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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第3回/全3回)

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【十二の星の華】 Reach for the Lucent World (第3回/全3回)

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第三章 シャムシエルを巡って

1.追跡、シャムシエル

「くそ、シャムシエルのやつ、どこ行きやがった!」
 シャムシエルを追う集団の先頭で、武神 牙竜が言った。距離のある状態から追跡を開始したため、目標の姿を見失ってしまったのだ。
「ん、あれは?」
 牙竜は、行く手にシャムシエルとは違う誰かを発見した。それは、別ルートでリフルを追っていた支倉 遥(はせくら・はるか)だった。パートナーたちと共に一台の小型飛空艇に三人乗りしているため、まるでスピードが出ていない。
「まったく、殿が『野良モヒカンをシメながらヒッチハイクしていこうぜ!』なんていうから出遅れたじゃないですか……途中道に迷うし」
 愚痴る遥に、伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)(通称『殿』)は、胸元に隠した何かをちらつかせながら言った。
「まあいいじゃねえか。おかげで秘密兵器が手に入ったんだしよ」
 殿の発言に遥がため息をつく。すると、屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)が遥のポケットを指さした。
「遥、携帯が鳴ってるぜ!」
 かげゆに言われ、遥が携帯に出る。それは、一人飛空艇に向かわせた、ベアトリクス・シュヴァルツバルトからの連絡だった。ベアトリクスは飛空艇の羅針盤と携帯のGPS機能を使い、リフルと遥たちとの位置関係を伝える。
「ええ、右にもう30度ほど……というとこのくらいでしょうか。そのまま真っ直ぐ。分かりました」
 遥に追いついていた牙竜には、この会話が聞こえていた。
「ようし、みんなこっちだ!」
 牙竜に先導され、一行は遥の指し示した方向に進路を取る。進むべき方向が定まると、渋井 誠治(しぶい・せいじ)が大声で仲間たちに呼びかけた。
「リフルの石化を解く方法や、シャムシエルへの接触の仕方を相談したい。まず、石化を解くことのできるやつはいるか?」
 生徒たちは一様に首を振る。シャムシエルへの接触方法については、時間稼ぎや情報の引き出しを目的に話しかけてみる、という生徒が何人かいた。
「そうか……。じゃあ石化に関しては、シャムシエル自身が解くのを待つしかないかな。会話はいい作戦かもしれない。とりあえず、すぐに戦闘を仕掛けるのはやめておこう」
 それから、と誠治は念を押すように言った。
「知ってるやつも多いと思うが、シャムシエルは剣の花嫁を操れる。該当者は目を合わせないように注意してくれ」
 誠治の言葉を聞いて、甲斐 英虎は剣の花嫁である甲斐 ユキノを振り返った。
「ユキノ、気をつけてね」
 ユキノは英虎の後ろでこくこくと頷く。隣を行く武ヶ原 隆は、二人に突っ込んだ。
「俺たちについてくるのはまだいいとしよう……乗り物をもってきたのも正解だ。だが……なんでよりによってコタツなんだよ! コタツが乗り物と言い張るのも理解できないがな!」
 そう、英虎とユキノは、あろうことか二人揃ってコタツをもってきていたのだ。当然、コタツではシャムシエルを追いかけることはできない。そこで、二人にはリニカ・リューズが小型飛空艇を貸している。
「いやー、なんとなく」
 ひょうひょうと答える英虎に、隆はそれ以上問い詰めるのを諦めた。
「ところでさ」
 今度は英虎が隆に問いかける。
「ずっと気になってたんだけど、武ヶ原ってそんなに短気な方じゃないと思うんだよねー。どうして、襲撃事件の時はリフルに結構キツくあたるようなことしたのかな? もしかして、襲撃された人の中に知り合いがいたりとか?」
「それは」
 英虎の言葉に、リニカは隆を横目で見る。
「……その通りだ。俺の従姉(いとこ)が被害に遭った。命に別状はなかったがな」
 そう静かに答えた隆の顔を、リニカは驚いた目で見つめていた。
「なんだ、リニカ?」
「隆が自分からその話をするとは思わなかった」
「教えないと、いつまでもつきまとわれそうだからだ」
 そう言って顔を背ける隆に、英虎はいつも以上の笑顔を浮かべた。
 
