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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)

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【十二の星の華】悲しみの襲撃者(第3回/全3回)
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第一章 山羊座(カプリコーン)の十二星華


「――というわけで、私は今日ここに来ているのです」
 蒼空学園敷地内の広場。ミルザム・ツァンダの演説に拍手と歓声が巻き起こる。今回の式典には、蒼空学園の生徒だけでなく各地から見学を求める者たちが集まっている。
「リフルの本に挟んであった桔梗の栞……。そういえば、リフルがいつも付けていたチョーカーも、桔梗の花みたいな形だったかも」
『イエ、アレハ六弁ダッタカラ違ウンジャナイカシラ』
「……細かいことは気にしちゃダメだわ」
 いつもにように一人二役で人形の福ちゃんと会話を繰り広げる橘 カナ(たちばな・かな)は、式典の最中も上の空だった。
「ですから、私が申し上げたいのは――」
 ミルザムが本題に入ろうとする。と、観衆の一角からざわめきが聞こえた。ミルザムは何事かと口をつぐむ。間もなく、一人の生徒の悲鳴がはっきりと聞こえた。
「うわあ、ゲイルスリッターだ!」
 生徒の指さす先では、リフル・シルヴェリア(りふる・しるう゛ぇりあ)が校舎の上に立っていた。仮面を外した彼女の顔に最早感情は感じられず、それが一層不気味に感じられる。
「あれはリフル……? ホントにひょっこり帰ってきた!」
『ヒョッコリ、ドコロジャナイワヨ! 止メルワヨ!』
 カナはリフルの元に急ごうとするが、人が多すぎてなかなか進めない。
「ゲイルスリッター? ああ、そう言えば最近はそんな名で呼ばれていた」
 リフルは混乱に陥る観衆を尻目に平坦な声でそう言うと、広場に向けて鎌を突き出し、高らかに言い放った。
「教えてやろう。我は十二星華が一人、山羊座(カプリコーン)のリフル星鎌ディッグルビーによりて魂を刈り取る者」
「なんだって!」
「ゲイルスリッターが十二星華!?」
 突然の告白に、混乱が更に深まる。そんな中、リフルは校舎を飛び降りてミルザム目がけ急降下した。
「来る! ミルザム様は下がってください。テティス、行くぞ!」
「ええ、ミルザム様には指一本触れさせないわ!」
 ミルザムのすぐ側に控えていた皇 彼方テティス・レジャが、リフルの着地点に向かって飛び出す。彼方の光条兵器とテティスの星剣コーラルリーフが、降下の力を上乗せしたリフルの攻撃を受け止めた。
「ぐ!」
「くうっ……!」
 三人を中心に強力な衝撃波が発生する。
「おわっ」
「きゃ!」
