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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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【十二の星の華】双拳の誓い(第3回/全6回) 争奪

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「にしても、ここまで偽物が多いとはな」
「ああ、これも偽物だな」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)にうなずくと、ララ サーズデイ(らら・さーずでい)は持っていた女王像の右手をポイと投げ捨てた。
「こらこら、大事な商品になんてことしやがる」
 店の男が、嫌そうな顔でララ・サーズデイたちを睨んだ。
「偽物を売っておいてよく言う」
「贋作だって、芸術品だろが」
 男に言い返されて、ララ・サーズデイはリリ・スノーウォーカーと顔を見合わせて苦笑した。
 この店においてあった女王像の右手は、以前彼女たちがキマクで使った偽物だ。もちろん、制作者は彼女たち本人である。よくも、巡り巡ってここで売られていたものである。
「ふぁーあ。まったく、時間の無駄でおじゃる」
 眠たげに、ロゼ・『薔薇の封印書』断章(ろぜ・ばらのふういんしょだんしょう)が言った。女王像の右手には興味がないらしく、店を調べている二人から少し離れて、小鞄の小人さんに団扇であおいでもらっている。
「そうだな。これでは藁山に落とした針を探すようなものだ」
 思わず、ララ・サーズデイがロゼ・『薔薇の封印書』断章に同意した。
「おや、この香りは……」
 送られてくる風に、覚えのある香りを嗅ぎつけて、ロゼ・『薔薇の封印書』断章は、魔道書の表紙と同じ薔薇の文様の描かれた顔をついと上にむけた。
「わらわを眠らせた、あの香りじゃ」
「まさか、アルディミアクもここに来ているのか?」
「それは当然であろう。だが、花その物がここにあるという可能性もある。ちと調べてみるとするかな」
 周囲を警戒するララ・サーズデイに、リリ・スノーウォーカーが言った。
「それはいい。女王像の右手を探すよりも効率はよさそうだ」
 即座に、ララ・サーズデイも賛成する。
「こちらのようであるの」
 微かな香りを頼りに、ロゼ・『薔薇の封印書』断章が歩きだした。
「それにしても、アルディミアクはココを姉の仇と狙っているようだし、ココはココで、アルディミアクを妹と呼んでいるそうだ。まるで、一人の人間が二つの人格を持っているようであるが、いったいどうなっているのであろうな」
 歩きながら、リリ・スノーウォーカーが、ロゼ・『薔薇の封印書』断章から借りた十二星華プロファイルに目を通しながらつぶやいた。
「別人格があるとしても、先天性か後天的な刷り込みかで、まったく意味が違うだろうがな」
「後天的な洗脳だとしても、方法という物があるであろう。それに、それが恒久的であるかどうかというのは、大きな問題であるな。時間とともに薄れてしまうのであれば、繰り返さなければ維持はできないであろう」
 ララ・サーズデイの言葉に、リリ・スノーウォーカーが所見を述べた。
「あそこのようでおじゃる」
 ロゼ・『薔薇の封印書』断章が、三人の少女たちが囲んでいる店を指して言った。
「これが、あの花の本体だというのかい」
 小瓶に収められた黒い花びらを見て、桐生円が首をかしげた。
 これは、海賊の裏切り者がアルディミアク・ミトゥナの部屋から持ち出した小瓶その物であるのだが、実際にそれを目撃したのはレン・オズワルド(れん・おずわるど)だけであるので、彼女たちには分からなかった。
「花びらはバラバラにされて、少し乾燥されてもいるみたいだからあ、ちょっと判別しにくいねえ」
 オリヴィア・レベンクロンもちょっと首をかしげる。
「それは、もしかして、蓮の花では……」
 ララ・サーズデイが、声をかけた。ロゼ・『薔薇の封印書』断章が、匂いを確かめるように身を乗り出す。
「おお、お嬢ちゃんたち、詳しいねえ。これは、アーテル・ネルンボさね。粉にして火にくべれば、気分は天国って代物さあ」
 店の男が、価値が分かる客が来たとばかりに嬉しそうに言った。
「パラミタ産の黒蓮でおじゃるか」
 ロゼ・『薔薇の封印書』断章がつぶやいた。その名は、パラミタでは強い幻覚作用と誘眠性を持った薬草のものだ。
「これをどこで手に入れた?」
 桐生円が店の男に訊ねた。
「今朝仕入れたばかりだが、別に売り主のことなんか闇市じゃ訊ねないのがルールだ。俺は知らない男だったね。今もここにいるのか、もういないのかは分かりゃしねえ。それに、この花は、ある所にはたっぷり生えてる花だからなあ。たとえば、タシガンとかな。買わないんなら、どいてくんな。商売の邪魔だぜ」
 桐生円たちの買う気が薄いことを察知して、店の男が態度を素っ気ないものに変えた。
「おお、こんなとこにいやがった。どうだ、見つかったか」
 女性たちが頭を悩ませていると、そこへ吉永竜司がやってきた。こんなときにと、桐生円が頭をかかえる。
「何見てるんだ。どれ、オレにも見せろ」
 桐生円の持っていた小瓶を、吉永竜司がひょいと取りあげた。力が入りすぎたのか、それとも有り余りすぎていたのか、そのとたん小瓶があっけなく砕け散った。中に入っていたアーテル・ネルンボの黒い花びらが風にさらわれて飛んでいく。
「ああ、売り物に何をしやがる!」
 店の男が怒鳴った。
「いや、オレは何も……。円、なんとか言ってやって……。あれ!?」
 困った吉永竜司が、桐生円たちに助けを求めようとしたが、すでにそこには桐生円たちの姿も、リリ・スノーウォーカーたちの姿もなかった。
 
