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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 3.町・占い部屋
 
 シイナから教えてもらった「占い部屋」の場所は、町の中心にあった。
 町で一番大きな宿屋の屋根裏部屋。
 占い師は数ヶ月前にふらりと現れて、そこに逗留しているとのことだ。
 
 鬼崎 朔(きざき・さく)と共に「占い部屋」調査にやってきた一行は、そのままでは中には入れないと悟る。
 エントランスには2人の屈強なボディガードが控えていたのだ。
 さすが町1番の宿屋なことだけはある。
「……なんて、感心している場合じゃないわ」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は溜め息をついた。
「問題は地球の方ね」
「倒して入れないことはないですが、それで騒ぎを起こしても、我々に利はないですからね」
 ホウ統 士元(ほうとう・しげん)は首をひねる。
 けれど「地球人」でない彼らには関係のないことだ。
 2名はそのまま正面突破で切り抜ける。
「スキルを使えばいいことです」
 「地球人」の朔は、「隠れ身」を使った。
 彼女はそのまま宿屋へと侵入する。
 
 という訳で、1番困ったのは何の策も打たなかった「地球人」の橘 舞(たちばな・まい)だった。
 パートナー達を不安げに振り返り。
「どうしよう、ブリジット、仙姫」
 答えたのは、ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)だった。
「大丈夫よ! 私に考えがあるわ! 舞」
 
 で、数分後。
 舞の携帯電話が鳴った。
「裏口から、上がって来て! 舞。もう占い師とは話がつけてあるから」
 舞は電話を切ると、恐る恐る裏口から侵入する。
 だが、田舎町の宿屋は外観こそ物々しいが、内部は誰もいない
「よかった! やっぱり持つべきものは賢いパートナーよね!」
 足取りも軽やかに、舞は仲間達の元へ向かう。
 すぐ後を、マッシュがつけていることにも気付かずに……。
 
 こうして7名は、全員無事に占い師の元へたどりつくことに成功したのだった。
 
 ■

 占い師と初めに接見したのは、先に辿り着いた月夜だった。
 彼女は刀真から「まず、ルミーナさんの情報を聞き出してほしい」と頼まれていた。
「ルミーナさん、ルミーナさん……刀真はパートナーの私より、環菜さんの方が大事なのね……」
 月夜は蒼空学園の一幕を回想する。

「刀真、これ」
 蒼空学園・理事長室にて。
 そこでルミーナ不在のため環菜の仕事を手伝っていた刀真に、月夜はナナからのメールを見せた。
「環菜、用事が出来たので切りがよい所で出掛けます」
 その時、刀真は確かに表情が変わった。
 それまでは自然体であったのにもかかわらず。
 彼が素の表情を見せたのは、その後1度だけ。
 野原キャンパスに着いた時。
「それじゃあ、俺達はシイナさんと合流してルミーナさんを捜しますね」
 ナナに告げた後、「ハリセン」を渡されて目を点にしたのだった。
「……何に使うんですか? コレ」

(あんな面白おかしい武器の使用方法を、しかも生真面目に教わるなんて! それもこれも全部、あの方への……)
 複雑な思いで扉をノックすると、中から返事があった。
 凛とした女の声で。
「漆髪 月夜様ですね? どうぞお入りください」
「え……?」
 彼女が戸惑ったのは、相手がすでに自分の名前をしていたから。
「どうして私の名前を?」
「占い師とはそんなものですよ。もっとも私は、コールドリーディングなどという下等な技術は使いませんがね」
 ギイッとドアが開く。
 そこには全身黒づくめの女が座っていた。
 大きな机の上には、磨き上げられた水晶玉が1つ置いてある。
 月夜が驚いたのは、彼女の容貌だった。
(美しい……確かに、彼女は美しい……)
「圧倒的に」美しいのだ!
 だが、その陶器のような白い肌や色素の薄い印象は、闇色の長い髪と瞳を必要以上に際立たせてしまう。
 加えて、生気のない双眸――。
 そのため見る者に「死神」のような印象を与えて、月夜の足を凍りつかせてしまうのだった。
「そうでしたか。蒼空学園の守護天使……ルミーナ・レバレッジの行方を知りたいのですね?」
 ハッと顔を上げた時、占い師は水晶に手をかざしていた。
「何でしょう? ……洋品店……これはメインストリートでしょうか?」
 ぼうっとしたままの月夜に告げる。
「『メインストリート沿いの洋品店』を当たりなさい。さすれば、お望みの守護天使にたどり着くことは出来そうですよ」

