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リアクション
第二章 波紋の水晶化
イルミンスール魔法学校の校長室。エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は、机上にそっと携帯電話を置くと、風森 巽(かぜもり・たつみ)を見上げて言った。
「状況は理解したですぅ。彼女の事は、みんなで守るですぅ」
「はい。ありがとうございます」
パートナーであるティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は右足首を水晶化させられていた。その際に携帯電話を奪われたようであり、これまでに2度、その携帯に連絡が入っていた。
電話の相手はパッフェル側についた生徒の一人であり、「ティアの水晶化を全身にまで進行されたくなければ、女王器を運ぶ小隊の情報を提供しろ」と脅された事。要求通り、情報を流した事を報告した。
口元に手を添えながら聞いていたアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、顔を上げて呟いた。
「小隊の情報を求めてきたということは、スパイの心配はない、いや、そう思わせる事が目的かもしれぬのう」
奴らがティアの水晶化を進めると言った以上、その手段を持つ者がイルミンスール潜入している可能性だってある、もしかしたら今も監視されているという事も…。
「全校生徒に知らせるですよ、みんなで捜せば、怪しい奴はすぐに見つかるですぅ」
「校長先生、照合できました」
部屋に駆け込んできた愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)は、机上に資料を広げて見せた。
「送られてきた画像と、イルミンスールの生徒データを照合しました」
テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が記録した人質交換時とその直後の戦闘の場面の動画ファイルが届いたとき、ミサと何れ 水海(いずれ・みずうみ)は誰よりも早く画像解析を行いたいと申し出たのだった。
「これらがパッフェルに協力する生徒たちです。他の5学校への協力要請はこれからですが、そうなれば全員の特定も可能かと」
水海はミサの写真資料に、生徒のプロフィール資料を添えて言った。撮った携帯動画を引き伸ばしたものなので、決して画質は良いとは言えなかったが、それでも資料のそれとは顔が一致しているように思えた。
「この他にも、森中でパッフェルの襲撃を受けた生徒がいるという事でしたけど、それはまた連絡が来るんだよね?」
ミサの問いに、ルナリィス・ロベリア(るなりぃす・ろべりあ)は首の代わりに握った拳を縦に振ってから筆談を始めた。頬から胸部までが水晶化しているルナリィスは言葉を発せなくなっていたからである。
「ディアスとレイフが向かってる。連絡が来る事になってる」
携帯を握りしめながら、彼女はパートナーであるディアス・アルジェント(でぃあす・あるじぇんと)とレイフ・エリクソン(れいふ・えりくそん)の名をあげた。2人はイルミンスールからの追加部隊として現地に向かっており、パッフェル側についた生徒の情報を伝えると約束していた。
先に送られてきた画像と合わせる事で、全員の素性が判明する事が期待されていた。
関を切ったように、資料を見ていたエリザベートが机を叩いて立ちあがった。
「パッフェルに協力する生徒がいたなんて、悲しすぎるですぅ、みんなみ〜んな退学にするですぅ」
「まぁ、待―――」
「待ってください!」
アーデルハイドの言葉に被せて、ミサは慌てて言った。
「この中には風森のようにパートナーを水晶化されて、その解除方法を知る為に仕方なく協力している人だっているかもしれません! そういう人たちまで退学にさせてしまう事は、間違っていると思います」
「一理あるのう。エリザベート、落ち着くのじゃ」
「ぶぅぅぅぅぅ」
エリザベートの興奮は無理に抑えられたようであるが、その正面で拳を震わせている男が居た。
(愛沢も水海さんも、今できる事を精一杯に… それなのに俺は…)
風森は救護所に預けたティアが言った言葉を思い出していた。
「このまま従っていても、水晶化を治してくれるとは思えないよ。このままでも、いつかは全身が水晶化しちゃう、だから、ボクの事は気にしないで、タツミもみーちゃんも自分の信じた事をやって!!」
愛沢と水海は、実行した。ティアの為に、水晶化された生徒たちの為に。なら、俺は……!
携帯を取った風森は、一同の見開かれた瞳が見つめる中、操作の後に携帯を耳に当てた。
コール音が幾つもしないうちに繋がった。電話に出たのはマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)であった。
「何だぃ? かけてくるなんて、いい度胸だね」
「貴公たちの事は調べさせてもらった。各学校、バラエティに富んでいるようだな」
「調べた? そんな嘘に騙されるとでも思ってるのかぃ?」
「気づかなかったのか? 貴公らを撮っていた者の存在に。おかげで全員の顔と名前が一致した。貴公らが帰れる場所はどこにも無いぞ」
「………………」
「ただし、女王器を手土産に帰還した生徒への罪は免除すると各学校が協定を―――」
電話はここで切られてしまった。もう少しノッてくると思ったが、向こうから切ったという事実に風森は手応えを感じていた。
無論、女王器を手土産に帰還した生徒への処遇は未定であり、全員の顔が割れたという情報はブラフである。しかしこれが、パッフェルを慕う者への牽制に、また彼女を裏切ろうとしている者への後押しになると信じ、風森は静かに体の力を抜いたのだった。
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