シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

オークスバレーの戦い

リアクション公開中!

オークスバレーの戦い

リアクション


<3>



 いよいよ、ノイエ・シュテルンは、作戦を敢行した。
 静かに、河岸を発っていく改良火船。それに追随するボート数隻。
 皇甫の操船する第一火船には、一色仁とミラ・アシュフォーヂが、うんちょう たんの操船する第二火船には、青 野武、黒 金烏(こく・きんう)が、それぞれ少数精鋭の兵と共に、仮甲板の下に身を隠し、乗船。仮甲板の上には、油の染みた着火物が積んである。
 ボートには――クリストバル・ヴァリア含む数名の魔法使と、弓兵隊から成るボート。これにはハインリヒが護衛として同船している。
 また、昴含むソルジャー達を乗せた狙撃隊のボート。昴のパートナー、ライラプスがボートを操作。これには、ケーニッヒ、アングロ・ザルーガが同船。
 更に、少し離れて、マーゼンとアムが別々のボートで対岸へと進めていた。
 最後に、全隊を指揮するクレーメック・ジーベック、その守護天使クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)、そして情報を統轄する香取翔子らが、本隊を率い河岸を離れようとするところ、
「……?」
 そこへ、三乃砦攻略にかかっていると聞いていた、獅子小隊の副官イリーナら十名程が、やって来た。
 クレーメックとイリーナとは、見知った仲であったが……
「途中まで一緒に頼む」
「そうか……それはいいが。……そんな数で大丈夫なのか?」
「奇襲を行うための、少数精鋭ってやつだ」
「イリーナさん。これを」
「香取」
「勝利のときには、この信号を打つことにしましょう。それから、こちらは危機のときに……でもたぶん、こちらは打つことはないでしょうけどね。お互いに」
「ああ。どちらが先に勝利の信号を打つか、だな」
「レーヂエ殿?」
「あ、いやあ。こ、これはこれはロンデハイネ殿……いい天気で御座るなあ」
「途中で、針路を変えて、敵三乃砦の側面へ突入する。貴官らの作戦の邪魔にはならん」
 イリーナ達は、オークの散らかしたボート数隻に、さっと乗り込むと、すぐ河岸を発った。
 イリーナ達獅子小隊奇襲班の前を黙々と進む、ノイエ・シュテルンの船々。
 一瞬、最後尾の、冷徹寡黙な士官、マーゼンがきっ、と睨んだ気もしたが。
 ボートから振り返る、昴。「(おお、イリーナ氏……!)」
 火船からそっと顔を出し、手を振っているのは皇甫だ。
「(あ、あっちには、青先輩も)」
 やがて、ノイエ・シュテルンは真っ直ぐに、敵二乃砦へと、獅子小隊は、針路を右へ逸れ、敵三乃砦へと、それぞれの戦場に分かれていくのだった。


