくる回るワイフェン兵がいる。サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が火術で攻撃している。
 「ぐあっ!」
 左腕を敵の銃弾がかすめ、アームストロングが膝を突く。そこに別のワイフェン兵が銃剣突撃してくる。殺らせるわけには行かない。比島は横から体当たりする。もみ合ってごろごろ転がった。しかし相手が馬乗りになり、比島の首を絞める。
 「悪いな」
 声がしたかと思うと、銃声と共にワイフェン兵の頭部が吹っ飛んだ。
 「一斉射撃だ。これ以上近づけさせるな!」
 レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)が硝煙をまとわりつかせたアサルトライフルを構えて叫んだ。突破されかかっていた第3歩兵連隊に強襲偵察大隊が火消しに来たのだ。ライフルの一斉射撃で後続に続こうとしていた敵ワイフェン兵は一瞬足止めをくらう。そこに教導団員達が襲いかかる。レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)はカルスノウトをすらりと抜き放った。
 「ここから先は通行止めだ。他をあたりな」
 そう言うと二人同時にくるりと刃を回すようにして敵兵を屠っていく。特筆すべきはルーヴェンドルフであろう。ほとんど体を動かさず斬りかかってきた敵兵を片手を動かすのみで切り倒す。
 「レイディス、俺の右につけ、シルヴァは左だ」
 「わかりました」
 「了解だぜ」
 左右にシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)とアルフェインを従えた形のルーヴェンドルフは片膝立ちで前に出した足を踏ん張って射撃、途端に血しぶきが上がる。
 「皆も続いて!」
 シルヴァの声と共に周りの隊員も白兵戦態勢で横に列をなす。そのまま前線を押し戻し始めた。
 「メディコ(衛生兵)!メディコ!」
 アームストロングは比島に駈け寄り叫んだ。そこに赤十字マークをヘルメットに貼った一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が駈け寄って来る。
 「うわ……」
 思わず久我 グスタフ(くが・ぐすたふ)が絶句する。比島の周りでは十人近いワイフェン兵が倒れている。
 「ちょ、これ全部かあ〜」
 久我は驚いている。比島のアサルトカービンのハンドガードは剣を受け止めて傷だらけだ。
 「グスタフさん、箱!」
 一条がすました顔で言う。久我は慌てて救急セットを広げる。
 「どうだ?」
 「大丈夫。気絶しているだけだわ。……貴方の方が怪我してるわね。腕出して」
 心配そうなアームストロングに肩をすくめる一条。
 「いや、俺は……」
 「グスタフさん、彼女は後送して。平気だと思うけど念のため。……何とか持ち直したようね」
 一条は周りを見てそう言った。だがまだ気は抜けない。

 そうして右翼の危機は去ったかに見えたが今度は中央が押し込まれている。
 (大分、こっちに来ています。このままでは突破されます)
 アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)の通信を受けているのはイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)だ。魔導擲弾兵は他の兵と似て異なる格好をしている。戦闘服の肘や膝のプロテクタがなく、身軽になっている。一方で迷彩模様の短ローブをまとい、腰からは呪文書を挟んだホルダーを下げている。
 「敵もどうして打つ手が早い」
 「数が倍だからな」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)は塹壕からひょこっと顔を出した。
 「うぇあ!」
 すぐ近くまで大勢迫っている。イーオン、高月達、魔導擲弾兵中隊は現在、最後の防壁となっている。この後ろはもう、師団本部である。すでに本部護衛小隊の歩兵も穴ふさぎに投入しており、後がない。
 「お前も、あれ、使えるのであろう?」
 「ああ、君もか」
 二人は揃って呪文を唱える。魔法を使うものの弱点である。これをいかに短くするか。高度な魔法ほど時間がかかる。二人の前に、火球が現れる。思念を解放するとそれが前方に向かい、ぶつかって爆発する。十数人が巻き込まれる。
 「火術を集中運用だ!」
 アルカヌムは再び火球を放つ。敵兵は倒れるが向こうも派手に射撃してくる。こちらの兵もじりじり倒されていく。若干だがこちらの方が不利だ。次第に壁が薄くなっていくからだ。遂に塹壕に敵兵が飛び込んできた。
 「えええぃ!逝きなさい!」
 アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は素早く前に出るとくるりと手を回す、まるで手品のように剣が出現する。抜き手の早さは驚くべき物が在る。敵兵を手早く切り倒すが、次から次へと敵兵が湧いてくる。高月の指先から電撃がほとばしった。アルカヌムも一撃食らわそうとしたががくりと膝を突いた。額は汗まみれだ。
 (マイロード?、どうしましたかマイロード?)
 落っこちた通信機からはメルムの声がこぼれている。
 「皆、塹壕を出ろ!」
 叫び声を上げたのは緋桜 ケイ(ひおう・けい)だ。その形相に皆慌てて塹壕を出る。
 「食らえええええぃ!」
 緋桜から煙の様なものが塹壕に向かい充満する。塹壕の敵兵はあっという間に倒れる。
 「『アシッドミスト』か!」
 アルカヌムは苦しい息で驚いた声を上げた。かなり高度な魔法である。
 「二人とも、むやみに魔法使いすぎです。それじゃ気力が持ちませんよ!銃器と連携するのが魔導擲弾兵でしょう」
 緋桜はさすがに息一つ乱れていない。闇雲に魔法に頼っていないところが他の魔法使いと一線を画している。
 「最後のラインで防衛です。あと少しです!」

