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宝の地図の謎

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宝の地図の謎

リアクション


独り占め!

 今回の探索では集団行動をとる者が多数派だったが、単独で行動する者たちもいた。
「冒険って楽しいね♪」
 ロープに懐中電灯、サバイバルナイフ、軍手を用意し、服装は体操着と滑り止め付きの靴と準備万端のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、パートナーのチムチム・リー(ちむちむ・りー)と二人で神殿を進んでいた。
「宝が本物かどうかなんてボクには判らないけどさ、例え偽物でも、競ってお宝探しの冒険ができればボクは満足だよ。要は楽しめればいいわけ。一種のイベントみたいなものだと思ってるから。まあ、モチロン本物のお宝が見つかれば尚よしだけどねー」
 胸の高鳴りを抑えきれずに語るレキを、チムチムは微笑ましく見守る。
「チムチムは、外見的に警戒心を抱かせないと思うアル。だから、周囲の警戒は任せるアルよ。レキには罠の解除に集中してもらいたいアル」
 黒猫のゆる族であるチムチムは、愛くるしいと言えるかもしれない。しかし、2メートル100キロのその巨漢が警戒心を抱かせないかは疑問だ。
「了解。うわ、危ないなあ」
「どうしたアル?」
「そこにトラバサミがあるよ。危険だから壊しちゃおう」
 レキは星輝銃でトラバサミを狙い撃つと、代わりに自分のトラップを仕掛け始めた。
「イタズラはほどほどにするアルよ」
「大丈夫大丈夫、そんな凶悪なものじゃないからさ。寧ろ男の人が引っかかったら、喜んでくれると思うよ」
「ならいいアルけど……ん?」
 レキに答えながら、チムチムは先ほど通り過ぎた曲がり角の方に身を乗り出した。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないアルよ」
(誰かいた気がしたアルが……気のせいアルかね)
「もー、ないのかあるのかはっきりしてよ~」
 トラップを仕掛け終えると、レキは楽しげにその場を後にした。

「な、なんですか今のは!? 巨大な猫のようでいて、しゃべり方はまるで漫画に出てくる中国人……新種のモンスターでしょうか」
 臆病者の自分が一人で探索なんて、一年前だったら考えられなかったな。そんな風に感慨に耽っていた影野 陽太(かげの・ようた)は、ちらりと見えた謎の生物に、心臓をドキドキいわせていた。
「いけません、こんなことで取り乱していては」
 陽太が単独行動をしているのは、独力で成果を上げ、思いを寄せる環菜に認めてもらおうと考えたからだ。そのためにも、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
「しかし、どうしたものでしょうか……」
 陽太はスキルを惜しみなく使っていたが、トレジャーセンスにこれといった反応はない。そして、ユビキタスやR&Dは、普通に使っていたのでは宝探しには効果のないスキルだ。
「うーん」
 考え込んでいるうちに、陽太はいつの間にか四方八方を命をもつ金ダライ、『フライング金ダライ』に囲まれていた。
「はっ!? ぐ! げ!」
 次から次へと金ダライが陽太の顔面にぶつかり、陽太は気を失った。ブラックコートにベルフラマントまで身につけて気配を殺していた陽太だが、相手が何も考えずに飛び回るだけの金ダライだったのが不運だった。

「ちくしょう、この辺りにも反応なしか」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)も陽太と同様、トレジャーセンスに反応がなくて困っていた。尤も、単独行動をとった理由は「宝を独占したいから」と、陽太とは似てもにつかないものだったが。
「仕方ねえ、こうなったら今回の件の黒幕が現れるまで待つしかないな。とっ捕まえて身ぐるみはいでやる。……お?」
 武尊が舌打ちをして来た道を引き返そうとしたとき、彼の目が何かを捉えた。
 それはパンツだった。床に女性のパンツが落ちていた。
「な、なんだこれは……!」
 罠だ、罠に決まっている。そう思いながらも誘惑に勝てず、武尊は少しずつ少しずつパンツに手を伸ばした。そしてとうとうその手が生地に触れる。
「――何も起こらない? なんだ、ただパンツが置いてあるだけじゃねえか! ヒャッハー! こいつはとんでもないトレジャーだぜ!」
 武尊は光学迷彩で姿を消したまま、パンツを被って走り出した。

