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学生たちの休日3

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学生たちの休日3

リアクション

 
 

1.キマクの星空
 
 
「よし、時間はたっぷりある。行くぜ、行くぜ、行くぜ」
 ブロロロロロロロ……!!
 まだ夜も明けぬころ、南 鮪(みなみ・まぐろ)ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)に乗って、北を目指していた。まだ見ぬ土地、未だはっきりとは定まらぬ国境を越えて他の国へ、行ける所まで行ってみようという計画である。
 さすがに夜だと、トワイライト・ベルトもあまり目立たない。それを越え、サルヴィン川へと達する。
「一つ、新装備を試してみるか」
 ブロ、ブロロロロロ!
 任せろとばかりに、ハーリー・デビットソンがエンジン音を高めた。
 そのまま、二人はサルヴィン川へと迷わず突っ込んでいく。
 普通ならそのまま沈んでしまいそうなものだが、機晶姫の浮遊能力と装備した加速ブースターで、二人はなだらかな川面を軽快に進んでいった。
「結構行けるもんだ。このまま、コンロンまで突き進むぜ。ヒャッハァ〜。コンロンにゃ、この世の物と思えねぇ天女様が居るんだぜ、きっと!」
 南鮪のテンションに呼応するようにハーリー・デビットソンも爆音をあげたが、二人の快進撃もそこまでだった。
 ブロロロロ……ぷすん、ぷすん!?
「れれっ、なんで止まるんだよ。おい、流されてんぞ!?」
 南鮪は焦ったが、ブースターの停止したハーリー・デビットソンは大河を流されるままだ。それどころか、水の中に沈みかけては、なんとか上にあがってきている。
『あー、もしもし、南よ、首尾はいかがであるかな』
 織田 信長(おだ・のぶなが)の声が、携帯から響いてきた。
「流されてる……」
 なんとかバランスをとりながら、南鮪は答えた。
『ということは、川には達したのだな。とりあえず、ハーリーは、見た目がバイクだから勘違いしやすいが、機晶姫であることを忘れないように。持ち前のタフさで、おぬしを乗せて走ってはいるが、本物のバイクなみに扱うと途中でばてるのだよ。それから、ブースターも、有限なので、あまり使いすぎないように』
「えっ、全開で使っちまったぜ」
『ガス欠という言葉を知っているかな。それとも、巨大なガソリンタンクでも積んでいったとか……』
「……」
『とりあえず、東に進みたまえ。コンロンに行くには、パラミタ内海を渡る方が、現実的である。記録の方、よろしく』
 ぷちんと、通話が切れた。
「行くぜ、行くぜ、行くぜ、陸を!」
 ブロロロロロ!!
 南鮪は岸を目指した。
 ハーリー・デビットソンも、ほっと息をついて喜ぶと。水飛沫をあげながら、懐かしい陸地へと戻ってきた。子犬のようにぶるぶると全身を震わせて水飛沫を飛ばすと、ハーリー・デビットソンはまた走りだしたのだった。
 
