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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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黒羊郷探訪(第2回/全3回)

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第7章 それ行けぶちぬこ隊!

 朝(昼過ぎ)、目覚めると、ぶちぬこ隊に幾つかの変化が起きていた。
「つ、月島……?」
 月島 悠(つきしま・ゆう)
「え、え? 何? 皆さんどうしたの。私がどうかした……?
 ナナさん? セシリアさん?」
「……」「……」
「なんだか、皆でそんなに見てこられたら、私恥ずかしいわ……。
 真人さん? レイディスさん?」
「え、え?(どきどき)」「(なんかどきどきしてしまう、何かやばいぞこの月島……)」
「ああ、気持ちのいい朝(昼過ぎ)ね。皆、陽射しがまぶしいよ」
「……」「……」「……」「……」
「あれ、シャーロットさんがいないよね? どうしたのかしら……」
 奥の猫部屋から、
「もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふここで会ったのも何かの縁。せっかくなのでご一緒に。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ至ってまともですよ、私。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ戦闘?んー、皆がんばれー。え?働け?やだー、もふもふしたいーもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ隊長?御凪様でいいですよー?もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ何ですか。機関銃、喰らいたいですか?」
 シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)
「シ、シャーロット……?」
「ああ♪ シャーロットさん、おはようございます! 今日も元気にいきましょうね?」
「もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふここで会ったのも何かの縁。せっかくなのでご一緒に。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ至ってまともですよ、私。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ戦闘?んー、皆がんばれー。え?働け?やだー、もふもふしたいーもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ隊長?御凪様でいいですよー?もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ何ですか。機関銃、喰らいたいですか?」
 ぶちぬこ隊の隊長には、晴れて御凪 真人(みなぎ・まこと)が就任した。
 このぶちぬこ隊をまとめられるのは、御凪しかいない。気合だ、御凪。
「…………………………」
 それから、クライスがいなかった。
「クライス」「クライスさん……」「ああ、クライス」「ク、クライス君」「……クライス、頑張れ」「クライスさん、ガンバ♪」「もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふここで会ったのも何かの縁。せっかくなのでご一緒に。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ至ってまともですよ、私。もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ戦闘?んー、皆がんばれー。え?働け?やだー、もふもふしたいーもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ隊長?御凪様でいいですよー?もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ何ですか。機関銃、喰らいたいですか?もふ」


7-02 ぶちぬこ隊、出発

 ぶちぬこ隊から、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が斥候の役割として、先行することになった。
「じっとしてるのは性に合わないや」
 ルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)も同行する。
「白ぼさちゃん一人だとキマク辺りに行っちゃいそうだよう」
「あーぁ……何か張り切っちゃってるけど、大丈夫かねぇ。
 ま、ルーもいればなんとかなるさね、多分。きっと」
 フィーネ・ヴァンスレー(ふぃーね・う゛ぁんすれー)は、他の皆のもとに残り、携帯でレイディスと連絡を取り合う。護衛兼情報通達係だ。
 レイディスとルーセスカの二人は、ウルレミラの付近まで来ると、昨日は観光の後、もふもふの夢を見て昼過ぎまでぐっすり眠っていた桐生 ひな(きりゅう・ひな)と合流する。桐生は、レイディスらがぶちねこ団から馬車を助け新生ぶちぬこ隊を結成、夜は宿でまくら投げしてもふもふして、というところまで、おおよそ夢に見ていた。恐るべし夢見がち。
「後でもふもふできるのですよねっ」
 三日月湖の動乱を避け、湖西回りのルートを進むことになるのだが。さて。