 ほとんどの生徒が宝を見つけるのに苦戦する中、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)強盗 ヘル(ごうとう・へる)は一つの宝箱の前にいた。
「ヘルの指示に従い、なるべく人が通っていなさそうな方面から奥を目指したら……こんなものにたどり着きましたね。果たして、これがこの神殿に隠された宝なのか。そして、その中身は一体何なのか」
 宝その物に対する興味は勿論あるが、ザカコが主に知りたいのは、何故そこにその宝があるのか、地図を誰が何の目的でネットに流したかの背景だ。
「そんなことより、さっさと開けようぜ」
 宝箱を前にあれこれ思案するザカコとは対照的に、ヘルは待ちきれない様子だ。
「でもこの宝箱、トレジャーセンスに反応しないんでしょう。怪しくないですか?」
「それはほら、特別な魔法がかかってるとかかもしれないだろ」
 二人がああだこうだ言っていると、後ろから声がした。
「ええい、まどろっこしい」
 ザカコとヘルが振り返る。その先には、毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がいた。
「おまえ、いつの間に」
 わざわざ自分がトラップの解除や鍵の開錠をする必要なんてない。宝にしたって、疲弊した相手から奪った方が効率がいい。そう考えた大佐は、隠形の術を使いながら二人の後をつけていた。
 しかし、宝箱を見つけてもザカコたちがなかなか行動を起こさないので、しびれを切らせて姿を現したのだ。
「そんなことはどうでもいい。さっさとん開けんか」
 大佐はヘルを蹴っ飛ばした。
「うおっ」
「ぬ」
 【コンボ始動要員】のヘルがザカコにぶつかり、ザカコが宝箱にぶつかる。カチッと音がし、宝箱の下で何かのスイッチが入った。
 
 ゴゴゴゴゴゴ

「一体何の音ですか?」
「嫌な予感しかしないぜ……」
 やがてヘルの予感は現実のものとなった。巨大な岩が、二人に向かって転がってきたのである。
「やはり、罠といったらこれですよね。真相にたどり着くまでまだまだ楽しめそうです。地図をネットにアップした人物に会えたら、ロマンを提供してくれたお礼を言わなくては」
「何のんきなこと言ってんだ! 逃げるぞ!」
 ザカコとヘルは、全速力で走り出した。
「……こちらに逃げればよいものを。わざわざ岩の進行方向に逃げるとは、律儀なやつらだ。さて」
 二人が去った後、大佐はゆっくりと宝箱に手をかけた。そして鍵を開けた瞬間、何かが大佐の手に刺さった。
「痛っ!」
 それは、宝箱に仕込まれた針だった。先端に麻痺毒が塗られているようで、大佐の体が痺れていく。宝箱の中には、「ハズレ」と書いた紙が入っていた。
「しまった……二重トラップだったのか……。トラップマスターと呼ばれる我としたことが……油断した……」
 毒島 大佐、一回休み。
 
☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「フリューネ、エネフとはどうやって出会ったのか教えてくれないか?」
 野生のペガサスを見つけられなかったララ サーズデイ(らら・さーずでい)は、代わりにそんなことを尋ねた。
「出会い? エネフの親もその親も、代々ロスヴァイセ家に仕えているのよ。名前はみんなエネフ。だからこの子は、エネフ3世ってとこね」
 フリューネが愛しそうにエネフを撫でる。ララが自分も撫でさせてもらおうとしたとき、後ろから九条 風天(くじょう・ふうてん)が素早く飛び出した。直後、釣り天井がフリューネたちの頭上から落っこちてくる。
「く……!」
 頭を抱えてしゃがみ込んだフリューネたちのすぐ上で、天井は落下を止めた。風天が金剛力を使って天井を支えたのだ。
「さあみなさん、今のうちに先へ!」
「九条さんを放って行くなんてっ」
 が自分も助けに入ろうとする。風天は声を振り絞った。
「いいから早くっ! もう持ちません!」
「みんな、行くわよ!」
 次の瞬間、フリューネが駆け出した。生徒たちも後に続く。
「エネフ!」
 釣り天井の範囲から出ると、フリューネは風天のもとにエネフを向かわせた。エネフは風天を背中に乗せると、風のように天井の下を駆け抜けた。風天とエネフが脱出したのとほぼ同時に、天井は轟音とともに床と一つになった。
「……はあ、よかった。どうなるかと思ったわ」
 フリューネがほっと胸をなで下ろす。風天は驚いた顔でエネフを見つめていた。
「エネフ……助けてくれたのですか?」
「エネフは九条さんと幾度となく戦場を共にしている。仲間だと思っているのかもしれないな」
 巽は微笑みながら、少し羨ましそうに風天とエネフを見た。
「そうですか……エネフ、ありがとうございます。いつか恩返しをしなければなりませんね」
 風天が立ち上がってエネフを撫でると、エネフはゆっくりとフリューネのもとに戻っていった。
「みなさん、残念ながらまだ気は抜けないようですよ」
 ユニコーンの上で、音井 博季(おとい・ひろき)が言った。馬が好きで好きでしょうがない彼は、神殿の中でも自らのユニコーンの上にまたがっていた。後ろにはパートナーの西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)を乗せている。
 博季の正面には、巨大なナメクジが迫っていた。フリューネがハルバードを構える。
「いけませんよ、フリューネさん。あなたは人を束ねる方なんですから。ここは僕らに任せてください。いくぞ相棒ッ!!」
 博季の合図で、ユニコーンが走り出す。
「きゃっ」
 突然の発進に、幽綺子は上半身を大きく仰け反らせた。
「はああっ!」
 博季はユニコーンを更に加速させ、すれ違いざまにレプリカ・ビックディッパーで巨大ナメクジを思い切り叩き斬った。剣先が床を抉り、大きく砂埃が舞った。
「ごほっ、ごほっ……ああもう、どうしてあなたはこう短絡的なのかしら。もっと先のことを考えて行動しなさいよ」
 幽綺子は砂埃を払いながら、そう文句をつけた。
「まあまあ、いいじゃないですか。無事敵も倒せたわけですし。……なかなかグロテスクなことになってますけど。ともあれ、これでまた落ち着いて探索が続けられそうですね」
 巽が言う。
「壁画とか書物とか、何か昔の記録が残ってないかな~」
 ティアは、デジカメ片手に歩き出した。幽綺子は、その先で一人の女性――ランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)――がうずくまっているのを発見した。
「大丈夫? もしかして、今の砂埃で……ごめんなさい」
「違……ウッ、ゲホッ、ガハッ、ハァッハァッ……」
「しゃべらないほうがいいわ。さあ、こっちで横になって」
 幽綺子は、ランツェレットの胸を優しくさすることにした。
「……ありがとうございます。楽になりました。わたくし、ここが何を祭った神殿なのかを突き止めようと思って、近くのレリーフを調べていたんです」
 幽綺子の看護で咳の止まったランツェレットは、静かに事情を説明し始めた。
「そうしたら金色に光るものが見えて。何だろうと思って近づいたらそれが飛び散って、咳が止まらなくなったんです。恐らく、カビかなんかだったんだと思います」
 もう大丈夫です、と言ってランツェレットが立ち上がる。
「お礼にご提供できる情報があればよかったんですけど……残念ながらここが何を祭った神殿なのかは、まだわたくしにも分かりません。わたくしは調査を続けますね。本当にありがとうございました」
 ランツェレットは再びレリーフに向かって一歩踏み出そうとした。すると、通路の向こうから何者かがらったったと近づいてきた。
「ひっ!」
「おっと、失礼。そう怖がらないでください。私はただの『合体人間・樹葱刀翠』です」
 怯えるランツェレットに、それはそう言った。
 樹葱刀翠とは何者か? それは頭が浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)、体が樹月 刀真(きづき・とうま)のキメラである! ……何のことはない、単に翡翠が刀真に負ぶさっているだけのことだ。おまけで漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)も乗っかっている。
