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サンタ少女とサバイバルハイキング

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サンタ少女とサバイバルハイキング
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第11章 なぜならそこに山があるから


「皆、あと少しだ、がんばれー!!」
 意外な事にまだ元気なアルツールが、皆を励ます。
 山頂には、まだ雪が残っていたが、運動の連続で、皆はまだ寒さを感じていない様子だ。
 ミルディアは、葵とイングリットに手を貸し、最後の坂をひっぱりあげた。
「あ、ありがと! あなたは大丈夫?」
 息をきらせながらミルディアを気遣う葵に、ミルディアは、胸を叩いて笑った。
「あたしなら大丈夫! 多少の無茶なら慣れてるから!」
 そう言って、ミルディアは次の人の手助けに向かう。
「元気だにゃ〜」
「だね〜」
 イングリットと葵は、服が汚れるのも構わず、そのまま仰向けに寝転がった。

「あ、あとちょっと…っ!!」
 郁乃とマビノギオン、千種の3人は、這うようにして、頂上を目指していた。
「頑張れ! ほら、歩け! 頂上まであと少しだぞ!」
 トライブが、郁乃達に声を掛けながら、その横を登って行く。
 郁乃は、手を止め、息を整える。手足は重く、思うように動かない。
「ほらっ、つかまって!」
 郁乃が顔を上げると、フレデリカが手を差し伸べていた。
「いっしょに、テッペンに立とうっ!」
「っ……うんっ!!」
 郁乃はフレデリカの手を強く握り返し、鉛のような手足に気合いを込めて立ち上がった。
 ミルディアもやってきて、マビノギオンと千種を助け起こす。
「負けないで! いざとなったら、担いででも一緒に登るってあげる!」
 マビノギオンと千種がそれぞれミルディアに礼を言う。
 ミルディアは2人の間に入って、背に手をまわし、力強い足取りで山頂を目指す。
「山頂までみんなで行くの! そうじゃなきゃ、意味ないじゃない?」
 ミルディアの元気をわけてもらったように、マビノギオンと千種は郁乃のあとに続いて山頂に到着した。

「なんて、綺麗なの!」
 郁乃はようやく辿り着いた山頂の景色に、感動していた。
「フレデリカが山登りを鍛錬にする理由がわかるわ……」
 隣に立つマビノギオンも、満足そうに景色を眺めている。
 千種は、新鮮な空気を思い切り息を吸い込み、普段溜まっていたもやもやを吹き飛ばすような深呼吸をした。

「イルミンスールの周辺も自然の多い環境じゃが、それとまた違った自然に触れ合うのも良いものだのぉ」
 玉兎がそう言って、気持ち良さそうに目を細めるのに、芳樹とアメリア、マリルが頷く。

「ほんとに、すごいですぅ」
 頂上に立った明日香は、ぐるりとパラミタ大陸を見渡した。北のイルミンスールやタシガンの方向は暗雲が立ち込めていてよく見えないが、空京のある南の方には太平洋が見え、キラキラと青く輝いている。
 空飛ぶ箒で見下ろすのとはスケールの違う大自然の素晴しさに、感動を覚えた。

「到着ーっ! でも、くやしーっ! 一番じゃなかったぁっ!!」
 美羽が心底悔しそうにいう瞬間を、コハクのカメラは逃さなかった。

 珂慧は、木の間に毛布とロープとで簡易テントを作り、救護や女の子達が着替えるスペースとして役立てていた。
 しかし、作った後はやる事がないので、またスケッチを始めている。
 スケッチブックには、珂慧が見た山や花に混ざって、ハイキングを楽しむ皆の姿や、初夏の山のサンタクロースなどの不思議な光景が描き込まれていた。
「うふふ、白菊、楽しそうねぇ」
 スケッチブックを覗き込んだヴィアスが、今日の絵を見て言った。

 翔と万願が、今度はお茶の用意に奔走する。
 手伝っていたガレットは、刀真が貸してくれた月夜の図鑑で調べて、諦めかけていた希少な高山ハーブを数種類手に入れる事が出来たので、至極御満悦で給仕にあたっていた。
「終夏、コーヒー飲むかい? あ、お菓子もあるよ」
「当然。」
 対照的に、終夏は、あまり機嫌のよろしくない状態で、ガレットの差し出すクッキーを頬張った。
 結局、キノコは半分しか持って帰るのを許してもらえなかったのだ。
「ねぇ、あたしたちにも分けてもらえるの?」
 ようやく皆に追いついた魅世瑠が、ガレットに話し掛けた。
「お腹ペコペコでさぁ。なんか食べる物あるかな?」
 フローレンスはそう言いながら、ガレットの手元の皿から、ドーナツを拝借した。
「ラズ、グリフォンのまるやきがたべたーいっ!」
 わがままを言うラズの肩に宥めるように手を置いたアルダトがガレットににっこりとほほ笑んだ。
「あたくしは、あなたでもよろしくてよ?」
 女性を相手にするとあがってしまうガレットは、ろくに応えられず、顔を真っ赤に染めて口ごもる。
 終夏はそれを横目で見ながらクッキーをかじり。ほんのちょっとだけ、機嫌が良くなった。