第5章 峡谷の戦い

5‐01 対岸へ

 オーク二乃砦。四方を河水に囲まれている。
 砦壁や塔が、河水から突き出しているような箇所もあるが、建物の大部は、中州の上に構築されているようだ。壁や塔伝いに蔦や水辺の樹々が絡みつき、オークの住処に相応しい怪しさを醸し出している。
 そこへ近付いてくる、二艘の小舟。
「オォォォク。ダレモ乗ッテナイ船ガ近付ィテクルダオォォク。ドースルダオォォク」
「ダレモ乗ッテナイ船ッタラダレモ乗ッテナイ船ダオォォク。ホットキャィィオォク」
「……アヤシィダオォォク」
「……射テマエダオォォク」
 ヒュン ヒュン ヒュン
「……」
「……」
 矢を甲板に受けながらも、速度を緩めずそのまま砦に突っ込んでくる小船。
 そして砦に突っ込んだ途端、燃え上がる小船。――ノイエ・シュテルンの火船だ。
「バカナ!!」
「ミロャ、ヒトガ出テキタゾォォォォォク!!」 
 一色 仁が現れた! ミラ・アシュフォーヂが現れた! 皇甫 伽羅が現れた! うんちょう たんが現れた!!
「青 野武が現れたっ!!
 ぬぉわはははははは! 目論見通り! 初期放火は成功したぁぁぁ!!」
「こ、黒 金烏が現れた、であります……っと、来たからには、力の限りを尽くすでありますか!」
「さあて、この砦は、ノイエ・シュテルンが頂くでありますぅ」
 付近の門兵がすぐに出てきたが、うんちょう たんが立ちはだかった。
「はあああああ!!」
 一刀両断! と、思いきや、青龍偃月刀……っぽい何かから撃ち込まれる弾丸のあめあられ!
 門から飛び出してくるオーク兵を一掃した。
 火船から燃え移った火は、すでに門の左右へ壁伝いに広がりつつある。
「さあ! これより、橋頭堡の確保だ! ノイエ・シュテルンの総攻撃も、これにかかっている。行くぜ!」
 前線の指揮を執る、一色。
 すぐに、あちこちから、オークが現れ出てくる。
 河水の中ほどで待機する本隊では……
「ジーベック。確かに、火の手が!」
 クレーメック・ジーベックと戦況を見守る香取 翔子。
「……うむ」
 クレーメックの率いる本隊の傍らには、魔法使い・弓兵隊、狙撃隊のボートが次の指令を待っている。





 一方、こちらも自ら船を操り、帆を固定し針路を計っていたマーゼンは、発火装置を作動させ河に飛び込むと、命綱を頼りに、パートナー、アムのもとへ退避した。
「こちらも成功だ」
 マーゼンとアムは素早く、クレーメックらの待つ本隊に合流した。





 砦。
 青の最初の着火作戦は功を奏し?、オーク兵は半ば混乱状態にある。
 逃げ惑うオーク兵を討ちながら、一色達も、火に巻かれない地点を確保して戦う必要がある。
「ミラ!」
「はっ、はい! 仁、皆様、こちらですわ! 女王よ、どうか私達をお導き下さい……」
 火の手の回っていない、高い壁の上に乗り出し、砦の下で戦闘中の一色ら強襲上陸班を狙う、オーク弓兵。
「こちらへ!」
 砦門を少し迂回した中州に突き出る、斜めに曲った尖塔のたもとへ逃げ込む、一色達。
 ヒュンヒュン、ヒュン
 シャンバラ人騎士ミラに宿る女王の加護が、敵弓兵の死角になる場所を選び出した。
 砦の奥から出てきたオーク砦守備隊長が、兵の収拾を行っている。
「ここだったら、正面の敵を防いでいればいい。
 皆、ジーベック達が来るまで、ここを死守するぜ!」
「ぬぉわははは」
「はああ!」





 後方。
「ジーベック。一色達は、橋頭堡を確保!」
「……では、魔法使い・弓兵隊を出す!」
 サーー、と、身軽な動きで砦に接近するクレーメック右手のボート。
 一斉に撃ち込まれる火矢。
 マーゼンとアムが事前に調べ上げたポイントに焦点を合わせ、火術で燃え上がらせるヴァリア以下魔法使い達。
「フッ。なんだ、こんなものか? 敵は反撃の矢も射てないようだな」
 弓兵、魔法使いの前に立つハインリヒは、護衛の役目も回ってこなくて物足りないくらいの様子。
「これは早く終わりそうだな。……さあ早く温泉、温泉。な、ヴァリア?」
「あなたって人は……」





 前線を指揮する、一色。
 青、黒は、外した火船の仮甲板を立てかけ、防壁を作る。更に青、皇甫はガードラインを展開。
「ははははは!」どんと構える、うんちょう たん。
 尖塔の影では、火傷やかすり傷を負った者に、黒が応急処置を施している。更に青、皇甫は、
「皆さん、このあたりで、ティータイムはいかが?」
 どこからともなく、美味しいお茶とお菓子を取り出した。戦地にあってもこうせざるを得ないのは、バトラーの宿命。





