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約束のクリスマス

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約束のクリスマス
約束のクリスマス 約束のクリスマス

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11.パーティ料理を作る

 そのころ、孤児院の台所はパーティの準備で大忙しだ。
 台所には様々な地元の食材が用意されている。

羽高 魅世瑠(はだか・みせる)が子供たちと準備したカモ肉。
吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が蟻の巣から持ち帰った卵
朝霧 垂(あさぎり・しづり)が森の罠で仕留めた小動物(兎やネズミ)
色即 是空(しきそく・ぜくう)が森で集めたきのこ
カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)が連れてきた牛の乳。
棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)が畑仕事の合間に見つけた野草



 まだ10代になったばかりの美しい少年浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は、パートナーの獣人アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)と共に、集落を見て回っている。
 既に畑が耕され、遊具のある公園が出来ていた。
「孤児院、ねぇ・・・恐らく私とそう年も変わらない子が普段がどんな食事を取っているか、気になります」
 イルカの獣人アリシア・クリケット(ありしあ・くりけっと)は人混みが苦手だ。
 活気のある孤児院に入る前に周辺を歩いて、心の準備をしている。
「何の料理を作ろうかな?」
「私は・・・料理は・・・」
「翡翠君の代わりに私が、お料理をするよ。作るお料理は大人数でも大丈夫そうなお鍋が良いかなぁ…?食材ないかなぁ?」
 畑の周りを見回す。
 農具の手入れをしている亞狗理と出くわした。
「何を探してるのかのう?」
「クリスマスパーティに鍋を作ろうと思って・・」
「さっき、罠に大きなネズミがかかったと大騒ぎしてたのう、台所に行けばいろいろあるぞ・・・」
 亞狗理は麻袋から草の束を取り出す。
「今朝取った野草じゃき、使ってくれ」
「ありがとう!」
 笑顔で返すアリシア。
「勇気を出して、いってみる!」
 二人は、賑わう孤児院に向けて駆けてゆく。

 台所に用意された食材を手ごろな大きさに切って、鍋の準備をする二人。
「ネズミとカモ・・・両方入れる?」
「カモだけが無難と思いますが」
 肉の塊を前に悩んでいる。



 百合園七瀬 瑠菜(ななせ・るな)の実家は老舗料亭だ。
 板前仕込みの和食の腕はかなりのもので、洋食も大抵の家庭料理レベルなら問題なく作れる。
 特に何を作ると決めてこなかった瑠菜は、他のお料理のラインナップを見て、白米おにぎりを作ることにした。
 米は誰が運んできたのか、俵である。

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が作ろうとしていのは、パンだ。
 小麦粉やパンのレシピなどを用意している。

 瑠菜とミルディアは混んでる台所を避けて、外で料理しようと考えている。
 幸い、屋外には洞窟でナガンが作った長テーブルと椅子が置いてあり、洒落たテラスのようになっている。
 廃屋から拾ってきたドラム缶を置き、簡易かまどを作る。
 その作業が面白いのか、子どもたちが寄ってきた。
 かまど作りが終わると、今度は調理だ。
 瑠菜はご飯を炊く。
 数人の子どもたちが水をくんでくる。
「水が透き通るまで、研ぐんだよ。白い水も捨てちゃだめだよ、後で食器を洗うときに使うからね」
 瑠菜の言葉に頷く子どもたち。
  シャッ、シャッ、シャッ、シャッ、
  シャッ、シャッ、シャッ、
  シャッ、シャッ、
  シャッ、

 子どもたちの米を研ぐ音が心地いい。

 ミルディアのパン作りは、小麦粉を練るところから始まる。
 強力粉とドライイーストと塩、マーガリン、さとうは自宅から持ってきたものだ。
 牛乳は、カリンが連れてきた牛の乳を使った。
 材料を合わせて練る。
「はじめはぐちゃぐちゃだけど、粉がまとまって生地になったら、叩きつけたり丸めたりたたんだりして、表面を滑らかにするんだよ♪」
 ミルディアの言葉に頷く子どもたち。
  パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、
  パンッ、パンッ、パンッ、
  パンッ、パンッ、
  パンッ、
 こちらの音も規則的で気持ちがいい。

 かまどに大なべを乗せ、研いだ米と新しい水を注ぐ。
 かまどに火を入れる。
 後は火加減に注意しながら米が炊き上がるのを待つだけだ。
 パン生地は、ラップに包んでかまど近くに置く。暖かい場所に置くことでパン生地の発酵が始まる。
「あとは私たちが見てるから、みんな遊んでおいでよ」
 ミルディアと瑠菜は、椅子に腰掛ける。
 ココが孤児院内に走っていった。しばらくすると、暖かい紅茶を持ってくる。
「ありがと!」
「どういたしまして!」
 少し年長のココは、きれいな言葉を使うようになっている。