 月島は、旅館の廊下で会ったハルモニア・ニケと話している。
「教導団辺境討伐隊で女の子の隊長ってもしや、騎凛先生のことかな?」
「そう、そう! 元気でいます?」
「騎凛先生は……」
 話していると後ろから、通りかかっていくのは、サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)レーヂエだ。同じ宿に泊まっていた。
「あ、レーヂエさんとサミュエルさんもこちらに泊まっていたんですね」
「エ。月島……」
「月島? 誰が?」
「え、……どうなされたのですか? レーヂエさん。サミュエルさん」
「……」「……」
「あれ? え、レーヂエさんって、もしかして?」
 ニケが、レーヂエをじっと見る。
「あ、はあ?」
「あの、盗賊の砦に一人で突っ込んでいったレーヂエさんですよね?」
「……」



「隊長というのはガラじゃないんですけどね」
 と苦笑しつつ、御凪、
「ええ。改めて、ぶちぬこ隊の隊長ということになった、御凪です。よろしく」
「まぁ、悠くんだとぶちねこ達にもふられますからね」と、麻上 翼(まがみ・つばさ)
 月島もぶちねこの人気を集めたが、月島は昨夜ねこ達に弄られまくったということもあって、最終的に御凪が適任という結果になった。
「御凪しっかりにゃ。
 戦いがあった際には、おれたちにまかせろにゃ」
 御凪は、馬車の一行の代表と話し、このままぶちぬこ隊が護衛をしていくことを提案した。
「襲ってきた相手をいきなり信用するのは難しいかもしれませんけど。
 情勢が不安とのことですし、同じようにまた襲われるかもしれません。いかがですか?」
「まあ、ぬこどもだけではあれだが……あなた方がいてくれるなら。勿論、こちらとしても歓迎したいところだ。
 それから、昨夜、同じくこの鬼の牢獄亭に居合わせた、魔法学校の者だ。彼も馬車の従者として同行してもらうことになった」
高月 芳樹(たかつき・よしき)です。どうぞよろしく」
 パートナーのヴァルキリー、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)も一緒だ。
「イルミンスールの生徒さんですね。第四師団は、色んな方を雇っていますね。
 そちらへは行かなくても? って、まあ俺達もですが」
「ええ。昨夜、この方々にハルモニアのことを聞きまして、そちらに興味を持ちました」
「それもまたいいことでしょうね。
 これもきっと……」
 そう。彼らの動きが、第四師団の命運を大きく左右する。ということだってあり得るかも知れないのだ。黒羊郷の裏手にあるという山、ヴァルキリーの里、その一族の姫、教導団と過去に関わりのあるらしいヴァルキリーの女性……
「ここで会ったのも何かの縁。せっかくなのでご一緒に。もふも……もふも」
 皆でシャーロットの口をふさぐ。
「もふも。もももふも」
「い、いえ。皆さん、どうか気になさらず。さあ、出発の準備を」
 馬車が宿の前に引かれてくる。
 いちばん豪華な一台には、すでにヴァルキリーの姫が乗り込んでいる。そこへ……
(馬車姫と私、どっちが可愛いか勝……!)
 がらっ。入り込んでいくのは、ミリィ・ラインド(みりぃ・らいんど)
 ……負けた……ですって(ずーん
「い、いや負けてない! 勝負はこれからよ馬車姫!(ビシィ」
「え、なんでわたしの名前を……?」
「え?」
「こ、こら無礼な! 姫の馬車に勝手に乗り込んでおるのは誰だ?」
 セシリアがあわてて、ミリィを引き戻そうとする。
「いいのよ。わたしも一人で乗っているより……とても楽しそうだから。
 それに、そっちの女の子も確か姫って……」
「え、っと。私は……」
「申し訳ありません、旅路で同じ年頃の子がこの子達以外いないものですからはしゃいでいまして……」
 ファルチェの品の良さは、馬車の一行の気に入られたようだった。ファルチェが従者というのも尤もらしいので、彼らも姫……ゴジ姫というのは聞いたことがないと言えども無下にできないといった感じだ。
 姫の願いもあって、セシリア達は一緒に馬車に乗っていくことになったのだった。
 姫の方に寄って、笑顔で挨拶するセシリア。
「こんにちは、なのじゃー。退屈だから少し話さぬかえ?」
「ええ、こんにちは……」
「私は魔法使いのセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)なのじゃ。よろしく頼むのう♪」
「私はファルチェ・レクレラージュ(ふぁるちぇ・れくれらーじゅ)、セシリア様の従者です。以降お見知りおきを(ぺこり」
「あれ? あなた確か、ゴジ姫ではなかった?」
「いや、あれは……私の友達が勝手に付けてるあだ名での。お主のように特別な身分だからではないのじゃ、うむ」
「あれ、おねーちゃんってミスワード王国のお姫様じゃ……」
 ミリィが言う。
「お主まで何言ってるのじゃ!?」
「真人さんとかがそう言ってたけど」
 き、気を取り直して……。
「お主の名前は何じゃろう? 姫は呼びにくいし教えてくれると嬉しいのじゃが」
「わたしは、ヴァレナセレダの聖地ヴァシャの姫なの。さっきみたいにヴァシャ姫でいいけど……」
「馬車姫……?」
 どっど。馬車が動き出したようだ。


