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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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謎の古代遺跡と封印されしもの(第3回/全3回)

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第十四章 ――第四層――

・無血の戦士

「こちらは私達に任せて下さい!」
 ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は未だ正体の分からない一体を自ら引き受けた。
 地下の封印の扉内で待ち構えていた機甲化兵は三体、うち一体は撃破されている。現在は通路の前方に一体、後方に一体と、挟まれる形となっている。そのうちの後方の敵とウィングは対峙したのだ。
「ったく、まずはコイツらをなんとかしねーとな」
 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)は剣を両手持ちにし、構えを取る。対するは波動砲のようなものを放つ機甲兵だ。
「だな、ここが正念場だぜ!」
 鈴木 周(すずき・しゅう)もまた、同じ砲撃タイプへ向かって飛び込んでいく。
「わ、また無茶して……でも、やるっていうなら援護しなきゃね」
 彼のパートナーであるレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)が周に対しパワーブレスを施す。
 一方、波動砲を放っていた方の肩の部分の装甲が今度は開いた。そこから出たのは……
「火炎放射か!!」
 両肩から青白い炎が飛び出す。
「任せて下さい!」
 御堂 緋音(みどう・あかね)が氷術を発動する。一度目の攻撃で炎を相殺、間髪いれずに続けて術を発動させ、発射光を凍結させた。
「僕らも援護します」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)の機甲化兵を一体撃破した三人はサポートに回る。さすがに一体と戦った後では前線に赴くのは厳しいものがある。
「あっちの方はまだ分からないけど、砲撃型の方が厄介そうだなー」
 佐伯 梓(さえき・あずさ)は二体の動きを観察していた。正体不明の方は、どこから取り出したのか大振りの刀剣を持っていた。いや、腕と直接繋がっている、というべきか。
 近接型よりも広範囲への攻撃を仕掛けてくる方に人員を割く方がこの場合、適当に思われた。
「波動砲、火炎放射……足の方にも何か仕込んでありそうだな」
 梓はまだ様子見だ。レイディスと周が轟雷閃を繰り出している。それによってなのか、敵の動きは鈍っているようだった。
 
 一方、大振りの剣の機甲兵と戦っているウィングも苦戦を強いられている。
「アーガステイン、オルヴァ」
 彼は光条兵器を収め、実体を持つ剣を手に取る。
「魔道書を頼みますよ」
「任せて下さい」
 彼のパートナーである魔道書の神封剣 『アーガステイン』(しんほうけん・あーがすていん)がこの場に一冊だけ持っていた図書館にあった魔道書を使う。彼女自身も魔道書だが、本体は彼が握っている剣である。
「これは、力が……みなぎっていく!」
 どうやら強化型の方だったらしい。さらにもう一人のパートナー、エイフィス・ステラ・ファーラドリム(えいふぃすすてら・ふぁーらどりむ)がヒロイックアサルトを使う事でさらに彼の力を高める。
「行きます!」
 轟雷閃と雷術を駆使し、大剣を扱う機甲化兵の装甲を攻撃していく。だが、敵もそう簡単には倒されない。見かけの割に動きが早いのだ。ウィングの攻撃の大部分は当たるものの、防がれる事もあった。
「く……」
 機甲化兵の攻撃は得物が得物なだけに、剣で受け止めたとしてもかなりの衝撃が伝わってくる。強化魔道書がなければ通路の奥まで弾き飛ばされていても不思議ではないほどだ。
 それでも拮抗はしている。アーガステインは火術を機甲化兵へ放つ。退魔の力を持つ敵には単なる牽制、もしくは時間稼ぎにしかならない。だが、それで十分だった。
「ここからが本番ですよ」
 超感覚、殺気看破を駆使して敵の攻撃の先を読む。機甲化兵の早さもかなりのものだが、得物が大きい分感覚を研ぎ澄ませば避けられないものではなかった。
 敵の間合いに踏み込み、奈落の鉄鎖で引きつける。その隙に雷術と轟雷閃を畳みかける。三人分の力と古代の魔力を借りた彼の攻撃は機甲化兵一体を倒すのに十分なほど高まっていた。
「これで、終わりです!」
 封印解凍によってさらに力を解放する。オルヴァ・エラドーナを構え、動きの鈍った機甲化兵へ飛び込み、最後の斬撃を繰り出した。
『――アゼラスト』
 この止めの一撃によって機甲化兵セッテは完全に沈黙した。
「これであと一体……ぐ」
 短時間のうちに一気に力を使い過ぎたせいで、ウィングにその反動がきたようだ。剣を地面に突き立て、膝をついた。それを二人のパートナーが両側から支える。