    ★    ★   ★
 
 携帯の呼び出し音が鳴った。
 アルディミアク・ミトゥナは、発信者の名をさっと読み取ると、音を消してそれを無視した。
「知り合いからじゃなかったのか?」
「いや、間違い電話だろう。取る価値もないものだ」
 訊ねるシニストラ・ラウルスに、アルディミアク・ミトゥナは素っ気なく答えた。
「それにしても、簡単に捕まえられると思ったのに、結構人が多くて困るわよねえ」
 ウルフカットの銀髪を軽くかきあげながら、しなやかな身体つきの娘が言った。
「あまり派手なことはするなよ。目立ちすぎて、教導団やクイーン・ヴァンガードともめ事を起こされては困るからな」
「あらあ、今のあたしは、あなたたちよりは顔が知られていないはずよ」
 珍しく人間体の姿で、デクステラ・サリクスが楽しそうに目を細めた。そういった仕種をすると、やっといつもの猫科の面影が蘇る。いつものファーつきのケープ姿はちょっと派手だが、黒と白のフードつきマントに顔と身体を隠しているシニストラ・ラウルスとアルディミアク・ミトゥナにくらべれば、よほど自然体だ。
「へー、素顔は、思ったより美人さんでしたのね」
 ちょっと感心したように、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が言った。
「あら、ありがと。かわいいわね」
 ニッコリと、デクステラ・サリクスが微笑む。獣化していないときは、性格もややおとなしくなるようだ。
「おーほっほっほ! こちらも負けてはいられませんわね。ああ、あそこにかわいいアクセサリーが売ってますわ。アルディミアクさんも、あれなどつけてはいかがかしら」
「そんな暇は……」
「もちろん、変装のためですわよ。あら、これなんか、お似合いですわよ」
 赤いジュエリーのついたイヤリングを手にとって、ロザリィヌ・フォン・メルローゼが言った。蓄光性らしく、ぼんやりと光を放っている。
「少し、ここで休憩してなさいな。私たちは、もう一度ぐるりと回ってみるわ」
 デクステラ・サリクスが、アルディミアク・ミトゥナに言った。
「だが、のんびりしていて、奴に逃げられたら……」
「大丈夫。丘の周囲は手下で固めてあるから、そう簡単には逃げられないわよ。それに、信用に関わるとは言っても、女王像も、裏切り者も、あたしたちには価値がないものだもんね」
「おいおい、勝手なことを……」
 そう簡単に言ってもいられないだろうと、シニストラ・ラウルスが困った顔をデクステラ・サリクスにむける。
「それに、……こういうときの二人の邪魔はしないものよ、お嬢ちゃん」
 チョンとアルディミアク・ミトゥナの鼻先を指でつつくと、デクステラ・サリクスが嬉しそうにシニストラ・ラウルスにだきついた。そのまま、彼を引きずるようにして姿を消してしまう。
「あれあれ。意外と呑気なんですね」
 サングラスに黒いスーツ姿の浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)が、ちょっと意外そうにデクステラ・サリクスたちを見送って言った。
 
「二手に分かれましたね。アルディミアクの方には何人かいるようですから、あの二人を追いかけましょう」
 人混みに紛れながら、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)がパートナーたちをうながした。
「どうにも、海賊たちの意図が分かりませんから、それを調べましょう。きっと、誰かが接触してくるはずです。ティセラかもしれませんし、鏖殺寺院かもしれません。それを調べれば、何か分かるでしょう」
「そうですね」
 ちらちらと、闇市で売っている物に目を奪われながら、クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)が答えた。
「あまりよそ見をしていると、迷子になりますよ」
 用心棒をする身にもなってほしいと、安芸宮 稔(あきみや・みのる)が言った。
「二人とも、早く早く」
 シニストラ・ラウルスたちにおいてきぼりにされそうになって、安芸宮和輝がクレア・シルフィアミッドたちを手招きした。迷子という意味では、安芸宮稔の方も相当怪しい。
「行くよ」
 パートナーたちをうながすと、安芸宮和輝は、海賊の後をつけていった。