シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

ホワイトデーはぺったんこ

リアクション公開中!

ホワイトデーはぺったんこ
ホワイトデーはぺったんこ ホワイトデーはぺったんこ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「えっとー、な、なんかえらいことになってますぅ!? まずいです。このまま放置しておいたら、私たちも共犯です」(V)
 戦々恐々としながらソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、大ババ様を捜していた。
「共犯も何も、充分に共犯じゃねえか。諦めな」
 何を今さらと、達観した雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が言った。
「私は、たっゆんに恨みはないです。だいたい、私はまだまだ成長過程ですから、今にこの胸もたっゆんになります、たぶん!」
 以前、大ババ様に仲間と認められた自分のひかえめな胸を見つめて、ソア・ウェンボリスは言った。だが、それはないと、雪国ベアが無言のまま仕種だけで主張する。
「たっゆんに恨みはないって言っても、あれはどうするよ」
 そういう状況にないだろうと、雪国ベアは後ろで楽しそうに壁に落書きしている『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)をさした。
「うふふふふふ、たのしー」
 ソラの前の壁には、「ぺったんこ参上!!」とか、「たっゆんどもは頭に栄養が足りてない」とか、「馬鹿巨乳どもに私を捕まえられるものか」とか、恐ろしい言葉がでかでかと書かれている。
 さらにそこに「ソア・ウェンボリス参上!」と書き込もうとしているのを見て、さすがに本人が青ざめた。
 だめだこの暴走魔道書、なんとかしないと。
「あーん、はなしてー」
「やめなさい、ソラ」
 がっしりと小さなソラの身体を押さえ込んで、ソア・ウェンボリスが言った。
「私は、あなたの心にあるイメージを具現化しているだけだってー」
「そんなことないです!」
 思いっきり、ソア・ウェンボリスが、ソラの言葉を否定した。
「ベア、しっかりと押さえていてください」
 便乗して、壁に「貧乳参上!!」と書きかけていた雪国ベアを、ソア・ウェンボリスが足をのばして蹴飛ばした。
「仕方ねえなあ」
 ソア・ウェンボリスがソラを雪国ベアに任せようとしたとき、隙を見たソラが雪国ベアのポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。
「えーい」
「な、何を……ちゅるでちゅかぁ」
 口の中に赤いキャンディを突っ込まれたソア・ウェンボリスが幼児化する。
「なんで、そんなものもっているでちゅかあ」
 ぽかぽかと、ソア・ウェンボリスが雪国ベアの土手っ腹をちっちゃくなった手で叩いた。
「うおおお、俺様のとっておきが。命を賭けて、大ババ様の目を盗んで一個だけ手に入れといたのに」
 心底残念そうに、雪国ベアが叫ぶ。どうせまた、ろくでもないことを考えていたに違いない。
「わーい」
「ああ、ソラがにげまちゅ。ちゅかまえないとー」
 ここぞと逃げだすソラを見て、ソア・ウェンボリスは追いかけようとして自分の服の裾を踏んでびったーんと倒れた。
「世話が焼けるぜ。ちゃんと制服のコート着てろよ、御主人」
 さすがにすっぽんぽんになられてはこちらが恥ずかしいと、雪国ベアが言った。そのまま、ひょいとソア・ウェンボリスを肩の上に乗せる。
「おいかけてー」
「がってん。みてろよ、俺様の大活躍」(V)
 ソア・ウェンボリスに命令されて、雪国ベアは走りだした。
 