「ああ、よかった。もう皆、登ったんだな」
 イリーナは、長門に救助者を託し、鳳明とヒラニィを連れ、頂上の参加者達に合流した。
「わぁ、すごい……」
 鳳明は、眼下に広がる光景にほっと息をつく。
「うん。すごくいい眺めだな。今日一日の報酬だ」
 鳳明は、イリーナの言葉にほほ笑んだ。

 エヴァルトは、ルカルカが取り出した配給のレーションを見て、不味そうに眉をしかめた。
「教導団てのは、ロクな食い物がないのか?」
「えー、とっても美味しいよ? 団の自慢だもん。食事は士気に関わるから大切なの!」
 ルカルカの言葉をエヴァルトは信じず、やれやれと首を首を振った。
「ホントなのに!」
 怒るルカルカと、呆れるエヴァルトの様子に、クレアは昼間の事を思い出して小さく微笑んだ。
「いや、これは意外といけますよ」
 連れのザカコの言葉に、ルカルカがそうでしょうと口を開きかけたが、デザートの柏餅とちまきから先に食べているザカコを見て、言うのをやめた。

 正悟は、ようやくチャンスを見つけてフレデリカの隣に座った。
「どうしたの?」
 そう聞いてくるフレデリカは、涼子に約束だとねだられ、彼女の予備の制服に着替えていた。その為、今は可愛い地球人の女の子にしか見えない。
 おかげで遠かった存在が身近に感じられ、それが正悟に勇気を与える。
「うん」
 あいまいに返事を返し、緊張をほぐすために深呼吸すると、正悟は意を決して口を開いた。
「フレデリカ・ニコラスさん、もし良かったら、俺のパートナーになってくれませんか?」
「えっ!?」
 驚くフレデリカに、正悟が続ける。
「クリスマスの時のフレデリカさんを見ててさ、最初は、危なっかしいなぁとか、この子、大丈夫かなとか思ってて、そういうのを見てフォローしたいって思いの方が強かったんだけど、信念とか根性とか気合いとか知って、正直感動したんだ。俺自身、それに触発されて配送の仕事を選んだようなものだし。だから、
 俺は、フレデリカさんみたいな人とパートナーになって、一緒に成長していきたいんだ」
 一世一代の告白に、フレデリカは黙り込み、真剣に考えた。
 正悟にはずいぶん長い時間に感じられた。実際そうだったのだろう。
 フレデリカは、真剣な表情のまま顔を上げ、まっすぐに正悟を見つめた。
「ごめんね、パートナーにはなれない」
 それがフレデリカの出した決断だった。
「確かに、誰かと一緒に成長して行くのもありだと思う。でも、私は、まだひとりで行ける所まで行ってみたいの。自分の限界も見てないうちから、誰かと一緒になんて、私は走れない。私には、まだまだひとりで乗り越えなきゃいけない事が残ってる。だから、まだ誰の手も取れないの。もちろん、ひとりで生きてるなんて思ってるわけじゃないよ? 皆に助けられなきゃプレゼントだって配れなかったくらいだもん。でも、それとは違うの。……こんな説明で、私の気持ち、わかるかな?」
 フレデリカの瞳が不安気に揺れる。
「うん、わかった。ダメかもなって気持ちもあったし。でも、今回は諦めても、チャンスがあるかぎり何度でも正攻法でアタックするよ」
 正悟は、フレデリカの『まだ』という言葉に望みをかけた。