 「そろそろかしら?」
 「ええ、後もう少しです。すでに騎兵大隊は敵の後ろに到達しているはずです」
 さすがに志賀も表情が厳しい。前面では白兵戦が真っ盛りだ。遂に突破したワイフェン兵がここまで来た。
 和泉は刀の鯉口を切り、志賀も後ろ手に拳銃を掴んだ。雄叫びを上げて突っ込んでくるワイフェン兵。
 そのワイフェン兵の後頭部をいきなりタイヤが直撃した。周りの敵兵もバイクに次々のしかかられてつぶされ、背中から轢かれていく。戦闘バイクの一団が敵兵の後ろから飛び出してきたのだ。先頭の一台はものすごい急ドリフトで和泉と志賀の前で止まった。
 「毎度!お待たせしました。カツ丼二人前!」
 「ご苦労さま」
 戦塵で汚れたゴーグルを上げて不敵に笑うオーヴィルに和泉が微笑みかける。騎兵大隊は敵の中央を後ろから切り裂いたのだ。つまり、敵は左右に分断され、混乱していると言うことだ。
 「志賀君!」
 その声に志賀はすっと手を差し出した。慌ててジーベックが信号拳銃を手渡す。
 高々と打ち上げられた信号弾は総員反撃開始を堂々と宣言するものであった。それを見た各部隊は一斉に穴から飛び出し敵に向かって突撃した。ウサギ兵とハムスター兵とシマリス兵が雪崩のごとく走っていく。

 「さーあ、こっから先は私のターン!」
 カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は高笑いしながらバイクに乗ってメイスでげしげしと逃げる敵兵を後ろから殴り倒している。その姿はまことに僧侶とは思えない。
 「先に急がないで下さい!全く!私をおいていくなんて」
 再びオーヴィルも追撃に加わる。
 その脇を再度回り込んできた沙 鈴(しゃ・りん)がランスを構えて突っ切っていく。
 「もう、みんなやられちゃって!」
 実は沙は黒竜隊の一員であったが、連携する前に仲間があっという間にやられてしまった。幸い紗のみは地上でランス突撃に回っていた。そのため黒竜隊は壊滅ではあっても全滅ではない。こうなると沙だけでもがんばらねばならない。
 「瑠璃、瑠璃、聞こえる、みんなはどう?」
 (はい、とりあえず、みんな何とか無事です。骨折者数名ですが)
 綺羅 瑠璃(きら・るー)の声は震えており、言葉ほど簡単ではないことを示している。
 「とりあえず生きていればいいわ。みんなを後送して」
 (了解です。他の人を治療しようと思ったのに……)
 高々度に上がろうとしたものが撃墜されれば只ではすまない。骨折といっても手首ならいいが背骨とか首の骨とかだとしゃれにならない。瑠璃は周りの負傷者治療の手伝いをするつもりがもろに仲間の治療をすることとなった。
 「こうなったら、わたくしがやるしかないじゃない!」
 そう言うと紗はランスで敵兵をぶん殴り?ながら目標であった投石機の方へ向かった。その投石機周辺では第2騎兵大隊が敵兵を踏みつぶしている。
 「君たちは、夏の小麦ですなあ!おとなしく踏まれなさい!」
 クロッシュナーは恨みを込めて敵兵をふみっ、ふみっ、ふみっ!と馬で踏んづけている。投石機は概ね第2騎兵大隊が制圧した。
 「ああああ〜ボクが何とかしようと思ったのに〜」
 桐生 円(きりゅう・まどか)は騎兵の後を追いながら情けなさそうな声を上げた。桐生は敵陣深く潜り込んで投石機を何とかしようと思ったが、警戒が厳しく潜入できなかった。ワイフェン族が大軍に驕って油断しているところを狙って情報を入手するつもりであったが、そもそも相手の油断を前提としていること自体が桐生自身の油断と状況判断のなさを示すという冷厳な事実を突きつけられることとなった。
 「あらあら、まだまだ桐生はおつむがお子ちゃまよね。戦争なんかほっぽっちゃいましょ。ちょっと調教が足りないみたいだし」
 脇にいたオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は面倒くさそうに桐生の首根っこを掴んだ。レベンクロンはこんなことにはつきあいたくないようだ。
 「オリヴィア、戦闘なんてしたくないのよね〜。向こうで隠れてましょ」
 「ま、ちょと、いや、あの待って」
 レベンクロンはそのまま桐生をお持ち帰りで戦場を離脱した。