「どうしてこんなことになったのか、と聞きたそうな顔をしているな。その原因は、この月夜にある!」
 刀真は月夜を恨めしそうに見て言った。
「本の虫である月夜が本を買いすぎて、俺たちは先立つ物がなくなってしまっだ。そこに舞い込んだ今回の話。俺は一縷の望みをかけて、宝探しに参加することにしたんだ」
「貴重な本が見つかるかもしれないし」
 月夜は、この期に及んでそんなことを言っていた。
「子供の私の足では、樹月様についていくのがやっと。ならいっそ、荷物と一緒に背中に乗ってしまえば(私が)楽ですよね! ということでおんぶをお願いしたのですが……『翡翠が乗るなら私も乗る』と月夜様が仰ったのです」
 こうしてこの合体人間ができあがったのだ、と翡翠は説明した。その間も、刀真は金剛力を使って必死で二人を支えている。
「フリューネ」
 刀真がフリューネと真っ直ぐ視線を合わせて言った。
「何」
「おまえには指の骨を折られ腕の骨を折られ頭にハルバードのフルスイングをかまされて7針縫う怪我を負わされた。まあそれはいいんだが……」
「い、いいの……?」
「今回は食費が掛かっているのでお宝は譲れない。月夜!」
 刀真の声に合わせて、月夜はフリューネの足下にスプレーショットを放った。
「私、この戦いが終わったら『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語』を読むの」
 最後に、翡翠が子供特有のかわいらしい笑顔を浮かべた。
「友人である樹月様達の健やかな成長の為です。後でちゃんと謝りますから許してくださいね」
 翡翠はフリューネたちに向かって煙幕ファンデーションを投げつけた。煙が立ちこめる間に、樹葱刀翠with月夜はすたこらさっさと逃げ出した。
「あいつら……!」
「げほっ、ごほっ、ぐすっ……もう嫌です~!」
 ランツェレットは咳がぶり返した。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「……確かに何かを祭った痕跡はあるんだけど……まあ神殿だしね……実際に何が祭られているかはなかなか分からないわね……」
 フリューネたちに先行したリネンは、ヘイリーと共に装飾などを調べて情報を集めていた。
「さっき斎藤さんからあった連絡でも、有力な情報は掴めてないって言ってたし……」
 リネンが顎に手を当てて考え込んでいると、ヘイリーが足を止めた。
「見て、これ。足跡よ。明らかに古いものだわ。後を追ってみましょう」
 二人が足跡を辿ろうとすると、脇の方から声が聞こえた。
「よかった、人が! すみません、力を貸してもらえませんか? うちのパートナーが……」
 リネンたちに助けを求めたのは刹那だった。刹那が心配そうに見つめる先には、ルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)がいる。ルナはきまりが悪そうに言った。
「……ご覧の通り、私は有翼のヴァルキリー。それも翼が3対もあります。それでその……ここを通り抜けようとした際、掴まってしまいまして……」
 ルナの翼には、壁に仕掛けられたトリモチがべったりとくっついていた。無理矢理はがしたら、ルナの翼は間違いなくボロボロになってしまうだろう。
「今助けるわ」
 リネンは光条兵器を取り出すと、その特性を利用してトリモチだけを斬った。その後に刹那が極めて酸性を弱めたアシッドミストでルナの翼を洗うと、ルナの翼はほとんど傷むことなく、トリモチから逃れることができた。
「ルナ、よかった!」
「ありがとうございます。なんとお礼を言えばよいのか。このご恩は忘れません」
 刹那とルナはリネンたちに感謝する。4人は、一緒に足跡を追うことにした。
 しばらくすると、新しいものを2種類加え、足跡は3つになった。前方から声が聞こえてくる。
「何も考えないで走らないでください」
「スキルをフル動員してるから問題ねえ! トラップもモンスターも無視だ! 例えトラップが発動しても、発動しきる前に通り抜ける! 完璧だろ、俺様のプラン!」
「なんで、あたしが貴方みたいなアホでドジでマヌケの面倒を……」
 岩沢 美月(いわさわ・みつき)は、パートナーの新堂 祐司(しんどう・ゆうじ)にほとほと困り果てていた。追いかける気も起こらず、美月が遠ざかってゆく祐司の背中をぼんやり眺めていると、突然祐司が前進するのを止めた。
「なんだ? 前に進めねえ!」
 どうやら壁と壁との間に、見えない何かがあって、通行を妨げているらしい。祐司は何かを蹴ったり殴ったりするが、それは壊れない。
「なんかグニョグニョしてるな」
 そうこうしている間に美月が、そしてリネンたちが祐司に追いついた。
「こうしてみてはどうでしょう?」
 祐司の様子を見て何か閃いた刹那が、試しに火術を放ってみる。しばらくすると、前に進むことができるようになった。
「どうやら、透明なゼラチンのようなものが壁になっていたようですね」
 推測通り、と刹那が笑顔を作る。
「これだから脳筋は」
 美月は、祐司に毒舌を吐いた。
「うるせえな。通れたんだからいいじゃねえかよ」