 シャンバラ教導団の林田 樹(はやしだ・いつき)はパーティということで、軍服は着用していない。
「だからといって、何でこの服なんだ」
 パートナーのジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が用意した服は、ひらひらふりふりのサンタドレスだ。
 過剰なまでのフリルと短めのスカートから見える愛らしいフリフリもすべて、ジーナの好みで揃えられた。
 ドレスの上からは、これまたフリひらエプロン、頭に小さなサンタ帽のぱっちん止めをつけている。
「林田様、似合います」
 サンタ風メイド服を身につけたジーナは、ほれぼれと樹を見ている。
 大人の美女である。
 かわいらしさだけではない。
 樹が作っているのは、サラダだ。
 レタスをちぎって乗せ、ゆで卵とトマトを切って乗せ、ツナ缶にマヨネーズを混ぜて最後に飾る。
 特に難しい作業ではない。
「おーい、持って来たぞぉ」
 やってきたのは蟻退治に出かけた吉永 竜司だ。
 大きな布袋からごろごろと蟻の卵を出してくる。
「命がけで持ってきたんだ、うまくやってくれ!」
 卵をおくと、まだ部屋に戻っていく。

「卵か、そういえば教導団のサバイバル訓練では、生で食べたなぁ」
「林田様、生は危険です」

 ジーナは、時間と手間のかかるブッシュ・ド・ノエルを作っている。
 元となるパネトーネはすでに準備済みだ。イタリアの伝統的なお菓子パン、パネトーネは賞味期限が長い。
 ケーキが残っても、後から食べることが出来る。

「ん?アリの卵の調理法?元々の味が豆乳っぽいから、クリームコロッケ風に揚げてしまえば良いんじゃない?」
 人が多いため、火を使わない料理と火を使う料理は場所を分けている。
 ありの卵を手に思案している樹を見て、飛んできたのはパートナーの英霊緒方 章(おがた・あきら)だ。緒方洪庵といったほうがなじみがあるかもしれない。
「かして、僕がやってみるよ」
 唐揚げを作っていた章は、揚げ油を利用して卵を料理するという。
 章は、樹の指に目をやる。
「い、樹ちゃん、大丈夫?」
「ああ、っつ・・、指を切ってしまった」
 すっーと唇を指に寄せる章。
「もう大丈夫だよ」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー!!」
 ジーナが二人の間に割って入る。
「あんころ餅!どさくさに紛れて何を!!林田様から離れろです、しっしっ」
「俺をあんころ餅というな、カラクリ娘!」
「何ですって!」
 二人は樹をめぐる恋のライバルなのだ。
 今度は、樹が割ってはいる番だ。
「皆が見てるぞ、それにジーナ、ケーキはコンテストをするらしいぞ」
「コンテストですか?」


12.ケーキの祭典

 イルミンスールの瓜生 コウ(うりゅう・こう)は、大鋸を探していた。多くの人が集まっている。孤児院とされた廃屋はかなり広く、もとは豪農の住まいだったようだが、手狭に感じるほどだ。
「なんか、ケーキが多いな」
 持ってきた荷物を解いてパーティの準備をする瀬蓮たちと、かまどでの作業を終えて昨日完成したばかりの遊具で遊ぶ子供たちを交互に見て、コウはひらめいた!

 少し高い台に立つと大声を出す。
「ケーキコンテストをやるよーー、ケーキ作る子、おいで!外の子供たちも集まれ!」

 パーティでケーキを作る予定なのは、ブッシュ・ド・ノエルを作るジーナ・フロイラインのほかにも数名いる。


 晃月 蒼(あきつき・あお)は、粉と格闘している。愛らしい容姿はいかにも料理が得意そうに見えるのだが。
「レイ、まとまんないよー」
「蒼様は何を作ってるのですか」
 ナイスミドルな守護天使、レイ・コンラッド(れい・こんらっど)は自前のエプロンをして、鍋の中身をかき混ぜている。
「レイこそ、何作ってるの?」
「ホワイトソースです、蒼様。台所の牛乳を使っております。私は子供の好きなグラタンやシチューを作ろうかと・・・蒼様、もう一度材料を確認して・・・」
「解ってる!」
 蒼が作ろうとしているのは、モヒカンの付いた大鋸の顔型ケーキだ。
「難しくても、一人で頑張るぞー」
 意気込みだけはあるのだが・・・
「おや、ケーキを子供たちと作るようですよ。蒼様、私がお手伝いしないで大丈夫ですか」
「だ・い・じょうぶ!」
 集合をかけられて、コウの元に走ってゆく蒼。


 料理が苦手な百合園女学院の橘 舞(たちばな・まい)もケーキ作りをしている。蒼と違うのは、土台は購入済みというところだ。
「ケーキはつくったことないので不安・・・デコレートだけしようかな」
 呟く舞に、パートナーのシャンバラ人ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が激しく同意している。
「すっごく正解だけど、デコレートでも不安だわ」
「飾るだけよ?」
「忘れたの、あのサンドイッチを!マスタードを塗っただけのサンドイッチを作って被害者を悶絶させた前科を!」
「・・・」
 ブリジットは自分のセンスに自身がある。
「デコレートのコンテストがあれば、私が一番なんだけどっ!そうよ!パティシエも脱帽するような芸術的なクリスマスケーキを完成させるわ!」
 ブリジットも舞を引き連れて、コウの元に駆け寄った。