8-02 ぶちぬこ隊の旅

 三日月湖西の平地を駆けていく、レイディス、ルーセスカ、冕冠を被った桐生ひな。
 まばらに木々が見えてくると、速度を落とし、レイディスは木々の陰に気を配りながら、移動する。
 と、前方の木の陰に、何か動く者が。
 三人に少し緊張が。もし、呼び止められても、冒険者と偽り、何とか進むつもり……が、次の瞬間。
 木陰から出るや、相手は襲いかかってきた。
 黒い鎧……。
「くっ、いきなりか!」
 剣を抜き放つ、レイディス。問う暇はない、そのまま打ち合う。
 仲間が、三体出てきた。
 ルーセスカも、交戦になるやスプレーショットで敵の足もとを狙う。
「仕方がないですねー、こうなれば戦闘も已む無しですっ」
 斬り付けてくる敵兵の剣を受け流すと、桐生の振り上げたハンマーから轟雷閃が降り注いだ。
「あれっ。え。もう終わりですか〜(せっかく戦ってるシーンを皆に……)」
 レイディスが、剣を突きつけている。敵は降参の様子。
 打ちかかってきたわりに、戦意は乏しかった。他に仲間が駆けつけてくる気配も、ない。
「ここにいるのは、おまえ達だけ、これだけか?」
「……」
「答えないと、食べちゃうぞー」
 ルーセスカが迫った。桐生も、せっかくの機会とばかりもう一度ハンマーを振り上げてみせる。
「わわ、……わかった。ここに残っているのは、我々だけだ」
「貴様ら、教導の手の者か? 我らを殺す気か、捕えて拷問にでもかけるか?」
「いや……」
 レイディスはとりあえず、フィーネに電話で事を連絡した。



 後続する馬車の一行も、ゆっくりと三日月湖方面へ向け進んでいた。
 隊列は、れおにゃを先頭に、隊長の御凪、ナナと音羽、馬車が続き(セシリアは馬車の中に)、シャーロット、いちばん後詰に月島、という順。御凪の指示で、ぶちねこは各メンバーを班長とする班毎に分かれ、役割分担しつつ行軍している。係りをしっかりさせることで、個々のやるべきことをしっかりと認識させる。これは今後のための御凪流の訓練でもあった。
 前方、後方はそれぞれ、御凪、麻上がディテクトエビルを張ることで、警戒をしている。
 谷間には争った形跡が見られ、クライスも、パートナーから三日月湖で不穏な動きありとの連絡を受け、先に発っている。
「周辺状況から見ましても、この先、第四師団の滞在している三日月湖方面で動きがあったのは確実。
 なるべく戦闘を避けた上で目的地への最短ルートを取るのが理想かと判断できます」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)は、馬車の一行とルートを相談していた。
「そうだな。教導団の連中には、縁のある者もいるが、ここで大規模な戦闘に巻かれることがあってはまずい。こちらには姫もいるのだ」
「多少の障害……敵勢部隊ならば、こちらの戦力で突破できるかと思われますが」
 それを計るため、レイディスが桐生と落ち合い、斥候として先に進んでいる。
 そのレイディスから、こちらに残っているパートナーのフィーネに連絡があった。パートナー以外との連絡は、この地域に入るとなかなか取りづらくなっているようだ。クライスとも、連絡は付かない。
 フィーネは、ぶちねこ隊長の御凪に、携帯で聞いた内容を伝える。
「ねぇ、どうやら、レイディスが黒羊郷の兵らしい数名を捕えたって」
「黒羊郷のだと?!」
 馬車の従者が驚く。
「何故ここに?」
「さぁ、それは……。突然襲いかかってきたらしいけど、そこにいたのはそいつらだけだって。
 何か情報を得たらしいから、そこまで行きましょう。三日月湖の西の辺りってことだから、もうすぐよ」