 ■

 次に入ってきたのは、士元だった。
 彼も月夜同様に足がすくんだが、そこは年の功で用件を切り出す。
「この町の中で、次に町長に攫われる者を予言して頂きたい」
「かしこまりました、士元様」
 占い師は無表情のまま水晶に手をかざす。
 一瞬、手から醸し出されるエナジーが黒い靄の如く見えたのだが、士元が目をこするとそれは見えなくなっていた。
(気のせいですかな?)
「いかがされましたか?」
 占い師が士元を見上げる。
 その瞳の闇に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、士元は頬を2、3回たたく。
「あ……いや。して、結果は?」
「……1時間後、と出ております」
 女は慇懃に答える。
「姓はクラリアス、名はアイナ。ご友人のようですね?」
「何? アイナ君ですと! こうしちゃいられません!」
 士元は顔を真っ青にして、占い部屋から慌てて出て行くのだった。
 
 ■

 次に入ってきたのは、朔だった。
「益代……ではないのですか……」
 ドアを開けて「隠れ身」を解いた彼女は、あからさまに落胆の声を漏らした。
「そうですね。『浦深益代』はこの町にはおらず、事件も起こしていないようですよ」
 占い師は暗にこの町での『蝋人形騒ぎ』が益代のせいではないことを告げ、朔を安心させた後で望みを聞いた。
「鬼崎 朔。では、あなたの望みは『今回の事件』について知りたいというのですね?」
「ええ、頼みます。そう、占い以外でも……もしご存じでいらっしゃいましたら」
「私は所詮、占い師という名の商売女。金銭以外のことは疎いのですよ」
 淡々と答えて、女は水晶に手をかざす。
「まず、吟遊詩人を探すなら『酒屋・公園・酒場』を当たりなさい。そして守護天使のことを尋ねたいのなら『メインストリートの洋品店』。そう出ていますね」
「他には? 何か見えますか?」
「他に……若い女性……これは、町長の奥様でしょうか?」
「町長の?」
「ええ、何か……そう、竪琴と指輪を持っていますね。それとこれは、『迷いの森』」
「『迷いの森』?」
「ええ。彼女が森へ行くのが見えますね。何やら楽しそうな……あら? 指輪が光っているわ……彼女は光る指輪を持っていたのですね。何とも眩い光ですこと!」
「その他には? 例えば、現状の様子とか?」
 胸騒ぎを覚えて、朔は問う。
「『迷いの森』にお友達は大勢向かっていらっしゃるのでしょうか?」
 占い師が問う。
 朔が頷くと、彼女は難しい顔で水晶をなぞった。
「『その行軍は全滅する』と出ております」

 部屋を出た朔は、真っ先に恋人の紗月に連絡を入れた。
『え? 俺? 今まだ森に向かってるところだけど?』
「あ、そう……なの。ん? ううん、ちょっと気になること、言われて……」
 朔は占い師の予言を話した。
 朔はあっはっはと明るく笑った後で。
『でもまあ、朔の言うことだから気をつけるぜ。何かあったら、1番に連絡するから! 吉報を待ってろって!』
「うん……楽しみにしてる」
 じゃ、と電話を切って、朔は胸を撫で下ろした。
 朔の心配をよそに、あちらは現状何の問題もないようだ。
「そうですよね、当たるも八卦って言葉もあることだし……」
 けれどこの胸騒ぎはいったい何なのだろうと、朔はいつまでも胸を抑えるのだった。
「そうだ! シイナ達にも連絡してあげないと!」