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学生たちの休日2

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学生たちの休日2
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1.キマクのモーニング
 
 
 赤と緑のクリスマス飾りが窓際を飾る喫茶店「機人三原則」の店内は、香辛料の香ばしい香りにつつまれていた。
「皆様、今日は集まっていただき、まことにありがたく存じます」
 店の主である楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)が、厨房に集まった女性陣を前にして話し始めた。今日は、彼の店を貸し切り状態にして、料理教室を開催しているのだ。
 テーマは、カレーライスだ。
 キマクの外れに彼が店を開いたのは、各校の生徒たちの親睦をはかりたいと思ったからだ。特に、パラ実生としては、ともすれば他校とは対立することが多い。それではいけないと、楽園探索機フロンティーガーは、常々考えていた。
「料理を作る上で、大事なことが三つあります。一つは、持てる『知識』をフルに活用すること。次に、『美味しいモノを食べたい』、『美味しいモノを食べさせてあげたい』という、熱き『心』。最後に、多少の失敗は恐れない、闘う『勇気』。すべてが一つになったときこそ、『究極のメニュー』が完成するのです」
「おおー、パチパチパチ……」
 ドロシー・プライムリー(どろしー・ぷらいむりー)が、ちょっと外れた音で拍手を送る。
「では、まずはお米から研ぎましょう」
 そう言うと、楽園探索機フロンティーガーは、白米の入ったステンレス製のボールに水を入れ、自らの右手を突っ込んだ。ウィ〜ンという音とともに、右手が回転を始める。ともすれば、白米が砕けて糊になってしまいそうに見えるが、そこは絶妙に速度調整していた。
「しゃかしゃかなのだ」
 炊飯器の内釜に入れた白米を一生懸命に研ぐドロシー・プライムリーではあったが、長い爪の間に米粒が入って、早くも悪戦苦闘している。
 ザルに盛った白米を水にさらして米を研ぎ終わったことにしたアイシア・ウェスリンド(あいしあ・うぇすりんど)は、ビールジョッキで水を量って白米とともに内釜に入れると、さっさと電子炊飯器の蓋を閉じた。
『ボタンを押してください』
「この機械、何かしゃべってますです!」
 とっさに身構えて叫ぶ。
「それは……、そういう機械だ……。早く……炊飯ボタンを押さないか」
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が、ちょっと呆れたように言った。
 アイシア・ウェスリンドはいつも料理は作っているのだから、この際、料理の完成度は別としても、調理器具の使い方ぐらいは知っているだろうに。
「でも、お釜といったら、竈の上の穴に鉄鍋をおいて……」
「いつの……時代の話を……している!?」
 他のパートナーたちが、そうそうに彼女に料理を教えることを諦めたわけだ。
 頭をかかえつつ、クルード・フォルスマイヤーは炊飯器のボタンを指でさし示した。
「わあ、火を使わないでもいいんですね。嬉しいです」
 にこにこしながら、アイシア・ウェスリンドはボタンをぽちぽちと押した。モードが切り替わって、おかゆモードになったのだが、それには気づかない。
「しょーりしゅりっと。ジャガイモさんが、むけましたぁ。ああ、そうそうですぅ。ちゃんと芽は取らなくてわぁ」
 落ち着いた手さばきで、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は野菜の皮むきをしていった。包丁でジャガイモの皮をむき終わると、切っ先で芽をえぐり出していく。
「あああ、危ないんだ。そこは、包丁のおしりを使うか、ピーラーの出っ張りを使うんだもん」
 その様子を見守っていたセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が、思わず身を乗り出した。
