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【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

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【2019体育祭】目指せ執事の星! 最高のおもてなしを!

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お嬢様のティータイム

本物の執事の技をここに

「本物の執事……っていうか、本物のメイドなんだけどね」
 朝野 未沙(あさの・みさ)は振袖姿の月島 悠(つきしま・ゆう)に美味しい紅茶を振舞いながら、くすりと笑った。
 お嬢様役がいないため、幼馴染の悠をお嬢様に見立てて参戦ということになったのだが、悠は未だに美しい晴れ着に慣れないのか、緊張していた。
 丁寧に時間を計って、ティーカップも温めておいた紅茶は素晴らしい出来だったが、悠は心ここにあらずという感じで飲んでいた。
「はい。ショートケーキも作ってきたからどうぞご賞味ください、お嬢様」
「う、うん」
 未沙の勧めに頷きながら、悠はケーキに手を出さない。
 なかなかの自信作なので、ちょっと残念な思いのした未沙は幼馴染をつついてみることにした。
「ケーキに興味ないの、悠? それとも、翼が言ってたみたいに、佐野さんに、あーんされたほうが良かった?」
「っ!?」
 驚きのあまり、悠はティーカップを落としかけ、顔を真っ赤にした。
「た、た、食べるよ」
 悠は慌ててフォークを取り、ショートケーキを口に運んだ。
 しかし、慌てすぎたのか、頬に生クリームがついてしまった。
「悠お嬢様、ほっぺにクリームが付いてますよ」
 頬についたクリームを、未沙がペロッと舐め取ってあげる。
「きゃっ」
 思わず女の子らしい悲鳴を上げた悠を見て、未沙は楽しげに笑うのだった。


 椎名 真(しいな・まこと)は蒼空学園の生徒だが、双葉 京子(ふたば・きょうこ)の執事として、ずっと過ごしてきた人物であり、他のクラスもすべては執事として護る力を得るための鍛錬という筋金入りの執事だ。
 だからこそ、これまで執事として学んできたものを発揮したいと思い、この体育祭に参加したのだが、真は執事としてのプライドを持ちつつも、謙虚だった。
「他の人の執事としての仕事ぶりを見て、学べることがあったら学びたい。そして何よりも第一にお嬢様に喜んでもらいたい」
 真の今日のお嬢様はヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だ。
 お嬢様役のヴァーナーは、真に好みを伝え、ニコニコと信頼しきった顔で真を見ている。
「真おにいちゃん、がんばって」
「はい、お嬢様」
 真が一礼をして、顔を上げると、京子と目が合った。
「真くん、今の主は私じゃなくて、ヴァーナーさんだよ♪」
 京子が真に向かって小さく笑うと、真も微笑を返して、準備を始めた。
 今日のお嬢様はヴァーナー。
 しかも、信じ切って自分に全部を任せてくれている。
「今の自分に出来ることを、いつも通りに……!」
 真は心を決め、テーブルメーキングを始めた。
 ヴァーナーの好みに合わせた、パステルピンクのテーブルクロスを、用意された机にかけ、ティーセットもそれに合わせたものにした。
 マンゴーが好きなヴァーナーのために、セイロン紅茶に果汁を加えて、フルーツ紅茶を作るべく、果物を用意し、ちょっと剥きづらいマンゴーを自ら剥いて絞る。
 その間も、お嬢様であるヴァーナーを飽きさせないように、京子がお相手をした。
「そう、ヴァーナーさんは蜂蜜ドーナツが好きなの」
「うん! あげたてのはちみつドーナツは、ほんとうにおいしいのです!」
 ニコニコと笑顔のヴァーナーに、京子も思わず笑みがこぼれる。
(素敵なお嬢様だな、ヴァーナーさんって)
 京子は話しながらそう思っていた。
 元々は、女性の方がヴァーナーも話しやすいだろうという真の配慮と、ヴァーナーの好みを京子が真に伝えるためにお相手をということだったのだが、そんな事情は抜きにして、京子はヴァーナーと話すのが楽しくなった。
 それだけ、ヴァーナーが、明るくて魅力的な女の子だということだ。
 楽しそうな京子を見て、ヴァーナーも笑顔になり、京子にぎゅっと抱きついた。
「真おにいちゃんが大すきな、かわいい京子おねえちゃんと、こうやってお話できてうれしいのです」
「私もとってもうれしいよ」
 抱きついてきたヴァーナーを、京子がむぎゅーっと抱き返す。
 お嬢様というよりも、無邪気な妹を可愛がるように、京子はヴァーナーに接した。
 そんな風に仲睦まじくする間に、真お手製のはちみつドーナツが出来あがった。
「さあ、どうぞ。蜂蜜も先日取ったばかりの新鮮なものでございます」
「わあ♪」
 喜ぶヴァーナーの前で、真は紅茶を高い位置から綺麗に注ぐパフォーマンスも見せ、ヴァーナーは「すごーい!」と褒めたたえながら、ぱくっとはちみつドーナツを食べた。
「おいしいー!」
 ヴァーナーは目を輝かせ、京子にもそれを勧めた。
「京子おねえちゃんもたべて、たべて!」
「う、うん」
 お嬢様役でない自分が食べていいのかなと、一瞬、躊躇した京子だったが、お嬢様の求めに応じ、口に入れた。
「ん……おいしい」
「おいしいよね! こんなにおいしいものを心をこめて作ってくれるなんて、京子おねえちゃん大事にしてもらってるんだね」
「え……」
 ヴァーナーの何気ない褒め言葉に、京子が頬を染め、同時に真も頬を染める。
 こういうときに、本当に自分が真の主なら……と願う京子だったが、今は競技に集中しようとその考えを頭から振り払った。
「紅茶もとってもおいしいのです。真おにいちゃんのおもてなしは最高です」
「ありがとうございます、お嬢様」
「おもてなしって、あいてがよろこんでくれるのがいちばんだってききました。だから、京子おねえちゃんと真おにいちゃんがこうしてやさしくしてくれるのは、とてもうれしいから。ほんとうにステキなおもてなしだって思います」
「ヴァーナーさん……」
 京子はうれしさのあまり、ぎゅっとヴァーナーを抱きしめた。
 ヴァーナーは京子にぎゅっと抱きつき返し、頬にちゅっとキスをして、感謝を表したのだった。