    ★    ★    ★
 
『イルミンスール魔法学校の、アーデルハイト・ワルプルギス様、いらっしゃいましたら、青いキャンディをお持ちになって、至急放送室までお越しください。繰り返します、イルミンスール……』
 蒼空学園の一部に、校内放送が響いた。
「何かしら、青いキャンディって?」
 その放送を聞いたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は小首をかしげた。
「きっと、あれをなおすための薬か何かではないのか」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、周囲で騒いでいる女子たちを指さして言った。
 中には、ぺったんこになった胸を押さえて、泣きながら使えなくなった巨大なブラジャーを振り回している子もいる。
「もしかして、青いキャンディって……」
 巨乳化の薬なのではと、カレン・クレスティアは心の中で一人叫んだ。どう見ても、大ババ様の仕業でぺったんこになった女の子たちを、たっゆんに戻す薬だろう。たんに、効果解除の薬かもしれないが、単純に胸をたっゆんにする薬だという可能性も捨てがたい。
「大ババ様を捜すよ、ジュレ。なんとしても、薬を手に入れて、困っている私……、いいえ、みんなを救うのよ」
「分かった。たかが脂肪の塊の大小に、そんなにムキになることはないであるからな。大ババ様にこれ以上イルミンスールの恥を広げてもらっては困る」
 素直に、ジュレール・リーヴェンディはカレン・クレスティアに賛同した。
 
    ★    ★    ★
 
「こんなかんじでしょうか」
 カフを下げて、荒巻 さけ(あらまき・さけ)がほっと一息ついた。たった今、放送室から校内放送をしたばかりだ。
「いや、まだ手ぬるいですね。アーデルハイトをおびきだすには、もっと徹底してやらないと」
 日野 晶(ひの・あきら)は荒巻さけとなにやら打ち合わせすると、再びカフをあげた。
「はーい、蒼空学園放送、あおぞらラジオはっじまるよー! まずはこの曲から。よい子のみんなもよかったら歌ってねー! アーデルハイト・ワルプルギスさんリクエストで、童謡『ひんにゅう』です」
 元気よくマイクにむかって言うと、日野晶は、荒巻さけとともにアカペラで美声を披露し始めた。もっとも、歌詞は酷い物だったが。

 とっとことっとこ おどりだす
 ぺったんぺったん なにがない
 つるつるつるつる やまがない
 とっとことっとこ うたいだす
 ぺったんぺったん なにがない
 つるつるつるつる むねがない
 つるつるつるつる むねがない
 つるつるつるつる むねがない♪