「まあまあ。大丈夫ですわよ。メイベルだって、しっかり丁寧にやっていますもの。わたくしたちは、今日は見守ると決めたのですから、落ち着いてできあがるのを待ちましょう」
「でも、さあ……。ああ、ジャガイモ落とした! もう、大丈夫かなあ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)になだめられつつも、セシリア・ライトは、はらはらしっぱなしだった。
「さあ、斬ることなら私に任せてください。あれっ、包丁は……?」
 危なげに炊飯器をセットしたクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)ではあったが、具材の下ごしらえの時点でちょっと躓(つまづ)き始めた。
「……なかなか女の子たちもがんばっているな」
「そうだね。クリスもちょっと心配だったけど、うまくやっているみたいだ」
 内心はらはらしながらも、努めておとなしく調理の進行を見守っているユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)の言葉に、神和 綺人(かんなぎ・あやと)は素直にうなずいた。
「……そうならいいんだけどな」
 不吉な胸騒ぎを感じて、ユーリ・ウィルトゥスはクリスの方を振り返った。
「大丈夫です。大は小を兼ねますから。待っててくださいね」
 すらりとライトブレードを抜くと、クリス・ローゼンはいたいけなまな板の上のニンジンさんに対して容赦なく振り下ろした。
 スパッ!!
 見事に、ニンジンが真っ二つになる。まな板とテーブルごと……。
 ささえを失ったニンジンやジャガイモが、ころころと床に転がった。
「……ぶわっ、ぶぅわっかぁものー。何をやっている!」
 足許に転がってきた食材を見て、ユーリ・ウィルトゥスは叫んだ。思わず、そのまま客席から厨房の方へと駆け出していく。
「ああ、ユーリ……。もう、しょうがないなあ」
 引き留めそこなって、神和綺人は思わず苦笑した。
「……何をやってんだ、まったく!」
「てへっ」
「……てへっじゃない、てへっじゃ」
 照れ隠しするクリス・ローゼンに、ユーリ・ウィルトゥスは怒鳴った。
「今度はうまくやります」
 クリス・ローゼンは、床からジャガイモを拾いあげた。
「台がなくなってしまいましたけど、何とかします」
 そう言いながら、クリス・ローゼンはジャガイモを上に放りあげてライトブレードを構えた。
「ソニックブレ……」
 ごす!
「いったぁいです」
 いきなり頭を叩かれて、クリス・ローゼンが寸前でソニックブレードを止めた。もし最後までやっていたら、今頃は厨房の天井が吹き飛んでいただろう。
「当店では、破壊活動は禁止事項です。三原則は、お守りください」
 スリコギを持った楽園探索機フロンティーガーが、クリス・ローゼンに言った。顔はいつものように表情が分からないが、ちょっと怒っているようだ。
「ごめんなさい」
 しゅんとするクリス・ローゼンに、怒る立場であったユーリ・ウィルトゥスが間に入って謝罪するはめになる。結局、クリス・ローゼンは、金床とペディナイフを支給してもらってちまちまと調理を続けることになった。
「ふう、死ぬかと思った」
 クリス・ローゼンが叩き斬った物の隣にある調理台の下で、鬼崎 朔(きざき・さく)がほっと安堵の息をついた。隠れ身で姿を隠していたのだが、次は自分ごと真っ二つにされるのかとヒヤヒヤしていたのだ。
「よし、撮影続行よ」
 鬼崎朔は当初の目的を思い出してビデオカメラを構えた。彼女の目的は、パートナーであるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)がけなげに調理する姿を記録映像に残すことだ。
「では、スパイスを炒めて、ルーを作ってください」
 楽園探索機フロンティーガーが、生徒たちに言った。
「さあ、炒め物にかかるんだよ」
 フライパンにスパイスと小麦粉を入れて炒めながら、ブラッドクロス・カリンがカレールーを作り始めた。
「分かりました。炒めるであります!」