 「慌てないで!せっかくここまで来たんだ。焦らないで!」
 そう声を掛けているのはゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)だ。攻守入れ替わって敵が抵抗しつつ後退するのを追撃しているのだが、フリンガーは味方を押しとどめることに忙しい。初陣で勝ちそうになっているため、皆ハイになっている。教導団員ですらそう言う連中がいる。ましてやシャンバラ兵はということだ。
 皆我がちに敵に襲いかかろうとしているが敵も必死だ。こういうとき、思わぬ反撃を受けるものだ。
 「飛び出してはいけません。ラインを作ってゆっくり追い詰める!」
 フリンガー周辺のシャンバラ兵も概ね無事である。ここまで来てやられたりしたら悔やみきれない。敵側もじりじり後退している。こちらも数発ずつ撃ちながら前進して追い詰めつつある。すでに敵は負けを悟って離脱の機会を伺っていた。それ故にフリンガーは慎重に前進させる。もう少しで勝てるのだ。ここで死んだらそれこそ、話にならない。さすがに飛び出すような奴は…………いた???!。
 「シャンバランブレードォォォ!」
 神代 正義(かみしろ・まさよし)は剣をかざしてズドドドドドドと全力で敵陣めがけて突っ込んでいく。
 「馬鹿者ぉぉぉ!」
 思わず、フリンガーは叫んだ。だが神代には聞こえていないようだ。どうやら前後の見境はついていないらしい。
 「でぇいっ!」
 神代は高くジャンプするとそのまま敵塹壕へ飛び込んだ!
 「シャンバランダイナミィィィック!!!!」
 ちゅどーん!と塹壕が炸裂した。どうやら神代は何かにかぶれているらしい。
 「あれ?」
 神代は周りを見渡す。周りには二人ほどワイフェン兵が倒れているが他は逃げ散ったようだ。
 つかつかと駈け寄ったフリンガーはおもむろに靴を脱ぐとその靴で神代をスパアァァァン!!とはたき倒した。
 「無謀なことをするんじゃありません!」
 「あ、あれ?俺何で怒られてんの?」

 敵はほぼ潰走に入った。一応、押しているがこちらの被害も軽いわけではない。
 「潮時ね。そろそろ攻撃中止させて。深追いはやめておきましょう」
 和泉は、教導団員を背負って後退してくるウサギ兵を見ながら言った。まもなく、信号弾が上がり、全軍に攻撃中止が知らされる。戦闘は終了した。
 後には多くの倒れ伏した兵の姿が残された。

 ワイフェン兵が敗走していく。その姿を離れた丘の上からヴァルキリーが見ていた。
 「負けたか……」
 「申し訳ありません」
 後ろに控える狼兵が頭を下げた。
 「まあいいわ。敵の様子も大分解った。侮ることはできない様ね。今後は兵達にも油断せぬよう徹底させて」
 「は、兵達には周知させます」
 「まあ、油断はできぬ……。けど、恐れることもないわ。最初の頃の砲撃はたいしたことはなかったし、部隊同士の連携も上手いわけではない。……敵の兵力もほぼ解った。前衛部隊にこれほど手こずる様では何とでもなる。主力の方は?」
 「はい。すでにモン族討伐に向かっております」
 「いいでしょう……。この方面はしばらく様子を見ましょう。警戒を怠らぬよう」
 「承知いたしました。ヴィレッタ様もお早く主力へ合流ください」
 「解った。兵の収容を急いで。怪我人の手当を」