「最上階にも、火が燃え移った模様ね。
 ジーベック、火計は成功のようだわ」
「……よし、仕上げだな。狙撃隊、出撃!」
 クレーメックの左手より、今度は狙撃手達を潜ませたボートが、素早く砦に近付く。
 オーク砦に響く、消化を呼びかける声。
 が、それも狙撃の音に消された。
 狙撃隊の護衛に同乗していたケーニッヒだが、
「……ザルーガ」
「わかっているぜ。兄貴」
 ドボン!
 河に飛び込む、ケーニッヒ。敵を破壊に、泳いで突入していく。
「どりゃあああぁっ!!」
「援護はオレに任せろ!! 兄貴は好きなだけ暴れてこいッ!!」
 もう一つ、
 ドボン?
 河に落ちる、昴。敵の殺戮に、うっかり酔い過ぎてしまったようだ。
「主?」
 河に沈んでいく、昴。彼はそのうえ、金槌だった。





 戦況を見守り、指示を与えじっと待機してきた本隊。
 砦が完全に火に包まれると、魔法使い・弓兵隊、狙撃隊が、やがてそこへ合流してくる。
「ジーベック殿」
「……ならば、これより敵の殲滅を開始する。一色らの死守する橋頭堡へ全軍殺到せよ!」



5‐02 激突! 騎狼部隊
 
 アリーセ、グスタフが、急いで、教導団の仲間達が乗れるよう、鞍を整え、更に、投げ縄を用意した。余った騎狼には、ユハラ以下、村を守ってきたシャンバラ人の男性達が乗り込んだ。
 その間、砦の奥に引き下がっているパルボンの代わり、副官のアンテロウプに進言しているのは、
「奇襲と言えば、夜討ち朝駆、と進言しようと思ったのですが、そうもいかないようですね……」
 蒼空学園所属のナイト、菅野 葉月。江戸時代からつづく剣道場の生まれだが、あえて騎士の道を選んだ。パラミタへ来て、修行に明け暮れる日々を送っている。
「そうよなあ。貴殿は、教導団の問題児どもより、真面目そうだの。蒼学から来てくれたわけだな。状況説明をする間もなく、悪かったが、このように、敵がすでに戦闘準備をしていた次第で、いつ攻めてくるかもわからん状態であったからな。それより、せっかく騎士なのだ。騎狼に乗って戦ってはどうか」
「はい! あ、あの。アンテロウプ殿。それから実は、私の押しかけ魔女ことミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)より、もう一つ策が……」