 和やかな雰囲気の英虎たちとは対照的に、集団の後方ではヒナ・アネラ(ひな・あねら)が叫び声を上げていた。
「玲也、お待ちなさい! 玲也っ! 策はあるんですの!? 玲也っ!!」
 リフルが傷つけられ、石化されたことで頭に血を上らせている月島 玲也(つきしま・れいや)には、ヒナの声も届かない。
(リフル……! リフル……!!)
 巨大甲虫に乗った玲也は、仲間のことも、肩で震えるペットのシンのことも考えない、危険な飛び方をしていた。
「な、何やら『きゃら』が変わっておるな。どうしたというのだ玲也は」
 玲也のただならぬ様子に、暁 出雲(あかつき・いずも)も少々動揺する。
「それだけ、玲也の中でリフルさんの存在が大きいということですわ……仕方ありません」
 見かねたヒナは、威力を弱めた雷術を玲也にぶつけた。全身に痺れを感じ、玲也が動きを止める。
「いい加減になさい、玲也」
 ヒナは玲也を正面から見据え、諭し始めた。
「わたくしは、リフルさんに出会ってあなたがどう変わったか、どんなに彼女を大切に思っているのかを知っていますわ。でも、自分を見失ってばかりで『大切なモノ』を護れると思ってますの? 心配しているのは皆さん一緒です。相手が強敵だからこそ、冷静に行動しなくてはいけないんですわ」
 玲也は、しばらくぼんやりした顔でヒナを見ていたが、やがて我を取り戻して涙ぐんだ。
「……ごめん。シンもごめんね。リフルが怪我をするかもしれない……またいなくなるかもしれないと思うと、怖くて……」
 玲也は涙を拭うと、拳を握りしめて言った。
「僕はまだ子供で、力も考えも足りない。でも、絶対リフルを助けたい。なくしたくないんだ!」
 玲也の力強い言葉に、出雲もいつになく真剣な眼差しで声をかける。
「我はまだ契約して日が浅い故、全ては分からぬが……玲也がそこまで誰かを想えると知って、嬉しいぞ。我ら個人の力は、確かに小さい。だが、皆が力を合わせれば、大きなものになるのではないか」
「――うん」
 玲也は目を閉じて深呼吸する。吹っ切れた表情だった。
「悔しいけど、僕にシャムシエルを倒せるだけの力はない。だから、戦うみんなの力になれるよう、精一杯援護しようと思うんだ」
「それが分かっただけでも、また一歩成長ですわ」
「行こう! みんなでリフルを取り戻すんだ!」
 玲也が再び巨大甲虫を発進させようとする。そこに、殿が割って入った。
「いい感じのとこ悪いんだけどよ。貴様らの乗り物、虫にトナカイに飛空艇と、なかなか豪華なラインナップじゃん? 俺たちにどれか分けてくんね?」

 シャノン・マレフィキウム(しゃのん・まれふぃきうむ)マッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)は、シャムシエルがリフルを確保した後も、彼女に同行していた。
「シャムシエル、君に聞きたいことが二つほどあるのだが」
 シャノンが切り出す。
「なんだい」
 シャムシエルは、石になったリフルを持ち直しながら答えた。
「まず一つ。なぜ君は、闇龍に対して何も行動を起こさないんだ」
「ティセラに介入する気がないからね」
「……なるほど。では、君を作ったのはどういう人物なんだ。神であるシャンバラ女王の血を再現でき、剣の花嫁を人工的に作り出すことのできる博識な学者とお見受けするが」
「ボクが作り物である、と?」
 シャムシエルは口元に笑いを浮かべたまま、冷たい目でシャノンを見た。
「分かった、今の質問は忘れてくれ。私は、魔族の理に従い背徳者に協力するまでだからな」
「あーもう、持ちにくいなあ。割っちゃいそうだよ」
 シャノンの言葉を聞いているのかいないのか、シャムシエルは石になったリフルの運びづらさにイライラしていた。
「君は石化を解くことも、剣の花嫁を操ることもできるんだろう? 一旦リフルを元に戻して、操ればいいじゃないか」
 シャノンは当然のことを言う。
「それでもいいんだけどね。マ・メール・ロアに戻らないと、ちゃんとした洗脳はできないんだ。ボクがこの場でできるのは簡単な催眠。正気に戻って暴れられても厄介だから」
「うんうん、このままにしておこうよ〜」
 シャムシエルの言葉に、マッシュはうっとりとした表情でリフルをなで回す。そのとき、シャムシエルが体をピクリとさせた。
「キミたちがくっついてくるせいで、追いつかれちゃったじゃないか」