 生徒の避難誘導に当たっていた高月 芳樹(たかつき・よしき)アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は、背後からの強烈な突風によろめいた。
「なんて衝撃だ……こりゃ急いだ方がいいな。ゲイルスリッターは他の連中に任せて、俺たちは生徒の避難誘導に専念しよう。迅速かつ丁寧にだ」
「了解よ」
 踏みとどまった芳樹とアメリアが、顔を見合わせて言う。
「みんな、パニックになっちゃいけない! 余計避難しにくくなるだけだぞ! いざというときには、僕が君たちの盾になる!」
「我先にと駆け出したい気持ちは分かるけど、こんなときこそ落ち着いて! 列をつくってあちらのホールへ!」
 二人は大声で生徒たちに呼びかけるが、焼け石に水だった。混乱が収まる気配はない。
「くそ、駄目だ。この人数相手に俺たちだけじゃ、いくらなんでも限界がある。他に手の空いている人はいないのか?」
「結構な数がゲイルスリッターの対応に行っちゃったわ。ミルザムさんの方にも。後は……」
 逃げ惑う生徒たちを前に、芳樹とアメリアも少し焦り始める。そこに、二人の様子を見てクイーン・ヴァンガードたちが集まってきた。
「勇気ある行動感謝する。我々も生徒の避難誘導に当たるが、少しでも人手が欲しい。引き続き力を貸してくれるか?」
「ああ」
「勿論よ」
 クイーン・ヴァンガードと芳樹たちは手分けして生徒を誘導する。その最中、立川 るる(たちかわ・るる)は一人のヴァンガード隊員を捕まえた。
「みーつけた。るる知ってるよ。クイーン・ヴァンガードって、十二星華の専門家でしょ?」
「なんだ、急に? それはちょっと違う気がするが」
 隊員はどう対応したものか戸惑いを見せるが、るるは構わず話を続ける。
「ねーねー、あのげいるすりったー?? っていう人も十二星華の一人なの?」
「本人が今さっきそう言ってたな。山羊座の十二星華だって。テティスさんは、また自分と同じ十二星華を相手することになるのか」
「えっ、どうして十二星華同士で喧嘩するの? 意味わかんないよぅ」
「そう言われてもな」
 るるは何やらしばらく考え込んだ後、口を開く。
「そもそも、十二星華ってなぁに?」
 ずこっ
「お前なあ……散々聞いておいてそれかよ」
 るるは十二星華の伝説を聞いたことはあったが、本物は見たことはなかった。お星様好きの彼女としては、是非十二星座の名を冠する十二星華たちに会ってみたい。そこで何かありそうなこの式典にやって来たのだが……。
「まあ、そう言う俺も詳しいことは分かってないんだけどな。てかお前、こんなことしてる場合じゃないだろ。さっさと逃げろ」
 隊員がるるを避難の列にねじ込む。
「あー、ごまかしたぁ。じゃあ最後に一つだけ! 十二星華の蟹座さんって、どこにいるか知らない? 私も七月七日生まれの蟹座だから、お話ししてみたいの」
「俺が知るか!」
「うーん、残念。――わ、押さないでー。あれ、もしかして私って今流れ星みたい?」
 るるはそんなことを言いながら生徒の波に飲み込まれていく。
「おかしなやつだったな……」
 