「フレデリカさーん、着てみたよ、見て見てー♪」
 フレデリカの服を着た涼子が、嬉しそうに2人の元に戻ってくる。
「うふふ、昔とった血が騒ぐわぁ♪」
 涼子が両手を広げて見せると、脇からにょきっと手が伸び、そのまま涼子の大きな胸をぷにゅと掴んだ。
「んっふふ! 【おっぱいハンター】山頂に参上! フレデリカちゃんのおっぱいGETだぜ☆」
 明が胸をぷにぷにと揉みながら、高らかに宣言する。突然の出来事に、フレデリカも正悟も揉まれている涼子もどうしていいのかわからない。
「いやぁ、フレデリカちゃんってこんなにいい乳してたっけ? さては着やせするタイプだな! てっきり絶景で絶壁を堪能する事になるかと思ったよ。去年揉めなかったら今回もめてよかったわ〜」
 爽やかに言う明に、涼子の『ハウスキーパー』が炸裂する。
「そっ、掃除掃除掃除掃除掃除掃除ぃいいいっっっ!!!」
 まともに技をくらい、気絶する明に、容赦無く涼子の仕込み竹箒が振り下ろされた。
「わーっ、涼子さん、落ち着いてっ!」
 正悟が慌てて涼子を止めに入る。
「しょ、消毒しなくちゃ……」
 絶望的な顔で自身に『ランドリー』を使いかける涼子を、正悟とフレデリカが必死に止めた。
「ふぅえぇええんっ」
 フレデリカは、縋って泣きじゃくる涼子をよしよしと慰めた。

「どうしたの? フレデリカさん、かわいーっ!」
 未沙が、正悟を押しのけ、百合園の制服を着たフレデリカの隣に座った。
「えへへ、似合うかな?」
「うん、すっごく可愛いよ!」
 未沙はいいながら、さらにフレデリカとの距離を詰める。
「ね、フレデリカさん、そういえば、クリスマスの時に、妹達にはプレゼント渡して貰ったけど、あたしの分は貰って無かったよね?」
「そうだっけ?」
 未沙に言われ、フレデリカはあの日の事を思い出そうとするが、正直、疲れすぎていたため、細かい部分の記憶が曖昧だった。
「あたし、やっぱりフレデリカさんからのプレゼントが欲しいな♪ 協力してくれる?」
「協力?」
「うん。ちょっと目を瞑って、こっちを向いて?」
「こう?」
 正悟が危険を察知した時にはすでに遅く、
 ちゅっ。と、未沙の唇が、軽くフレデリカの唇に触れた。
「う……うぁあああああっっっ!!!?」
 驚愕のあまり絶叫する正悟に、驚いた涼子が、落ち着かせようと傍に行く。
「お、お兄さん、しっかりして!」
 きょとんとするフレデリカに、未沙は楽しそうにほほ笑んだ。
「えへへ、フレデリカさんのプレゼント、貰っちゃった♪」
「あーっ、お姉ちゃんダメなのっ! サンタさんはみんなのモノなの。サンタさんを独り占めしたら、いけないのっ!」
 未羅が、未沙とフレデリカの間に割って入る。
 そんなプレゼントなら自分もほしいという者達が、わらわらと集まってきた。
「いい加減にするのですぅ!」
 明日香が、フレデリカを困らせる者達を一喝する。
「今はクリスマスじゃないのですぅ! サンタさんを困らせては悪い子なのですぅ!!」
 明日香の言葉にフレデリカが我に返った。
「そーだよっ、プレゼントはクリスマスに渡すものだよっ!」
「いや、怒るのそこじゃないでしょうが!」
 フレデリカの天然発言に、思わずガレットがツッコミを入れた。

「なんて楽しそうな……っ、我慢できん! 俺も仲間に入れてくれ〜っ!」
 周が、フレデリカ達に向かってダイビングよろしく飛び込んだ!
 女の子達から悲鳴があがり、気がつけば、ボコボコのグルグルにされて、部屋の隅に放置されている。

 くしゅんとくしゃみをする葵に気づき、トライブが手持ちのレインコートを差し出した。
「寒かったら、これ使えよ」
 葵が、レインコートを受け取ろうとした時、
「ふわーっはっはっはーっ!! 遅かったな、お前達!!」
 皆とは逆の方向から現れた、傷だらけの変熊が、よいしょと岩をよじ登り、仁王立ちで皆に言う。
「きゃあっ!!」
 女の子達は、変熊から顔をそむけ、逆の方へ走っていく。
 見れば、着ていたはずのサンタ服は、関節部分に名残らしい布切れがあるだけとなり、結局、いつもの全裸にマント姿と変わらない恰好になっていた。
 葵もイングリットとともに逃げて行ってしまい、トライブは複雑な気持ちで、変熊にレインコートを差し出した。
「……着るか?」

