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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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【十二の星の華】シャンバラを守護する者 その3

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第5章


 日付が変わり、2日目へと突入した。

 ホイップの部屋の中では、何かの煙と臭いと皆の汗が充満している状態になっている。
 調合は幾つかに分かれ、同時に進行されている。
「グラン様、ちょっと宜しいでしょうか」
「…………」
 ミラベルが声を掛けたのだが、あまりに集中している為か反応がない。
「グラン様」
「わっ! すみません……なんでしょう?」
 もう一度、今度はもう少し大きい声で言うと、やっと気が付き、ミラベルの方へと向いた。
「襲撃するかもしれない人物が捕まったのは知っていますが、もしもの時の為に貴重な薬の材料や調合が進んだ状態の薬を預からせて頂けないでしょうか?」
「そうですね……はい、それが良いかもしれません。用心をしておく方が良いですから」
 そう言うと、今やっていたものをキリの良いところまで進め、瓶の中へと詰めるとミラベルへと渡した。
 貴重な材料であるサイクロプスの目玉は分けることが不可能な為、そのまま手渡された。
「使うまで、宜しくお願いします」
「はい」
 ミラベルは受け取るとそのまま、他のメンバーの元へと向かって行った。

 乳鉢や鍋などの道具を持って参加した本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、その乳鉢で材料をすり潰したり、鍋に掛けたりしている。
「この目目蓮(もくもくれん)の目玉と内臓を合わせて……」
「おつかれさま! 頑張ってくださいね!」
「うわぁっ!」
 ヴァーナーはパワーブレスのかかった強制ハグで涼介を応援した。
「お寿司も用意したので食べてくださいね」
 そう言うと、ヴァーナーは手の使えない涼介にあーんで食べさせた。
「助かる」
「元気が出たのならよかったです。そういえば涼介おにいちゃんはイルミンスールからわざわざ来てくれたんですよね?」
 もう1つ口へと運んであげながらヴァーナーは質問をした。
「同じ学び舎で学ぶ友の危機に駆けつけないなど男が廃る……だろ?」
「わぁ〜」
 ぱちぱちと拍手を贈り、もう1つ寿司を口へと運んだ。
 もう少しだけ会話をして、ヴァーナーは次の人の元へと向かい、涼介も自分の調合へと戻った。

■□■□■□■□■

 ジャタの森では風が強くなってきた。
 雨はまだ降っていないものの、いつ降り出してもおかしくはないだろう。
「ちゃんと付いてきていますか!?」
 小型飛空挺に乗った島村 幸(しまむら・さち)が後方へと叫んだ。
「ママ! ここにいるよーーっ!」
 真っ先に叫び返したのはメタモーフィック・ウイルスデータ(めたもーふぃっく・ういるすでーた)だ。
「いる」
 叫ぶまではいかないが、返答したのは箒に乗ったショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)だ。
 確認が終わると、幸は台風の方角を見て計算を始めた。
 それをメタモーフィックが特技の電子機器で手伝う。
 ショコラッテは地表と上空の気温・湿度・風速の計測をする。
「フォル兄が言っていたのはこの辺り」
 台風の計測に行く前にフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)に伝えられていた地点を探して、計測、を繰り返す。
「やはり銃型HCでのマッピング測定では台風の測定までは不可能ですか。まあ、出来ないという情報が入っただけでも良いでしょう」
 幸は計算結果が出るとまず、珠樹へと電話をした。
「現在進行方向は北東。このまま北東へ進む確立87%。南西へと避難することをお勧め致します」
 同じ内容をジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)にも伝えておく。
「こちらはまだ台風を追跡していきます。そちらはどうしますか?」
「情報は手に入ったの。樹兄さんとフォル兄の元へと戻る」
「分かりました。お気をつけて」
「そっちも」
 お互いに言うと、それぞれ別の方向へと進んで行った。

■□■□■□■□■

 火事のあった集落。
 ジーナとガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)は幸の情報を元に南西の方角の崖に居た。
「私達の出来ることを」
「うむ」
 ガイアスはドラゴンアーツを、ジーナはゴーレムを駆使して崖に洞窟を作っていく。
 かなり深い洞窟をこしらえることが出来たところで、移動を開始する。

 救護テントの中では未だ、動けない人達や家が焼けおち避難してきている人達がいる。
「き……聞いてください!」
 いつもは出さない大声で叫んだのはセルシアだ。
「5000年前に封印した巨大台風の封印が解かれたの」
 外の雲と風が酷くなってきていて、不安に思っていた人々は騒ぎ出す。
「これ以上……まだ不幸が続くって言うのかよ!」
「もう……いや……」
 テントの中ではパニック寸前になっている。
「落ち着いて、今、仲間がこの台風を消滅させようと動いてるの。でも、念のため避難をしてください!」
 今まで出したこともないような大声でそう言うと、必死さが伝わったのか人々の声は小さくなり、なくなった。
「避難する為の洞窟をそこの崖に作りました! そこに移動して下さい」
 テントの中へと飛び込んできたジーナが叫ぶと、ゆっくりと立ち上がり、人々は避難を開始した。
「……良かった」
「さ、セルシアさんも一緒に行って下さい」
「……うん……私も自分の出来る事をしてくるね」
「皆を信じて頑張りましょう」
「うん」
 移動ではぐれる者がないようセルシアが気を付けて、洞窟へは皆が無事に到着することができた。
 ジーナはそれを見届けると、ガイアスがすでにやっている他の集落の人達を誘導しに向かって行ったのだった。

■□■□■□■□■

 イルミンスール魔法学校の図書館の中では、帰ってきたばかりのショコラッテがフォルクスに情報を伝えていた。
「フォル兄、役に立った?」
「ああ、よく出来た」
 フォルクスはショコラッテの情報を元に封印でどれくらい弱まっているのかを計算していく。
「こっちにも資料あったよ!」
 埃をかぶった本を奥から持ってきたのは和原 樹(なぎはら・いつき)だ。
「台風が消えたのはやっぱりホイップさんの杖のあった場所みたい」
「でかした」
 本を持ってきた樹の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
 いつものセクハラではないので、樹も少し嬉しそうだ。
「ショコラちゃんもお疲れ様」
 樹はショコラッテにねぎらいの言葉を掛ける。
「うん」
 樹とフォルクスが仲が良さそうなのを見て、ショコラッテも心なしか嬉しそうだ。
「ショコラッテ、回復を頼む」
「うん」
 ショコラッテはアリスキッスでフォルクスの回復をした。
「まだ、資料になりそうな本がないか見てくる!」
「少し休め……さっきも計算してて頭から煙が出て来そうな感じだったぞ」
「でも……」
「いいから」
 フォルクスは樹を無理矢理休め、自分はまた計算へと戻っていくのだった。