「はい、かわいそうですねー。そんな悲哀を持つ人たちに朗報です。今、蒼空学園放送室前で、胸の大きくなる不思議なお薬を大特価販売中ですよー。科学の結晶ですねー、さあ君も放送室前までダッシュだ!」
 なにか、蒼空学園中でぺったんこの悲鳴があがったような気もする。
「まあた、先輩たちは無茶がお好きですのね。そんな歌よりも、我の子守歌でも流した方が効果的だと思いますわ」(V)
 金魚鉢の外の調整室から、狭山 珠樹(さやま・たまき)が言った。
「それは、むずかしいですね」
 即座に日野晶が否定する。
 子守歌でみんな眠ってしまえば、安全に大ババ様を捜せることに間違いはないのだが、子守歌の効果は永遠ではない。大ババ様の位置を確実に把握していて、そこへ急行するのであれば、あるいは眠ってしまった大ババ様を捕まえることができるかもしれないが、現状ではそれは難しいだろう。だいたい、相手は、大ババ様だ、そうそう簡単に捕まるとは思えない。
「うーん、何か他の方法を考えないといけないですわね」
 ちょっと考えをまとめようと、狭山珠樹は再び放送を始めた荒巻さけたちを残して、放送室の外に出た。
「どうだい、大ババ様は見つかりそうかい、たま。ミーは、ぜひとも聞きたいことがあるんだからな」
 未だ開くことのできない、ワルプルギスの書をかかえた新田 実(にった・みのる)が、狭山珠樹を出迎えて言った。せっかく手に入れた魔法書なのに、読めないのでは宝の持ち腐れだ。こうなったら、書いた本人に聞くのが一番と、大ババ様を捜していたのだった。
「がんばってね」
 なんとも危なっかしい手つきで、器である魔法書をあつかう新田実の未熟さをちょっと心配しながら狭山珠樹は言った。
 放送室前の廊下には、放送を聞いて真に受けた生徒たちがちらほらと姿を見せ始めていた。
 だが、彼らはすべて信太の森 葛の葉(しのだのもり・くずのは)の餌食と成り果てていた。
「はあ〜、天国どすえ〜!!」
 思わず、普段物静かな信太の森葛の葉が、雄叫びをあげる。
「なでくり、なでくり」
「こ、こら、はなせー」
「虫をけしかけますよ〜」
「まきぞえは、いやだもん」
 桐生円とオリヴィア・レベンクロンとミネッティ・パーウェイスが三人一緒に信太の森葛の葉の腕に囲い込まれて、じたばたともがいていた。せっかくうまくはしょっていた服が乱れて脱げそうになる。
「あらいけないですわよ、こちらへ貸してください。ちょっとまつりますから」
 狭山珠樹が、ソーイングセットを取り出して言った。
「しかたないどすえ」
 しぶしぶ、信太の森葛の葉が三人を放す。
「ふう、助かった」
 やれやれと、桐生円が息をつく。
「あらまあ、あなたも飴をなめてしまったんどすかあ。さあ、こちらにいらっしゃいまし」
 ジュレール・リーヴェンディを見つけた信太の森葛の葉が、彼女を手招きした。
「我は、何も変わっておらぬ。キャンディなどなめておらぬわ」
 むっと、ジュレール・リーヴェンディが思いっきり頬をふくらます。
「はははは、なんだ、最初からチビのぺったんこか。これはいい」
 桐生円が、勝ち誇ってジュレール・リーヴェンディの頭をぽんぽんと叩いた。怒った、ジュレール・リーヴェンディが蹴飛ばす。
「やったな」
「ああ、けんかしちゃだめ」
「わーい、まぜてまぜて」
 あわてて引き剥がそうとするカレン・クレスティアに、ミネッティ・パーウェイスまでが加わってしっちゃかめっちゃかになる。
「まあまあ、最近のお子たちは元気があってよろしゅうおますなあ」
 にこやかに笑いながら間に入った信太の森葛の葉が、ヒロイックアサルトで顕現させた九つ尾で桐生円たちをキュッと締めあげて静かにさせた。または、軽く絞めて気絶させたとも言う。
「やはり、元からちっちゃい子たちは、ちゃんと区別しておかないと混乱の元だよ。どれ、こんなこともあろうかと、識別用のシールを持ってきたから、貼ってあげよう」
 ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)が、持っていたシールをぺたぺたと、気絶している桐生円たちの額に貼っていった。キャンディをなめていないジュレール・リーヴェンディには、赤いチューリップのシール。キャンディをなめてちっちゃくなってしまった桐生円たちには、青いぞうさんのシール。
「そんな物貼らなくとも、この子たちはこのままの方がいいんどすえ」
 元に戻られてはパラダイスが消滅すると、信太の森葛の葉がシールを剥がそうとして、ケイラ・ジェシータともめた。
「みんな、なにをしてるんのー。わーい、おねーちゃん」
 作戦を変えて、かわいらしい女の子の服に着替えてきた橘カオルが、その場にやってきた。
「おおっ、かわいい、こっちむいて」
 それを見つけた羽入 勇(はにゅう・いさみ)が、カメラのシャッターを連打する。まんざらでもなく、橘カオルがポーズをつけて応えた。
「いいねえ、その男の子だか女の子だか分からない中性的なところ」
 おだてているんだかなんかだか分からない台詞で、羽入勇がテンションを維持する。
「うん、おねーちゅんもおんなじだね」
 さっきまな板でごりごりすられたことを思い出して、橘カオルがよけいなことを言った。
「ボクは、別に子供化なんかしてないやいっ! 胸が小さいのは普段通りって……わーん」
 痛いところを突かれて、ぺったんこな羽入勇が泣きながら信太の森葛の葉の胸に飛び込んでいった。
「よしよし、いいこじゃのう」
 信太の森葛の葉が、羽入勇の頭をなでてなぐさめた。どうやら、ぎりぎり彼女の守備範囲だったらしい。