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それぞれの里帰り

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それぞれの里帰り

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 何とも真面目な服装か。
 秋葉原へ訪れた一行の中で、彼らほど地球の服装を意識してコーディネートをした者は居なかった、その様は。正に観光客、ともすれば地元っ子にさえ見えたであろう。
 それもあってか、カウンター越しに彼らと向き合う店主親父も、彼らの 『訊ね事』 を聞くと、真剣に、そして太い唸り声をあげたのだった。
「花火… 花火ねぇ…」
「『手持ちタイプ』 だけでも良いんです」
 ブラウスにミニスカート、ニーハイブーツを纏うはリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)。健康的な清らかさも纏っているように見えた。
「夜のネオンが綺麗に見えたら、最高なんですけど」
「ネオンねぇ… うぅ〜ん」
「何とか、ならねぇかな」
 『カジュアルな兄ちゃん』 って感じだろうか。緋山 政敏(ひやま・まさとし)はジーンズにウィンドブレーカーを羽織っている。
「アキバの良さも知って貰いたいし。アイツ等に夏の思い出、作ってやりたいんだよ」
「そうだなぁ………… それなら、あそこかなぁ……」
 多少の無理でも聞いてくれるんじゃないか。そう加えて、店主親父は 『あるビル』 の名と場所を教えてくれた。
 イベント大好き! その会社は、チャリティーイベントなども積極的に行っているという。
 会社の主要事業の一つに、オンラインゲーム 『蒼空のフロンティア』 というものがあるのだそうである。



 路地裏の暗い場所にあるのかと思っていたのに。ミリタリー系の店は大通りに面した所にあった。店壁のガラスは曇り一つ無く透き通っていた。
 店内に入りて、すぐ。レジカウンターの並びにショーケース内、そして隣接する壁一面がエアガンコーナーになっていた。
「ぅわー、すっごいね、こんなに種類あるんだー」
 壁を見上げながら、天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)はその数を数えてみた。自身の持つスナイパーライフルと同タイプの銃が、50近く掛けられていた。
「見た目は、まんまだね。レシーバーも金属製だし。これで電動ガンなんだー」
 重量も申し分ない。構えてみても、実銃との違和感はさほど感じなかった。
「これ、精度も良いのかな?」
 店員さんは 『グルーピングは10mで1cm、20mでも15cm』 だと教えてくれたけど……。
「えっと…… 分かる?」
「…… 通常は10mで8cm前後」
 何ともあっさりとパッフェルは答えた。……あれ? って事は、この銃、高価なものなんじゃ……。値札を見れば 『¥62,725』 とあった。
「……………………」
 もう一度だけ重量を噛みしめて、沙耶は静かに銃を店員へ手渡した。
「姫さん」
 ショーケースの前でトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)パッフェルを手招いた。
「あれ、あれなんかどうだ?」
「…………  どれ?」
 ショーケースの中。『モデルガン』 タイプのエアガンが並ぶ中の一つ、リボルバの銃を指し示していた。
「…… あれは、少し重い」
「あれよりも軽いのにするのか! 徹底してるなぁ」
 機動力と速射撃を生かせる銃、接近戦術に使える銃が欲しいのだそうだ。サバイバルゲームはもちろんの事、実戦での実装も視野に入れているようにも見えた。
「軽めで… 動けて… 鋭利な銃…」
「………… あれ……」
「ん?」
 パッフェルが指さした銃は、銃身こそシルバーだが、グリップに木板が装されたものだった。
「あん? 姫さん、あれは絶対に重いタイプの銃だぜ?」
「…… トライブも買うんでしょ? エアガン」
「……………… へっ? ………… 姫さん、それって……」
「…… 私はコレ−−−」
 パッフェルはケースの手前にある 『グリップガン』 を指していたが、それすらも目に入らずにトライブは狂喜していた。
「うおぉぉぉおぉぉおおお!! 親父ぃ! 会計だ!!! アレをくれぇい!!!」
 2人の元へ歩み寄っていた三船 敬一(みふね・けいいち)を押し退けて、トライブはカウンターから引き出した店員を引き回していた。
「まったく何をしているんだか」
 2人の会話は聞こえていた。故にトライブのあの喜び様も分かるのだが、当のパッフェルを置き去りにしてどうする…。まぁ、頃合いか。
「ミリタリーグッズには興味ないのか?」
「…………?」
 もともと無表情だから分かりにくかったが、さほど眉の位置も変わらずの彼女に掌サイズの単眼鏡を見せた。
「ミリタリー仕様のナイトビジョンだ。こんな安物でも、しっかり見えるんだぜ」
 他にもガスマスクやらレザーグローブやらも紹介すると、彼女は真剣な眼差しで選定を始めた。サバゲーが好き、とは言っても、その対象は、やはり銃や実戦に偏っていたようだ。まぁ、学校の購買に本物が数多く売られているんだから仕方がないと言えばそれまでなんだがな。
「迷彩服は? 当然、持ってるんだろ?」
「…… 持ってる…… でも………… 着たことは無い」
「どうして?! まさか、その格好で? 目立つだろ!」
「…… すぐに見つかる、でも、直後に倒す、一人残らず」
 忘れてた… 射撃の腕も速度もハンパじゃないんだった。確かに彼女なら可能なんだろう、でも…… そうじゃない! そうじゃないんだ!
「緊張感を! 味わえていないじゃないか!」
「…… 緊張感?」
「そうだ! 敵に見つからないように隠れる、敵に見つからないように近づいてゆく、休息も、武器の点検も、打ち合わせや情報収集も全て敵に見つからないようにという緊張感の中で行われる! それがサバゲーだろ!」
 彼女の言う通りなら、それはただのシューティングゲームだ。いったいどんな連中とサバゲーをしてきたのか…… 彼女の攻撃力を考えれば、敵なしというのも理解はできるが。
「緊張感はサバゲーの醍醐味だ! そしてその緊張感は迷彩服によって芽生えてくる! なっ、着ようぜ! 迷彩服!」
「………………」
 彼女は俯く姿勢をしばらく継続していたが、最後にポツリと「考えとく」と漏らしていた。彼女の迷彩服姿が見られるのも、そう遠くないかもしれない、そう思った。
「みなさん、買い物は、お済みになりましたか?」
 店内を見回しながらクナイ・アヤシ(くない・あやし)が問いた。
 会計は済んでいないものの、おおよその目星はついたと聞いて、クナイは携帯を見せて返した。
「ひと足先に、北都がアニメイトへ向かっています。携帯のGPSで場所は確認しています。ティセラ様たちとも合流できるでしょう」
 カメラ小僧たちを振り切るために散走した仲間たちが、いよいよ集結する時が来たのだ! ………… カッコイイんだが悪いんだか。
 とにかく、パッフェル一行も 『アニメイト秋葉原店』 へと向かい始めるのでした。