 砲撃型との戦いも終わりが見えていた。
「砲撃は連続では打てない、それでも一分間隔は早すぎるよなー」
 梓はそう見立てていた。実際にそれだけの間隔で光の波動が来ており、それが打てない時は火炎放射と足のあたりから出る銃撃がやってくる。
「やはり長くは無理ですか」
 緋音の氷術はすぐに溶かされてしまう。それでも、装甲が水に濡れたのは僥倖だった。
「ですが、これなら……みなさん、下がって!」
 前に出ているレイディスと周を後退させる。
 だが、その時足元の発射口から銃撃が来る。こちらも氷術で一時的には止めていたものの、既にその効力を失っていた。
「うわ、タイミングが悪いな」
 梓が思わず声を漏らす。それらの銃撃をオゼト・ザクイウェム(おぜと・ざくいうぇむ)がディフェンスシフトによって防ぐ。直後に氷術を繰り出し、時間を稼ぐ。
 そして、

 ――サンダーブラスト!

 波動砲を打って間もないタイミングでもあり、緋音と梓の二重攻撃は効果的だった。動きは鈍り、痙攣を起こしたようになっている。もはやショート寸前だ。
「トドメだ!」
 レイディスがバーストダッシュで加速、その勢いで轟雷閃を叩きこむ。その勢いで胴体の装甲に穴が開いた。もはや制御を失いかけているのか、火炎放射はあらぬ方向へ放出され、足元の銃弾も暴発しているような状態だった。
「これで終わりだぜ!」
 周は破れた装甲内に高周波ブレードを突き入れ、轟雷閃を繰り出す。一度びくん、と動いたのち、機甲化兵からは火炎放射も銃撃も止み、沈黙した。
「終わったようですね」
 防御に徹していたリヴァルト・ノーツ(りばると・のーつ)が声を漏らした。
『…………』
 遺跡の守護者、ノインは何も語らない。ただ煙を上げる三体の機甲化兵を見つめているだけだ。
「よし、じゃあ奥まで行こうぜ!」
 周が先導しようとする。
「もう、周くん! そんなに先走ろうとしないの。何が起こるか分からないんだからね!?」
 レミが声を張り上げる。これまでの周の行動がどれほど危険なのか、見せられる側としてはたまったものではなかった。
 通路自体も広い。
「皆さん、先に行って下さい。私は後から追います」
 疲弊したウィングはまだあまり動けないようだった。
「とりあえず、回復はしておいた方がいいですね」
 緋音がヒールを施す。それでもすぐに回復するほど軽くはなかった。
 機甲化兵達を振り返りつつ、一行はその場をあとにし、通路の奥へと進んでった。
 しかしその時、
「え、まだ動くとのかよ!?」
 振り返った梓が、先程倒した機甲化兵が頭部を起き上げ、自分達に射出口を向けているのを捉えた。それは発射寸前だった。
「射出口は無防備ってのがお約束だろ?」
 黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が光条忍刀を突き立て、そのまま射出口を薙ぎ払った。エネルギーの行き場を失った頭部はそのまま暴発し、今度こそ動かなくなった。
 彼は万が一に備え、気配を消して近付いていたのだ。
「執念深いヤツだねぇ」
 武器を一旦収め、リヴァルト達のもとへ戻る。
「行きましょう。この先もこういうものがいるのでしょうか?」
 リヴァルトの顔は不安げだ。無菌室での一件、今の機甲化兵、それ以前に彼自身、この遺跡に何らかの関わりがあるかもしれない人間なのだ。
『試作型と実戦投入用と、機甲化兵はそれらを合わせて二百体製造されている。その全てがここにあるわけではない』
 ノインが思念で淡々と説明した。
『今のトレンタが標準的なスペックだ。だがそこのドゥーエも含めた最初期の六体はその後製造された機甲化兵の雛型。他の機体とは比べ物にはならない』
 それを聞いた一行は戦慄を覚えた。その雛型の一体がここにいたということは、それほどの兵器ですら凌ぐものが奥にあるかもしれないからだ。
「このまますんなりと行くのは難しそうですね」
 緋音が言う。禁猟区を前方と後方にかけてはいるものの、邪念を発しない機械が相手ではなかなかその真価は発揮されない。
「……リヴァルト君、みんな、下がって」
 わずかばかり進んですぐ、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は敵の存在を感じ取った。
「来ます!」
 今度は察知していたおかげですぐに反応が出来た。今度は腕が銃と一体になっているものだった。ドゥーエの波動砲ほどではないものの、今度はレーザーのような光線を連続で発してきていた。
「くそ、またかよ!」
 連戦で、前衛の者達の体力は回復しきっていない。
『ヴェンティ。これも初期ロットだ』
 ノインは事務的な調子で呟いた。