「おーいっ、みんなー! 記念写真とるよーっ!!」
 コハクとともに、頂上記念撮影のセッティングをととのえた美羽が、皆に声を掛ける。
 ひとところに身を寄せ合い、皆がコハクの方を向く。
「みんなー、準備はいいー? とるよー!!」
 前列、フレデリカの横に席をとった美羽が、大きな声で皆の注意を引く。
「それじゃ行くよ? はい、チーズ!」
 カシャッ!と、コハクの持つカメラが最高の瞬間をとらえた。
 美羽はさっそく、写真がほしい人のリストづくりに取り掛かる。

 変熊は、オルカが守ってくれていた仔トナカイと再開を喜んでいる。
「この子、群れとはぐれちゃったんだね」
 フレデリカが言う。
「私が連れて帰ってもいいんだけど、どうする?」
 変熊は離れがたそうにしていたが、迷いに迷ったあげく、この子の為、泣く泣くフレデリカに預ける事を承知した。
「そんなに泣かないでよ。あ、そうだ。それじゃ、名前ぐらいつけてあげれば?」
 フレデリカに勧められたが、なかなか思いつかない。
「ヘ、ヘンクマだから、…ヘントナ……トナカン……」
 オルカとクロトも巻き添えに、変熊とフレデリカがうなされるように悩んだが……、
「じゃ、女の子だし、『ヘノ子』でいいか!」
 面倒臭くなったフレデリカが、これまた大雑把な名前をつける。ヘノ子の『へ』は『へんくま』の『へ』だそうだ。可愛い顔して、ネーミングセンスは破壊的らしい。
「クリスマスまでに考えていればいいよ。それまでこの子は『ヘノ子』ね!」
 あっさり決定され、変熊は同情するように、つぶらな瞳をこちらへ向けてくる『ヘノ子』の首筋をなでた。

 そこへ、伽羅達がトナカイのそりでやってきた。聞けば不審者を捜しているという。
 魅世瑠達は顔を見合わせたが、とりあえず、口をつぐんでいる事にした。

 皆から情報を集めている伽羅の元に、教導団員の別働隊が到着する。
 お互いの情報を確認すると、教導団員達は、登山訓練参加者に、不審人物を見なかったかと尋ねた。
 そう聞かれた正悟は、真っ先にサンタクロースに不埒を働いた未沙を、涼子は明を教導団員に突き出した。
「何よ、もらい損ねたプレゼントをもらっただけじゃない!」
 反抗しながら連れて行かれる未沙に、未羅と未那が心配して付き添った。
「誤解だよぅ、愛情表現だってば!」
 明は、フレデリカの乳を名残惜しそうに見つめながら、連行されて行った。
 レミも、躊躇う事無く、周を不審者として連行してもらう。
「レミ、この裏切り者!」
「その根性、たたき直してもらってきて!」
 ぎゃあぎゃあと喚く周に、レミは目を閉じ耳に指栓をして見送った。
「ついでにこっちもお願いします」
 アマーリエはにっこりとほほ笑み、洋とみとを渡す。
 教導団員達は、ついでにと、変熊をわいせつ物陳列の容疑で連行する事に決定した。
 次々と関係ない者達が連行されるのを見ていた魅世瑠達は、しばらく相談した後、容疑者を連れて麓へ戻ろうとする教導団員達の前に立ちふさがった。
「そいつらは関係ないよ。放してやんな!」
 魅世瑠が凄味を利かせる。
「お探しの不審者は、あたしらさ!」
 フローレンスが肩をいからせ名乗りを上げる。
「でも、わることはしてないのー!」
 ラズはきちんと言い分を主張する。
「仕方ありませんわね。喜んでボディチェックを受けますわ」
 どんどん増える不審者達に戸惑う教導団員とは裏腹に、魅世瑠達は、正々堂々と連行されてやった。

 伽羅達は、遭難者や怪我人の有無を確認した後、再びサンタのトナカイで、麓へと戻る事にした。
「ではでは、皆様、麓でお待ちしているのですぅ。家に帰るまでがハイキングなのですよぉ!」

 伽羅を見送った明日香は、皆に向かって言った。
「皆さぁん、夜は急激に冷え込むので〜、そろそろ下山した方がいいと思いますぅ」
 明日香の提案もあり、皆は身の回りを片づけて準備を整えると、登って来たのとは別のルートを通って下山を開始した。

「ホントに残るの?」
 フレデリカの言葉に、ルカルカとザカコは頷いた。
「もともと、キャップして行こうって決めてたことだから」
 2人の気が変わらない様子を見て、フレデリカも諦めた。
「わかった。寒いから、気をつけてね!」
 ルカルカとザカコは山頂に残り、フレデリカと皆を見送った。