 しばらくもしない内に、浅瀬の中ほどに、霧が発生し始めていた。
「こんな策があったとはな。葉月殿、ミーナ殿!」
「他に魔法使いさんがいなくって……一人でやったから、広範囲とはいかなかったけど……」
 ミーナは氷術で、浅瀬に人工的な霧を発生させたのだ。
 お喋りな彼女も、魔力を消耗し、さすがに無口になってしまう。
「ミーナ? よく頑張りましたよ。あとは僕達に、まかせて」
 騎狼にまたがる、葉月。騎士らしい姿だ。
 ……ゾ、ゾ、ゾゾッ、
 駆けてくる、敵騎狼の足音。
 霧の手前で待ち構える、味方騎狼部隊。
「今だ!!」
 出てくるオークに投げ縄を食らわせ、第一波のオークは次々、騎狼から落ちていった。
「よし! 出鼻はくじいた。あとは、ぶつかるだけだ、行くぞ!!」
 駆ける、イレブン。
「ハッハァー! どきやがれ豚野郎!! クセェんだよ、テメェ等はな!!」
 ここぞとばかりに、暴れるデゼル。ちょっと口調が、パラ実調になっているが。
「……」
 落されたオークを、確実な射撃で、一匹、二匹と、とどめをさしていく、ロブ。これぞ彼の、磨き上げられたシャープシューターのスキルだ。
 アリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)は、騎狼を操り、周囲のオークを狩っている。
「前回と毛色は違いますが、それでも私がやるべきことは変わらないですね。
 ロブが進む道を切り開くだけ」
 衛生兵となるメイベルは、少し離れた後方で、歌を歌っ……てはさすがにいないが、歌うようにして、祝福の魔法(パワーブレス)を詠唱し、皆の戦いを優勢に導いている。
 そしてメイベルに近付く、ナンパオークは、――
「どん!」
 その名も"鈍器で後頭部を狙うセシリア・ライト(せしりあ・らいと)"が、
「許さないんだもん!」
 ――どつき殺す!!
「キャァァァァ」
「イヤァァァァ」
 逃げ散る、オーク第一波。
 やがて、薄れゆく霧を抜け突き進んで来るオーク騎狼隊の中央に、一際巨体で、派手な大将旗をかざした者の姿が見えた。
「ヒャッハァァァァ!!」
 浅瀬のあちこちでオーク騎狼兵と戦っていた味方がそれを向く。
「ヒャッハァ下郎ども! 我こそは、オーク騎狼部隊隊長、元パラミタ実業高校四天王倶楽部所属の怒鳴堵濁酢憤怒一世(どなるど・だっくすふんどいっせい)也! オラオラ、勝負致せ、一騎打ちじゃあ!!」
 凄まじい勢いで、シャンバラ兵、オーク騎狼兵もろともふっ飛ばしながら、こちらへ駆けて来た。
「オーク騎狼部隊隊長、怒鳴堵濁酢憤怒一世……! お気をつけください! 我々シャンバラ人を脅かしてきた、卑劣な悪漢……」
 ユハラ以下、騎狼に乗って従うシャンバラ人は、その特攻に怖気づくが、
「面痴れえ! おいダックス、デゼル・レイナードが相手だ」
 ランスを抱え、デゼルが真っ向から突撃していく。……が。
「ム! 僧侶発見。僧侶を斬るのはたまらねえ! ヒャッハァァァもらったああああ!!」
「くっ。ダックスお前、一騎打ちとか言ってプリースト狙いかよ、そりゃないぜ」
 デゼルの突撃をひらりとかわすと、怒鳴堵濁酢憤怒一世は、メイベル・ポーターめがけて一直線に駆け出した。
「あ、ありえないですぅ〜〜」
 メイベルの前にセシリア・ライトが立ちふさがり、モーニングスターをかまえる。
 盾を前に、葉月が守りに入る。
「オラオラ、邪魔立てするなっ、芽胃辺流! 俺と勝負しろ!!」
「や、やめてくださいですぅそんな当て字はいやですぅ」
 執拗に迷邊留を追い回す、怒鳴堵濁酢憤怒一世。
「ああっ、はあ、はあ……」
「ヒャッハァ、たのしいぜえ、愚ゥ!」
 前のめりになり、騎狼から落下する怒鳴堵濁酢憤怒一世。
 ロブの射撃。更に二発目が怒鳴堵濁酢憤怒一世のモヒカンを貫く。
「卯ゥ、具爬ァァァ。き、貴様、それでも武士かァァ、一騎打ちに手を出すとは卑劣なり〜〜」
「……フ」
 怒鳴堵濁酢憤怒一世を降り向きもせず、クールにキメるロブ・ファインズ。
「怒鳴堵濁酢憤怒一世。あきれ果てた奴……ま、俺たちはあいにく、遊撃隊なんでね」
 騎狼を御して戻って来たデゼルのランスが怒鳴堵濁酢憤怒一世を襲う。が、
「怒鳴堵濁酢憤怒一世、ルケト・ツーレが討ち取った!」
 ばっ、と舞うように。更に騎狼を乗りこなしているルケトの剣が怒鳴堵濁酢憤怒一世をついに仕留めた。
「卯爬ァァァ……仕留めたって、俺、ここで死ぬのか……か、かあちゃん、俺、パラ実を出て、オーク騎狼部隊の隊長にまで出世したんだぜ、ほめてやってくれな。……愚バ!!」
「ようし、敵将は討たれたぞ! おまえ達、まだ向かってくるかあ!」
 ここぞとばかりにカッティ。「いまだッ、突撃ィ! ほーのおよ燃えろー♪(ナパームはないけど……)」
 便乗してユハラ。「や、やったぞ。皆、日頃を恨みを晴らせ、行くぞヒャッハー!!」
「あんた今までどこにいた……」
 シャンバラ人一同。「ヒャッハーーー!!」
 踵を返して、引き返すオーク。騎狼から転げ落ちるオーク。浅瀬のお水と戯れるオーク。
 騎狼部隊は、砦めがけて、一気に突撃していくのだった。



5‐03 奇襲!!