7-03 ヴァレナセレダへ

 捕えた兵を尋問したところ、彼らは、西の山に入り、黒羊郷へ戻ろうとしていた、という。
 それは黒羊郷の兵らの軍用ルートにかかる道であり、物資の調達などとも関わっているらしい。兵の発言は、わざと濁しているのかどれも曖昧な部分があったり、食い違っていたりで、的を得ない部分が多い。しかし、どうやらそれが黒羊郷に至る道であり、この先、幾つもの独立勢力が闊歩する地域を抜けることに比べれば、近道である、ということは間違いないようだ。
 また、兵の話で、黒羊は軍を用い、今や教導団と対立関係になったらしいことがわかった。
 であるなら、道が黒羊側の軍用ルートにかかるという以上、警戒が必要になる。あるいは、あくまで教導団とは無関係を装うことも、このパーティならば難しくはない、かも知れない。教導団所属なのは、月島とナナだけだし、月島は今や完全な乙女モード全開になっていて自分が教導団だということすら忘れているし、ナナも……そんなに教導団教導団している方ではない。と思う。彼女が軍服姿でいるとこを見かけた者がいないくらいだし……。
 ともあれ、レイディス、桐生と馬車の一行が合流し、ルートについての再検討が行われた。
 しかし、ヴァレナセレダの者は、西の山を通るその道が黒羊郷の軍用ルートである、ということに首を傾げた。この者らは、長く里を離れていた者で、この度、姫を連れ里へ戻る途上にあるのだが、数年前には、西の山に黒羊郷の者の手が入っているなど、聞いたこともないという。黒羊郷が教導団と対立関係にあるというのも何故だという声が上がったが、兵らも、上のことはよく知らないと言うばかりであった。
 ともあれ、馬車の一行も、西の山のルートを取るのがいちばん早い。そこは、もちろんヴァレナセレダに至る近道でもあるのだ。山に入ってからも幾つかのルートがあるので、全てが黒羊側によってふさがれていることなどないだろうと言った。
 四人の兵は、捕虜、何かあったときの人質として、馬車の一行が連れていくことになった。

