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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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「素晴らしいです! 本のままだとこの様な所に入るのは危なくて危なくて……。魔道書万歳なのです! それに、お風呂場のこの音響効果。素晴らしいです。はーっれるやっはーっれるやっはれるやっはれるやっはれぇーるやーっ」
 今まで、入ったら濡れてふやけてしまうのではないかと思っていた魔道書のベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)が、もの凄くハイになった状態で楽しそうに歌っていた。伯道上人著『金烏玉兎集』に人の姿の魔道書がお風呂に入っても、本体は濡れたりしないと言われたのだ。最初は恐る恐るの入浴だったのだが、今ではどっぷりとお風呂にハマっている。
「ああ、やっぱりここにいらっしゃいましたね」
 大浴場の一番奧にある大浴槽に集まってのんびりしているゴチメイたちを見つけて、アメリア・ストークスがザバザバとお湯をかき分けながら近づいてきた。何やら歌が聞こえて騒がしいので、ここだと目星をつけてやってきたらしい。
 大浴場の中は結構湯気が濃くたちこめていたりするので、意外と近づかないと誰がいるのか分からないことがある。
「あれ、ココさんとアルディミアクさんはいないんですか?」
 ゴチメイたちの数が少ないのに気づいて、アメリア・ストークスが訊ねた。
「まだ帰ってきていないのですよ」
 ペコ・フラワリーが答えた。
「そのうち帰ってくるでしょ」
「うんうん」
 素っ気なく言うリン・ダージに、マサラ・アッサムがうなずいた。
「まったく、残念ですわ。せっかくの機会を楽しみにしていましたのに」
 凄く残念そうに両手をにぎにぎさせながら、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が言った。チラリと、リン・ダージとマサラ・アッサムの方を見てはうっと溜め息をついては、チャイ・セイロンとペコ・フラワリーの方を見ては、こちらでもいいかと近づく機会をうかがっていたりしている。
「そうですか。ちょっと残念ですね。まさか、また迷っているなんてことはないでしょうねえ。なにしろ、ここは迷子で有名ですから。そういえば、ココさんとは、ここの倉庫であったんでしたっけ」
「そうそう、あたしと一緒だったじゃん。あのときのイコンはどうしちゃったのかなあ。倉庫自体、綺麗に片づけられちゃったみたいだけれど」
 懐かしむように、茅野 菫(ちの・すみれ)が言った。
「私は、ここで一緒にお風呂に入ってたんだよね。でも、長湯しすぎて、あの後凄い目に遭っちゃったけど……」
 一緒くたに裸のままエントランスに放り出されたのを思い出して、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がちょっと顔を赤らめた。
「あのときは、根っこで顔にペイントした変な人たちに捕まってしまったんだよね。本当は、こうしてマサラさんと一緒に背中を流しっこしたかったんだもん」
 洗い場にパートナーたちと一列に並んで背中の流しっこをしながら、朝野 未沙(あさの・みさ)が言った。
「お姉ちゃん、じゃ、今度は交代だよね。一所懸命頑張るの。よいしょっ、よいしょっ」(V)
 一番先頭にいた朝野 未羅(あさの・みら)が、クルリと振り返る。
「分かりましたですぅ。準備オッケーですぅ」(V)
 続いて、朝野 未那(あさの・みな)もお風呂椅子の上で小さなヒップをクルンと回転させて、後ろをむく。
「じゃあ、お願いするんだもん」
 朝野未沙も反転すると、今度は自分の背中をこすってもらった。
「ほーら、仲がいいでしょ? さあ、マサラさんもここへ。綺麗にして、あ・げ・る♪」(V)
 ひょいひょいと、自分の前の空間を指して、朝野未沙がマサラ・アッサムを手招きする。
「怪しい……。実に台本があるのを感じる」
 身体に温泉用の入浴タオルを巻きつけたマサラ・アッサムが、ペコ・フラワリーを盾にするように彼女の背中に回り込んでこそっと言った。
「下心なんて……ちょっぴりだけの、健全なスキンシップなのに……」
 いつの間にか頭以外泡につつまれた朝野未沙が、すっくと立ちあがって言った。いったい、朝野未那はどんなボディソープを調合したのだろう。
「未羅ちゃん、シャワーですぅ」
「はい」
