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リアクション
清泉 北都(いずみ・ほくと)は今日の出来事に心地よい疲れを感じていた。
主催の方で色々あったようで、北都は驚いた。でも、双方の絆が深まり、北都もホッとしていた。
でも、その時の緊張感とこのところの暑さとで、少々へばり気味だ。豪華な食事で疲れた胃にムチをふるうなら、露天風呂を満喫したい。
「疲れたし、露天風呂にでも行く? このままパーティー会場にいたら、カラオケとかに突入しそうだけど」
「そうですね」
と言ってみるものの、心なしかクナイ・アヤシ(くない・あやし)はウキウキとしていた。
脱衣所の引き戸を開けて中に入る。
中は空調が効いていて涼しかった。
二人は服を脱ぎ、ロッカーに入れた。着替えにと持ってきた浴衣も中に入れる。
始終、クナイは北都の小さな背中を見つめていたが、北都の方は気が付かない。
どうも触りたい衝動に駆られているようなのだが、そこはグッと堪えて眺めるだけだ。
そんなクナイの気も知らず、北都は楽しげに風呂場のほうへと向かった。
「わあ、大きいお風呂だねえ」
北都は嬉しそうに言った。
風呂場は広く、大きなお風呂や小さなお風呂などたくさんあった。
どこに入ろうか悩む。
とりあえず、一番大きなお風呂に入ることに決めた。
クナイも後ろからついて行くが、言葉数が少ない。むろん、衝動を抑えているせいなのだが。
「ここに入ろうよ」
「ええ、そうですね」
心なしか視線が泳ぐ。
「どうしたの?」
「い、いいえ。なんでもないですよ」
かなり必死で笑顔を作った。
変に笑ってはいけないと緊張が走る。
「そう? じゃあ、入ろう」
北都は小首を傾げていたが、相手がそう言っていることだし、お風呂に入ることにした。
ザァ……
水の流れる音がする。
そんな音も緊張感を解す心地よいものだった。
空京の夜景は綺麗だ。
超高層ビル並ぶ近辺は特に。この先に地球人の知らぬ世界があるとは思いがたい、美しい摩天楼だ。
今宵は悪戯な恋の天使が矢を放つ流星が、この大陸と地球に舞い降りることだろう。
(ソーマ……よい夜になるといいね)
北都は微笑んだ。
湯が肌に優しい。
沁みてくる温かさと幸福感に浸った。
その隣で、一人悶々とした気持ちで眺めている人間がいた。
無論、クナイである。
(ああ、白い肌に濡れた黒髪が貼り付いて…)
無防備な姿と優しげな微笑みのせいで、北都はとても柔らかい雰囲気になっていた。
(抱きしめたい…ああ、だめです……驚かせては)
クナイは眩しいものを見るような目で見つめた。