             
・失われた存在

「うん、私思ったのよ。この拘束具、大きすぎるじゃない」
「はいはい、中学生中学生。だから着るなって言ってるでしょーが!!」
 地下の無菌室から連なる通路沿いの実験室の一室。一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)は相変わらずのやり取りを繰り広げている。
「中学生って言うなッ!!」
「なんでそこで怒るのよ!? はい、脱いだ脱いだ!」
 渋々と拘束具から自分の身体を解放する月実。
「拘束具があるということは、人体実験があった事に他ならないのだろう。それがどういう経緯かは分からないが……力が必要な状況に置かれていた、ということか」
 月白 悠姫(つきしろ・ゆき)が拘束具を見つめ、ぽつりと呟いた。
「人体実験をしていたのは間違いなさそうだな。昔も今もマッドな行為というのは行われるものだな。ヘドが出る。だが、実験があったということは結果があるってことだろう」
 室内をくまなく調べつつ、後藤 日和(ごとう・ひより)も口を開く。人体実験があったというのはこの場の者達の共通見解であった。それを物語るものが現に残されているのだ。
「ざっと見、設備についてはよく分からないけど、これがあるってことは、被験者を逃がさない以上に彼らが危険だったってこともあるはずよ。お腹が空いて暴れたんだと思うわ。ちゃんとごはんあげないからこんなことになるのよ」
「最後は関係ないでしょ。えーっと、つまり『実験体が暴れ出したから実験室が廃棄された』ってことね。ついでに『何かしらの制御装置がこのあたりにあるはず』と……あっても使えるかどうかわからないけど」
 リズリットが月実の言いたいであろう事を端的に反復している。
「制御装置がなくても、もぐもぐ、実験中に暴れたのなら、もぐもぐ、実験の最新の、もぐもぐ、データはこの辺に、もぐもぐ、あるんじゃないかしら、ごくん。さっきの手帳を元に、もぐもぐ、データや研究記録を漁れば、もぐもぐ、わかることもあると思うのもぐ」
 月実は座った状態で食べ物を頬張っている。考えていることはまともなのだが、他の者からはそう見えないだろう。
「まあ、確かに何かしらの成果は……ってまたカロメ食べてるしっていうかまだ持ってたの!? 何味よ?」
「これ?『オークキング味』よ」
「食べられるかバカーッ!」
 リズリットの平手打ちが吸い込まれるように月実へと向かっていく。
「ほんとに何をやってんだあんたら? まあ実験があった以上、何らかの結果があるってことには同感だ」
 日和が言う。施設の保存状態を考えれば、どこかに研究データ、あるいは研究成果が残されている可能性は高い。もし彼が守護者の姿を認めていたならば、確信していただろう。
「そうだな。かつての内乱の際に廃棄された場所なら、これほどまでに原型は留めていないだろう。ここも含め、どこかには何らかの情報があるはずだ」
 悠姫もまた今いる部屋を中心にして、探している。
「気になっていたのは、基本的にこの施設のシステムが生きてるってあたりね。ということはよ。その動力は、どこかで生きている」
 一度顎に拳をつけ、考える素振りを見せた後、月実は閃いたように手を叩いた。
「そうよ! 警備システムとか妙な仕掛けとかそういうのは全部副産物で、半永久的なエネルギーの生成が研究の目的だったのよ!」
「はー、すごいわ。月実。それなら今世紀のエネルギー問題も解決ね……ってバッカじゃないの!? だいたいそれだと実験体の人が動力そのものになっちゃうじゃない! ありえないわよ!」
 リズリットが反論する。実際はそれが成果物の一つ、魔導力連動システムに通じる発想があったのだが、図書館フロアにも、今第二層にある情報拠点にも立ち寄ってない彼女達にはそれらの情報を知る由はなかった。
「でも、『実験体の弱点を見つける』『動力制御法を探す』というところは理解したよ」
 彼女達はまだ実験体の正体も掴んではいない。
「あとはこれの内容がもう少し分かればいいのだが……」
 悠姫が手帳のようなものを取り出す。研究データが書かれていると思しきものだ。
「その手帳ね。ちょっともう一回見せて。データ以外にも載ってることがないか調べておかないと。意外に日記とかポエムだったりして」
 月実の事をリズリットが蔑むような目でじっと見ている。
「リズの視線が怖いけど気のせいね。あとで麻婆豆腐つくってあげるから睨まないで」
「……月実、この依頼が終わったら、蹴る」
 ぼそりと、本人に聞こえるかどうかという声でリズリット呟いた。その顔は怒っているとも呆れているともとれた。