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海上大決戦!

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海上大決戦!

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 譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は、今回の件を訓練になると軽々しく言ったエリザベートに一泡吹かせたかった。そこで作戦決行数日前から海賊船へ行き、船長に頼み込んで海賊の仲間にしてもらったのだ。
 しかし、万が一にも海賊側が勝っては困る。そこで、大和は最下層のトイレに二つの仕掛けを施した。
 調理道具一式として持ってきた大きめの圧力鍋に、カセットコンロのガス管を入るだけ詰め、同じく持参した高火力のカセットコンロで過熱する。余ったガス管はサラダ油’と一緒にコンロの周りに置いておく。加熱によりガス管が破裂し、最終的に爆発が起きる。これが一つ目の仕掛けだ。
 もう一つの仕掛けはこう。持参した掃除道具に含まれる大量の酸性洗剤と塩素系洗剤を混ぜ合わせ、塩素ガスを発生させるのだ。空気より重たいガスが時間差で船内を回るよう、混合は同じく最下層で行う。
 この作戦を成功させるために、大和のパートナーであるラキシス・ファナティック(らきしす・ふぁなてぃっく)は陸に残り、作戦の日時に関する詳しい情報を大和に電話連絡していた。連絡の際には、情報だけ集めておき、大和からの定時連絡を待つという形をとった。
  ラキシスが大和に情報を供給することで、大和は当日のシフト調整を行い、海賊船最下層のトイレ掃除当番になれるよう手配できたのだ。
「うまくいきましたね。仕上げに入りますか」
 無事に仕掛けを終えた大和は、内部破壊を重視し、外部の魔法攻撃から守るため、甲板に出て海賊船に全力でファイア、アイスプロテクトをかける。だがそのとき、最悪の相手に出会ってしまった。
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)とパートナーのシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)だ。
「ふっははは! 変態メガネめ、日頃の恨み、思い知れぇえええ!!!」
 ウィルネストは大和を見つけるや否や、出発前に汲んでおいた海水を床に撒き散らし、雷術を連発する。
「ちょっと待ってください。話を聞いて……」
 大和は次々と襲い来る雷術を必死に避けながら、ウィルネストを説得しようとする。が、あいにくウィルネストは、大和の言うことを聞くような耳を持ち合わせていない。
「知ってたかぁ? 海水って導電率高いんだぜ? イオンの威力、思い知れッ!!!」
 彼は意気揚々と攻撃を続ける。
「雷なめんなよ! サンダーアロー!!」
 たちの悪さではシルヴィットもウィルネストに負けていない。
「ウィールー、ガンバレーですよー」
 シルヴィットはウィルネストに追随する形で戦闘に加勢し、ちょこまか逃げ回りながら火術をポイポイ投げ入れる。
「うわ! シルヴィ、お前ちょっと落ち着け! 俺を狙うな!!」
 それはときにはウィルネストさえ巻き込むが、シルヴィットは気にしない。シルヴィットはさらに・サラダ油・ゴマ油・オリーブオイル・コショウ・七味唐辛子を甲板にまき散らす。
「ほらほら、テメーらどんどん逃げ回りなさーい♪」
 甲板はもうカオスオブカオスである。通りかかった海賊たちも滑って痺れて燃やされて、もう何が何だか分からない状態だった。
「おう、大丈夫かあんた。随分変なのに狙われてんなあ。助太刀するぜ」
 遠くからそう大和に声をかけたのは、やはり海賊の仲間になっている巨漢、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。彼は間合いをおいての射撃を基本戦術としている。
「ああん? 誰だ、おっさん。今いーとこなんだ。邪魔すんならあんたもビリビリさせてやんぜ?」
 ウィルネストがラルクにガンを飛ばす。ラルクはそんなことはお構いなしでウィルネストを狙撃した。
「うお、ちょっ」
 慌てて避けようとするウィルネスト。その足はシルヴィットによってぐちゃぐちゃになった甲板に足を取られ、彼は派手に転んだ。直後、弾丸がさっきまでウィルネストのいたところを通過する。
「あっぶねー。まさかこんな形でシルヴィに救われるとはな。一応礼を言っておくぜ」
「あっはっはー、ドンパチですね、こーれはタノシイですね?」
「……聞いてねえな。ま、いっか。それよりおっさん! いきなり銃ぶっ放すとか、あんた常識って言葉を知らねーのかよ!」
「お前、自分を棚に上げて、よくそんなこと言えるな」
 ラルクの言葉ももっともだった。

 ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)は、海賊に味方する連中に制裁を加えようと考えていた。そんな彼が箒で空を飛びながら海賊船の周りを旋回していると、何者かが海賊と手を組んでウィルネストたちと戦っているのが見えた。
「よもや海賊側につくとは馬鹿な連中だ……その選択がどれほど愚かなことかその身にとくと教えてやる!」
 ブレイズは海賊船に接近する。すると、相手のうちの一人が自分のライバルである大和だということに気がつく。
「パラ実の連中ならいざ知らず、まさか同じイルミンスールの生徒までいるとはな……。この恥晒しが!きさまは僕が手ずから相手をしてやる! 喰らえ!」
 ブレイズは攻撃と目くらましをかねたアシッドミストを放った。
 ブレイズの箒に捕まっていたパートナーのロージー・テレジア(ろーじー・てれじあ)は、この隙に海賊船に飛び降りる。
「例え生徒の方でも……海賊の味方をするのなら容赦はできません……それに、見逃せない相手もいるようですね……」
 彼女は宿敵である大和にまっしぐらに向かっていく。しかし、ラルクの射撃がこれを妨げた。
「おらぁ!! 有り金置いてけや!!!」
「邪魔……」
 まずは遠距離攻撃を排除すべきだと判断したロージーは、盾で弾丸を弾きながらラルクに接近していく。これを支援するのがブレイズのもう一人のパートナー、成田 甲斐姫(なりた・かいひめ)だ。
「そなたらにはそなたらの考えがあるのじゃろう。しかし……敵になるからには当然討たれる覚悟も出来ておろうの? わし等に情けの文字は無いぞよ!」
 甲斐姫は箒で海賊船の周囲を旋回しながら、弓でラルクの腕や武器を狙おうとする。
「おっと、主には近づかせない」
 しかし、そこでラルクのパートナーである超巨漢英霊オウガ・クローディス(おうが・くろーでぃす)がロージーの前に立ちはだかった。オウガは槍でロージーを牽制し、ラルクに近づかせないようにする。
「どいて……」
「そう言われて簡単にどくわけにはいかんな。ふうんっ」
 オウガがチェインスマイトを繰り出す。ロージーはこれをガードするが、あまりの体格差に吹っ飛んだ。
「金を全部置いていったら、命だけは助けてやろう」
 尻餅をついたロージーに、オウガが槍を突きつける。
「おっと、そうはさせんぞ!」
 ロージーを助けようと、甲斐姫はラルクからオウガに標的を変える。
「そいつはこっちのセリフだな」
 これに対して、ラルクはシャープシューターを使い、甲斐姫の放った矢をアーミーショットガンで打ち落とすという離れ業を演じて見せる。
 まさに一進一退の攻防。だが、物語は思わぬ展開を見せ始めた。
 騒ぎを聞きつけて集まってきた海賊の一人がロージーに斬りかかろうとしたときだ。
「危ない」
 オウガが海賊を突き飛ばした。
「きさま、何をする!」
「いやいや。あのまま攻撃していたら、君はこの娘に返り討ちにあうところだったぞ」
「そ、そうなのか?」
 海賊が怪訝な顔でオウガを見る。
「どうしたのじゃ?」
 甲斐姫は、そのどこかおかしな光景に一瞬周囲の警戒を怠ってしまった。その隙を見て海賊が彼女に向かって矢を射ようと構える。すると今度は、ラルクの銃撃が海賊を襲った。
「あ、すまん。よく動くから狙いが逸れちまった」
 さらには隣で弓を引いていた海賊も足ですっころばす。
「おっと、足癖が悪くなっちまった」
 甲斐姫はラルクたちのおかげで危機を免れたことに気がつき、戸惑いを見せる。
「あやつらわしを助けて……? いや、そんなはずが……」
 さすがに海賊たちも異変に気がつき始めた。
「おいお前、わざとやってるだろ!」
「へ! やっと気づいたか!! 敵を騙すにはまずは味方から……だぜ?」
 ラルクが開き直る。それを見てオウガもロージーに手を伸ばした。
「やれやれ……やっと芝居は終わりだな。大丈夫か? あんまり無理はするなよ」
「……どういうことですか」
 完全に反旗を翻したラルクとオウガは、次々と海賊を倒していく。やがて全ての海賊を倒し終えると、ラルクは床に転がっている海賊たちを見下ろして言った。
「パラ実じゃあ裏切りなんてのは当たり前だぜ。騙される方が悪いんだよ」
 勝ち誇るラルクを、オウガはさっさとずらかるよう急かす。ラルクは最後にウィルネストたちの方を振り返った。
「じゃあな、なかなかいい訓練になったぜ!」
 ラルクはオウガとともに海に飛び込むと、手近にあるボートに適当に乗り込む。そして沖へとボートをこぎ出していった。
「パラ実の連中が、海賊の仲間になったふりをするなどという粋なまねを? ありえん……」
 二人の後ろ姿を、ブレイズは納得できないという表情で見やる。そして、すぐに大和を振り返った。
「それに比べてきさまは……」
「違います。俺は、不謹慎な発言をした校長の肝を冷やしてやりたかっただけですよ。最後には海賊の側が負けるよう、仕掛けもしてあります」
「この期に及んでそのような見え透いた嘘を……見苦しいにもほどがあるぞ!」
 ブレイズは火術で大和を攻め立てる。
「俺も参加させてもらおーじゃないの!」
 これにウィルネストも加勢する。
 腕っ節には自信のある大和だが、いくらなんでも多勢に無勢だ。しまいには船縁へと追い込まれる。
「お前、泳げないんだってな?」
 ウィルネストが大和に向かって足を上げる。
「そうですよ。やめてください」
「ふん、悪者に加担した自分を悔やむこった」
「だから誤解ですって!」
 大和は必死に弁解したが、ウィルネストは容赦なく彼を海の中に蹴り落とした。
「うが、ばっ、たすけっ!」
 今にも溺れようとする大和。そこにラキシスが箒でかけつけた。
「大和ちゃん、大丈夫!?」
 ラキシスは大和を引き上げる。
「もう、なんてひどいことするのよ! 大和ちゃんはみんなが勝てるように動いてあげてたのに」
「君までそのような出任せを……」
 ブレイズは呆れたように言う。
「本当だもん! 大和ちゃんは最下層のトイレに仕掛けをしたの。そろそろ爆発するはずよ」
 ラキシスは船室の方を指さす。
「やれやれ……」
 ブレイズがため息をついたその瞬間、ラキシスが指をさした方から爆発音がする。
「ほら! 言ったとおりでしょ」
 訪れる沈黙。
「あはっ! 面白ければなんでもイイよね!」
 シルヴィットが閉めた。