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【相方たずねて三千里】懇親会でお勉強(第1歩/全3歩)

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【相方たずねて三千里】懇親会でお勉強(第1歩/全3歩)

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 ようやく会場の雰囲気にも慣れてきた結和は、話しかけられるばかりではいけないことに気が付いた。
 エメリヤンは人と会うたびにクリップを褒められたせいか、すでに満足げな様子だ。
 でもまだ名刺は残っているし、もっと多くの友人を作りたかった。エメリヤンの為にも。
「あ、あの、すみません!」
 勇気を出して結和は隅の椅子で休んでいた少女へ声をかけた。
「はい?」
 と、首を傾げる火御谷暁人(ひみや・あきと)。ぱっと見は少女にしか見えないが、これでも男である。
「た、たか、高み、た、高峰結和と申しますー!」
 挙動不審に名刺を差し出されたものの、暁人は気にせずにそれを受け取る。
 そして顔を上げると言った。
「ボクは火御谷暁人。よろしくねー」
「よよ、よろしくお願いしますっ」
 エメリヤンと一緒に頭を下げる結和。
 ――やはり、人見知りが自ら知らない人に声をかけるのは、とても勇気がいることだった。
 でも一応名刺は渡せたし、相手も優しそうで良かったと、結和はとりあえず安心するが……。
「え、えっと、暁人さんは……」
 女の子かと思ったが、よく見ると男の子のように見えてきた。どっちなのか分からず困っていると、暁人が言う。
「女装してるけど、男だよ」
「……」
「……びっくりした?」
 結和とエメリヤンは、全く同じ動きでこくこくと頷いた。

 いい加減何か食べたいな、と、トレルがぼんやり考えていると、イケメンが近づいてきた。
「この前催眠術を教えてもらったんだけど、覚えてるかな?」
「ああ、金髪さん」
 トレルの返答にソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)は満足げに頷く。
「俺はソール。今日はトレルさん、君個人に興味があってきたんだ」
 と、ソールは言うと、トレルの前へ立った。
「こんなお嬢様なのに、いろいろ手広くやっていたようじゃん」
「あー、うん。好奇心旺盛だからね」
「そこで提案があるんだ。俺と組んで、いろいろやらないか?」
「は?」
 トレルはソールの顔を見た。
「報酬は特にいらないよ」
 と、トレルの全身を舐めまわすようにじっくり見て、言う。
「君と、夢見る世界に夜のベッドで一緒に旅立てれば、それで構わないぜ」
 返す言葉が浮かばなかった。
「大丈夫、痛くしないからさ」
「……えーっと」
 イケメンは大歓迎だが、露骨に誘われるのは苦手だ。
「俺に、運命感じてくれよ」
 と、ソールの手がトレルの顎へ伸びてくる。
 手が触れる直前、ソールの脇腹に肘鉄が食らわされた。パートナーの翔である。
「失礼いたしました」
 と、頭を下げる。先ほど話に聞いたパートナーというのは、ソールのことだったらしい。
「何か変な事はされていませんか?」
「う、うん。ギリギリ、かな」
 ソールの視線はすでにセクハラに値するものだったが、まだ触られていないので、ギリギリ大丈夫だ。
「これも契約のデメリットのひとつですね。本当に失礼いたしました」
 と、翔は再び頭を下げると、ソールを連れて会場を出て行った。

 ルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)が食事を楽しむ横で、咲夜由宇(さくや・ゆう)はギターの調子を見ていた。自己紹介に使えればと思い持参して来たのだが、いまいち披露するチャンスがない。
 ――さっきは変な仮面を被って歩いてる人も見ましたし、ちょっと緊張するのです……。
「そこの可愛らしいお嬢さん」
 はっと顔を上げると、知的な青年エッツェルがにこやかに笑っていた。
「私と少しお話でも――」
「何度言ったら分かるんだー!」
 飛んで来るなりエッツェルの頭を叩く輝夜。
「もう、本当にごめんなさい。大丈夫?」
 と、由宇へ尋ねる。
「あ、はい。ちょっとお話してただけですー」
 由宇がにこっとすれば、輝夜も安心する。しかし、その手はエッツェルを逃がすまいと捕まえていた。
 ルンルンは彼らのやり取りに羨ましげな、どこか物欲しげな目をしている。痛くされるのは嫌いじゃない、それがルンルンだ。
「お、そのギターは?」
 輝夜の問いに由宇はギターを構えて言う。
「咲夜由宇、メイドなミュージシャンなのですぅ!」
 軽く弦を弾けば、ギターもこの時を待っていたかのように音を鳴らす。
 超感覚を使って音感を上げると、由宇は即興で演奏を始めた。
 輝夜とエッツェルだけでなく、周囲にいた人たちまでもが、由宇の音に耳を傾ける。

 契約をすると、パラミタに拒絶されることがなくなる。
 基本的に、パートナーとは一生付き合って行くことになる。どちらかが死ぬと、もう一方も精神に深い傷を負い、最悪の場合は死に至る。
 契約の方法は様々だが、やはり互いに気が合うからこそ、契約は交わされるようだ。嫌いだと口で言っていても、本心では相手に心を許しているのだろう。

「久しいな、トレル。退行催眠の一件以来か」
 声をかけてきた夜薙綾香(やなぎ・あやか)を見て、椅子に座っていたトレルはあからさまに嫌そうな顔をした。
「げ、飛び蹴り女。何しに来たんだよ」
「夜薙綾香だ。契約しようって話を聞いて、様子を見に来たに決まってるだろう」
「はぁ?」
 トレルの隣へ腰を下ろし、綾香は言う。
「ま、他の奴からもあれこれ聞いてると思うし、私から言う事は……そうだな、契約したパートナーは無条件に仲良くしてくれるワケじゃない事を忘れるなよ」
「んなことくらい、知ってるし」
 と、トレル。どうやら、綾香のことが気にくわない様子だ。
「本当に?」
「うん」
「そうか。ま、パートナーというのも友達付き合いと同じだ。お互いに気の合う奴が一番気楽だな」
「……」
 口を閉じたトレルを見て、綾香はにやりと笑う。
「もしかして、友だち付き合い苦手か?」
「な、別にんなことねーし! 友達付き合いくらい……め、めんどくせぇけどな」
「ほう、そう言うならあそこで退屈そうにしている奴と、仲良くなって来たらどうだ? 大丈夫なのだろう?」
 と、綾香は笑みを浮かべた。言葉にしがたい何かを感じ、トレルは言う。
「め、めんどくさ……す、すみませんでした」
 綾香が愉快そうに笑う。年齢はトレルの方が上なはずなのに、彼女には勝てない気がするのは気のせいか。
「ま、取り敢えずは及第点、としておくか」
 と、綾香は言うと、おもむろに携帯電話を取り出した。
「アドレス交換しないか?」
「は?」
「何か聞きたい事が出来た時に、メールなり電話なりで聞けるだろうが。他にも、気晴らしでもしたくなったら声かけてくれてもいいんだぞ」
 トレルはしぶしぶといった様子で携帯電話を取り出す。
「学校に入るなら、ここの近くの空大もあるが……学力的にキツイか?」
 綾香がそう言って、また嫌味っぽく笑む。トレルはムッとして返した。
「俺ならいける」――金の力で。
「そうか。では期待して待とうじゃないか」
 綾香にそう言われてはっとするトレル。大学なんて面倒だし、第一学力は確実に足りてないわけだから、やはり父に頼んで金の力で入るしかないのだが……入らなきゃ駄目か?
「でも興味ねぇから、大学になんて行かないもんね」
「何だ、やっぱり自信がなくなったか?」
 綾香はそれを見抜いているのかいないのか、トレルを挑発する。
「興味がないだけだし!」
 綾香に負けるのが嫌でトレルは簡単に挑発に乗ってしまう。頭では分かっていても、やはり彼女に負けて馬鹿にされるのが嫌なのだ。
 アドレスを交換し終えると、綾香は言った。
「何にせよ、契約は一生ものだ。後悔の無いようにな」