 渡河中の、獅子小隊奇襲班のボート。
「ところで、砦にはランダムトロルが潜んでいるっていう噂が……」
「ふむう。狭い砦だ、そんなに沢山いるということはないと思うが。流言の可能性もあるしな。
 この中で、トロルと戦ったことのある者は?」
「私が。古代の戦にて」
「えぇっ。ローレンスすごい、ちょっと尊敬」
「私も……」
「クリス?!」
「ロシアでトロルを」
 戦いたくて仕方ない風次郎は、それを聞いてうずうずとしている。
「ふっふっふっ」
「レーヂエワ? レーヂエはどウ?」
「ふっふっふ、はっはっはっ。まあ、俺はトロル殺しのレーヂエと呼ばれたこともある男。丘トロルも海トロルも、ケイフトロルもロシアントロルも、皆まとめて仕留めたことがあるぞ。今から、船が対岸に着くまでの間、トロル殺法を、お前達に伝授してやるからな」
「レーヂエわっしょい! レーヂエわっしょい!」
「はっはっはっは」
「レーヂエ殿、対岸の渡河点が見えました!」
「……」
「レーヂエちょっとざんねン……」





 対岸に上陸した獅子小隊奇襲班は、迅速に、行動を開始した。
 無事対岸に達した獅子小隊奇襲班は、早速、防衛班にそれを知らせる。狼煙をあげるのは、イリーナだ。
 クライスは、その場で"ディフェンス・シフト"を展開。全員に、騎士の加護が行き渡った。





 ひた走る、奇襲班。
 対岸に屯する、オークの姿が、ちらほらと、見えてくる。
 突然の側面からの来襲に驚くが、すぐに切りかかってくるオーク兵。
 風次郎、ローレンスらが柄に手をかけるが、やや後方に位置するクリスフォーリルが、スコープによる遠距離把握。確実な連射で敵を撃っていく。
 茂みから、クリスフォーリルを狙ったオークの射手がざっ、と現れるが、すかさず、飛び出したクレッセント・マークゼクス(くれっせんと・まーくぜくす)がその手を薙いだ。「ギャッ」というオークの悲鳴がすぐ後ろに遠のいていく。そして前方に、オーク守兵達のどよめきが聞こえてくる。どれだけの数がいるのだろう、奇襲は果たして成せるのか、いや、成さねばならない。
 オークが構築している、陣営が見えた。
「はああああ!!」
 声を張り上げ、剣を抜き放ったローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が、主のクライスに一歩先行し、一直線に突撃していく。
 オーク精兵達が、こちらに気づき、武器を手にとる。武器のない、工兵らしいオークの姿も見える。
 クライスも、ランスをかまえた。
 同じく先頭を駆ける、ふと風次郎がレーヂエに話しかける。
「……夕飯時にまた会おう。美味い飯が食えることを願ってる」
「むう。ではこれよりは、ただ敵を切り殺すのみ!」