 ブラッドクロス・カリンの仕草を表面だけなぞって、スカサハ・オイフェウスがフライパンを火にかけた。
「炒め物でありますから、当然油であります」
 ドボドボとフライパンにごま油を一瓶注ぐと、スカサハ・オイフェウスはタマネギとうどん粉と魔の粉重曹を豪快にぶち込んだ。
「進んでいる方は、煮込みにかかってください」
 まだそれに気づいていない楽園探索機フロンティーガーは、他の生徒たちの方を指導していた。
「ここ空いてますね」
 背後で着々と進む自爆行為には気づかず、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は鬼崎朔の隠れる調理台の前に立って、具材を寸胴鍋で煮始めた。
「ことことこと……。うん、よく煮えそうです。ああ、そうそう、隠し味に、愛情を入れなくては。あ・い・じょー。きゃっ♪」
 自分でやっておいて、ロザリンド・セリナは頬を両手で挟んで顔を赤らめた。
「ここでちゃんとカレーの作り方を覚えて、後で桜井校長に食べさせてあげますからね。校長、待っていてくださいね」
 何か不純な妄想をいだきつつ、ロザリンド・セリナはお玉でゆっくりと鍋の中身が焦げつかないようにとかき回していった。
「ちょっとジャガイモとか不揃いですけれど、そこが手料理の証しです。桜井校長ったら、いつも学食でサービスメニューのカレーばかりを食べていましたから、きっと温かい家庭料理が好きなんですわ。なんて、す・て・き……。校長先生という要職にありながら、実に庶民的なんですもの。私にとって、もっとも身近にいる人ですわ。やだ、私ったら、まるで恋人のことみたいに……♪」
 独り言を言いつつ、思わず自分の言葉に照れてしまったロザリンド・セリナは、ぐるぐると思い切りお玉を鍋の中で激しく回した。力を入れたので、自然と足を踏ん張って身体をささえる。
「むふう、せっかくの記録映像だというのに、足が邪魔で……」
 鬼崎朔は、目の前でひらひらするスカートの下から、ロザリンド・セリナの脚の間を縫うようにして必死にブラッドクロス・カリンたちにピントを合わせようとしていた。あまり前に出ては、ロザリンド・セリナに気づかれてしまう。かといって、彼女の脚の間でビデオカメラを構える姿は、非常にまずい気もする。
「ファイヤー!!」
 突然、スカサハ・オイフェウスが叫んだ。フライパンから、盛大に炎があがっている。
「きゃあ、スカサハ、早く青物入れるのよー、青物!」
 ブラッドクロス・カリンが、自分のつたない知識から、火を消すためにキャベツを入れるようにスカサハ・オイフェウスに言った。ちなみに、この方法では油火災を完全に消火することはできないので注意した方がいい。気を抜くと、再燃する。
「分かった、青い物を入れるのであるな。いきまーす!」
 とっさに、スカサハ・オイフェウスがそばにあった小瓶の中の青い液体を燃え盛る火の中に投入した。とたんに、もうもうたる白と黒の煙と、ものすごい刺激臭が厨房に満ちる。
「スカサハ、それ青いタバスコ……」
 激しくむせながら、ブラッドクロス・カリンが言った。
「フロン、わらわたちの厨房がぁ……」
 むせながら、ドロシー・プライムリーが楽園探索機フロンティーガーにしがみついた。
「失敗でした。青空料理教室にすべきでした」
 消火と換気を素早く行いながら、楽園探索機フロンティーガーはちょっぴり後悔した。
「あのー、誰か倒れているですぅ」
 メイベル・ポーターが、ビデオカメラをしっかり握りしめたまま気絶している鬼崎朔を見つけて言った。
「なんで朔様がいるでありますか?」
「とにかく、運び出すんだよー」
 状況がよくのみこめずに、スカサハ・オイフェウスとブラッドクロス・カリンが鬼崎朔を厨房の外に運び出していった。
「いったい……、彼女は……どこからわいたのだ」
「さあ」
 怪訝そうなクルード・フォルスマイヤーに、神和綺人は同じように首をかしげて答えた。
 大きな中断があったものの、楽園探索機フロンティーガーの仕切り直しによって、何とかカレー……らしき物たちが続々とできあがっていった。
 さあ、試食タイムである。
 
