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第3章 泉の平和を取り戻そう

 泉周辺の調査隊とも別行動をとり、森を進んでいた面々。
 タイヤ痕の先……泉から見て村とは反対方向に、パラ実生のたまり場を発見した。
「依頼書を見て村に集った他校の連中1人、蒼空のマリエル・デカトリースは、歌声の主はモンスターではないかと疑っていた。歌声の主が魔性の歌の使い手なら、パラ実の生徒達は虜になっているのかもしれない。自由に操れる僕(しもべ)を手に入れた声の主は歌うのを止めた。僕を使う事で、自らが欲する『何か』を泉に注ぎ込ませる事ができるからだ。また、それと同時に村人の余計な介入を防ぐために、僕になったパラ実生徒を使い、村人の泉への接近を阻止している。そう考えると結構筋が通る気もする」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)が、行動をともにしていたサルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)に自分の仮説を話す。
 しかし見た感じ、どのパラ実生達も虜にはなっていなさそうだ。
「武尊はここで待機を……」
「あぁ、頼んだぜ」
 サルヴァトーレに促され、武尊は軽く頷く。
 真相は明らかにしたかったが、面倒ごとには関わりたくなかった。
「村人が学生を雇ってパラ実生を追い払おうとしている」
 パラ実生達の前へ歩み出ると、唐突に話し始めるサルヴァトーレ。
 まずはパラ実生達に有益な情報を与えて、信頼を得ようという魂胆だ。
「もし正面から戦っては、生徒の数に押されるだろう。お前達の目的を実現するために一度生徒と交渉をしてみないか? 少なくともお前達がやろうしていることの時間稼ぎにはなるだろう」
 さらにサルヴァトーレは、パラ実生達への配慮を見せる。
「お前等、なぜ俺達に協力するんだ? 何か企んでんのか?」
「同じパラ実生として協力するのは当然だろう?」
「ちっ……信じるぞ」
 近附いてくるパラ実生達に対して、サルヴァトーレは口許を緩める。
 実は表向きの回答なのだが、これで納得するなら世話はない。
 仲良く握手をして、話し合いの実現が決定した。
「ちょうどよいところに……ヴィト、後は任せる」
「はい、サルヴァトーレ様」
 パートナーのヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)が到着すると、サルヴァトーレは立ち位置から退く。
 サルヴァトーレ自身は会談の成否など問題にしておらず、むしろ実現すること自体にメリットがあると考えていた。
 仮に成功すれば、会談を実現した人間として名声を得ることができる。
 また失敗したとしても、交渉に参加していないパラ実生が行動する時間を稼げるので、パラ実生には恩を売ることができる。
 どちらにしても、サルヴァトーレにとっては美味しいことこの上ない話なのだ。
「……連絡完了です。では参りましょう」
 話し合いを望む幾人かの生徒達と、事前に連絡先を交換していたヴィト。
 相手方に、『村と泉の中間地点で互いに武装解除して会談を行う』とメールを入れ終えて。
 パラ実生達の代表者を連れたヴィトも、サルヴァトーレと武尊とともに会談の会場へと向かった。

「会談の前に武器は預けて頂けますか? 非武装と言うことを見せれば相手の譲歩も得やすいでしょう」
 現場にはすでに、依頼を受けた生徒達の代表が到着していた。
 予定より少ないことを気にしつつも、ヴィトはパラ実生達から武器その他を集める。
「問題はココだった。どうも、話し合いをするより黙らせた方が手っ取り早いと判断している節がある……非武装だと村人と同じ仕儀になりそうだと考えていたのだがな」
 しっかり武装して、パラ実生達の前へと姿を現したルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)
 ヴィトの行動に感心し、自分も武器をパートナーへと預けた。
「ルイス・マーティン。騎士です。村人から事情を聞いて交渉に来ました。そちらの状況を聞きたい」
 不穏な空気が流れるなか、1人のパラ実生が歩み寄ってくる。
 身構えるサクラ・フォースター(さくら・ふぉーすたー)グレゴリア・フローレンス(ぐれごりあ・ふろーれんす)を、ルイスが制止させた。
「……何を企んでいるのかは分からないが、ドージェ信仰者かもしれない……彼らが相手なら容赦はなしだ……二度と悪巧みをさせないようにツブしてやる」
 ルイスの後方、茂みの中に隠れている鬼崎 朔(きざき・さく)も制止を受けた1人。
 ドージェ信仰者を憎むとともに、パラ実生徒を更生させることを今回の目的としていた。
 だからこそ会談という手段に賛成し、【隠れ身】を使って静かに様子を見守っているというわけだ。
「村人が歌を聴きたがっています」
 襲ってくる気はないと判断して、ルイスは交渉を始める。
 しかし1つめの指摘を聞いたパラ実生達は、けらけらと笑い始めてしまった。
「前提として、『様子を見に行ったら身包み剥がれた』という事実があるわけですか。単純に言って、強盗行為です。身包みはぐ、は賠償が必要なことですよ」
 2つめの指摘には、『ぬれぎぬだ』という主旨の弁解をしてくるパラ実生。
 まぁ後方のパラ実生達が笑い続けているので、嘘なのだろう。
「村人は現在立ち退いて欲しいと思っているが、基本的に没交渉なのでそちらの事情が判りません。よーするに話し合いの場を持て、ということだ。てーか仲良う付き合っていく気があるのならお隣さんに挨拶にぐらいはこんか!」
 言葉の最後の辺りでは、怒りも露わにするルイス。
 その迫力に、パラ実生達の笑い声は止まる。
 というか、気圧されて逃亡を図ろうとする輩が出てきてしまった。
「待つんだ、逃げるなんて俺は許さないぜ!」
 それまで朔と一緒に茂みの中に隠れていたロボ・カランポー(ろぼ・からんぽー)がパラ実生の前に立ちはだかる。
 パートナーであるルイスの顔に泥を塗ることはできないと、勇んで出てきたのだ。
「カリン、スカサハ、頼みます!」
 朔も光条兵器を構えて、ロボの隣へと姿を現す。
「はいは縲怩「、ボクにお任せだよ!」
「了解であります!」
 呼ばれたブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)も、瞬時に朔とロボとは反対側へ。
 4人で、パラ実生達を囲い込んだ。
「このまま交渉を中断するというのであれば容赦はしないのであります!」
「逃げるなんて卑怯だもん!」
「うるっせぇ、こまけぇことはいいんだよ!」
 スカサハとブラッドクロスの言葉に、反発するパラ実生達。
「人に言えないことしてんじゃねーぜ!」
 武器を預けた状況、武装した者に囲まれては逃亡の芽もなく。
 ロボの一言に折れたパラ実生達は、チャンスを探りながらの交渉へと戻った。