 音羽 逢(おとわ・あい)は、同じヴァルキリーで地方の族長の娘というハルモニア・ニケ、それに名を明かさないがローレンスが古代に名のある騎士ではないかと言った老騎士に、話しかけてみようかのうと、思っていた。
「あの、拙者、あちらのナナ様のパートナー音羽 逢と申す。拙者ヴァルキリーの端くれとして、よければニケ殿等の武勇伝や、それに村のことも、お聞きしたいで御座る」
「逢さん、ですね。ヴァルキリー同士ってやっぱり親近感わくから、気になっていたんです。こちらこそよろしく」
 ニケは、気さくな感じで話しかけてくれる。
「あ、よろしくで御座る……」
「そなた、うっかり侍と呼ばれておるらしいが、そなた侍なのじゃな」
「へ?」
「ああっそれは……ごめんなさい。何だか、そう言ってた方がいましたので……。
 このおじいさんはあまりよくわからずに言っているだけですから、気にしないでくださいね」
「……なんじゃわしは何か悪いこと言うたか」
「……。拙者いちおう、ニート侍でもうっかり侍でも御座らんことを述べておくで御座る」
 逢は、こうしてニケと老騎士と親交を結んでいくことになる。ナナもその様子を微笑ましく見ている。
「よかったですね。逢様。
 誤字姫様馬車姫様は、姫様同士気が合うことでしょうし……」
 馬車では……
「ヴァレナセレダってどんな所なのじゃー? ヴァルキリーの里だそうじゃが、結構大きい所なのかのう?」
 セシリアとヴァシャ姫との間で色々と会話が弾んでいるところだった。
「ええ。とても綺麗なところよ。
 少し高いところにあるから……冬なんかは、とても寒いけど。雪が積もったりすることもよくあるし……。
 点在する森の合い間合い間に、薄い赤や白のお家の屋根が見えて……古代、……戦いのあった時代の古い砦や、教会もたくさん残ってるの。
 山の斜面では、放牧もしていて、あと葡萄園とか……そう、ワインの産地もあって、私はまだだけど……とても美味しいらしいわ。
 ……ああ。早く、帰りたくなったなぁ」
「ふむふむ。着いたら色々案内してくれると嬉しいのじゃ。何だか珍しい物もありそうだからのう。
 あ。これは私の使い魔のネコじゃ。一緒に遊ぶかえ」
 ミリィは、まじまじとヴァシャ姫のことを見てばっかいる。
「羽を持ってるのもポイント高いわね……。私は角はあるんだけど悪魔の羽はないからなあ」
 二人の間に、急にずずぃ、とせり出し。
「な、なんじゃ……?」
「ねえ、どんな生活送ってるの! 何か食べ物とか気を遣ってる!?」
「ええ。向こうの国での暮らしはちょっと退屈だったし、厳しくもあったけど……ヴァレナセレダは楽しいわ。
 一緒に、お食事したり、庭園を散歩したりとか、しましょうよ。
 貴女たちも、是非ゆっくりしていってほしいな」
 一方、ファルチェ、高月は、馬車の護衛に付いて、馬車の中の楽しげな会話とは少し違うけど、
「ハルモニアは黒羊郷の近くですよね。最近の黒羊郷がどんな感じだったか分かりますか?」
 ファルチェは情報を把握するためにも、彼らに問う。
「ああ。ハルモニアは、ヴァレナセレダの中でも最も黒羊郷に近い。ほぼ裏手の山にあたるからな。
 ただ、急峻な崖になっているので、直接の往来は少ないが……古代の戦いでは、翼のある我らの先祖のヴァルキリー騎士らが、その崖を降り立って黒羊郷に攻撃をかけ、……まあ、その頃は黒羊郷もハルモニアも今のようではなく、各々別の支配者が治めておった時代だが。
「最近の黒羊郷は……姫を迎えにいった先の国で我々も数ヶ月滞在することになっていたので、帰るのはもうかれこれ半年が経つのか。
 確かに、軍を整えているとか、不穏なことは聞こえてきてはいたが、それ自体はわりと数年来、そう言われておったことだからのう」
 高月はそれを聞いて、彼としては楽しい旅行をしたかったわけなのだが、少し不安にも思った。
 しかし……せっかく同行することになったのだ。ハルモニアの諸々を、しっかりと見てきたい。
 そしてできればもふもふ、……いや、ぶちねこのいっぴきとでも仲良くなれたらなあ、と思っているかも知れない。
 ぶちぬこはとりあえず今回は出番がなさそうなので……皆さん。リアクション後の、マスターコメントの後あたりで、思いっきりもふもふもふもふしてあげてください。

 こうしてぶちぬこ隊は、黒羊郷の裏手のヴァレナセレダを目指す。