「運命の試食なのだ。さあ、食うがよい」
 ちょっと不吉なことを言いながら、ドロシー・プライムリーが楽園探索機フロンティーガーに、できあがったカレーらしき物をさし出した。家庭科4の作るカレーは、なんというか、その、家庭科4というできである。それでも、楽園探索機フロンティーガーの下、「機人三原則」で毎日を過ごしているだけあって、見た目はちゃんとしたカレーになっている。たとえ、具材が生煮えでシャリシャリしていようが、ルーにとろみがなかろうが、怪しいスパイスが入っていようがである。
「ふむ。できばえはさておいても、ちゃんと心はこもっていますね」
 ドロシー・プライムリーのカレーを、楽園探索機フロンティーガーはそう評価した。もともと、人であるか怪しい楽園探索機フロンティーガーである。味は分かったとしても、それによってどうにかなるような身体ではない。
 
「ふむ……、スープカレーだ。問題ない……。どうした、アイシアは……食わないのか?」
 米とルーが一体となった本当の飲み物を平然とすすりながら、クルード・フォルスマイヤーはアイシア・ウェスリンドに訊ねた。
「わ、私は……大丈夫だから。よかったら、クルードが二人分食べてもいいのですよ」
「分かった。……そうしよう」
 わたわたするアイシア・ウェスリンドを怪訝そうに見つめながら、クルード・フォルスマイヤーは答えた。
 
「普通だよね」
 メイベル・ポーターの作ったカレーを一口食べて、セシリア・ライトが感想を述べた。
「いえ、むしろ、この状況でこれだけの物を作れたこと、称賛にあたいしますわ」
 フィリッパ・アヴェーヌが、それに続ける。
「そうね。ちゃんとガラムマサラが独特の香りを出しているし、香草も短時間にしては味を壊さない程度に自己主張してるんだもん。さりげにライスに混ぜてあるココナッツも面白い食感だよね」
「よくそこまで分かりますわね」
 ちょっと感心したように、フィリッパ・アヴェーヌがセシリア・ライトに言った。
「わたくしでは、そこまでは分かりませんわ。市販のカレールーの方が楽ですもの」
「じゃあ、今度はあなたに作り方を教えてあげるですぅ」
「それはいいよね。順番なんだもん」
 メイベル・ポーターの言葉に、すかさずセシリア・ライトが賛同した。
「えっ、ええー」
 話があらぬ方向に進んで、フィリッパ・アヴェーヌは多少焦ったが、すでに後の祭りであった。
 
「……いや、これは……」
 皿からはみ出るようにして何とか載っているニンジンやタマネギを見て、ユーリ・ウィルトゥスが絶句した。
「具の大きいカレーです」
 平然と、クリス・ローゼンが答える。刃物の扱いを制限されたために、煮込みに全力を傾けた結果がこれだ。
「クリスらしくて、大胆でいいじゃないか」
 さすがに少し苦笑しながらも、神和綺人はスプーンで野菜を切り分けてルーに混ぜながら食べていく。
「うん、味は悪くない」
「でしょ、でしょ。さすがアヤです。愛情料理のことをよく分かっていますです」
 おいしそうにカレーを食べる神和綺人に、クリス・ローゼンはテーブルの上に身を乗り出して言った。
「……まあ、味さえよければ、後は混ぜてしまえば形はどうでもいいってことだ。作る課程もな」
「ユーリさんは、料理のこと何も分かってないです」
 ユーリ・ウィルトゥスの言葉に、クリス・ローゼンは不満そうに横目で彼の方を見た。
「……よく分かった。いいか、皿洗いまでがお料理だ。後でみっちりと教えてやろう」
 それでもカレーをパクつきながら、ユーリ・ウィルトゥスは言った。
 