 戦いは終わった。ワイフェン族は結局半数以上が脱出に成功、決定的な損害を与えるには至らなかった。しかしながら、優勢な敵戦力に勝利して見せたことは大きな価値を示したことになる。なお、敵の装備は概ね小銃と長めの片刃剣であった。これは山刀に近いものだ。小銃はいわゆるカラシニコフ、AK系列の小銃であるがもっぱら中国製のコピー、もしくはさらにそのコピーである。工作精度はあまり高くないが必要性能は満たしている。

 「あいあああ〜、あいあいあいあああああ〜〜、うおえああああ〜」
 火を焚き両手を掲げた格好で喚くようにしているのはガヤン大尉である。後ろでは死体が次々と運ばれ、埋められていく。
 「それにしても、これって……葬儀なの?」
 思わず和泉はつぶやいた。
 「ええ、まあ。葬儀を行うため師団の宗教資格者を調べたところ、ガヤン大尉が」
 「一番上?」
 従軍牧師、もしくは従軍僧に葬儀を任せるつもりだったのだが……。
 「はあ、彼、国家公認の一級祈祷師免許持ってるんですよねぇ〜。彼中央アジア出身でしょ?従軍シャーマンというわけです」
 「それにしても」
 「和泉少将……」
 志賀は珍しく咎めるような表情で和泉を見た。
 「肝心なのは形式より、本当に死者を悼んでいるかどうかではないですか?」
 確かに教導団員は怪訝な顔をする者も多いが不思議とシャンバラ兵は素直に受け入れている感じである。皆頭を下げ、祈るようにしている。あるいは彼らの葬儀の形に近いのかもしれない。
 「我々とシャンバラ人では文化が違います。同じ地球人の文化の違いに戸惑うなら、この後のシャンバラとの交流は難しいですよ」
 「解ったわ」
 和泉も神妙な顔で頷いた。夕日がまもなく沈もうとするまでガヤンの声が響き渡った。

