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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

リアクション

 
 13、ホレグスリと迷子ミュウミュウ
 
 
 相手チームを新たに2人減らしても、西チームは、まだ歌の脅威に苦しんでいた。ドッジボールのテーマソング的になってきた多重旋律に対しての決定的な対策が、思いつかないのだ。思考力さえ低下しているのだからいた仕方ない。
「うー、もうだめなんだもん……」
(さゆゆも落ち込んでますね〜。滅多に見ないさゆゆですー。でも、これを使えばいつも通りですー。今こそ、マル秘アイテムを使う時ですっ!)
「色気勝負ですよー。全国放送でも自重しませんよっ!」
 ひなは胸の谷間からホレグスリの小瓶を出して、素早く沙幸の口に突っ込んだ。もう1本を自分で飲む。
「はれ? これって……。ひな、1本しかないの?」
 とろんとした顔になった沙幸に、とろんとした顔をしたひなが言う。
「むきプリ君が、これしか持ってなかったんですー。足りないですよねえー」
「もっとほしいけど……。これ飲むと、やっぱり服が邪魔だね。ユニフォーム脱いじゃおっか」
「そうしましょー。ユニフォームなんて、要らないですー」
《……………………》
 実況の闇口は、放送事故を起こして口をあんぐりと開けていた。
《な、なんだ……公開ストリ……い、いや、こんな光景をどこかで見たことがあるな、そうだ、ニュースを読む前に、参考映像として見た……》
『記憶を辿るより、早く映像を切り替えた方が良いと思いますヨー』
 キャンディスの言葉と同時、テレビの画面が爽やかな海の画面に切り替わる。