 他に瀬蓮と小鳥遊 美羽のケーキを作る。

 蒼のケーキ作りには、器用な男の子エナロと数学的なセンスのあるテアンが手伝いにきた。
 味はともかく、とてもリアルな大鋸の顔が出来上がってゆく。
「問題はモヒカンよ」
 蒼の一言で、皆はモヒカン作りに没頭する。
 飴を溶かしてモヒカンの形に成形する。器用な男の子たちの仕事だ。
「もっと尖っていたほうが、ワンちゃんらしいかな!」
 蒼のダメだしで、超立体的なモヒカンが出来上がった。
 顔型ケーキの上に、モヒカンを立てる。
 毛には色のついたチョコや飴を細長く切って、飴細工のモヒカンに貼り付けてゆく。
「リアルすぎる・・・」
 蒼が喜びの声を上げる。
 エナロが、ペロッと生クリームを味見する。
 テアンも、ケーキ生地を少しだけ削り取る。
 顔を見合わせる二人。
「食べないで、飾っておきたいな」
「岩みたいだ」
 二人は同時に声を上げた。


 ジーナのブッシュ・ド・ノエルには、チエとヴァセクが手伝いに来ている。二人とも小柄でとてもおとなしい。
 手間のかかる土台はジーナが作り、飾り付けを子どもたちに頼むことにした。
 しかし、二人とも黙っていてなかなか作業を始めない。
「上手に作る必要はないんです。楽しく作りましょう。だいたい、ワタシの作るものは間違いなくおいしいんですっ!」
 どんと生クリームを土台に盛るジーナ、
「さあ、はじめますよ」
 二人も作業を始める。ジーナのペースが良い意味で子どもたちに活気を与えた。

 橘 舞のケーキは土台は市販品だ。
 舞とブリジットはイチゴやブルーベリー、グランベリーなどの果物を沢山持ってきている。
 レッテが手伝っている。
「どうすんだ?」
「好きにしなさいよ」
 なぜか、ブリジットは好戦的だ。本当はあまり来たくなかったらしい。
「たべちゃだめ・・・」
 好きにと言われたレッテは口いっぱいにイチゴをほおばっている。
 ブリジットは、蒼たちが飴細工を作っているのをみて、ひらめいた!
「私たちも作るわよ」
 生地と生地の間に薄くきったイチゴを重ね生クリームで飾る。
 ここまでは普通のケーキだ。
 飾りを飴細工を使って、立体的に仕上げてゆく。
「私たちはお嬢様だもの、お嬢様といえばリボンよ」
 ブリジットの独断で、リボンがつみあがるモチーフが生まれた。
 舞が溶けた飴に、刻んだイチゴやブルーベリー、グランベリーを混ぜ込んでいる。
「おいしい飴になると思うわ」
 笑顔の舞だが、味はどうなのだろう。
 おいしいのだろうか?

 多くの子どもが集まっているのは、瀬蓮と小鳥遊 美羽、それに助っ人で早川あゆみが手伝う巨大ケーキだ。
 なぜ三人でというと、とてつもなく大きいからだ。
 瀬蓮と美羽が両手をつないだ輪より大きい。
「こんな大きいものがあるんですね」
 あゆみがびっくりしている。
「ヴァイシャリー一番のケーキなんだよ」
 美羽がちょっと照れていう。
 既に飾りは出来上がっている。ヴァイシャリーの町並みがケーキの上にあるのだ。
「これをアレンジするの」
 瀬蓮は勢いよく、水路に緑のゼリーを流し込んだ。
「この孤児院周辺って、こんな感じかな」
 この一言で、ケーキの上は大騒ぎになる。
 ステッキを持った紳士にはモヒカンが植えられ、ドレスを着た淑女の顔には刺青、ゆるスターも当然モヒカンがつく。瀟洒な屋敷の窓にはどくろマーク、店の名前は全て怪しげな漢字の羅列に書き換えられた。
 瀬蓮が子ども達の勢いについていけず、ケーキを取り巻く輪から弾き飛ばされた。
「波羅蜜多って楽しそう・・・いいなぁ」
 瀬蓮のつぶやきにあゆみは苦笑している。
「なんかコンテストって感じゃないですけど、大丈夫かしら」
「全部一等でいいですよね」


「瀬蓮ちゃんは、オルガンは弾けるの?」
「少しだけね」
「じゃあ、練習しましょう、後でアイリスさんを驚かしてあげるのはどうかしら」
 輪から外れた二人は、そっと部屋を抜け出す。