 三郷キャンパスに帰還した第3師団を新たな事態が待っていた。
 「はい、ご苦労さん。さすがに苦労したようだが、それなりの価値はあったようだねえ」
 三郷キャンパス分校長室。分校長の毛利は相変わらず気楽そうに言ってのけた。ワイフェン族との戦い後、急速に状況は変化している。
 「モン族から同盟の申し込みですか?」
 和泉は資料を見て言った。ラピト北方のモン族は今回の第3師団の戦いを見て教導団=ラピト同盟に自分たちも加わりたいとの意思表示をしてきた。
 「まあ、いいことばかりではないけどねぇ」
 毛利は肩をすくめる。急いで同盟を求めることには訳がある。モン族の方にもワイフェン族が進出しており、要するに、『助けて〜』と言うことだ。
 「しかし、モン族の方から同盟を申し込んできたことは好都合です。元々、戦略的にはモン族とも連携を図るつもりでしたし、我々についてもメリットが大きいです」
 「ラク族かな?」
 志賀の言葉に毛利はよれ気味の煙草をくわえた。
 「ええ、モン族と同盟となればさらに北方のラク族への交渉ルートが開けます。ラク族は精神的な意味で影響力の大きい部族です。あそこを味方にできるかどうかがこの方面の大局を決する重要な要素です。逆にあそこを敵に回せばモン族や場合によってはラピト族とも亀裂が生じる可能性があります」
 ラク族は周辺部族に大きな影響力を持つ部族と言うことだ。
 「ラク族のヤンナという勢力代表の女性が宗教的な尊敬を受けており、周辺部族の顔になっているそうです。その人物と友好関係を築ければかなり状況は好転します」
 ヤンナという人物は若い巫女という感じで衆望を集めているらしい。
 「それにモン族が味方になるとなれば、航空部隊の設立が現実の物となります」
 「私達としては、モン族を支援する必要がある訳ね」
 和泉としてはできるだけ穏便に味方を増やしたいようだ。
 「利害を考えれば圧倒的に同盟を組むべきと思います」
 「まあ、その方向だろうねえ。第3師団にラピト、モン族を結集してもワイフェン族には勢力で及ばないんだろう?」
 「はあ、総合的な見通しではそれにラク族を加えてようやくワイフェンの七割と見ます。早急に同盟をまとめることが重要と思われます」
 「角田君には航空部隊の設立を急いでもらうんだね」
 そのとき、眼鏡を掛け、作業服を着た女の子が駆け込むようにやってきた。技術大尉のレベッカ・マクレガーである。
 「大変なのです!大変なのです!」
 「一体どうしたの?」
 「日本から輸送中の、戦車開発に必要な部品が奪われちゃいましたあ〜」
 「奪われたあ?」
 志賀も眉を寄せた。
 マクレガーの話によると、戦車開発に使う部品を日本〜空京経由で三郷キャンパスに輸送中、あともう少しというところで武装勢力に襲われ、奪われたとの連絡が入った。
 「一体誰が?」
 「位置的には荒野に近いわね」
 「それが……」
 連絡によるとおかしな改造制服を着た連中のようで、パラ実を名乗っているらしい。
 「パラ実〜」
 「それ、本当?」
 「話が本当なら西の荒野方面の連中ということになるがねえ?」
 毛利も首をかしげている。しばしば話に出て来た荒野の不穏勢力である。
 「しかし、ならこの時期にこういう行動をするのはおかしいですね」
 志賀も同意する。むしろ第3師団が勝った現状では様子見に徹するのが定石のはずだ。
 「あるいは……何らかの働きかけがあったか……ですね」
 「とにかく、このままでは戦車が作れません〜〜」
 「放ってはおけないだろうねえ」
 「この、戦力が足りないときに……」
 すぐに状況が伝えられ、戦力の再編が行われた。
 第3師団は損害を補充した後、直ちに北上、まずは敵情を確認することとなった。もっとも、おそらくは街道上で敵の偵察部隊と遭遇戦が予想される。林の点在する街道上なのでそれなりに注意が必要である。
 なお、戦力についてだが、再編を行い、第1騎兵大隊より一個重騎兵中隊を除外。また損害の大きかった第3歩兵連隊はラピト外縁の陣地にて休養、再編、補充を行うこととなった。外縁陣地は櫓まで建てちゃったため、あまりにももったいないのでそのまま恒久警戒陣地として活用されることとなった。そのため、北上する第3師団の戦力は約7400名。ほぼ実態は旅団規模である。
 一方、戦車開発部品を奪還するため、特務戦闘団が編成された。これは先ほど除外された重騎兵中隊と新編成の歩兵一個大隊、それに支援部隊で併せて800名ほどである。指揮官は機甲戦力が整わなくてイライラしているシュレーダー少佐である。躍起になって奪還にいそしんでくれるであろう。また角田少佐は航空科の要員を引き連れてモン族の方に向かうこととなる。航空部隊を設立する準備のためだ。
 そして、ラク族との交渉も行う必要が出てくる。いよいよ単なる戦いのみならず多角的な事態に対応することが求められる。
 「戦線は拡大する一方です」
 「本当の戦いは、これからなのね……」
 未だこの地の暗雲晴れず。果たして未来はいかに進むのであろうか。