 ゴゴゴゴゴ

「ん、今度はなんだ?」
 大きな音が聞こえるのに気がついて、祐司が横を見る。すると、巨大な岩が彼らに向かって転がってきていた。その前を大勢の生徒が必死で走っている。
「パ、パンツが空を飛んでる!? それに、ありゃフリューネじゃねえか。うお、口説きてえ!」
「きゃー、フリューネさん!? 写真撮らせて! 握手させて、拝ませて!」
 自らの体型にコンプレックスがある美月は、フリューネのファン。我を忘れてそんなことを口走るが、それどころではない。他の4人に引きずられるようにして、祐司と美月も岩から逃げ始めた。
「なんてこった!」
 右に曲がり、左に曲がり、もう一度右に曲がって、祐司は絶望した。その先は行き止まりだったのである。壁の前には、赤羽 美央(あかばね・みお)がいた。
 美央は困っていた。彼女の目の前には、飲んだくれのおぢさんがいたのだ。
(なんでこんなところにこんな人が?)
 しかも、おぢさんは美央にゲンコツをかまそうとしている。そして、後ろに迫るは巨大な岩である。
「前門のおぢさん、後門の岩ですね」
 この状況においても、美央は冷静だった。これも、彼女が愛してやまない雪だるまの加護の一種なのかもしれない。美央は超感覚を使用し、側壁に耳を当てた。シャベルで壁を叩いてみる。
「……この音、向こう側に空間があります!」
 もう一刻の猶予もない。美央は壁に向かってシャベルを構え、ランスバレストならぬシャベルバレストを放った。
 老朽化した壁に大きな穴が開く。美央に続き、生徒たちは一斉に穴へと飛び込んだ。
 岩が奥の壁にぶつかる音で、おぢさんの断末魔は聞こえなかった。

 そこは、神聖な空気が漂う大広間だった。シャンバラ女王を象った石像が置かれ、広間の中心で一人の男が力尽きていた。
「……女王を祭っていたのね。ここで何か儀式が行われていたのかしら……」
 リネンが大広間を見回す。そして再び中心に目を戻したとき、先ほどヘイリーの見つけた古い足跡が、男のものだと分かった。
 ちょうどその時、広間にルミーネと生徒たちが入ってきた。
「ここが最奥部ですね……」
 ルミーネはゆっくり男性に近づくと、男性が首にかけているロケットをそっと手に取った。そして無言でそれを胸の前で握りしめ、言った。
「……みなさん、今回の探索はこれで終わりです。ベースキャンプに戻りましょう。全てをお話しします」