    ★    ★    ★
 
「お待たせー」
「いや、ぜんぜん待たされてないぜ。じゃあ、行こうか」
 待ち合わせのピラミッド前に空飛ぶ箒で現れた立川 るる(たちかわ・るる)を明るく迎えると、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は軍用バイクのサイドカーに彼女を乗せた。
 今日は、二人でキマク近辺にお買い物の予定である。
「誰かこの道を先に行ったのか? バイクの跡が残っているな」
 荒野に一筋のびているハーリー・デビットソンのタイヤ跡を見て、イリーナ・セルベリアがつぶやいた。
「多分同じことを考える人もいるんだよー」
 サイドカーの中で、どんよりと曇った空を見あげながら立川るるは言った。闇龍のせいで、ここしばらくのパラミタの空はどんよりと曇っている。おかげで、立川るるの好きな星も、以前ほどはっきりとは見えなくなっていた。
 気の滅入る風景ではあるが、こういうときの気晴らしはショッピングに限る。空京などは定番すぎるので、今回はキマクに行ってみようということになったのだ。
 幸いにして、イリーナ・セルベリアも立川るるもD級四天王である。そこそこキマクでも顔が利くだろう。もっとも、逆に挑戦してくるパラ実生もいそうではあるが。
 かなりの時間バイクで進むと、何もない荒野に唐突に緑が見えてきた。キマクのオアシスだ。
 人の生活にかかせない水源を中心に、人々が集まって町を形成している。
「わあ、ぜんぜん雰囲気が違うね」
 周辺部の、パオふうの家だかテントだか分からない物の群れを見て、立川るるが言った。
「なんだか、町全体が闇市みたいだなあ」
 早くも漂ってくるいかがわしい雰囲気に、イリーナ・セルベリアがちょっと警戒した。
 なんだか、町の入り口と呼べる場所に、奇妙な石像まで立っている。三面六臂の不気味な像で、女性らしき顔が正面に、左右にこの世の物ともつかない顔が並んでいる。
「魔除けか何かか?」
「逆に、モンスターを引きよせそうだけど……」
 あまり像と目をあわせないようにしながら、二人はキマクの中心へと進んでいった。困ったことに、町のあちこちに例の像がおいてある。いったい、何が起きているのだろうか。
 それをのぞいてしまえば、キマクの町は実に面白い所であった。
 周辺部のやっつけ的な町並みとは違って、中心に近づくにつれてちゃんとしたモルタルの家々が目立つようになってくる。家自体は簡素な物が多いし、ちょっとした抗争の跡なのだろうか、一部壊れていたり生々しい拳の跡がついている壁などもある。それでも、見る者を飽きさせないのは、繁華街でのきらびやかでいかがわしい看板群だ。これは色とりどりで、もう暴力的に楽しい。
「おい、そこの。うちの店に入って何か買いやがれ。他の店に行ったらぼこるぜ」
「そこのおねーさん。うちで働かなーい?」
「これこそは、かのドージェが愛用していたという幻のパンツだ。今なら、国頭書院の最新ビデオ『タシガンの神秘、エアーパンツは実在した』と『実録、メイドさんのパンツを追う』もおまけにつけるよー」
 客引きも刺激的である。
「とりあえず、どこかの店に入ろうか」
「そうしよー」
 バイクを降りると、二人は手頃な洋服店へと入っていった。
 
「いあいあいあ。今度は、あの角に設置いたしましょう」
 いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)は、二人が入っていった店の前を指して言った。
 VonVonVon……と特徴的な機械音を響かせながら、メカ ダゴーン(めか・だごーん)がそちらへと進んでいった。背中には、だごーん様作一刀彫り女神像を無数と呼べるほどたくさん担いでいる。
「ちょっと待て、人の店先に何おきやがるんでえ!」
 当然のように、店の者が飛び出して文句を言ってきた。
「何を言ってるのです。ここは御人 良雄(おひと・よしお)クトゥルフ様の地元ではございませんか。この像を飾ることにより、女王様、ドージェ様、だごーん様の力が降臨し、闇龍をも払いのけてくださることでしょう」
 いんすますぽに夫は、暗い空を見あげて言った。
「この女神像に毎日、いあいあと唱えるだけで極楽へ行けるのです。お手軽さが売りの一つです。さあ、皆様御一緒に。いあいあいあ、いあいあいあ」(V)
「いあいあいあ……」
 