「それで、これは何カレーなんですか」
 目の前におかれた二つのカレーを見つめて、鬼崎朔は訊ねた。
 右側はブラッドクロス・カリンの作った正統派のカレーだ。一口食べてみると、見た目よりも複雑な味であることが分かる。たくさん隠し味が使われているようなので、それを推理するのも少し楽しい。
「うん、あててみてよ」
 きらきらと目を輝かせて、ブラッドクロス・カリンが言った。
 そう言われてはみたものの、鬼崎朔は香辛料の名前に精通しているわけではない。
「とりあえず愛情だけは分かった」
「うん。その隠し味が分かるだけでも、すごい。すごいよね」
 素直に、ブラッドクロス・カリンが喜ぶ。
 さて、問題はもう一つの方だ。
 鬼崎朔は、左側のカレーに、おそるおそる目をむけた。
「これは……」
「たぶん、焼きカレーであります!」
 スカサハ・オイフェウスが、元気よく答えた。だが、制作者自らたぶんとはなんだ、たぶんとは……。
 だが、これはもちろん焼いたカレーなどではない。何かあって、焼けてしまった、元カレーだった物だ。そのほとんどは、炭化しているではないか。
「いかがでありましょう。おいしいでありますでしょうか」
 スカサハ・オイフェウスが、期待に満ちた目で鬼崎朔を見つめた。これは、命をかけて応えなければならない。
「ふむ。かりかりと香ばしくて、いい焼け具合だ」
 嘘である。ざりざりと苦い炭が、渾身の力を込めたスプーンでないとこそげ落とせないほどの強度を保っている。だが、鬼崎朔にとってこの程度の物は、昔の暮らしの食事に比べれば、別にたいしたことではない。
「よかったであります!」
 スカサハ・オイフェウスが、ブラッドクロス・カリンの手をとって喜んだ。それはいいのであるが、二つのカレーを同列に扱われるのは、ブラッドクロス・カリンとしては、ちょっと複雑な心境だ。
「これ、ここに来る途中で買ったんだよ。はい」
 二つのカレーを完食した鬼崎朔に、ブラッドクロス・カリンは、小さな袋をプレゼントした。中には、かわいらしいヘアピンとともに、胃腸薬がそっと忍ばせてあった。
 
「私の分は、タッパーをいただけますでしょうか」
 この場に食べさせたい相手のいないロザリンド・セリナが、楽園探索機フロンティーガーに頼んだ。きっとヴァイシャリーに戻りつく頃には、カレーはいい感じに味がなじんでいることだろう。桜井 静香(さくらい・しずか)への最高のおみやげだとロザリンド・セリナは思っていた。
 
「さて、皆様ご苦労様でした」
 一通り試食が終わったところで、楽園探索機フロンティーガーが閉会の挨拶を始めた。鬼崎朔の姿をのぞいて、カレーの作り手も、試食した者たちもそろっている。
「多少、戦う勇気が変な方向にいってしまいましたが。なんとか皆さんがカレーを作りあげることができ、大変嬉しく思っております。またこのような機会がありましたら、皆さんで今日の成果を存分に発揮していただきたいと思います」
 ぱちぱちと拍手が起こり、「機人三原則」の一番長い日だったかもしれない一日が暮れていった。なお、翌日から突如店内改装中になった「機人三原則」が、何とか再び開業にこぎつけたのは、新年も間近に迫った日のことであった。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「綺麗な星空だねえ」
 萌えキャラをペイントした飛空挺の上に寝転がりながら、神戸紗千(ごうどさち)は夜空を見あげていた。
 地上の明かりのほとんどないシャンバラ大荒野は、星を見るには最高の場所だ。
 のんびりと星を楽しんでいると、ふいに天の川の一部が欠けた。
 雲だろうか。
 神戸紗千が目を凝らしてみると、何かが空に浮かんでいるのがおぼろに分かった。
 飛空挺だ。
「まあ、おおかた密輸船かなんかだろうさ。キマクじゃ珍しくもない」
 夜の闇に紛れて何かを運んでいく飛空挺を、神戸紗千はつまらなそうに見送ると、大きくあくびをするのだった。