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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

リアクション

 第3章 怪しい執事!? セバスチャンにまつわる衝撃の事実のこと

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 そのころ、校長室では、鈴原 沙希(すずはら・さき)とパートナーの機晶姫トリア・アートルム(とりあ・あーとるむ)が、かいがいしくエリザベートのお世話をしていた。
 (アーデルハイトさんを一撃で仕留めるような恐ろしい相手です。エリザベートさんにもしもの事があってはいけません。傍にいてしっかり守ってあげないと。アーデルハイトさんは甦れても、エリザベートさんはそうはいかないでしょうから)
 そう考えた沙希は、エリザベートの護衛をがんばろうと決意していた。
 「エリザベートさん、お菓子はいかがですか? 紅茶を入れました。お砂糖はいりますか?」
 「沙希様、お茶の淹れ方間違ってます。私がやりますから、沙希様はエリザベート様のお相手を」
 粗相のないよう、トリアがパートナーのフォローをする。
 「なかなか気がきく人たちですねぇ。お菓子おいしいですぅ」
 子ども扱いな感じではあったが、エリザベートはそれには気づいていないようである。
 騒ぎから気を紛らわすためという沙希の心配りであった。
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)も、いざというときのため、遊牧用の大きな笛を用意して一緒に護衛を行っていた。
 「よろしかったらどうぞ」
 「ありがとうございます」
 沙希やトリアの分のお茶を入れて、ケイラが微笑む。
 亡き婚約者の服を着て女装しているケイラだが、心はれっきとした男である。
 「校長室にアーデルハイト様がいなくなってから、事件が起きなくなったね。犯人はアーデルハイト様を攻撃してるみたいで、たまに派手な爆発音が聞こえるけど……エリザベート校長は自分達が守らないとね」
 ケイラが気を引き締めるように言う。
 もっとも、爆発音の原因が学生達にキレたアーデルハイトの魔法と、学生達の大騒ぎに由来するものであることは、ケイラは気づいていなかったのだが。
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)もエリザベートの護衛に参加していた。
 (犯人が本気で殺す気でいるなら、アーデルハイト様のショック死狙いで校長を殺そうとするのでは!? 俺が絶対に阻止してみせる! 犯人が現れたら、雷術を使って、髪をアフロにしてやるぜ! さすがに精神的ショックを受けるだろ)
 少年的な外見で口調も粗雑だが勤勉家であり、一人目前の召喚術士&吸血鬼を目指して日々努力しているアイリは、決意を固める。
 そんな中、プライベート・ディテクティブ、私立探偵であるシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)は、ホームズ役のエリザベートに対するワトスン役として、事件の推理を行っていた。
 (まさかパラミタへ来て最初に扱う事件が『アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件』になるとは……)
 シャーロットは内心、苦笑する。
 イギリスのロンドン出身で、若干12歳でケンブリッジ大学を卒業後、いくつか犯罪事件を解決しており、そのころからプライベート・ディテクティブとして活動しているシャーロットは、インバネスコート姿で、落ち着いた口調でエリザベートに話しかける。
 「エリザベート。犯人は今のところ、アーデルハイトさんを集中的に狙っているようですね。犯人による被害は他の者にはまだ及んでいない様子です」
 パートナーの機晶姫霧雪 六花(きりゆき・りっか)の報告を受け、シャーロットが状況を整理してみせる。
 「シャル。じゃあ、また行ってくるわ」
 「気をつけてください」
 身長20センチのクールな女忍者のような外見の機晶姫である六花が、アーデルハイトの尾行に戻る。
 六花が情報を収集し、シャーロットに報告、それをさらにシャーロットがエリザベートに報告するというスタイルをとっているのである。
 「やっぱり、恨まれてるのは超ババ様だけなんですねぇ。ん? それはなんですかぁ? 子どもがタバコ吸っちゃダメですよぉ」
 シャーロットのパイプを見て、エリザベートが言う。
 「これはタバコではなくハッカパイプですよ、エリザベート。試しに吸ってみますか?」
 そして、シャーロットは嗜好品のハッカパイプをエリザベートに貸し、戻ってきたパイプを再びくわえた。
 「あ、関節キスですね」
 沙希が指摘する。シャーロットもエリザベートも無意識であったのだが。
 「あああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
 望月 あかり(もちづき・あかり)は、その様子を見て絶叫を上げる。
 あかりは、校長先生好き好き全開で護衛していたのだ。
 「ひどい、あんまりだよ! 校長先生の付属品が壊されたって? 許せる! やった、いいきみ! って思ってたけど、校長先生が困ってるから、なんとかしないとって思ってたのに! 私は校長先生と接近するために自重して、服は持って帰らないで、寸法を測るだけとか、写真やビデオは事件があったときにその場でしか撮らない、ただし校長先生だけとか、理性の最終ラインを守るため、校長先生と握手以上の接触が無い様に気をつけるとか、必死で自重していたっていうのに! かかっかかかかかかかかかかかかかかかかかかっかかかかかかっかかかか間接キスううううううううううう!? 校長先生の吸ったパイプにチュー!? 許せん! そ、そのパイプを私にもかしたまえ、ワトスン君!」
 ケイラが思いっきり笛を吹いて叫ぶ。
 「レッドカード!!」
 「やめろ、不審者め! 喰らえ、雷獣の裁き!」
 「ぎゃあああああああああああ!?」
 アイリが、雷術であかりをアフロにする。
 「あかり……いいかげん、キモいですぅ!!!!!!」
 「ええっ、そ、そんな……ぎゃあああああああああああ!? この戦争が終わったら、先生と血痕するんだ……!!」
 あかりは、エリザベートに思いっきりぶっ飛ばされて壁をぶち破って空に飛んでいく。
 しかし、あかり本人としては、愛するエリザベートに倒されるのは本望であった。
 
 「命狙われるような人は校長先生から500m以上はなれて部屋を明るくしてみてね!」
 
 アイキャッチっぽく言うあかりの笑顔が空に浮かんだ。
 「今のはなんだったんでしょう……。パラミタの謎はつきないですね。実に興味深いです」
 シャーロットがつぶやく。