 時代は、激動へと向かう……。

担当マスターより

▼担当マスター

秋山 遼

▼マスターコメント

 マスターコメントが説教臭いと評判?の秋山です。そうですか、ならばごりごり行きましょう、説教師秋山、今回も参ります。ゆるくて地獄な地雷原シナリオ「着ぐるみ大戦争」、今回は本格的な戦いとなりました。それにしても、半数近くのPCが教導団じゃない……。第3師団はすでに混成化してますな。蒼空、イルミンスールはいいとして百合園にパラ実までいる。いないのは薔薇学生徒のみ。各学校との親和性がわかりますね。
 今回の感想としては、なんか、敵を倒すことにこだわってますね。今回は砲兵は敵を足止めする。騎兵は突破して混乱させるのが第一義です。極論、敵を倒すのは歩兵だけでいい。砲兵に多かった「敵を少しでも倒して歩兵を支援する」ってのは実は自分が敵を直接攻撃する言い訳であって、実質支援になっていないです。このあたりを統制の乱れと見なします。
 で、割と良かった人。
 比島さん、「定員割れしている第3歩兵連隊は特に敵からの攻撃が厳しくなると予想される」のでここでがんばると言うのは合理的判断かつ、あえて不利なところでがんばる、その心意気や良し!苦戦しそうな所ほど見せ場があるものです。他に部隊指定している人はほとんど第2歩兵連隊なんですよね。確かに連隊三つで一番楽なのは第2でしょう。しかし、大勢集中した結果、お互いが埋もれてしまっているんですよね。そう言う意味で比島さんのアクションが無茶苦茶目立つ!
 緋桜さん、むやみに魔法を使うのではなく、射撃と連携しつつ、ここぞというところで使う。大変に結構です。魔法使いの人は全般的に何かと魔法に頼る傾向が強いですが、ただ魔法を撃ちまくるだけでは銃器と変わらないわけで魔法の意味がない。優秀な魔法使いとは強力な魔法を使う人ではなく、魔法の使い方がうまい人のことでしょう。そのあたりが理解できているのはさすがです。それでこそ魔導擲弾兵でしょう。
 いまいちだったのは砲兵部隊と飛空艇。
 メルヴィンさん、グリーンフィールさん、あなた方の「敵の攻勢をねじ曲げる」というのは正しいのです。しかし、ではどこに撃つかと言う点で具体的なものが何もなかったので結局何も言っていないのと同じになってます。これが惜しい。志賀の策は唯一解ではありません。たとえば中央から左に砲撃を集中させて敵を右に寄せて、しかる後に第2歩兵連隊を前進させて徐々に包囲していくというのでも良いのです。要するに「敵の平押し全面攻勢を阻止する」「敵を誘引・密集させて遊兵を作り出す」この二点が解って砲撃するのであればいいのです。もし、この二点を考慮して砲撃地点を指示していれば大幅に状況は変化してお二人は大金星だったはずです。
 飛空艇の皆さん。飛空艇の能力を過信しすぎでしょう。小型飛空艇は空は飛べるけど要するにスクーターですから。「冒険」には向いてるんです。扱いやすいから。しかし「戦争」には向かないと考えた方がいいです。でなければ教導団が「戦闘」バイクを支給しているのはなぜだと思いますか?
 あと、欲張りすぎ。二兎を追う者は一兎をも得ずになってます。ぶっちゃけ、飛空艇は囮に徹した方が遥かにきれいな結果になったと思います。「高々度」はこの場合あまり意味ありません。却って撃墜された時、死傷率を高めます。
 ちょっと判断が?の人。
 ダンボールロボことあーる華野さん。このシナリオではこういう設定は瞬没でしょうが、今回、状況にぴったりはまっちゃいました。しかし、次回以降ここに来るならばよほど上手くはまらないと厳しいので注意してください。
 同様なのが宇宙刑事シャンバランの神代さん。但し、神代さんの場合ひと味違います。キャラクターが馬鹿っぽいとのことですが、これはうまく使えばかなり美味しいでしょう。
 皆さん、格好良く活躍したいでしょう。ではそのためにはどんなキャラクターを作ればいいかと言えば、実は「格好悪いキャラクター」なのです。マスターは有り体に言ってドラマを描きます。そう考えればわかると思います。つまり、「普段格好悪いキャラクターがここぞと言うときに格好良いことをする」から「格好良い」のです。普段から格好良いキャラクターは格好良いのが「当たり前」なので格好良く見えないんです。格好良いキャラクターと格好悪いキャラクターが同じアクションを掛けたらクローズアップされるのは概ね格好悪い方です。その方がストーリーが「面白い」からです。普段赤点ばっかり、という生徒といつも満点の「優秀な」生徒が同じ80点を取ったらどうでしょう。赤点生徒は「今回がんばったじゃないか」となります。一方優秀な生徒の方は「何だ口ばっかりか」と周りは見ます。
 つまり格好良すぎる設定を作ってしまうといつも百点のアクションを掛けないとキャラクターが維持できなくなるわけで自分の首を絞める場合が出て来ます。(パーフェクトなキャラクターを作ってしまうとストーリー的なキャラ成長がないので見ている他のプレイヤーからはつまらないキャラに見えるのです)
 神代さんの場合、たとえば、表向き笑いのオブラートに包み、周りを笑わせつつ、やるときはやる!的なキャラを作っていくようにすると実は「格好良く」なる可能性を秘めていると思います。正直難しい面もありますが、もし、今後、ここに来るならよく考えてみてください。ただシャンバランでは厳しい。

 さて、これで「着ぐるみ大戦争〜明日へ向かって走れ!」は終了です。しかし、このシナリオはこのままキャンペーンシナリオ「着ぐるみ大戦争〜扉を開く者」(全6回予定)に続きます。今後は外交やら経済やらの考えも加わりますのでよろしく。航空部隊の皆さん、いよいよ航空部隊設立へ向けて動きます。
 次回は少し間が開く予定です。シナリオガイドは8月末くらいになると思います。
 それではまた!