「なんだか、外の方がうるさいよね。空耳かなー、知ってる名前が聞こえた気もしたんだけれど」
 立川るるが、不思議そうに小首をかしげた。
「さあ、キマクは、パラ実の本場だから、うるさくったってあたりまえだろう」
 そう言って、イリーナ・セルベリアは、ハンガーに掛かった洋服を物色していった。
「キマクの流行の服というか、民族服ってこれなのかよ」
 ずらりと並んだセーラー服をためつすがめつしつつ、イリーナ・セルベリアが言った。
「やーん。なんか、生地薄いよね。半分透けてない?」(V)
 さすがにこれはちょっとと、ショッキングピンクのセーラー服を見て立川るるは顔を赤らめた。
「それに、ミニスカートだと、空飛ぶ箒に乗ったら丸見えになっちゃうのがねー」
「それなら、キュロットスカートにすればいいぜ」
 そう言って、イリーナ・セルベリアが、別のハンガーからいくつかのスカートを持ってきた。見た目はスカートだが、構造はズボンなので中が見えるということはない。
「ああ、これなら少しぐらい暴れても平気だねー。上はどうしようかなー」
 いろいろ物色してみるも、どう見ても最近地球から持ち込まれたような怪しいコスプレ衣装しかなかった。
 しかたないので普通のブラウスの上に、ケスケミトルを着ることにする。四角い布を二枚縫い合わせただけの貫頭衣で、マントのようなポンチョのような、ゆったりとした振り袖のある上着のような、ちょっと不思議な感じの上着だった。白地に鮮やかな幾何学模様が細かく縫い取られている物を選ぶと、立川るるはさっそくそれを着てみた。外からあまり体形が分からないし、ふわふわしていて面白い。
「私もそれを着てみようかな」
 同じケスケミトルでも、たっぱのあるイリーナ・セルベリアが着てみるとまったく印象が違う。裾からのびた足が長く見えるシルエットとなり、また横が完全に開いているので、中着によってはかなり色っぽい。
「銃器を下に隠すには、もってこいか」
 ちょっと別な部分で、イリーナ・セルベリアが気に入る。
 二人ともお揃いの服を買うと、さっそくそれに着替えて店を出ていった。
「うわっ、いつの間にか謎の像が……」
 店の前に立てられた女神像を見て、立川るるが絶句する。
「地面から生えたのか?」
 ちょっと気味悪そうにイリーナ・セルベリアも言った。
「とりあえず、せっかく着替えたんだから、記念にプリクラでも撮りに行こうぜ」
「うん」
 そう言い合うと、二人は、いんすますぽに夫が背景にだごーん様作女神像を勝手に追加していったプリクラに入っていった。
 
 
2.ツァンダのスチール
 
 
「おやめなさい」
 ラルフ・アンガー(らるふ・あんがー)は、きっぱりと羽入 勇(はにゅう・いさみ)に言った。
「えー、だって、成体のドラゴンの写真撮れたら、凄いじゃない。ぜひ、空京写真館に飾りたいんだよ」
「だめです。だいたい、ここからアトラスの傷跡へだと、移動で大変に時間をくってしまいますよ。せっかくですから、今日は特にテーマを決めずに自由撮影というのはどうですか?」
 危ないからと言っても羽入勇は聞かないだろうからと、ラルフ・アンガーはやんわりとツァンダでの撮影に誘導した。
「うーん、じゃあ、とにかくでかけよう」
 交換レンズの詰まったカメラバックをラルフ・アンガーに渡すと、羽入勇は市街へと繰り出していった。
 
「さあ、スーパーへゴーだよ!」
「はいッス、お姉ちゃん」
 買い物カゴを持った広瀬 刹那(ひろせ・せつな)を従えて、広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)がお買い物へとむかう。
「さすがにスーパーの特売日は逃さないよね。今日は、雲海で捕れた魚の切り身が安いそうだから。頑張って勝ち取ってよね」
 先着百名様のタイムサービスを狙って、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)が二人を鼓舞した。
 
「いいなあ、生活感にあふれた町の風景だよね」
 商店街の通りを背景に広瀬刹那たちを写真に撮りながら、羽入勇は言った。
「カメラマンですか。趣味があうでございますね」
 ふいに声をかけられて、羽入勇は振り返った。
 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)がニッコリと笑って近づいてくる。
「でも、風景写真もいいですけれど、もっと芸術的な被写体を撮りに行きませんか。今、私たちのクラブでは部員を募集しているのでございます」
「写真部ですか?」
 なんのクラブだろうと、羽入勇は聞き返した。
「そのようなものでございます。最後に頼るのは己の目のみでございますが、部活動を広く知らしめるためにも、記録写真は必要でございましょう。よろしければ、カメラマンとしておつきあいいただけませんでしょうか」
「うーん」
 どうしようかと、羽入勇がラルフ・アンガーを振り返る。
「いいのではないですか」
 ドラゴンを撮影しにアトラスの傷跡へ突っ込んでいかれるよりはましだと、ラルフ・アンガーは二つ返事で同意した。
「ありがとうございます。では、市民プールへ行ってみましょう」
 そう言って、秋葉つかさは、確保した記録要員を連れて歩きだした。