 朝野未那に言われて、朝野未羅が朝野未沙にシャワーでお湯をかけた。彼女の身体を被っていた泡がサーッと流され、腰に手をあてた朝野未沙のすっぽんぽんが顕わになる。
「だいたい、湯船にタオルをつけるなんて、マナー違反なんだもん。もーう、だめっ! とっちゃえー」(V)
 そう叫ぶなり、朝野未沙が湯船に飛び込んでいった。同時に、マサラ・アッサムが身体に巻いていたタオルの端に、氷術で大きな氷塊をぶら下げる。いきなり重みをかけられて、マサラ・アッサムのタオルがずるりとずれた。その機を逃さず、朝野未沙が氷塊をつかんでぐいと引っぱった。あっけなく、タオルが落ちる。
「はっはっはっ、そうそう簡単にやられるかい」
 パラ実謹製のスクール水着を来たマサラ・アッサムが勝ち誇った。
「こ、これは……」
「僕たちだって、学習するんだからね。もう、おっさんにただで裸を見せてやるようなサービスはしないのさ」
「な、なんだか意味は分かりませんが、凄く悔しい気がするんだもん」
 悔しがった朝野未沙が、悔し紛れに、そばにいたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントのタオルを八つ当たり気味に引き下げた。
「えっ、えっ、ええーーーーー!!」
 ぺろんと胸をむきだしにした、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがすっぽんぽんにされて悲鳴をあげた。
 お風呂は裸で入るものだと聞いていたのに、水着でもよかっただなんて……。
「私は、前回で懲りたから、ちゃんと水着だよ」
 小鳥遊美羽が、タオルの胸元をちょっと開いて蒼空学園のスクール水着を見せて言った。
「まあ、ひんむくような人がいなければ、タオル巻いとけば普通は平気なんだよね」
 ひんむかれてたまるかと、きっちりガードしながら、茅野菫が言った。
「ああ、みなさんのガードがますます堅くなってしまいましたわ……」
 がっくりして、ロザリィヌ・フォン・メルローゼが肩を落とす。
「よお、アメリア、ラルクを見なかった……うわああああ」
 まさに運の悪いことに、高月芳樹がそこへアメリア・ストークスを捜してやってきた。
「おおおおお、男ー!! きゃああああ」
 朝野未沙たちは動じないですぐに湯船に身を隠したが、パニックになったベリート・エロヒム・ザ・テスタメントは無茶苦茶に走りだした。すれ違い様に高月芳樹にラリアットをかますと、そのままどこかへ行ってしまう。
「ええーっと。すいません。今片づけます」
 アメリア・ストークスはすまなそうに言うと、湯船にぷっかりと浮いた高月芳樹を引っぱっていった。
「やれやれ。芳樹も間の悪い。いろいろと今回の事件の話をみんなに聞きたがっておったのにのう。わらわは、海賊たちに与した者たちの話を聞きたかったのじゃが……」
 伯道上人著『金烏玉兎集』が、ちょっと呆れながら言った。だが、さすがにここには海賊ゆかりの者はほとんど来てはいない。多くの者は、ジャタの森に行っているはずだ。
「えーと、殿方たちは別の所にいたようですから、そちらなら誰かいるかもしれませんことよ」
「じゃあ、そちらに回ってみるとするかのう。とりあえず、パンツにこだわるような変態じゃなければ、じっくりと話を聞きたいところじゃからな」
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼに言われて、伯道上人著『金烏玉兎集』は移動していった。
「みんな、お待たせー」
 入れ替わるようにして、やっとココ・カンパーニュとアルディミアク・ミトゥナが連れだってやってきた。
 二人とも髪をアップにしてクリップで留め、薄紅色の長いタオルを身体に巻いている。
「お待ちしておりましたわー!」
 ここぞとばかりに、ロザリィヌ・フォン・メルローゼが、広げた両手をいやらしくわきわきさせながら二人に駆け寄っていった。
「うわっ」
 思わず、本能的にココ・カンパーニュがドラゴンアーツでカウンターを入れてしまう。
「はうあ……」
 吹っ飛ばされたロザリィヌ・フォン・メルローゼが、流れるお風呂の給水口近くにばしゃんと落ちた。タオルがはらりと取れてすっぽんぽんを晒すと、そのまま大浴槽から流れるお風呂へ抜けるお湯の流れに吸い込まれて運び去られていく。
「お姉ちゃん!」
 いきなり何をするのかと、アルディミアク・ミトゥナがココ・カンパーニュを叱った。
「ごめん、いきなり襲いかかってきたので、つい本能的に……」
 ココ・カンパーニュが恐縮するが、後の祭りだ。いや、この場合は、ロザリィヌ・フォン・メルローゼの自業自得と言えるかもしれないが。