 陣営に達した。
 群がるように、押し寄せてくるオーク、オークの兵、兵。
 刃の打ち合う音が、叫び、呻き、喚声が、むしろその間にできる一瞬の静寂を際立たせるようだ。
 言葉も無く、ただ敵を切り付ける風次郎。三匹、四匹、、七八九匹と切り伏せてゆく。
「退かぬのなら斬り伏せるまでっ!」
 河岸の柵の前に集まっていた弓兵隊には、ローレンスが攻め込んだ。
「私こそは、騎士ローレンス。いざ行くぞ!」
 十数本の矢が射ち込まれるが、一斉射撃は不可能だった。ディフェンスシフトが多数の矢の直撃を逸らした。
 ローレンスは、肩当てと篭手に矢をかすめたが、そのまま弓兵に切り込んだ。弓兵は、次の射撃をできないまま、後退する。
「わかるか、これが仕える者の強さだ。王を探しもせず、閉じこもっているだけの貴様らが、私に勝てる道理などあるはずもない!」
 オークは、すでに及び腰になっている。
 クライスがランスを振るって、建設中の柵を薙ぎ倒している。
「逃げるなら、それでもいいよ! ただ、逃がしてくれるとは思わないでね!」
 左右から、飛んでくる矢はサミュエルが盾で防いだ。その半歩後ろでは、仲間の回復に控えている、花嫁衣装の……
「オォォォ、オンナァァァ! 死ヌ前ニ、オカスオカス!!」
 血みどろのオーク達がたかってきたが、ブン! メイスのフルスイング! かかと落とし、回し蹴り!! スカートめくれるのなんて気にしないよ!!! ぼっこぼこにしてやんよ!!!!
「ワァァァン」かわいそうに、志(?)半ばで死んでいくオーク達。
「悪いな。しとやかな花嫁だけじゃねーんだよっ!」
 純白のドレスに身を包んだ、グリム・アルヴィル(ぐりむ・あるう゛ぃる)。ブン! 尚スカートに手を伸ばそうとするオークに、ひざ蹴り!(※スカートの中はちゃんと穿いていますよ。)
 弩弓兵ヲ集メロ!、という声が響いているが、この乱戦ではおそらく無理だろう。
 奇襲は成功したのだ。
 武器を持たないオーク工兵はすでに逃げ散っていた。
 ただ、ここがオークの本営である以上、時間が経過し混乱が収まれば、数で押さえ込まれるは必定。
 狼煙が昇ってから、十分は経つのか、いやまだ数分に過ぎないのか。
「レオン……早く、私(達)のところに、来て……! レオン。ああ、レオン」
 銃を胸に、祈るような、イリーナの心の声。
 そんなイリーナの背後にそびえる砦の門に、ブオオ……喉を鳴らしながら、おぞましい巨影が現れた。



5‐04 光条兵器

 狼煙が上がっている!
 それからすぐ、オークの投石がやんだ。
「奇襲が始まったようだな」
 こちらは、河岸でオークを防ぐ、獅子小隊防衛班。
 渡河点で、ボートを整備していたレオンハルト、一ノ瀬らは、霧島と月島が死守する近くの長橋防衛ラインに駆け出す。
「霧島!」
 長橋のたもとで身を隠し狙撃をつづけていた霧島がすぐ、レオンハルトらに気づいて、
「狼煙が上がったのは確認済みだ。ボートの準備はできているな」
「ああ。もちろんだ。では、俺達も向かおう」
 月島、行くぞ! 月島……」
「はあ、はあっ……」
 長橋から続々押し寄せてくる敵に、月島は向かい合っていた。
 長橋からの敵は、すでに積み上げられた土嚢を突破し、かなりの数のレーヂエセイバーが、地に横たわり、また、河面に浮かんでいた。
「月島さん!」「月島さん!」
 防衛ラインが突破され、オークが河岸に乗り込んでくる。逃げてくるレーヂエセイバー。
「グヒャヒャ、オンナハケーン!!」
 月島の右手から、カチャリとアサルトカービンが落ちる。
「グヒャヒャヒャ、タマラネエ! モォカンネンシタカネ、オジョォサン? グフフ……オカシテヤルヒャッハー!!」
 だが月島はもちろん諦めてなどいなかった。その表情はいたって冷静だ。
「悠!」
 後方から、傷付いた仲間を救護していた、麻上 翼(まがみ・つばさ)が月島の許へ駆けて来る。
「……翼」
 その翼のちいさな身体が、光に包まれ出す。
 ――剣の花嫁。彼女たちは、古王国で製造された"光条兵器"の守護者である。自らがその体内に眠る武器の使用者が現れるまで、いずこかで眠り続けているという。パラミタへ訪れる少年少女には、その持ち主としてパートナーの絆を結んだ者達も多い。武器の種類は、剣であったり、銃や弓といった飛び道具であったり、中には盾の形状をしたものもあり、様々だ。一説には、持ち主の性質に合わせて決まるとも言われ、またある説は、最初から決められており、武器が持ち主を呼び寄せるのだとも言われているが、……定かではない。
 やがて翼を包むまばゆい光が収まったとき、その両手には、あわく輝くガトリング砲が出現していた。
 右手のそれは、月島に手渡される。そして左手の一方は、翼の腕と半ばより同化している。
 ガトリング砲は、幾分かその銃身に先ほどの光を保ち、さらさらと零していたが、次の瞬間。
 ザガガガガガッ
 立ちすくむオークの群れに向けて、二人のそれが一斉に発射された。
 光の弾丸がオークを薙ぎ払う。

