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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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9-03 クライスと王子

 南部諸国にとって外部の者としては、最も早くにここに滞在していた、クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)
 クライス一行のうち、オークスバレーへ向かったジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)からの連絡を受けた。ジィーンは、パラ実に混じって探っているという。
「ああ、クライスか? 確かにオークスバレーにはパラ実が溢れてるが……なんか黒羊郷の奴等もいるぞ?」
「黒羊の兵が?」
「あとは何か教導団の残兵もいるらしいが……何にしろ早く動かないとまずいんじゃないか? 確か、こいつらを救うのも騎士なんだろ?」
「うん、そうだよね……ありがとうジィーンさん」
 なら、何とか早くここから救援を出さないと……クライスは考えた。僕達だけじゃ、無力だから。
 一方、ジィーンとは別の方角、三日月湖までの道を遡って情報を仕入れようと動いていたサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)は、水辺の関所で、これより南部諸国に入ろうとしている教導団が休息するところに出くわし、その詳細を聞くことができた。
 第四師団では見知った顔である。クライスがすでにあちらに滞在していることを話すと、青と皇甫は、是非食事でもご一緒しましょうと言ってくれた。サフィは、クライスの滞在する宿と連絡先を記したメモを渡し、馬で全力疾走で引き返すと、クライスに事を伝えた。
 クライスはこうして、昴ら教導団外交使節と、南臣ら南部諸侯らの出会う前に、南部で仕入れた情報があるとし、王子との面会の機を得ることが叶った。



 使節が休息を取る大宿を、クライスはローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)を伴って訪れた。
 ここに王子がいるということは内密にされているが、クライスは、直に王子に会うことを希望し、それが許可された。
 宿のいちばん最上の一室に入れられる、クライスとローレンス。
 そこには王子がいたが、王子の側近の他に、教導団マーゼン配下の本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)や、ノリさん等も護衛として固めていた。
 クライスは、王子に丁重に挨拶をし、名を名乗った。王子も、クライスのことを、教導団第四師団の戦いに尽力してきた薔薇学の騎士なのだということを聞かされていた。
「ぼくに話……クライスさん? どうぞ?」
 クライスは周囲を見渡し、少し話しづらいが仕方がない。と思い切り出した。
「王子。失礼ながら貴方未だ統一者としての証を証明しておりません」
 側近の眉がぴくりと動く。
「……」クライスは、続ける。「何故なら、諸侯の最大の不安を晴らせておらぬからです。即ち……」
 クライスは、教導団の本能寺やノリさんの方を見、すいません、と内心で謝りつつ、
「例えこの場で教導団に協力したとしても、いずれは裏切られ支配されるのではないか、という不安をです」
 クライスは言い切った。
 飛鳥の表情は変わらない(可愛い)。ノリさんは、何やて……といった顔をしているが、ひとまず続きを聞く。
 けどこれは、実際に彼らが抱いている不安の筈なのだ。クライスは思う。そもそも、ヒラニプラみなみおみ120万石の成立している理由もまた、彼らの不安を利用しているのだし。
「この不安の源は明確です。南部諸国が教導団や黒羊軍より弱いと考えているからです。
 故に、貴方が統一することで、教導団とも対等に渡り合える゛強さ゛を得られる証を立ててほしいのです」
 場に、しばしの沈黙があった。
「あんたからのお話は、それだけなの?」
 飛鳥が元気に言う。
「言いたいことはわかるで。でも、具体的にどうせいちゅうねんや? あ?」
 ノリさんが問うてくる。柄の悪いノリさんにたじろぎそうなクライスの傍にいたローレンスが、言葉を切った。
「いえ、一つ、その格好の相手があります」
 ローレンスは地図を取り出し、皆の眼前に投げ打つと、ぱしっと短剣を突き刺した。
「ほう」ノリさんはにやりと笑った。飛鳥の表情は変わらない(可愛い)。
 オークスバレーだ。
「今現在、旧オークスバレーに侵入しているパラ実の集団。一度は教導団を退けた此奴等に打ち勝つということは、即ち教導団にも勝る強さを持っているということになります。立てるべき証としてはこれで十分かと」
 ローレンスは、ノリさんと睨み合う。ノリさんは、ぬしらの言いたいことはわかったという不敵な表情。無論彼らも彼らの考えを持ちここへ来ているわけだ。飛鳥の表情は、変わらない(可愛い)。
 クライスは、王子を見る。王子はまっすぐに、クライスを見つめている。



9-04 お迎えにあがりました

 最南の館に会した、光一郎と南部諸侯ら。
「黒羊の使者が来る。それに、教導団の使者もこちらへ向かっている」
 南部諸侯の最も古参の者が呟くように言った。
 ここには、親黒羊の者も、親教導の者も、一同に集まっている。光一郎が血判を利用し、一つに纏めているのだ。しかしその結束はいまだ危うい。
 親黒羊派は、黒羊に許されるなら、改めて、黒羊に忠誠を誓いたいと思うのではないのか。
 このヒラニプラ南部における黒羊郷の存在は、彼らにとっては脅威なのだ。誰も黒羊郷に刃向かいたいとは思わない。それに敵対している教導団は彼らにとって邪魔である。王家に従うつもりもない。
 今は光一郎に弱みを握られている形で、黒羊にすり寄ることはできない。黒羊に信用してもらうことはできないだろう。
 だが、黒羊郷からの使者が来ているというこの状態は、もしかしたら、彼らにとって黒羊郷への忠誠を示すチャンスに出来得るのではないか?
 使者は、再び、南部の諸侯らに、黒羊郷に従う機会を与えてくれようとしているのではないか。
 (血判があったとて、この場でその盟主・南臣を殺してしまいそれを使者に示せれば、それが嘘の血判であり南臣に騙されたのだと示すことができないか?)
 親教導派には、教導団が動いてくれて、黒羊郷を退けてくれるならという思いの者もあった。
 但し、同じように教導団に支配を受けるのでは、という懸念もある。
 各々が、領地を広げたいと思っている。(独立色の強い三国に関しては、この場にいない。(一国は、オークスバレーに攻め入っているドレナダ。))
「これから、王子を迎えに行くじゃん」
 光一郎は、何ゆえ王子を今更、という諸侯に自らの考えを述べた。



 再び、河を下る、教導団外交使節。
 諸侯の旗を掲げた船団が近付いてくる、と言う。
 昴がばたばたと甲板に飛び出す。
「何だ。あの船団、武装を解除しないまま、こちらへ向かってくるとは、いかなるつもりだ?」
 舳先に見えるのは、かつての教導団員、南臣光一郎(みなみおみ・こういちろう)の姿だ。
 すでに教導団とは思えない。曲刀を差し、装飾の施された南部諸侯さながらの出で立ち。不敵なポーズで教導団外交使節に立ちふさがる。
 マーゼンも驚いて、出てくる。
「な、どういうつもりだ? 南臣。これは一体」
 教導団寄り四国を先陣に、羊寄り八国を直卒。全諸侯を揃えての登場らしい。しかも、プリアラ、デアデル、ドレナダの旗も見えている。
「王子の御前である、皆の者頭が高い!」
 光一郎は叫んだ。
「な、何?」
「みなみおみ……? こーいちろう?」
 王子が出てくる。
「ええ。俺様が南臣光一郎です。
 王子。お迎えにあがりました」