 ――しばらくおまちください――

「…………」
 西チームの選手も東チームの選手も審判も、恐れの歌とか悲しみの歌とか東西云々とかドッジボールとか、まあ要するに全てを忘れて2人に見入った。
「さゆゆ、このボールどうしますかー? ココに挟みますか〜?」
「コレも必殺技か……?」
 ヴァルが呆けたように言う。西チーム選手の必殺技全てを把握せんとしていた彼は、必殺技なら何が隠されているのかと思考を巡らせかける。
「こ、これは……ホレグスリ、ね……」「……ホレグスリ……」「ホレグスリよ!」「ホレグスリですね……」「ホレグスリです〜」「ホレグスリ……だ、駄目だ、見ていられん!」
 ホレグスリ騒動に巻き込まれた経験のある内野選手達が、口々に言う。救護所でも「あっ、ホレグスリ!」「ホレグスリだよ!」「楽しかったね〜」「ホレグスリ……あ、何か思い出した」とかファーシー達が言っていた。どれが誰かというのはご想像におまかせ……判り辛い? すみませんです。
「ちょ、ちょっと! 何やってるんですか! ユニフォーム着て! ほら着て!」
 コネタントが慌てて走り寄ってきて脱ぎ捨てられたユニフォームを頭から被せていく。
「あー……」
「あー、じゃないよ! ホレグスリって言ってたね! 今、10人くらい同じこと言ったね! 瓶転がってるし、何だか知らないけど薬なのは間違いない……そのせいでこんなことになってるんですね! 神和君!」
「あ、はい……えっと……」
 呼ばれた綺人は、戸惑うようにひな達に近付いて、これでいいのかな……? という面持ちで言った。
「西チーム、桐生 ひな選手、久世 沙幸選手、ドーピングで退場です。特殊な例ですが、特別ペナルティと判断してむきプリ部屋に……」
「それはまずいと思いますぅ〜」
 そこで、グランドを堂々と歩いてきたのはエリザベートとトライブ達だ。明日香の顔がぱっ、と明るくなった。
「エリザベートちゃん!」
「明日香、頑張ってますねぇ〜。ナイスサポートですぅ〜」
「後半は攻撃も頑張りますよ〜」
 そんな軽い会話の後、エリザベートは綺人に向き直る。
「その薬は、むきプリ君が渡したものですぅ〜。同じ部屋にまとめて入れるのはどうかと思うですぅ〜」
「じゃ、じゃあ、どうすれば……」
「子守唄でも歌って眠らせておけばいいですぅ〜。解毒剤はどうせむきプリ君が持ってますぅ〜」
「す、すぐに貰ってくるよ! そ、そうだ、救護に子守唄使える子がいたから、その子に……」
 指示だけ出して、コネタントが走っていく。クリスと瀬織、ユーリの3人掛かりで2人を救護に連れて行く。その前に、ひなは振り返って西チームの選手達に言った。
「どうですかー? 衝撃で、頭すっきりしてませんか〜」
「そ、そういえば……」
 選手達は顔を見合わせる。それは、東側も同じだ。審判3人の後ろを歩きながら、のんびりした口調でエリザベートが呟く。
「彼女が西の選手全員に飲ませていれば、これで全滅だったんですけどねぇ〜」
「まさか、こんな所でもホレグスリに出くわすとは思わなかったなあ。というか、むきプリさん、生きてたのね」
「ファーシー」
 何気に酷いことを言うファーシーに、白砂 司(しらすな・つかさ)が声を掛けた。
「車椅子の調子はどうだ? 見たところ、問題は無さそうだが」
 問われると、彼女は一瞬だけきょとんとしてから、改めてというように車椅子を前後に動かした。静かではあるが、微かにモーターの駆動音がする。
「うん。モーナさんに定期的に見てもらってるし……わたしも、少しずつ仕組みを教わってるのよ。この感じだと……大丈夫かな」
「車椅子の仕組みを?」
「そう。機晶姫について学ぶ前に、普通の機械について学ぶ必要があるんですって。基礎? とか言ってたけど」
 基礎。確かにそれは大事だ。だが、あっけらかんとしたファーシーの言葉に、司は1つの疑問を覚えた。
「今日は、機晶姫の負傷を直すのだろう?」
「うん、そうよ」
「…………」
「…………?」
 ファーシーは司の表情に、笑顔のまま首を傾げた。何を考えてるんだろう……?
「…………? あ、あっ! だいじょぶだいじょぶ! 機晶姫に関係する本も読んでるから! 図書室で!」
 ……それは、独学ということだろうか……?
 救護としての彼女に甚だ不安を抱きつつ、司はポケットから簡易電池を取り出した。手土産にと持ってきたものだ。
「ところで、電池は足りているか? これは予備だ。イルミンスールにある試薬で作ってきた」
「あ、ありがとう! 助かるわ」
 頭から、るんっ、とハートマークを出しながら、ファーシーは受け取る。しかし、それを聞いて振り向いた幼女1人。
「聞きましたよぉ〜。あなた、イルミンスールの備品を勝手に使いましたねぇ〜」
 エリザベートが少し怒った顔で近付いてきた。司は慌てる。
「い、いや、これは……」
「だめですぅ。泥棒は嘘つきの始まりですぅ〜!」
 そんな2人のやりとりを放っといて、ファーシーは電池をさっさと工具箱に入れて移動した。平たく言えば、逃げた。
「電池代もばかにならないのよねーー♪」

「えっと……僕の手作りクッキーだけれど、食べてくれるかな?」
 事務所で、セシリアはしゃくりあげながら泣くミュウにお皿に入れたクッキーを差し出す。何か美味しいものでも食べれば、気が紛れるかもしれない。
「飲み物は……ミルクが良い? アイスティーとか?」
「ひっく……ミルクティー……」
 中間で来たか……! セシリアがミルクティーを入れて前に出すと、彼女はぐずりつつもクッキーに手を伸ばす。
(どうしよう……親御さん、来ないなあ。僕、子供の相手はどうにも苦手なんだよね。まだ、泣き止まないし……)
 カウンターに戻っていたメイベルが事務所に入ってきて、戸惑い、困りきったセシリアに言った。彼女も少し困っているようだ。
「迷子放送をしましたけどぉ、誰も来ませんねえ……」
「聞こえてないのかな? 試合も熱狂してるみたいだし、お客さんの声で放送がかきけされちゃうのかも……」
 話している間にも、『おぉ〜』とかいう歓声が聞こえてくる。どんな展開になっているんだろう?
「救護所に連れていったらどうですかぁ?」
「え……救護所?」
「あそこなら、TVカメラにも映りますぅ。観客席からも目立ちますし、親御さんが目にして気付くかもしれません。いっぱいスタッフもいますし、万が一流れ弾が来ても、対応できると思いますぅ」
「そうだね、連れて行ってみるよ」
 ……ミュウはその間に、お皿のクッキーを完食していた。