 芳樹たちとヴァンガード隊員の誘導によって避難は徐々に進んでいったが、全ての生徒が安全な場所にたどり着くまではまだまだ時間がかかりそうだ。
 激しい戦闘が繰り広げられている背後を振り返って、芳樹が呟く。
「頼むぜ、なんとかもちこたえてくれ。もう怪我人が出るのはたくさんだ」
 その横顔を見て、アメリアは言った。
「もしゲイルスリッターがこっちに来たら、芳樹は私の命に代えても守る」
「なら、僕は命に代えてもアメリアを守るよ」
「なによ、それじゃあ話が進まないじゃない」
「ま、そうならないようにさっさと避難を終わらせちまおう」
「そうね」
 そんなやりとりを交わすと、二人は再び生徒の群れに向かって大声を出し始める。
(こんなときだっていうのに)
 アメリアは、芳樹の言葉に自分の表情が緩むのを感じていた。

「テティス、大丈夫か?」
 リフルの攻撃に押されて後方に跳んだテティスに、彼方が声をかける。
「問題ないわ。……どうやら十二星華だっていうのは嘘じゃないみたいね。強い」
 テティスがリフルをきっと見据える。
「テティス、お前の星剣コーラルリーフは戦闘向きじゃない。俺が前に出るから支援を頼む」
「分かったわ。気をつけて!」
 彼方がリフルに向かって走り出す。すると、横から何やら声が聞こえてきた。
「リフルー!」
「リフルさん!」
 リフルを説得しようと駆け寄ってきた生徒たちだ。
「お前たち、何のつもりだ! 下がってろ!」
 彼方は急停止して生徒たちの前に出る。だが、彼らが彼方の言葉に従う様子はない。
「下がれと言っている」
 彼方は生徒たちに光条兵器を突きつける。
「彼方! 乱暴は――」
 そのとき、何者かがバーストダッシュで上空から急降下、彼方と生徒たちの間に着地した。その人物は決めポーズをとりながら大声で言う。
「正義のヒーロー、ケンリュウガー見参!!」
 ケンリュウガーこと武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。皆の視線が彼に集まった。牙竜は武器を捨てて両手を広げ、両者の間に壁のように立つと、彼方に向かって言った。
「リフルを説得しようとする者たちには、純粋に『友達になりたい』という気持ちがある。お前たちには、ミルザムを守るという使命がある。両者がぶつかり合っては、どちらも成功しないだろう」
「だから俺に引き下がれというのか? そうはいかない、あいつを説得するなんて危険すぎる」
「それは分かっている。だが今やらねば一生後悔するだろう。行かせてやってくれ」
 彼方と牙竜が睨み合う。そこに、武ヶ原 隆リニカ・リューズが駆けつけた。
「彼方、何をもたもたしているんだ。――貴様、邪魔をするというなら力尽くでも通らせてもらうぞ」
 隆が牙竜に言う。
「覚悟の上だ」
「それじゃあ遠慮なく」
 隆が右の拳を繰り出し、牙竜の目の前で止める。牙竜はぴくりとも動かなかった。
「逃げなかったか。どうやら本気みたいだな。今度は止めないぜ?」
 隆が再度右の拳を振るう。それはモロに牙竜の顔面を捉えた。
「強情なやつめ……!」
「何があろうとここは通さん!」
「では、通す気になるまで続けるしかないな」
 再び構える隆。リニカが怯えたような顔をして一歩下がる。牙竜の行動を見守っていた重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)は、たまらず言った。
「マスター、止めてください。マスターの行動は論理的ではない」
 リュウライザーの言葉にも、牙竜はその場をどこうとしない。リュウライザーは、牙竜を助けようと無言で武器に手を伸ばす。しかし、牙竜はそれを見抜いていた。
「ライザー、その必要はない」
「……マスター。騎士道でもない、武士道でもない。マスターが進むべき道は?」
 リュウライザーが牙竜に尋ねる。牙竜は迷いなく答えた。
「俺の信じる正義の道に決まっているだろう」
「ふ、マスターらしい……。その言葉、私の心に響きました。もはや論理的理由など不要! 私もマスターと同じ道を歩みましょう!」
 リュウライザーは牙竜と反対方向を向いて壁になる。ヴァンガードへの攻撃は自分が防ぐつもりだ。

「牙竜ったら、どういうつもりなの?」
 【暗黒卿リリィ】の衣装をまとった、牙竜のパートナーリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)が、学園近くのビルの屋上で驚きの声を上げる。牙竜が正義のヒーローとしてヴァンガードと戦う姿を撮影するつもりだったのに、彼が壁となったからだ。
「ライザーまで……」
 戸惑うリリィの横で、太上 老君(たいじょう・ろうくん)が嬉しそうに言う。
「ほほ、馬鹿じゃとは思っていたが、あやつは本当のヒーロー馬鹿じゃのう」
 老君はリリィのお尻を叩き、彼女を後押ししてやる。
「ほれ、おぬしも行きたいんじゃろう? 共にあやつと馬鹿をやってやろうではないか」
「きゃっ! ど、どこ触ってるの! 言われなくても、今そうしようと思っていたところよ」
 牙竜の意図に気がついたリリィは、【暗黒卿リリィ】の衣装を脱ぎ捨てて【仮面乙女マジカル・リリィ】のコスチュームに変わると、バーストダッシュで牙竜の元に向かう。その後を老君も追った。
「さて、わしも行くとするかの。老体に鞭を打つんじゃ。ご褒美に、寄せて上げたミルザムの胸でぱふぱふでもしてほしいところじゃの〜う」