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【十二の星の華】シャンバラを守護する者

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第2章


 乾いた空気に混じる色々な物が燃えた臭い。
 穀物、木、家そして……肉の焼ける臭いだ。
 本来なら、よく整った綺麗な村なのだろう。
 今は影も形もない。
 冬晴れの空には黒煙がいっぱいに広がり、炎が青さを焦がしてしまっているようだ。
 逃げる事の出来た村民は呆然としている者が多数。
 顔はススで汚れ、髪の毛はちりちりと所々焼けている。
 服も同様だ。
 ある者は大事そうに斧を抱え、ある者は財布を握り締めていた。
 村には救助のために動いている者達がすでに何人もいた。
 ホイップ達が到着したのはそんな中だ。
「じゃあ、行ってくるね! おじさんの弟さんも見かけたら報せるから!」
「ああ、有難う! 宜しく頼むよ」
 ホイップは薬屋のおやじにそう言うと美羽達と一緒に救助活動へと入っていった。


 ジャタの森の中。
 ここにも煙が充満しだしている。
「連絡があったから来てみたけど……普通に消火活動するだけなんて飽きる」
「飽きるとかいう理由だけで村から出てきたのか」
 城定 英希(じょうじょう・えいき)のやる気なさそうな言葉にジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)は呆れているようだ。
「ほらっ、だって、森にいるほかの人達を巻き込めばもっと楽に消火とか出来ると思うんだよね……口に出して言うとなおさらナイスな策に聞こえるな」
「はぁ……確かに人手は多い方が良いが……そう簡単に手伝ってくれるのか?」
「当たり前だろう? っと、いたいた」
 会話をしていた2人の前に10人近い人達が現れた。
 村の人達とは服の雰囲気が違う。
 あの村とは違う集落の人達なのだと、それで解った。
 村とは逆の方向へと行こうとしている。
「ちょっと待った! あっちの村では今、消火活動と治療が行われている。手伝わないのか?」
 英希が声を掛けると、男が振り返る。
「自分の村は自分達で守るもんだ。俺達はこれから自分達の集落を守りにいくんだから邪魔をするな」
 男はそう言うと他の人達を促す。
「はぁ……話してわからない人達って苦手……」
 英希はぼそっと呟いた。
「……気持ち悪い……よぅ」
 その男の後ろには女の子が1人いたのだ。
 男の裾をつかみ、ほんのり頬がピンク色している。
「もう少しで着くから頑張れ」
「うん……」
 男が励ますと一所懸命に笑顔を作ろうとしていた。
 女の子を男は大事そうに抱きかかえた。
「もしかして、その子……煙を大量に吸ったのでは?」
 ジゼルが行こうとした男達に言葉を発した。
「ああ、そうだ。あそこの村の近くにいた為にな。だから早く帰るんだからもう俺達にかまうなよっ!」
 声を荒げて告げる。
「今ここで治療が可能だ。こちらへ。煙はこの辺りにも充満してきている。事は一刻を争う」
 ジゼルはそう言うと女の子へと近付いた。
 抱きかかえていた男は何か言おうとしたが、ジゼルの真剣な表情に口をつぐんだ。
 ジゼルはナーシングを唱え、女の子へと手をかざした。
 女の子からは気持ち悪さから来ていた眉間の皺が取れ、落ち着いたようだ。
 その様子を見ていた男はジゼルに向かって頭を下げた。
「……すまない、助かった」
「当たり前のことをしたまでだ」
「……うちの集落の奴らを集めて手伝いに行くよ」
 ぼそりと呟く。
「俺の読み通り!」
「……」
 英希の言葉に一同無言となったが、手助けをしてくれる事が決定した。


 村の端では救護用としてテントが張られていた。
 テントの側には救助された村民が燃えていく村を見ていた。
「ここまでの火事……やはり人の意思があってのものでしょうか……。その理由が気になりますね」
 村民を注意深く見つめていたのは黎明だ。
 運ばれてきている人、無事逃げられた人、近くを通った人、ホイップに呼ばれて来た人……その人々の一挙手一投足を逃さず観察する。
 その目がある人物で止まった。
 その人物は心配そうにじっと村を見つめていたかと思うと、周りを見渡し、また村の方へと目線を向けた。
 黎明はその人の肩をとんとんと叩くとにこりと笑顔を作った。
「誰か探しているんですか?」
「ああ……この村に弟がいて……その無事がまだ確認できていないんだ……」
 そこにいたのは薬屋のおやじだった。
「そうですか。私もお手伝いしましょうか?」
「いや、他にも助けなければいけない人達がいるはず。自分で探すから大丈夫だよ。声を掛けてくれて有難う」
 そう言うとおやじは村人達から離れた位置へと移動していった。
 黎明はおやじの後ろ姿に視線を送りつつ、新しく来た救護者へと意識を向けた。


「この火事……不自然極まりないですね」
「ああ、まったくもって不愉快だ」
 村まで一緒に来たルイと洋兵が言葉を交わす。
 2人の隣には互いのパートナーが控えている。
「警察だ……この火事について聞かせて貰えないか?」
「わうっ!」
 そこへロウ・ブラックハウンド(ろう・ぶらっくはうんど)を連れたマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が何か手帳の様なものを見せ話しに加わってきた。
「その手帳って学生手帳だろう?」
 リアがすかさずツッコミを入れた。
「細かいことはあまり気にするものじゃない」
「わうっ(細かくはないだろう)」
 マイトが言うとロウは音声とメールの文字によって意思を伝えた。
「いや、それよりどうだろう……皆この火事は怪しいと考え、それを調べようとしているのだろう? 集めた情報の共有をすればより真実に近付けると思うのだが」
「その案には賛成だ。俺もその話し、一枚噛ませてもらう」
 マイトの提案に賛同を示したのは、いつの間にか側にいた四条 輪廻(しじょう・りんね)だ。
 輪廻は眼鏡をくいっと上にあげる仕草をする。
 その後ろにいるアリス・ミゼル(ありす・みぜる)もこくこくと頷き、賛成の意思を見せている。
 ルイ、洋兵、リア、ユーディットは顔を見合わせる。
 頷き合うとその提案を受け入れたのだった。