 が、おそらくそれだけでない。長橋に溢れていたオークの軍勢は、浮つき始めた。対岸で、喚声が上がっているのが、かすかに聞こえている。
「奇襲班が戦っているのだ。行くぞ、対岸へ……」





「御鏡殿!」「御鏡殿!」「御鏡殿、ご指示を!」
 敵の攻勢がやむと、長橋攻め担当に任命された御鏡にはレーヂエセイバーが殺到していた。
「……じゃあ、攻めてみるか。もう一度……」
「ヒット&アウェイ!」「ヒット&アウェイ!」
「ああ! まだ、あれだけ敵がいるんだ、突撃はまず……いやぁぁぁ」
 御鏡を先頭に出し、突っ込んでいくレーヂエセイバーの群れ。
「……」

 長橋の南北で、激戦は続く。



5‐05 孤軍奮闘、クルード・フォルスマイヤー!!!!

 さて、ここでまた一度、我々は時を遡って見ることになる。
 これはまだ、騎狼部隊が、獅子小隊奇襲班が、対岸へ達するより遥か以前の話である。





「この砦を預かる大将よ! よく、聞け。
 ……俺は、クルード・フォルスマイヤー……! ……一番強いやつと勝負するために、蒼空学園から出向いてきてやったのだ……さあ、腕に自信のあるやつ、出てくるんだ……俺と一騎打ちをしようではないか……!!」
 ヒャハハハハハ!
 砦壁の上から、オーク兵どもの下品な笑い声が響いた。
「クルード・フォルスマイヤー、ダト?! 知ラン、知ラン、ソンナ名前ワ!! 一騎打チダト? ヒャッハァァァ、オモシレエェェェエ!! 誰ガ貴様ナドド剣ヲ交エタイト思ウカ!! 其処ノ小川デ尻デモ洗ッテナ!」
 ヒャハハハハハ!!
 ここはオーク三乃砦。クルードは、同じく、一乃砦、二乃砦にも奇襲を試みたが、体よく断られたのだった。
「何……くっ」
「クルードさん……!」
「オッ? ヒャッハァァァ、キャワイィィィィィィ!! オイ、クルーゾ? 女ワ置イテッテイイゾ。オ前ノ相手ワ、シテヤランガ、女ノ相手ナラシテヤルゼェェェ、ヒャッハァ!!」
 ヒャハハハハハ!!
「……おのれ! やいオークども、貴様らこそ、その汚い尻、貴様ら自身の血で洗うことになるぞ!」
「ク、クルードさん?! やめてください、何だかパラ実生が言いそうな台詞でしたよ……」
「……ユニ……わかっている。だいじょうぶだ……わざとあいつらを怒らせ、ここへ出てこさせる作戦だ……」
 砦の上の笑い声が消えて、しーーんと静かになった。
「……ははは! オークども。返事どころか、屁の一つも返せぬようだな。俺の勝ちだ! ここにも、俺の相手になるやつはいなかった。……次行くぞ! ユニ!」
 ぎぃぃぃぃぃぃぃ
 オーク砦の門が開いた。
「……ふっ……俺の読み通りだな……はあっ」
 クルードは、月の輝くが如く煌く刀身を抜き放った。
 怒涛! 攻め寄せる、オークの群勢!!
「……さて……一番強い奴はどれだ?……あいつか……ユニ……援護を頼む……行くぞ……【閃光の銀狼】の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!【駿狼】!……終わりだ……月閃華!」